あらすじ
逃亡奴隷ジェイムズの過酷な旅路の果てに待つものとは──。「ハックルベリー・フィン」を過激な笑いと皮肉でくつがえした、前代未聞の衝撃作。全米図書賞&ピュリツァー賞受賞。
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全米図書賞&ピュリツァー賞、驚異のW受賞!
ブリティッシュ・ブック・アワード、カーネギー賞、カーカス賞受賞!
ニューヨーク・タイムス・ベストセラー1位、2024年ベストブック最多選出。
各賞を総なめにした、2024年アメリカ文学最大の話題作。
我が身を売られる運命を知り、生き延びるために逃げ出した黒人奴隷ジェイムズ。
しかし少年ハックをともないミシシッピ川をくだる彼を待ち受けるのは、あまりに過酷な旅路だった。
奴隷主たちを出し抜き、ペテン師を騙し返し、どこまでも逃げていくジェイムズの逃避行の果てに待つものとは──。
黒人奴隷ジムの目から「ハックルベリー・フィン」を語り、痛烈な笑いと皮肉で全世界に衝撃を与えた怪物的話題作。
物語は往々にして誰かの人生を破壊し、利用する。
だが、鮮やかなやり方で新たな命を与えることも出来る。この小説のように。
───西加奈子
読み始めたが最後、『ハックルベリーの冒険』を愛する私がいかに「白人」であったか、 自分を笑い飛ばして痛快になる。
───星野智幸
地獄の故郷を抜け出して、いっしょに生きよう。
この小説にそう誘われた気がした。
───三宅香帆
米文学界の巨人、エヴェレット。
容赦なくも慈悲深く、美しくも残酷で、悲劇であり茶番劇でもあるこの見事な小説は、
文学史を書き換え、長らく抑圧されてきた声を私たちに聞かせてくれる。
───エルナン・ディアズ
恐ろしくも抱腹絶倒、そして深く胸を打つ。
──アン・パチェット
この小説は読者の心をまっすぐに撃ち抜く。
──ニューヨーク・タイムズ
恐ろしく、胸をえぐり、そして笑わせる小説。
──ガーディアン
衝撃的でありながら爽快な結末。
──ワシントン・ポスト
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Posted by ブクログ
とってもおもしろい! マーク・トウェインさんの文学的な「山」から転がりだした石・『ジェイムズ』がどんどん加速!、『ハックルベリー・フィンの冒険』(以下『ハック・フィン』)を置いてっちゃってます!
先に読んだマーク・トウェイン著『ハック・フィン』は13歳の男の子「ハックルベリー・フィン」(以下 ハック)が主人公で語り手の「少年冒険物語」です。
一方、この『ジェイムズ』は、『ハック・フィン』のサブキャラで、ハックといっしょに行動する逃亡黒人奴隷ジム(ジェイムズ)が主人公で、かつ、語り手となって物語が展開します。
つまり、「少年冒険物語」が逃亡する「黒人奴隷目線」にチェンジです。それから、もうひとつ新たな視点が加わっています。それは「大人目線」、『ジェイムズ』では『ハック・フィン』の「子ども目線」から一変します。命をかけた黒人の逃亡劇、サスペンスです。
この本の主要なテーマは、「自由」や「黒人と白人」だとか「奴隷制度」かなと思います。
結局、「奴隷制度」は廃止されますが、それがどんなものであったか、この本を読むとよくわかります。
ある時代、ある場所、「奴隷制度」は特殊な条件がそろっていたら生まれてしまう「システム」のように感じます。
そう考えると「奴隷システム」の芽は、人間の中にもともとあるものなんでしょうね。
だから、そんな「奴隷制度」の薄まったものは、わたしの日々の生活にも、たぶんあると想像してしまいます。
