木原善彦のレビュー一覧

  • ジェイムズ

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    マーク・トウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』を下敷きに、ハックの「友達」である奴隷のジムを主人公にした物語。

    当時のアメリカでは、奴隷は「白人の所有物」とされ、個人としての人格は認められていなかった。だからこそ、ハックがジムを「友達」と認めたことは画期的だったと思う。ただ、マーク・トウェイン自身が、あの時代にどこまで黒人を白人と対等な人間として捉えていたのかは測りかねる。

    『ジェイムズ』のジムは文字も読めるし、書くこともできる。それどころか、ロックやルソーの思想に精通している! 己の置かれた立場を哲学的に考え、自分が生きる世界の矛盾を見つめている。

    『ハックルベリー・フィンの冒険』でも、飲んだくれや暴力、詐欺、上流階級同士の殺し合いなど、ろくでもない白人ばかりが出てくるそうだが、『ジェイムズ』でもそれは同じ。こちらでは奴隷に対するレイプの実態まで描かれる。本当に当時の白人社会というのは……傲慢と偽善に満ちていたのだなと思わずにはいられない。

    『ハック』では主人公が白人だから「冒険譚」になる。でも『ジェイムズ』では、主人公は脱走奴隷で、殺人の疑いまでかけられている。同じ出来事を描いているのに、立場が変わるだけで、こんなにも切迫した「逃避行」になるのかと思った。

    最後までハラハラドキドキしながら読んだ。

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    2026年10月05日
  • ジェイムズ

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    ネタバレ

    白人たちが描く黒人像を演じることで優越感を感じさせ、本当に支配していたのはジムたちなのかもしれない。そして最後まで鉛筆とノートを大切にしていたのはこれからは自分の意思を刻み込むんだという感じがして胸に残った。

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    2026年09月22日
  • ジェイムズ

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    「ハックルベリーフィンの冒険」で感じたジムの印象が見事に覆りました

    「ジェイムズ」は奴隷としてのジム(ジェイムズ)自身の目線で描かれた物語です

    優しく思いやりに溢れ家族思い
    ハックにも良き影響を与えるジム
    人間性はそのままに
    奴隷特有の卑屈さ臆病さ愚かさは白人たちに対する黒人たちの強かで賢明な処世術だったことがわかりました

    怒りを抑え
    知的好奇心を抑え
    賢明さを悟られずに
    存在感を消す
    言葉も行動も奴隷仕様に仕立てている黒人たち
    白人たちは実はそんな振る舞いの黒人たちの掌の上で転がされているのでは?と思わせる
    その屈折した思いは、
    奴隷として生きる彼らのささやかで唯一の抵抗のように思えました

    物語を書いた著者はアフリカ系アメリカ人の作家
    奴隷社会の中でも、自由を求める心と尊厳を失わずに
    魂のレベルでは何者にも屈しなかったジェイムズたちへのリスペクトを感じると共に
    奴隷という非人間的な扱いに自らも非人道的にならざるを得ない悲劇を描いた物語でもありました

    アメリカの奴隷制度
    200年を超えて続いていた史実を忘れないように
    ハックフィンの物語とともに
    いつまでも読み継がれていって欲しい名作だと思います

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    2026年09月02日
  • ジェイムズ

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    本屋さんで表紙や帯の書評に惹かれてハードカバーの本を買うのは、自分にとって贅沢なことなので、時々、本によってはがっかりすることがあります。

    そういう意味では、この本は全く安すぎると感じました。

    少し前に、「ある奴隷少女に起こった出来事」を読んで奴隷制度への自分の無知さに恥ずかしくなりましたが、今回はそれ以上。

    日本語への翻訳がまた、すばらしいです。

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    2026年08月23日
  • ジェイムズ

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    ネタバレ

    黒人奴隷制は映画や物語の中で見たことはあったが、黒人奴隷の目線で書かれたこの本の内容は衝撃的だった。信じられないほど残酷な白人の奴隷への扱いが、昔実際に行われていたとは、信じたくないが事実なんだろう。暴力だけでなく、黒人奴隷を人間として扱わない行動や思考。なぜそんなことができるのか。人が人を所有するということは絶対にあってはいけない。
    その境遇を主人公ジェイムズや他の黒人の奴隷たちは冷静に見ていて、自分たちが生き延びるためにどうすることがベストなのか見極めて行動している。ただ生き延びるために奴隷らしい行動をし、そして白人を見極めている。俯瞰した白人への評価が痛快なところもあるが、境遇が過酷すぎて、とにかく信じられないというか悲しい。
    内容は過酷だが、文章はとても読みやすくスラスラと読めた。たくさん登場人物がいて、いろいろな人間性が描かれてとても面白かった。
    途中で死んでしまったけれど、ノーマンいう白人に見える黒人が、白人になりすませられるのに自分を奴隷だと言うのはなぜ?と言う質問に「母が黒人だから。妻が黒人だから。自分が白人になりたくないから。俺は白人の仲間になりたくない。」と答えるのが印象的だった。

