砂川文次のレビュー一覧
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砂川文次『越境』文春文庫。
ロシアからの侵攻を受け、無法地帯と化した北海道を舞台にした一種のミリタリー・シミュレーション小説である。
『本の雑誌』が選ぶ年間ベスト10の1位に輝いただけのことのある物凄い小説だった。
この小説の凄いところは北海道がロシア軍からの攻撃を受けて支配されている姿を描くのではなく、さらに一歩進めて、ロシア侵攻後にロシア政府も日本政府もロシア軍、自衛隊を見放し、無政府状態となった北海道がロシア軍のや自衛隊の残党、民兵、ロシア難民や海洋資源の利権を求めて集まったマフィア、ヤクザなどが群雄割拠する無法地帯に変貌した姿を描いていることだ。
現在、ロシアによるウクライナ侵攻、アメリカとイスラエルによるイランへの攻撃、中国によるアジア各国への領海侵犯など世界では戦争への脅威が高まっている。戦後80年を経過しても、ロシアによる北方領土の支配やアメリカ軍の日本各地への駐留は続き、この均衡がいつ崩れてもおかしくない状況にある。従い、本作に描かれる北海道のロシア軍侵攻は決して空想の物語ではなく、現実に起こり得る事態であろう。
陸上自衛隊の支援飛行隊のイリキはヘリコプターで支援物資の輸送中に釧路空港で何者かの攻撃を受け、ダム湖に墜落し、奇跡的に一命を取り留める。山中を彷徨う中、動物の罠に捕らえられ、身動きが取れなくなったイリキは山縣と名乗る元自衛隊の男に救助される。
ある日、山縣の知人のロシア難民のアンナの保護者である医師の森が書き置きを残して姿をくらましたことから、山縣はイリキとアンナと共に車で森の行方を探す旅に出ることになる。
行く先々で起きる戦闘の中を掻い潜りながら、3人は森の手掛りを求めて標茶に居る山縣の知り合いのノモトの元へ向かう。
ノモトの元に辿り着いた3人はノモトの元で森が囚われていることを知り、さらにはノモトから森の息子が核兵器を奪い、テロを企んでいることを聞かされる。ノモトの命令で森の息子の後を追うことになったイリキたちであったが……
戦争小説以外の小説の中で核兵器が実際に使用されるシーンを描いているのは、トム・クランシーの『恐怖の総和』くらいしか知らないが、本作でのラストの衝撃はそれにも増して劣らない。
本体価格1,140円
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★5 めっちゃ強烈な犯罪&暴力&冒険小説! 屈強な男が悪党たちを追い詰める復讐劇 #ブレイクダウン
■あらすじ
陸上自衛隊に勤務する市瀬のもとに、同業務隊の市瀬が訪れる。先日、市瀬は兄を交通事故で亡くしており、また同じ場所で佐川にとって大切な人物、倉田も亡くしていたのだ。佐川が言うには、市瀬の兄も倉田も、事故ではなく殺害されたらしい。二人はこの不可解な死を追うことになるのだが…
■きっと読みたくなるレビュー
★5 めっちゃ強烈な犯罪・暴力・冒険小説、よくもここまで激動な物語を書きましたね!