この物語を読んでいるとき、自分の行動について、もしかしたら今のは「奴隷的」ではなかったのか、あるいは、「白人的」ではなかったのか、と考えてしまい奇妙な感覚になりました。
それからもうひとつ、わたしがこの物語を読みはじめて気になったことがあります。
それは、マーク・トウェインさんが『ハック・フィン』のなかで、黒人奴隷言葉や、黒人が魔女を怖がるようすをあほっぽく描写したのは、どういうつもりだったんだろう、ということです。
『ハック・フィン』の出版当時に書けなくても、今ならマーク・トウェインさんは『ジェイムズ』のような作品を書けたのでしょうか。
訳者の木原善彦は、「訳者あとがき」で、『ジェイムズ』について「現代アメリカに生きる黒人作家パーシヴァル・エヴァレットから『ハック・フィン』(および トウェイン)に向けられた応答である」(P409)と説明されています。
また、木原さんはマーク・トウェインさんが『ハック・フィン』を執筆中に「二度の大きなブランク」(P410)があったこと、そして、それを経て『ハック・フィン』のあのエンディングに至っていることを紹介されています。
その「ブランク」とはスランプ的なものだったのでしょうか。たぶん、マーク・トウェインさんは、うまく乗り越えられなかったじゃないかな。
わたしは、作者のパーシヴァル・エヴァレットさんが『ジェイムズ』の物語を書き上げることで、『ハック・フィン』をうまく修正してあげているように感じました。
『ハック・フィン』から読んでよかったです。でもそのせいで、感想が「マーク・トウェインさん」と連呼している感じになりました。(笑)
作者のパーシヴァル・エヴァレットさんについての感想を書くには、力不足のようです。申し訳ないです。
パーシヴァル・エヴァレットさん、新著がこの12月3日に発売されるようです。お詫びというわけではありませんが、機会があれば読ませていただきたいです。
最後になりましたが、木原善彦さんの翻訳がとてもよかったです。木原さんのほかのご本についても興味を持ちましたよ。
Posted by ブクログ
★5 歴史を学べ!『ハックルベリー・フィンの冒険』を黒人奴隷のジム視点から描いた物語 #ジェイムズ
■背景となる作品『ハックルベリー・フィンの冒険』の導入
トム・ソーヤと共に盗賊が隠した宝を見つけ、大金を手に入れたハックルベリー・フィン。その後、ダグラス未亡人のもとに身を寄せて暮らしていた。さらに未亡人の妹、ミス・ワトソンからは礼儀作法を仕込まれる。
酒浸りで乱暴者のハックの父親は、彼が大金を手に入れたと聞きつけ、強引にワトソン家からハックを連れ去ってしまった。しかし父親から逃げ出したハックは、ワトソン家の使用人である黒人のジムと再会する…
■本書のあらすじ
ワトソン家の使用人である黒人のジム。ある日彼は自分自身が売られてしまうという情報を聞きつけ、妻と娘を置いて逃亡する。小さな島に隠れ潜んでいたジムだったが、ワトソン家のフィンと出会う。子どもと黒人奴隷の二人は一緒に逃亡の旅を続けることになるのだが…
■きっと読みたくなるレビュー
★5 楽しみながら人生を学べる一冊、死ぬまでには読みたい。よくぞ出版できたなっていうほど、黒人差別を真正面から描いています。
本作は『ハックルベリー・フィンの冒険』を背景にした物語。ハックとジム二人が冒険・逃亡する筋立てなのは同じですが、主人公はハックではありません。黒人奴隷であるジム目線で進行していくのです。
まず、この本が出版された意義ってのを考えずにはいられません。全くもって目から鱗… これまで如何に白人目線で物事を語られてきたのか、よーくわかる作品です。なんとなく映画『猿の惑星』の思い出してしまいました… 高慢さってのは身を滅ぼします。
