パオロ・バチガルピのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
複数巻を平行に読破月間。
遺伝子改変とハックが当たり前になり、他国の作物をジーンハックゾウムシによって壊すことで、エネルギー機器に陥らせる時代。独自の種子バンクを持つタイでは西洋由来のカロリー(エネルギー)企業に負けない食文化を構築した。そこで藻類を研究するアンダーソン、通産省で闇カロリーを駆逐するジェイディー、日本製の遺伝子改変"ねじまき"少女のエミコの人生が交錯していく…。
クールなアンダーソン、自分がうまく制御できないエミコ、熱く衝動的なジェイディーに、得体のしれないホク・センと、サイバーパンクというか、アニメ的な登場人物の視点でそれぞれ進む序盤。状況の説明と、やや支離滅裂なストーリー展開がほとんどのため、上巻前半はなかなか読みすすめるのが難しい。
裏表紙に書かれているストーリーも、何となく全体にずれていたり、表現が誤っていたりするような感じで、出版社も上巻だけでなんともならないように思える。
そういう滅裂感が、上巻の後半にやや動き出してくる。的だと思っていたジェイディーが事件に巻き込まれ、エミコは北を目指す。
ヨーロッパから見たアジアの混沌とした世界観、特に通産省とは名ばかりの、日本のヤクザをベースにしたと思われるネチネチした陰湿な組織形態、得体のしれない敵国としての日本など、そういう風景が見えるようになってくると、理解が深まっていくだろう。
でもまあ、まだ序盤である。ようやく話が始まろうというところなので、後半に期待。
余談。
吾妻ひでおの『不条理日記』に出てくる「ミルクちゃん」の元ネタかと思って読み始めたのだが、2009年の作なのね。不条理日記って1979年頃よね。 -
Posted by ブクログ
エネルギーが枯渇して社会構造が激変した近未来のバンコクが舞台のSF小説。
遺伝子操作技術と、その根幹になる無傷のオリジナルの遺伝子が物語を回す主軸になっている。
遺伝子操作によって人工的に作られた歪な生物たち。
その技術とオリジナルの遺伝子を巡っての利権抗争と、遺伝子操作された生物を取り締まる人たちの努力がドラスチックに描かれている。
利権抗争も遺伝子組み換えも、すでに存在している技術の延長に過ぎないところが物語にリアリティを与えているようでだ。
遺伝子操作しなくても、交配によって自然に手を加え続けてきた人類に守るべき自然とは何なのか、進化とは何なのかを問いかけてる作品です。 -
Posted by ブクログ
石油が枯渇し、エネルギー構造が激変した近未来のバンコク。
遺伝子組換動物を使役させエネルギーを取り出す工場を経営するアンダースン・レイクは、ある日、市場で奇妙な外見と芳醇な味を持つ果物【ンガウ】を手にする。
ンガウの調査を始めたアンダースンは、ある夜、クラブで踊る少女型アンドロイドのエミコに出会う。
彼とねじまき少女エミコの出会いは、世界の運命を大きく変えて行った。
(あらすじより)
このタイプのSF小説にありがちな事として、物語の前半を使って世界観や独自の文化を説明する手法がある。
最初は物語に入り込めず忍耐が必要だが、ここをしっかり読まないとその後の話にもついていけなくなるので、重要なパートでもある。
上巻はまさにその典型的なパターンだったように感じた。
洪水のような情報量。
イメージの奔流に圧倒される。
世界観、文化、人間関係、政治情勢、登場人物達の思惑が描かれ、上巻の最後のほうでようやく物語が動き出した感じだ。
下巻で一気に爆発するんだろうか。 -
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ネタバレ初長編で大きな賞を獲ったということで「『ニューロマンサー』以来の衝撃」がオビの売り文句になっているが、さらに言うと、雰囲気・手法もギブスンを意識しているみたいだ。
・遺伝子ハックやねじまきといった道具仕立ての細かい中身には立ち入らず、それらがいかにもリアルな世界で使われているという描写で世界観を描き出していく。ねじまきの性格がドMにデザインされているとか、人が錘になって動くエレベーターとか。この辺は読んでいて面白かった。
・タイを舞台にしてエキゾチックな感じをうまく出している。出てくる日本人のおかしさは相変わらず(ある意味正統的なステレオタイプ)。
・章ごとに入れ替わる多視点。語り手のバラエティも亡命中国人の爺さんとかいい感じ。
・翻訳でよく分からんところもあるが、現在形を使うところとか、章や段落の最後を印象的なセリフで区切って見せたりするのも似ているかな。