まず本の装画をみてくださいよ、屈強の男、入れ墨、銃、マシンガン、旭日章… もう、これだけで怖いっつーの。中身のそれ相応の人たちが出てきます、もちろん暴力的な悪党ばかりで大暴れしまくりです。時代背景は2001年なんで平成だと13年、まだコンプラなどは叫ばれていない清潔ではない日本が舞台になります。
本作は家族や仲間を殺害された自衛隊の市瀬と佐川が、復讐のため「誰に対しても」「どんなことでもやる」というお話です。こわっ
まず何でもありストーリーにびっくりなんですよ、どこかで聞いたことある裏社会の犯罪を扱ってるんすよね。北海道の東北部といえば… 個人的には学生時代によんだマンガ『ハロー張りネズミ』のとあるエピソードを思い出しました。
今の時代にこんな陰謀めいた物語を書いちゃっていいの? と思っちゃうくらいの内容。特に警察が滅茶苦茶に描かれてビビりましたね、どこか違う国の出来事かと思いました。久しくこんな怒髪天なストーリーは読んでいないので、すっかり夢中になっちゃいましたね~
そして本作で推したいのはキャラクターですね。まず何といっても佐川ですよね、次々敵をなぎ倒す様は圧巻で、もはやスーパーマン。それなのに何モノかさっぱりわからない、もはや怪物とか鬼ですね。
その佐川に巻き込まれていく市瀬。当初は佐川にドギモを抜いてましたが、覚悟をきめてからの彼はなかなかの渋さ。優しくて強いってのは男性としては憧れちゃうキャラクターです。
さて物語は復讐のため悪党を追っていくのですが、その途中で佐川の過去エピソードが描かれるのです。なぜこんなにも屈強なのか、なぜ怒っているのか、復讐を遂げたい理由とは?
もちろんフィクションではあるのですが、どこかで聞いたことあるような話で… 人が簡単に不幸になるスキームがあると思っていて、まさにこれなんですね。腹が立って仕方ないです。
物語の終盤には悪党のすべてがさらけ出されるのですが、もう開いた口が塞がらない。絶対に許せない悪逆どもの結末をしっかりと見届けました。
■ぜっさん推しポイント
若い頃先輩に言われた言葉「自分自身がしっかりしないと、家族や仲間に迷惑をかけることになる」当時甘えてばかりいた私にとっては、新しい自分に覚醒する一言でしたね。
本作もまた、人生のヒントを得られる一冊なのです。上手くいかないとき、苦しいとき、もう死が目の前にあるとき… 人は何を頼りに行動していけばいいのでしょうか。 -
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ネタバレ序盤で、一つひとつの場面からサクマの不安とか焦りをすごく感じた。ものごとが完全にクリアに見えなくて不安で、将来が見通せなくて、でも変わらなきゃいけない。でも心の中でちゃんとしなくちゃと思っていても自分ではどうにもできない。そういう悩みが一部自分にも通ずるものがあって、その苦しみとかがひしひしと伝わってきてちょっと辛かった。それだけ文章が良かった。
それでもラストでサクマがその分からなさや不確かさっていうのはそれだけじゃなくって、明日への可能性でもあるから大丈夫だよ(若干ニュアンスが違うかもしれない)という答えを見つけてくれて、なんだか安心した。
沢山の人に読んでほしい一冊。 -
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Audibleにて。
前半は、「ケーキの切れない非行少年たち」を連想させる内容であった。「推し、燃ゆ」の少女もそうだが、生まれ持った何らかの苦手さがありそうだ。
しかしその特性に気づき、何らかの工夫を凝らせばこの特性を苦手さにしないことは可能なのだ。各種認知特性に対するユニバーサルデザイン、色覚に難を持つ人に対して作られた最近のゲーム(例えばぷよぷよ)のような合理的配慮が求められる。(倫理資本主義の観点から言っても、これは素晴らしい試みだと感じる)
必要なのは、コグトレなのか環境整備の方なのか。おそらく両方だが、個人的にはコスパ&タイパ的に、後者重視で良いんじゃないか?と思う。
明日はどうなるか分からない。この強烈な不安感から逃れるために、人は「黙過」を必要とする。
黙過は、どうしたらよいか分からない時に許された一人で生き抜くための防衛機制だ。「人間」ではなく、「人」である時の生きる手段、それが黙過ではないか。 -
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ネタバレ世の中にはリア充という言葉があるが、充実した生について考えてみたい。テレビを見ると、仕事終わりに、ビールを買って帰る男、女、(ビール会社のCM)から子供と遊ぶ妻を見て満足そうにうなずく男(住宅メーカーのCM)このように充実した人生は、売っているものなのだが、K(戦場のレビアタン)はそう思っていない。「我々は、よりよい生活とか未来、そうでなければ、貧困という仮想敵をイメージして生きている。」しかしこんな生き方は、p194「肥大化して動けなくなった豚のような生だ」という。
p181「仕事と知人と女と金、あるいは車の話....そうでないときは仕事してるだけの日々」こんなものが充実した人生といえるだろうか?