一番の読みどころは、主人公ジムがどのように「生き抜いている」のかということ。奴隷として生きている黒人が白人と会話する場合、白人の機嫌を損ねないよう、あえて低能で田舎臭い言い回しで会話をする。それは白人のアイデンティティを守り、ひいては自身の安全のために行っていることなのです。
本作では奴隷という立場の黒人からみた白人社会を辛辣に描いているのですが、読むほどに自分勝手で卑劣なのかがよくわかります。
ひとりの人間を当たり前のように売買する、強制労働させる、できなければ鞭で打つ、殴る蹴る、そして若い女性は―― 歴史の授業では、単に事実として頭にいれるだけだけですが、本作ではアメリカの南北戦争前の現実を目の当たりにできるのです。
物語が中盤に入ると、ジムが奴隷としての生き方ではなく、人としての生き方を目指すようになってくる。ある道具がきっかけになるのですが、まさしく「動物」ではなく「人間」ということの証になるような「道具」なんです。これまで奴隷として生きてきたジム、彼を決定的に変えさせたのは何だったのか。
そして終盤は想像以上の怒涛の展開で、こんなにも夢中になったことは久しぶり。これまでの不条理、鬱憤、不安といったネガティブな感情を吹き飛ばしてくれるようなシーン… ほんとよく頑張った、胸を張っているジェイムズがクールすぎて、もう涙なしでは読めません。
昔のこと、遠い国のこと、などといって興味を持たないのは簡単。必要なことは学び、未来につないでいくのが責任のある大人だと思いました。
■ぜっさん推しポイント
読書は人生勉強になりますね。例えば「ミンストレル・ショー」って知っています? 本作で描かれいるのですが、私は勉強不足で知りませんでしたね。奴隷制度廃止運動と同時期にあった、顔を黒く塗った白人による黒人エンターテインメントショーです。
背景だったり、効果だったり、そしてどう未来に繋がっていったのか… 教科書では教えてくれない歴史の勉強です。興味があればぜひ調べてみて下さい。
さて人種差別と言えば、我が国日本においても、被差別部落や人種、国籍、宗教による差別が少なからずありました。今後、日本でも移民政策が進んでいくと、さらに人種差別が広がるのかもしれません。歴史を学ぶってのは大切なことなのです。
Posted by ブクログ
ほんとうに世の中は嘘に溢れている
マーク・トゥエインの名作『ハックルベリー・フィンの冒険』を黒人奴隷ジムの目線から語り直した物語だそう
ぜんぜん違うやないか!( ゚д゚ )クワッ!!
はい、読み始め3ページで「★5じゃ足りない」が確定した『ジェイムス』です
もうね、違うのよ
そんな簡単な話じゃないのよ
まず作中でもちらっと出てくるが、アイロニーがエグい
こんなことするのか、あーた
この発想持ち込んじゃったら大変なことなるで!って思ったよ
そしたらやっぱ大変なことなったよ
ガルルってやっちゃうと「差別ダメやで」になっちゃうのかもしれん
でもそれだけじゃ足りない色んなものが込められて大爆発しとる
この大爆発をそれぞれの読み手が拾い上げる物語なんよ
なので、どんなレビューもなんかちょっと違う気がするんよ
なんかちょっと足りない気がするんよ
やっぱあれだわ
なんかやっぱ人間ダメだわって思ったり
やっぱあれだわ
なんかやっぱ人間て素晴らしいわ
いやこれはあれだ地球の物語だわ
全くもってまとまらないレビューだが、それが正しいような気がするんよな〜
Posted by ブクログ
奴隷はお金を稼ぐことができない。奴隷は人間扱いされない。奴隷として扱われるその境遇に満足している奴隷もいる。
本文を読んでいて衝撃を受ける記述が複数ありました。
世界史で習っていたものの、自分の理解の解像度がとても荒かったんだと気づきました。
読後、コテンラジオのリンカン編を聞いて、奴隷に関する知識を学び直しています!