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    2026年08月22日
  • ジェイムズ

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    倫理学の論文で「ハックルベリー・フィン」問題を知り、ついでにこの本を知り、読書会で提案して課題本にしてもらった。

    『ハックルベリー・フィン』を読んでから読んだ方がいいとのアドバイスをもらったので、オリジナルを読むが、全く面白くなくて辛い。流し読みし終わった後、この本を手に取ったら、めちゃくちゃ面白くて1日で読めてしまった。

    これ読むと、「ハックルベリー・フィン」問題がめちゃしょうもなく思える。

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    2026年07月26日
  • ジェイムズ

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    噂に違わぬ抜群の面白さでした。ハック・フィンの冒険が黒人奴隷ジムの視点から描かれ始め、視点の違いで物語が驚くほど変容し、アメリカ奴隷制の闇が浮き彫りに。さらに中盤からもまた雰囲気が大きく変わっていき興奮度が増していきます。
    序盤のハックの冒険に対するストーリーの忠実な踏襲はやや展開に無理な感じを抱かせますが、それがハックの冒険に対する痛烈なアイロニーのためと思うと凄い。

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    2026年06月28日
  • ジェイムズ

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    ちょっと難しい本かなと思ったけど、しばらく読み始めると全く難しくなく面白くてあっという間に読み終えてしまった。ミシシッピ川流域を舞台にした心踊る冒険劇、続きが気になりどんどんページが進んでいく一方で、黒人奴隷への酷い仕打ちはあまりに酷くて目を背けたくなる。しっかり向き合って読んだ。黒人が訛りのない普通の言葉で白人へ話しかけると「どうしてそんなしゃべり方で話してるんだ」って話の筋とは関係なく話し方ばかりが気になってしまう白人たち。いやぁ本当に面白かった。

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    2026年05月25日
  • プレイグラウンド

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    コーマックマッカーシーもオースターも亡くなりジョンアーヴィングの次作をいつ読めるのかわからない今わたしは何を読めばいいのかと悲嘆したい気分になりがちだけど大丈夫まだパワーズがいる60代だしまだまだ行ける
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    日本未訳なだけでアーヴィングは新作だしてたのか!まだまだ円安なので翻訳どうかお願いします

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    2026年04月21日
  • ジェイムズ

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    やっと読み終えた!
    「トム・ソーヤー」「ハックルベリイ・フィン」に現れるジム=「ジェイムズ」視点の物語。

    個人的には、マーク・トゥエイン原作の2作品を読んでおいて良かったとは思ったが、それは途中まで。基本的には「ハックルベリイ・フィン」の流れを踏襲はしているものの、第一部の終盤から大いに逸脱し始め、エヴェレット独自のジムの物語へと。
    物語冒頭にあったエメットの手記、その歌の意味がその辺りからやっと確かな意味を持ち始める。
    ジムとハックの再会後の流れは、時代背景が「ハックルベリイ・フィン」とはまた異なり、二〜三十年後と想定されていて、よりオリジナリティなストーリーに。

    最大のポイントは、ノーマンの出現とハックの出生の秘密か。
    物語中でも匂わせがあり、「ハックルベリイ・フィン」を読んでいた時にもかすかに違和感を覚えたが、それが正しいのか間違っているのかは分からないが、「ジェイムズ」では「パッシング=なりすまし」が物語に多大な深みと皮肉を与えている気がした。

    黒人奴隷の悲惨さや、それを逆手に取って立ち回る見事さ、ラストのカタルシスの先に、何となくモヤモヤしたモノが残る。ただ、私は現代の一介の日本人、島国という地理的条件と、先人の築いてきた歴史的財産をただただ享受してきた身であるので、どこか当事者意識に欠けるのかもしれないが、それでも描写の生々しさは鋭く胸に刺さる。

    「ハックルベリイ・フィン」を綺麗に裏返し、新たな物語を構築していった著者。
    前に見た映画「アメリカン・フィクション」もかなりアイロニーが効いていて面白かった記憶が。
    理知的で意思の強い、そして人間味のある「ジェイムズ」は、大人のための新たな寓話的人物として魅力的であった。

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    2026年04月17日
  • ジェイムズ

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    ハックルベリーの冒険、トムソーヤの冒険を改めて読んでみようと思った。視点を変えると全く違う物語になる。