では、生とは何か?
よくは分らないが、死を背景にしたときにシルエットのように浮かび上がってくるものではないか。戦場ではp195「バッドマンは死をしっかりともたらしてくれる」そこで、防御行動をとる自分は、充実した生を生きていると言えるのではないか。売っていない、自分だけの生にたどり着けるのである。
茶道で、「一期一会」というのがある。言ったのは、井伊直弼と言われているが、もう、主人と客として会うことがないかもしれないと思い、できるだけのことをして悔いがないように生きようというのがある。これと同じことだと思う。
戦場では、立ち上がったら、死ぬ、伏せていなければいけない(防護行動)伏せた自分は、生きる方を選んでるのである。これが生だ。
だから、敵を憎んではいない。死を望んだ時に確実に死を与えてくるル大事な存在なのだから。生きているか死んでいるかわからない、身動きできない豚のような生き方だけはしたくない。
レビアタンとは海の怪物リバイアサンのことであるらしい。ホッブズで有名であるが、この場合は、戦場での死を表す。
KはバディのSほどは店の女に興味を示さず、(p271)生きがいをさがしている、喜ぶのは、「小隊」の小隊長の仕事を全うして、水浴びするときである。(p135)逃げた古参兵の小熊のようにならなくてよかったと思いながら。 -
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(4.6)
自衛官としてあんまりのリアルさに息を呑んだ。用語や人間関係、風景全てが勤務の風景そのままであったがために、実際有事が起こった際はこうなるだろうと細胞レベルで感じた。
特に表題作である「小隊」これは今までにないほど感情移入して読むことができた。一般の方には分からないであろう感覚、感情がみるみるうちに湧いて出て震えた。自分自身の精神的にも肉体的にも、そしてこれからの勤務においても意識向上の手段として忘れないように、また読もうと思う。いい精神教育題材であると思う。
また、「市街戦」これは両親や友人、恋人に読んで欲しいと心から思える話だった。普段から行軍をするが毎回つらい。何がつらいというと文章力、表現力が乏しく上手く言葉にできないのである。だが行軍はまさしくつらい。それが歯痒かった。しかし、そのつらさ、恐ろしさを完璧に文章に表してくれたのが今作。全てが共感でき、行軍の1番のつらさを的確に表現してくださっていた。面白いというよりも、よくここまでリアルに心の内を、悩みを言葉にしてくれたと思います。言葉になることによって、精神的に大分救われる部分があります。これからも自分の人生、過去、一瞬一時の決断に誇りを持って、前進し、生きていきたいと思います。 -
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本の題にもなっている『小隊』を含め、『戦場のレビヤタン』、『市街戦』と計3篇が収められている。各篇共に、文芸誌の1回の掲載分というような分量である。各篇毎にゆっくりと読んだ。
「5月30日」となっている「第4刷」の文庫本を入手したのだが、「第1刷」は「5月10日」である。これは少し「速い」感じの刷り方であると見受けられる。「話題」の作品であるということのようだ。
各篇は各々に綴られて、各々に発表されている。連作ということでもないようだ。が、通して3つの篇を読むと、各篇の主要視点人物が「実は同一人?」であって、『市街戦』、『小隊』、『戦場のレビヤタン』という順番に、数年間の時間軸で各篇の作中での出来事が起こっているかのような感を抱かないでもなかった。
『市街戦』は、陸上自衛隊の幹部候補生として訓練に臨んでいる男が在って、限界という次元までに身体を酷使している中で「来し方」の様々な場面が意識の中に沸き起こり、夢想と眼前の現実が混然とするかのような挿話である。
『戦場のレビヤタン』は、陸上自衛隊の幹部(尉官以上)であった経過の在る男が、民間警備会社に身を投じ、中東で活動しているという挿話だ。所謂“傭兵”ということになる。
そして本の題にもなっている『小隊』だ。これは「陸上自衛隊が北海道で戦闘に及ぶ」という事態が惹起しているという挿話だ。
