パオロ・バチガルピのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
全体的に資源を際限なく使いまくり成長し切った世界の後、様々な物質や資源が枯渇した世界を描くお話が多く占めるSF短編集になります。
全話通して救われないような展開が多いですが、そういうのが好みの方には刺さります。(僕は大好物です)
中でも好きだった作品は以下
・「砂と灰の人々」
・「カロリーマン」
・「ポップ隊」
・「イエローカードマン」
・「やわらかく」
・「第六ポンプ」
第六ポンプは表題であることもあり、群を抜いて良かった気がします。ポップ隊も引けをとらないくらい好みでした。
その他はサイバーパンクと雨が似合うような作品多数。映像化されたら間違いなく好きな作品ばかりでした。
「ブルーテッド・ガールズ」に関してはよくこんな設定思いつくなぁと感心。
「砂と灰の人々」はやっぱり荒廃したSFと犬の相性は抜群。
「やわらかく」はこの中では特殊ですが、とても面白い。
サイバーパンクな世界観でも陰と陽で陰な世界観のサイバーパンクが好きな人は読むべし。 -
Posted by ブクログ
ディストピア物のSF短篇集(SF9篇+SFではない『やわらかく』の1篇を収録)。
人口、民族対立、エネルギー、化学物質、水、食料や食品添加物など、貧富の差や環境問題を下敷きにした退廃的未来を描いています。しかし、最後は希望が持てる終わり方が多いので、想像していたよりかは読後感は悪くないです。
とはいえ、代償は有りますが、民俗文化の対立をテーマとした『パショ』を除いて、未来世界を好転させるヒーローが不在なため、どの世界もその先の未来は、暗澹たる終局を迎えることは想像出来ますが。以下、個別に。
『ポケットのなかの法』
場所は未来の四川省成都。“活建築”という生物的に増殖する市街地の路地裏で、ストリート・チルドレンがチベット人にデータキューブを運ぶように依頼されますが、約束の場所に相手が現れません。その後、その依頼物を狙う外国人が現れて…サイバーパンクの雰囲気が良かったのと、データキューブの中身に驚きました。
『フルーテッド・ガールズ』
双子の姉妹が、金持ちの女性パトロンに楽器に生体改造され、秘密のパーティーのステージに上がり…荒唐無稽な手術と肉体改造された女性の復讐劇。えっちいのはいいとしても、ちょっと苦手な描写があるのが難です。
『砂と灰の人々』
生態系は破壊し尽くされ、食糧難に対応するため、砂を食べて栄養を得ることが可能になり、かつ四肢を切断しても生えてくる不死身を手に入れた人類。その世界では他に生き物の姿はなく、実物は動物園の保護下でしか生存出来ない。そこに一匹の犬があらわれ…犬好きは読まないように。ボロボロの犬の姿は、ミカエル・リンドノード『ジャングルの極限レースを走った犬 アーサー』を思い出しました(こちらは感動ノンフィクション)。
『パショ』
砂漠の村から商業都市に留学した青年。学問を修めて村に帰ったところ、伝統を重んじる人々に受け入れられない。その筆頭たる人物が、一番理解して欲しい身内の祖父だった。はたして彼のとった行動は…まるで、アーシュラ・K・ルグィンのような世界観。短篇という尺の短さが仇になっており、全体的に説明不足な感じ。しかし、民俗対立をテーマにしていたり、太字で書かれた教訓めいた言葉など捨てがたい。長篇にしたら化けるかも。
『カロリーマン』『イエローカードマン』
この二作は、同じ世界観を描いており、長篇の『ねじまき少女』に繋がっていきます。短篇でも面白いので、いつか『ねじまき少女』を読んで感想を書きたいです。
『タマリスク・ハンター』
深刻な水不足に陥っている近未来のアメリカ中西部。長い根を張って水を吸ってしまう、砂漠化の原因とされるタマリスクを伐採すると、報酬として給水割り当てが貰えます。主人公は知恵を絞って、より多くの給水割り当てを貰うため、タマリスク・ハンターとして生業を立てていますが…干上がった川の流域に暮らす、少ないながら目の前に水があっても、優先的な利用を抑えられた住民の嘆きが描かれています。住み慣れた場所を離れるべきかどうか、環境問題に限った話しではないですね。
『ポップ隊』
寿命が延び、永遠の命が手に入った世界。そこでは、出産と育児が厳禁であり、違法に生まれてくる子供を見つけてポップ(処分)する警察の隊員がいて…描写は苦手。ただ、主人公が完璧な女性より、肌に張りのない、どこもかしこもたるんだ体の女性に心を奪われるところが好き。