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    2026年03月20日
  • ジェイムズ

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    「今日のアメリカ文学はすべて『ハックルベリー・フィンの冒険』という一冊の本から生まれている」とアーネスト・ヘミングウェイが言ったそうだ。
    この『ジェイムズ』はその『ハックルベリー・フィンの冒険』に登場するジムという黒人奴隷の視点からリメイクされた作品で、2024年に全米図書賞とピュリツァー賞を受賞している。
    物語の中心はジムの逃亡劇だ。奴隷は逃亡するだけで重罪であり、その上、誘拐の罪まで負わされ賞金つきで指名手配をされてしまう。追われながらも知恵を働かせ、売られてしまった妻と娘を救出に行くジム。最後に「私はジェイムズ」と名乗るところが最高にカッコいい。「モノ」としての奴隷から、尊厳ある「ヒト」になった瞬間だ。
    当時、黒人奴隷はどんなに酷い扱いをされていたか、胸を痛めながら、どきどきしながら、腹を立てながら400ページを捲っていった。

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    2026年02月21日
  • ジェイムズ

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    予想を裏切らない面白さ。
    ハックベリーフィンを読んでからの「ジェイムズ」は正解だったと思う。(ハックを読むのは、大人になってしまった今の自分にはかなり苦痛ではあったけど)
    最初のページでもう心掴まれる。
    白人向けの言葉である奴隷言葉を操るジェイムズたちの、人間としての存在感がすごく魅力的。
    ジム、ジェイムズの視点から読み直すハックベリーフィンの物語はもちろん面白いのだけど、特に、ハックの物語を逸脱してからの後半が、ものすごくいい!
    マークトウェインからの呪縛から解き放たれた後の疾走する物語が素晴らしい。
    そうきたか!と、驚きも楽しい。

    映画にならないかな。きっとなるでしょう!

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    2026年02月18日
  • アイロニーはなぜ伝わるのか?

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    フィクション・ノンフィクションでの実例を参考にアイロニーがなぜ成立しているかを解説していた。

    前半4割でアイロニーの定義と構造について解説していたが、その後の6割でその使用例と解説で締めくくっていた。
    内容自体は面白く得心したが、欲を言えばもう少しアイロニーの構造に踏み入った話が欲しかった。

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    2026年02月01日
  • プレイグラウンド

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    「小説史に残る仕掛けがある」と触れ込みがありましたが、まさに。2025年(原著は2024年?)という、AIがまさに世界を席巻しようとしつつある、期待と恐れが入り混じった年にこの小説が発表されたことも、この小説が伝説的になることを後押しする。

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    2025年11月11日
  • プレイグラウンド

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    潜る潜る、海に潜る、人工知能の世界に潜る、物語の中に潜る…。

    リチャードパワーズ渾身、「オーバストーリー」「惑う星」を経ての、人間から海、そしてAIから人間へのラブレター。

    Geminiについ感想を聞いてしまったら…
    読み取れていなかったがそういうことか。。
    未来はきっとプラスチックまみれの暗い海じゃないのかもしれない。

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    2025年11月06日
  • ジェイムズ

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    書店で装丁に惹かれて手に取った一冊が、なんとも心揺さぶられる作品だった。マーク・トゥエインの「ハックルベリーフィンの冒険」(というか個人的には世界名作劇場のアニメ「トムソーヤの冒険」が馴染み深いお年頃だけど)のいわゆる改変もので、元になった作品のストーリーを途中までトレースしつつ、黒人奴隷の「ジョン=ジェイムズ」を主人公に彼の視点で物事が描かれる。人でありながら「奴隷」として扱われるジョンことジェイムズの視点で見ると、往年の名作はガラリのその様相を変え、奴隷制度のあまりの非道さに読み進めるのがためらわれるほどだ。
    訳あって“白人”の元から“逃亡奴隷”となったジェイムズは、残してきた家族を取り戻すべく、たまたま“白人の子”ハックルベリーフィンと一緒に逃避行する身となった。
    白人の前では知識のない馬鹿の振りをし続けてきた(白人より下に見せる必要があった)ジェイムズは、“ある行為”で自らの存在を客観視し、自我を手に入れていく。その過程から目が離せなくなってしまった。
    なぜいまだに人種問題がアメリカで蔓延っているのか。下手な論評を読むより、この作品を読めば一発で腑に落ちる。大人はもちろん、中高生にこそ読んでほしい一冊だ。

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    2026年09月28日
  • オーバーストーリー

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    『子供、女性、奴隷、先住民、病人、狂人、障碍者。驚いたことにそのすべてが、この数世紀の間に、法律上の人格を持つ存在に変わった。それならば、樹木や鷲、山や川が、自分たちに果てしない危害を加えて窃盗を働いた人間相手に訴訟を起こしてなならない理由があるだろうか?ー 話すことができないので当事者適格性が認められないというのは理由になっていない。法人も国家も口をきくことができない。弁護士がその代弁をするのである』