Posted by ブクログ
私がアメリカ文学に疎く、「トム•ソーヤの冒険」は知っていても、「ハルックベリー•フィンの冒険」は知らなかった。
その状態で本書を読んだので、ハルックベリー作品のスピンオフや後日談を楽しむ目線ではなく、本作品の世界を楽しむように読めた。
本作は黒人奴隷のジムの目線で展開されている。奴隷の扱いについて、上部だけでなくいかに酷く扱われていたことが生々しく描かれていた。時折、目を背けたくなるような表現もあったが、却って黒人奴隷の非人道さが明確に形取られていて、人権や人間の尊厳を改めて振り返られる。
物語もテンポ良く進み、ジムがいく先々で色々な出来事が起こりそれが想像もつかない事で、早く展開を追いかけたく、ページを捲るスピードが早かった。
最後の訳者の日本語に訳す上での拘りも語られていて、日本語訳の難しさと言葉の伝わり方をいかに大切にしてるかが伝わり、翻訳の仕事の尊さを感じる。
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「私がこれほどおびえた白人を見るのは初めてだった。」「私の言葉遣い、私が彼の思い通りに振る舞わないという事実、私には読み書きができるという事実に彼はおびえていた。」 当時は黒人は劣っているものという間違った認識によって差別が正当化されていたが、自分にもそんな偏見があるのではないかと恐ろしくなってくる。
そんななかでもハックなら友情を育むことができるのでは?という期待は甘い考えだと一蹴される。親愛の情はあっても友情ではない。
黒人ジムの視点から見れば、『ハックルベリー・フィンの冒険』はワクワクする冒険などではなく、死の危険がある逃亡であり、救いのない差別の状況がよくわかる。その視点だと最後のあのドタバタは耐え難いものだろうにどんなふうに書かれているのかと思っていたら、後のほうは元の作品とは別の話になっていた。トムの遊びに付き合わされることより、自分で決めて自分の力で進んでいくことのほうがジェイムズに相応しいので、別の話になっていてよかったと思う。
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少し前に「ハックルベリーフィンの冒険」を読んでから、最近と言うか2024年「全米図書賞」〜2025年「ピュリツァー賞」を取りアメリカで話題になった小説ということで読んだ。
アメリカの黒人奴隷その差別がフワッとしかわからなかったが、かなり理解できた。
物語は、ハックルベリーフィンの冒険を題材にハックと共に冒険した黒人奴隷のジムの視点で書かれている。
内容的にはかなり重いものであり、自分にとって心に響くものだ。
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19世紀のハックルベリーの冒険を、黒人奴隷ジムの視点から描き直した小説
物語を再意味化し、今に続く人種差別の根深さや奴隷であった黒人の尊厳を強烈に感じさせる
ラストがかっこいい
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訳者の苦労が偲ばれる。 いろいろな制約がある現在ではこのような本の翻訳はかなりの難関だったと思われた。
幼い頃「トムソーヤの冒険」に心踊らされた自分はなんだったんだろう。 それが読書が好きになったきっかけだったとしても、ほろ苦い思いだ。
本書は翻訳の工夫もさることながら、今まで見過ごしてきた事実に気付かされた。
「奴隷」が米国のみならず、システムの違いはあれ、どの国にも存在した、存在することだ。
そしてなんの疑問も罪悪感もなしに、受け入れてきた人がいて、そういう状況なら私自身も受け入れていたかもしれないこと。
極めて一般的な人々の1人に自分がなってしまうことが、悔しくて情けない。
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私は東北人なので、奴隷たちの「わしは誰も見てねえだ」のような、いわゆる「田舎者・無知」の象徴としての東北弁に最初はかなり抵抗を覚え、なかなか読み進められなかった。