『やわらかく』
ある日曜日の朝、熱いバブルバスの湯船に夫婦仲良く入浴している。ただし、その妻は死んでいる…これはSFではないです。きっかけは些細なことだったりするものですが、この夫婦にはどの道未来はなかったでしょうね。
『第六ポンプ』
食品添加物の過剰摂取により、出生率の低下と痴呆化が浸透した近未来の人類。ニューヨークの下水処理施設の維持管理を担当する職員たちは、維持管理の技術継承もなく、大量の危険を知らせるログは無責任にも無視し続けられます。そんなある日、第六ポンプが故障し、危険な化学物質だらけの汚物が市街に溢れる危機に遭遇します…日本は食品の規制が他の先進国と比較してゆるゆるみたいで、がんになる人も年々増えています。やはり関係があるのでしょうか?ふと、考えさせられました。あと、トログという逆ポストヒューマンの存在は恐ろし過ぎます。
気に入ったのは、『ポケットのなかの法』『パショ』『カロリーマン』『イエローカードマン』『第六ポンプ』。しかし、全体としては他の人に勧めづらいので★4。
同じようにSF短篇集である、オースン・スコット・カード『無伴奏ソナタ』やレイ・ブラッドベリ『十月の旅人』のような感じの描写が大丈夫な人にはおすすめ。
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Posted by ブクログ
文明が衰退・滅亡した後のオルタナティブな文明を描いたお話がつまった短編集。
荒廃した世界の過酷な境遇の中で主人公たちがそれぞれの矜恃、それぞれの希望を見出していくところに「SF的美しさ」が存在している。
挿入される造語に初めは戸惑うが、読み進めるにつれて造語に馴染みそれと共にその世界にも馴染んでいく感覚があった。
身体を所有され(改造され)支配される少女といったフェミニズム的テーマの「フルーテッド・ガールズ」、異なる種族(ポストヒューマンと犬)の間の残酷な友情が扱われる「砂と灰の人々」を筆頭に「パショ」「カロリーマン」「ポップ隊」「イエローカードマン」など脳の痺れるような傑作ばかりだった。
同作者は長編を主戦場としているらしく、そちらもいずれ読んでみたいと思った。 -
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これぞディストピア・オブ・ディストピアって感じ。「こんな未来は嫌だ」の大喜利のような暗い設定ばかり。絶対にこんな世界で生きたくはないが読み物としては好みだ。
特に『イエローカードマン』の世界が一番暗くて嫌だったなー。
『ポップ隊』の設定は映画化されそう。
特に“科学技術による生命倫理への挑戦”みたいなテーマが好きな作家さんっぽい。
人格をデータ化して小さなキューブに保存したり、楽器のように改造したり、遺伝子操作で不死身にしたり。
環境破壊のせいで新たな格差社会が生じたり、人々が痴呆化したり。科学技術が部族間の争いに繋がったり。
各短編の翻訳を中原尚哉さんと金子浩さんの2人が別々に担当されていて、なんとなくだけど、中原さんが翻訳したのは内省的な主人公の内面描写が多い作品で、金子さん翻訳の作品はそうでないものが多い気がした。
どちらも甲乙つけ難く好きです。
『カロリーマン』『イエローカードマン』と同じ世界観で描かれてるらしい『ねじまき少女』も是非読んでみたい。 -
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ずーーっと気になってた作品。
印象的な装丁と期待高まる表題(これは春樹の「ねじまき鳥クロニクル」が好きだからでもあるが)で、一体どんな作品なんだろうと思いつつ、以前読んだ著者の短編がそこまでヒットしなかったので長らく見送っていた作品でした。
古本屋で上下巻が売られていたという不純な動機で読み始めた本書ですが、これがなかなか面白い。
舞台は未来のタイ・バンコク。この時点でワクワクさせられるのですが、本書はもっと刺激的。環境破壊で海面が上昇し、ニューヨークなど世界各地の沿岸都市は水没。石油が枯渇し、伝染病が蔓延し、遺伝子組み換え作物しか栽培されない世界。バンコクでは伝染病の広がりを防ぐ環境省配下の白シャツ隊が権力を振るう一方、海外との貿易により富を稼ぐ通産省が躍進を遂げ、両省は一触即発の状況にあった。そこに日本国製造の「ねじまき少女」エミコが思わぬ形で関与し、タイは未曾有の事態に陥ってしまう…