普通はねじまきの自意識が人間と同じホンモノなのかがテーマになりそうに思うが、そこはねじまき本人が語り手になっていることもあって(保守的タイ人は「カルマがない」なんて言うものの)当然ホンモノですよ、という感じでスルー。遺伝子をいじっているとは言え立派な生物だからかな。作中の世界では可愛そうに社会的にはモノ扱いではあるが、電気羊なんかと比べると、世界観的には人造人間の人権確立が進んでいる気がする。
惜しむらくは、筋の運びがぞんざいでアラッと思うところが多々ある。例えばジェイディーの最期とか、終盤のあたりかな。トントンとテンポがよろしいという評価もあるかもしれないけれど、なんか安易に思えた。バイオをSF的道具仕立てにしているが、そこらへんの描き込みも新しさは感じない。 -
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アメリカの作家パオロ・バチガルピ、2015年発表の小説。アメリカ南西部の諸州が旱魃で危機的な状況に陥った近未来を舞台にしたSF作品。警世の書としてのリアリティはあるのですが、中身はハードボイルド調の極めて通俗的なエンターテインメント。面白いけれど、一寸物足りない、という感じです。
水不足が深刻化し多くの難民が発生、河川の水利権を廻って各州の秘密組織が暗躍、州軍間の緊張も高まり内戦の一歩手前という状況にある近未来のアメリカ南西部が舞台。廃都と化しつつあるアリゾナ州の州都フェニックスでの不穏な動きの調査に赴いたラスベガスの秘密工作員、崩壊して行くフェニックスを執念で取材し続ける女性ジャーナリスト、地元ギャングの横暴に苦しむテキサスからの難民の少女、これら3者がコロラド川の水利権を廻る争いに巻き込まれて行く物語り。登場人物も皆それなりに魅力的だし、面白い作品です。 -
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多分、設定は面白いんだろう。
だがこれは手法の違いかもしれないが、きちんと時代や世界の背景、いろんな設定が明示されない展開にイライラする。
言葉一つにしても、それを普通に知ってるでしょう前提で言われても、もちろん読み進める内に多分と判るのだけど、多分で終わるのが居心地悪い。
別にこの作品だけでなく、そう感じる作品が多いと感じてて、もう、価値観とか世界観とか、少なくともSFがずーっと好きデスみたいな人だけが読んでくれればいいみたいな本が、好きではないのだな。
で、文体は嫌い。
人物はあんまり浮かび上がって来ないな。
ぼくにとっては、そう、いい小説ではなかった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ前巻のラストもキツい展開だったけれど、物語はさらに鬱々してきて最終的にかなり疲労感を覚える読書となった。
ジェイディーと対話するカニヤの姿の痛ましさ。
虐げられ続けてきたエミコの暴発。
大きな不運と少しの幸運に振り回されるホク・セン。
図らずも急転直下の事件の引き金を引いた形になってしまったアンダースンの失敗。
…それぞれの行動が一気に絡み合いながら迎えた大流血の惨事。
決してバッドエンドではないのだろうけど、結局最後の勝者となるのは新人類であることが示唆されていて、何とも言えない気分になる。
この過酷な世界を生きる上では当たり前なのだろうけど、登場人物たちはかなり即物的な生き方を強いられていて、その苦しさを想像してもなお感情移入は難しかった。見るべきは、ジェイディーの勇敢な死や、ホク・センがマイに見せる優しさ、アンダースンが最期にすがったもの、その中にある血の通った心なのかもしれない。けれど、 どうにもそこに気持ちを合わせていくことができなかった。
生存にかけてのエミコの欲求の強さに、心底ビビッてしまったというのも大きいかもしれない。 -
Posted by ブクログ
エネルギー資源がゼンマイと遺伝子組換動物に変わった後の世界、様々な遺伝子操作の結果、食の安全も崩壊した世界。タイ・バンコクを舞台にした群像劇。
汚染されていない植物の謎を追う欧米人、失った富を取り戻そうと機会を狙う老中国人、不正を許さないが故に身内からも狙われるタイの役人、そして日本製の新人類である「ねじまき少女」。
湿度が高く、不快指数の高いアジア特有の空気感がどんよりした世界の雰囲気と良く合う。そしてどん底の状態でも精一杯、したたかに生きようともがくそれぞれの姿も興味深い。
ただ、状況が見えにくい上に独特の語彙が多く、入り込み辛くもあった。下巻に期待。