しかし読み進めるにつれ、この言葉遣いが奴隷たちの生き延びる術だと知る。(※訳者からのおことわりとして、なぜこのような言葉遣いを採用したかは巻末に記載がある)
単に拙い語彙でたどたどしく話すだけではなく、その場の主導権は常に白人に委ねることも子どもたちは学んでいく。
台所から火が上がったことに気づいた時「火事だ」と言ってはいけない。「奥様、あそこを見るだ」と言わなくてはいけない。なぜなら「問題に名前を付ける役は白人に任せないといけないから」―こんなことを五歳かそこらの子が学ばなくてはいけない。
物語が進むに連れ、ジムは頭の中にあることばを記録することを覚える。しかし鉛筆一本手に入れるのが命がけの立場なのだ。そのことによって引き起こされる悲劇。
「白人は何かの危機を生き延びた人間をしばしば大げさに称賛する。おそらくそれは、白人は普通ただ『生きる』だけであって、『生き延びる』必要がないからだろう」(P.347)
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マーク・トウェインの傑作「ハックルベリー・フィンの冒険」を黒人奴隷ジムの目線から語り直した作品。
話題作ということで、まずハックルベリーを読み、その次にに本作を読み始めた。
読み始めたら、面白い!面白すぎてページを捲る手が止まらないまさにページ・ターナー。
「ハックルベリー・フィンの冒険」(村岡花子訳版)では少年ハック視点からの語りだからしょうがないとはいえ、今の感覚でも「いや、ジムはそこまでバカというか間抜けではないだろ」という場面があったが、本作品ではジェイムズ(ジム)は処世術としてブロークンな英語を使い、わざと間抜けなように振る舞っている。
ハック視点で語られたあの事件やこの事件がジェイムズの目線で再び語りなおされていく。トゥエイン版ではハックに振り回されてばかりいる感じのジェイムズが、「大人」としてハックを見守りつつ、奴隷制度のなかでなんとか妻と子を救い出して自由人となる道をさがす一人の人間として浮かび上がってくる。
この流れで、個人的にはあまりいいとは思えないトウェイン版のハッピーエンドにどう繋げていくんだろうと思っていたら、途中から別の世界線に流れていく。ラストのジェイムズの一言がかっこいい。
訳者あとがきで知ったのだが、作者は映画「アメリカン・フィクション」の原作者だった。とても腑に落ちた。
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「私の名前は自分のものになった」(p.377)
鉛筆とノートに、書くことを通じて、
それまでは奴隷としての呼び名が、主体性を獲得した、“奴隷“"黒ん坊"“所有されるもの・商品”“貨幣”ではない、ジェイムズとして解放される描写が鮮やかだった。
「わしはこう思うだ。規則に頼らねえと何が正しいか分からねえようならーそれから、人に説明してもらわねえと何が正しいか分からねえようならー決して正しいことなんてできねえだ。善悪の区別を神様に教えてもらわねえと分からねえなら、そんなものは一生かかっても分かりゃしねえだ」 「けど、法律では…」 「善悪と法律はなんの関係もねえだよ。法律はただ、わしが奴隷だと言っとるだけだ」 pp.107-108
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ハックルベリー・フィンの冒険をはじめて読んだ時の違和感のようなものを、めいっぱい拡大して、物語の推進力に変換したようだった。
帯にあった『笑える』の意味が、はじめは理解できなかったが、読み終えてその『笑いの』種類に思い当たれてなかったのだと気づいた。
Posted by ブクログ
「信じるかどうかなんて真実とはなんの関係もない。おまえは信じたいことを信じればいい」
全米図書賞、ピューリッツァー賞など5冠!話題のパーシヴァル・エヴェレット「ジェイムズ」。これ、読みたかったのです。