この「陸上自衛隊が北海道で戦闘に及ぶ」という作中での事態が少し話題になっているようだ。
主要視点人物は陸上自衛隊の三等陸尉に任官して日が浅い男で、部下を率いて任務に就いている。作中「ロシア軍が北海道に上陸して軍事行動に及ぶ」という様子になっている。上陸したロシア軍が現れると目される地域で、住民に避難を促すことが任務という辺りから物語が起こる。会って話す住民は「何処にも行くあてが無いから留まる」というようなことを主張する。そうしている間に“事態”は少し大きく動く。
そんな各篇なのだが、何れも主要視点人物の心理と行動を精緻に描き込んだような感であったと思う。或いは、身体を酷使して必死に何事かに向き合い、そこを通り抜けて辿り着く境地のような、そういう心情が各篇の共通項なのかもしれない。大掛かりな国際情勢等が描かれるのでもない、「或る現場の、或る男の回顧」ということにでもなって行きそうな物語だ。
作者は陸上自衛隊での経験を有しているのだという。そういう「経験者の感じ方」という要素が巧みに織り込まれている各篇であると思った。殊に『小隊』は、その「経験者の感じ方」という要素が随所ににじませながら編まれた篇だと思った。
時にはこういう小説も好い… -
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あるのかないのかはっきりしない「けり病」。専門家ははっきりと「ない」というが、中にはきちんとした肩書きを持つ人間が「ある」と言っているところもある。
過剰に反応した市民に合わせて、収束を求め「どうにかしなければ」という思いだけで作られた条例に首を絞められていく首都庁職員たち。
ここに書かれた構図は、コロナ禍を経験した私たちにとって、とても身近なものとして感じられるはずだが、これは実際に患者が出ている新型コロナとは少しだけ離れたところにある問題だ。
例えば、ステイホームを守るか否か、マスクをするか否か、ワクチンを接種するか否かーーこれらの二手に分かれる出来事において、自分とは異なる選択をする人に対してヒステリックな反応を示す人たちの話でもある。
(なるほど、その時の公人たちはこうやって蚊帳の外から見ていたわけか、などと思ってしまうのは余談である。)
ありもしない病のためにセンターまで作ってしまうのはいささか大袈裟だとしても、国民の顔色だけを窺う政治家や公務員と、何かあればすぐ国に対処を求め国に依存した国民という構図は薄らとした危機感と共にじわじわと心の中に侵入してくる。
難しい言葉で煙に巻こうとする国家公務員たちをうまく皮肉っている作品にもなっていて、なかなか面白かった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ芥川賞受賞作。
「ちゃんとしたい」いつもそう思っているのに、難しい話は頭が真っ白になり、深く考えることを放棄してしまう・・・
小さなきっかけで制御できない力が暴発し、極限まで人を殴ってしまう・・・
そんな社会の規範から外れてしまう人を主人公にした作品です。
主人公の佐久間は恐らく知的障害を抱えています。
読んだ時すぐに「ケーキの切れない子供の末路だ」と感じました。
これは以前に読んだ新書「ケーキの切れない非行少年たち(宮口幸治著)」で取り上げられた、認知力の弱い人口の十数%いるとされる境界知能の人のことです。
彼らが特別な教育も指導も受けないままでいると、歪んだ理解をしたり、あとさきを考えられず犯罪を犯してしまうそうですが、著者は認知行動療法という適切なトレーニングを積めば社会的スキルを上げていけると主張されていました。
本書の佐久間も、刑務所に入って少ーしだけ改善の兆しが。。
適切なプログラムの効力を感じて希望が持てました。
知的障害は本人のせいではありません。実際佐久間をずっと追ってきた私達読者は彼が根っからの悪人・犯罪者という印象はないでしょう。
ダメだと分かっていても口が滑る、手が出る、という行動が足を引っ張ってきたのです。
リアルな社会問題がテーマだからこそ、今後の彼が少しづつ社会に適合できるよう祈っています。。