    昨秋に、隣地の裏山に自生したオニグルミを幹の半分まで切ってもらった。我が家の雨樋が落ち葉で詰まるから。
    僕が家を建てる前から生きてきた木の生存権を侵害し、無用な苦しみを与えていると告発されたとき、僕はどうすべきか。
    所有権なぞ、地球と生命の歴史が鼻で笑う。

    植物同士のコミニュケーション能力。共生する微生物と作り上げた地下のネットワーク。化学物質の交換によって森の全ての木々が交信していること。成熟した木を皆伐することの愚かさ。植林では生態系を救えないこと。
    本書は、植物や森に関する様々な不思議を教えてくれる。そして、企業保有の森林伐採を止めるための抵抗活動である樹上占拠と、その挫折についても。

    エコロジーと自然破壊を題材としても、描かれるのは木に魅入られた人々の生き方や苦悩だ。入れ替わり語られる群像劇と心理模様、彼らの系譜にまつわるストーリーにグイグイと引っ張っられる。
    繰り返し問われるテーマのひとつが、心理学用語である傍観者効果だ。“なぜ人は目の前の明白な緊急事態に対して行動を取ることができないのか“。
    その問いのもう一つの側面は、“なぜある人々は行動を起こせるのか”。
    樹齢数千年の木の命は、人間一人のよりも重いという大義も一つの答え。
    壊れゆく世界を救うためには、種としての人類が滅ぶしかないという絶望と自死もまた答え。
    救いたいのは見知らぬ誰かではなく、隣で手を繋ぎ戦っている仲間だというのも、きっと答えなのだろう。
    ラストのメッセージは、“STILL ”-まだ、いまだに、更に -諦める訳にはいかない。

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    2023年08月26日
  • オーバーストーリー

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    リチャード・パワーズが紡ぐ物語の力に泣いた。
    特に終章が本当に素晴らしく、本を読んで世界が変わると言う言葉は本当だったんだと思った。
    人と人の道が交わり、また新しい道ができる。
    そこで交差する人達の想いは読み手にも作用する。
    地球のために、森林のために、私にできることは何か考えながら生きていきたい。
    この本は未来へ繋ぐ架け橋。

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    2023年02月06日
  • 愚か者同盟

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     ピューリツァー賞受賞作品であり、デヴィッド・ボウイの愛読書でもある。看板に偽りはなく、最初の3ページだけでも既にかなり面白い。
     舞台は60年代のアメリカ南部。傍若無人で高学歴で子供部屋に住む無職の巨漢イグネイシャスがついに就職活動を始める。彼が巻き起こす騒動を軸に珍妙なミステリーと風変りなラブストーリーと演劇的な群像劇が絡み合う。イグネイシャスは作中で資本主義のシステムに滔々と文句を垂れているし、不純な動機からでも社会運動を始めようとするあたりプロレタリア文学の要素も入っているかもしれない。すべてが不思議なバランスと巧みなストリーで成り立ち、風刺も効いている。
     ミルトンを気取って社会から距離を置くイグネイシャスは都合のよい幽門を持っている。疲れたり、耳に痛い話をされると幽門は反乱を起こし、体調が悪くなる。体調が悪いのだから何ができなくてもやむを得ないし、幽門の弱い人間に無理をさせる方が悪い。そんな価値観で生きているイグネイシャスは心が弱いのか強いのか分からない。私の心にもイグネイシャスは住んでいる。イグネイシャスが心にいない人はぜひ招き入れるといいと思う。当然のこととして他人に甘え、ふんぞり返るのは愉快な万能感を生むだろう。
     そんな彼もついに就職をするが、トラブルばかり起こす(もちろん反省はしない。なんなら社会の無理解を嘆く)。数々のトラブルが怪しいバーの怪しい活動、チャンスに恵まれない黒人、母親の交友関係、街の同性愛者たち、つぶれかけのアパレルメーカーなどといつしか1本の線で繋がり大団円に向かう。一気に読める。多少冗長な感もあるが、それはイグネイシャスなので仕方ない。誰にもおすすめできる痛快な小説だった。
     また、訳も読みやすく、セリフが多い小説にあって登場人物の個性をよく表している。イグネイシャスの口癖「ていうか、」の憎たらしさもリアルである。イグネイシャスの顔をあしらった表紙も秀逸で、普段はカバーをかけて本を読むのに、この顔が見たくて、カバーをとってしまった。
     なぜここまで邦訳されなかったのか不思議なくらい。今後も売れ続けると思う。
     著者は自死しており、痛快ならがあたたかい読後感のあと、しめやかな気持ちになった。

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    2022年09月30日