私の大好きなマーク・トウェインの「ハックルベリー・フィンの冒険」をハック視点でなく黒人奴隷のジムの視点で描いた作品なのだ。単なる冒険物語としてはハックルベリー・フィンより「トム・ソーヤの冒険」の方が面白いが、ハックの冒険はダグラス夫人やサリーおばさんの文明化教育にうんざりしてるハックが奴隷のジムとともに逃亡するなかで芽生えていくふたりの友情がたまらないのだ。
19世紀はじめの奴隷制度真っ只中で差別意識を持たない自由な思想を持つハックがつくづく良い奴なのだが、ジムもいい奴なんだよなあ。「ハックルベリー・フィンの冒険」はハック少年の一人称で話が進むが、この作品ではそれをジムの側から語る。逃亡奴隷として罪を犯し、命を賭し、自由のため家族のため戦うジム。それもハック少年が知らないところで死体ごろごろの大人の世界の話が展開するのだ。
ハック・フィンの冒険ではハッピーエンドだから良いものの、今ひとつ釈然としないラストでしたが、「ジェイムズ」のラストは父として夫として人としてのジムの誇りを感じさせる、ある意味スカッとする現代的な終わり方になっている。
黒人奴隷のジム視点で描かれたとはいえ奴隷制度まわりの話なのではない。奴隷制度は悲惨なことだけれど、これはそんな過去の悲劇の焼き直しのような話ではないのだ。ジムは奴隷制度に敢然と立ち向かって生きている。自由とは何か、信じるとは何か。制度もないのに勝手に縛られている現代人こそ十分に考えさせられるテーマなのだ。
Posted by ブクログ
【原題】James
「ハックルベリーフィンの冒険」を、黒人奴隷ジム(ジェイムズ)の視点から描いた小説。アメリカ文学の古典を逃亡奴隷の立場から描き、奴隷制度の非人間性を描いた作品でありながら、ストーリー展開が面白く、一気に読めた。
Posted by ブクログ
外国文学はあまり得意ではないのですが、トム・ソーヤやハックルベリィ・フィンが好きなので手に取りました。 読み進めるうちに、人種差別という問題が生々しく描かれ、複雑な感情を抱きながらも、特に後半はページをめくる手が止まらないほど引き込まれました。
Posted by ブクログ
アーネスト・ヘミングウェイいわく「今日のアメリカ文学はすべて『ハックルベリー・フィンの冒険』という一冊の本から生まれている」
こどもの頃に誰でも一度は読んだことのある、その有名な物語では脇役だったジム(ジェイムズ)が家族を取り戻すために命がけで逃げ続けた日々の記録。奴隷制度が“当たり前”だった社会で、黒人が受ける仕打ちはあまりに過酷で抵抗することなどできないように思える。でも運命の大きな流れに抗うには、先人から伝わる知恵と勇気、それからユーモアが必要なのかも!絶体絶命ピンチの連続はジェットコースターのようなスピード感と、叫びたくなるような爽快感。改めて、オリジナルの『ハック・フィン』を読みたくなる。
2024年全米図書賞とピュリツァー賞のダブル受賞をはじめ、数々の文学賞、話題をさらった衝撃作! との評価も納得。
Posted by ブクログ
最後の一文、すごく痺れました。黒人奴隷制の話でかなり辛い描写もあったけれど、続きが気になって一気読みした。昔、大学の先生が教えてくれた、黒人が木に吊るされていることを歌った歌のこと思い出しました。
Posted by ブクログ
黒人奴隷の過酷さは、様々なところで資料として見ることが出来るが、黒人側からの感情の再現である本書は新たな気付きがある。
暴力での支配から逃れることが如何に難しいかとか、支配する側の心の拠り所が何かとか。
大多数の人がなんの正当性もなく過ちを犯すわけではなく、身勝手でも言い分が必要だということが唯一の救いかもしれない。
Posted by ブクログ
少年の頃、ハックルベリー・フィンや
トム・ソーヤーの冒険物語には
心躍らせ楽しみました。
これは上記作に登場するジムの物語です。
時はアメリカ南北戦争開戦前夜。
当時のことは知る由もないのだが
ジムの心に寄り添えて、
ドキドキする作品だった。
「人間はおかしなもんだよ。
自分の好きな嘘は信じるだけど、
都合の悪い真実は無視するだ」
というセリフが
今でもその通りでハッとした。
Posted by ブクログ
ハックルベリーの冒険を黒人奴隷の視点から眺めて、特に後半は奴隷の逃亡に焦点何あっていた。奴隷の悲惨さがこれでもかっていうぐらい描かれていて読むのが辛い場面が多々あった。
Posted by ブクログ
「ハックルベリーフィンの冒険」を読んでから本を開いた。昨日まで読んでいた話だぞ…?と思っていた冒頭から、おっと目線はそっちになるのか、ほうほうほう…とアナザーストーリーに引き込まれる。
奴隷を所有する側の話を読んでいたのに対し、本作は奴隷側の話。白人と明確に線引きをして、白人の前と黒人の中では使う言葉を変えたり、読み書きの能力を隠すなど、確かにあのジムもそうだったのかも知れないと思わせる絶妙に隙間を埋める。白人は黒人に劣っていて欲しい、なぜなら満足感を得るためなど。
しかし何故女の奴隷は2度かそれ以上に殺されなければならないのだろうという疑問が拭えずに、なんだか物語のなかにいることに冷めてしまった。人間としての尊厳を失うことと奴隷として死ぬことがイコールなのか?奴隷の時点で尊厳を失った存在だとあれほど書かれているのに?奴隷として死ぬのと自由な存在として死ぬのでは違いがあると書かれていたが、奴隷の中にはすでに何度も死んだことのできる死に方をしている者とそうでない側の者とが入り混じるのに、それはイコールで成り立つのか?とても引っかかってしまった。
Posted by ブクログ
この本は「ハックルベリー・フィンの冒険」を、黒人奴隷ジムの視点で書かれた小説、と聞いていたので、勝手に同じような児童文学のつもりで読み始めた。
中盤から、少なくともこれは児童向けの本ではないと気づいたが、読み進めるほどに痛みが増していった。奴隷制の時代における奴隷の立場がどれほど苦しいものであったか、今更のように思い知らされた。
最終盤、ジムが望んだ通りになったようだが、その後の物語が気になる。とにかく「ハックルベリー〜」とは全く別のストーリーなので、油断しないで読んで欲しい。
Posted by ブクログ
ハックルベリー・フィンの冒険に登場する黒人のジムからの目線で綴られた作品。奴隷として扱われていた時代の黒人のお話であり所々いたたまれない部分があった。短い章の積み重ねでテンポよく読めた。
Posted by ブクログ
今年の邦訳小説の話題作。ハックルベリーの物語を南北戦争開始時に小移動し逃亡奴隷側から正調で雄弁に語るなか、後半からは独自の展開を見せる。直前にトウェインの原作?を読んでたので、対比のイメージもできて楽しい読書だった。読みやすい一方で、全体をコンパクトにまとめた結果、原典から飛び出した後の駆け足感が強く、暴力を暴力で報復するなか、小説の完成度として少々物足りなかった。逃亡奴隷の物語は小説・映画に多く取り上げられているが、それらを超える感銘とまではいかなかった。とても良い小説とは思うけど。
Posted by ブクログ
子供の頃に「トム・ソーヤーの冒険」を読んだけど、全く残っていない。ハックルベリー・フィンは覚えてるけどジムって誰?くらいのポンコツな記憶だ。
文章は簡潔で読みやすく、話もわかりやすい。
映像化したらいいと思う。
Posted by ブクログ
「奴隷」「偏見」「差別」が軸にある本。奴隷制度はあまり知識がなく、考えさせられる内容だった。逃走劇&復讐劇な物語で3日で読み終えました。 トムソーヤやハックルベリーの物語は読んだことがないので、これを機に挑んでみたい。視野の広がる時間でした。
Posted by ブクログ
ハックルベリーフィンの冒険を、サブキャラであるところの奴隷ジムの視点から再構築した物語。
アレックス・ヘイリー「ルーツ」を想起しながら読みましたが、多くの人が同じ印象を持つと思います。絶対的な差別の元凄惨な虐待を受け続け、全く人として扱われない人々の様子に改めて恐怖を感じます。
一方、ハック・フィンを実は未読な私は、それはそれとしてなんか変な構成だなとか不思議に思いながらでもありました。きっと対応するように書かれているのでしょうか。
正直、そこにこだわらずしっかりとジェイムズの物語として読みたかったかなというとこもあります。ラスト、あっさりすぎだし。