発展途上国の政権争いが物語のメインストリームですが、結果的に誰も得しないブルーな結末にションボリ。しかし、登場人物のそれぞれが苦境の中でなんとか幸運を掴もうと足掻く様はなんだか今の自分にはないハングリーさを感じられて、ちょっと思うところがありました。
それにしても、おもしろいSF作品の特徴は確たる世界観を構築していることですよね。ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、キャンベル記念賞と名だたる賞を総なめにした本書もまたその例に漏れません。 -
Posted by ブクログ
SF。エコSF。バイオSF。
かなり激しく物語が動く下巻。
上巻から引き続き4人の視点から進む。ただし、ジェイディーはカニヤにスイッチ。
ねじまき少女エミコが主役なのは間違いないものの、エミコの扱いがあまりに酷いのが印象的。
暑さでオーバーヒートし、痛みや不安も感じる、機械と人間の間にいるようなエミコのキャラクターが、個人的には大好き。今まで読んだSF作品で、一番好きなキャラクターかも。
上巻・下巻を通してダークな世界観だったが、エピローグには明るい未来が感じられ、読後感は意外と悪くない。
未来の世界をリアルに描いたSFとして、記憶されるべき作品。 -
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情勢は暗いほうへと傾斜し、通産省を牛耳るアラカットと環境省の総帥プラチャ将軍の対立は王室を巻き込みながら政変と混乱を引き起こしていく(2010年のタイの赤シャツ・黄シャツの衝突を思い出すが、本書の出版はそれより前)。そして環境省が躍起になって防ごうとしていた新たな疫病の発生。下巻においては、環境省の隊長ジェイディーの副官カニアの活躍がクローズアップされてくる。
カロリー企業のエージェントであるアンダースンはアラカットと手を結ぼうとする。ホク・センはアンダースンを出しぬいて、もう一旗揚げようと企むが、タイ情勢の変化に翻弄されている。そして日本製人造人間、通称ねじまき、また新人類とも呼ばれるエミコは自由を得ようとし、秘められた能力を知らずに行使し始める。
かなり暗い未来を淡々と描くこの小説の肌触りは確かにグレッグ・イーガンを連想させるところもある。しかし人間の主体性を疑問に付してしまうイーガンと比べると、本書では各登場人物が主体性を持って生きていこうと格闘する姿が描かれていて、その点ではバチガルピの人間性そのものに対する信頼には揺るぎがないようだ。
とはいえ、遺伝科学者でタイ政府に協力しているギ・ブ・センことギボンズは、疫病の蔓延するこの世界で、ウィルス感染を免れた新人類になることを推奨する。なかなかテーマが見えてこない本書ではこのあたりがひとつのテーマかもしれない。
もちろんエネルギーの枯渇した近未来をリアリティをもって描こうというのが全体の構想なのだろう。とすると主人公はエミコでもアンダースンでもカニアでもなく、束の間の猥雑な繁栄に沸き立ちながら、地球温暖化の影響を防潮堤で辛うじて食い止めているものの、いずれ海に沈んでいく首都バンコクである。そしてバンコクによって代表象される地球の命運なのである。水没する都市は羊水に帰る人類を象徴し、そこに再生へのほのかな希望が示され、単純には割り切れない感興をわれわれにもたらすのだ。 -
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2010年SF賞総なめの作品。邦題はオタク受けを狙って『ねじまき少女』なのかと思いきや、原題もきっちりThe Windup Girl。
化石燃料が枯渇し、遺伝子改変動物を使役して生み出す力学的エネルギーを小型高性能のゼンマイにため込むというのが、この時代のエネルギー事情だ。よってすべてのエネルギーの源は家畜が食べる飼料のカロリーにたどり着くことになり、農業こそがが最重要産業なのだが、バイオテクによって生じた疫病や害虫で植物もまた壊滅的となっている。
舞台はタイ王国。農作物の遺伝情報を握るカロリー企業の支配に屈せず独自の繁栄を築いている。物語はアニメ風のねじまき少女の冒険ではない。この起こりそうな暗い未来における群像劇である。
タイでエネルギー工場を営むアンダースン。実はタイの種子バンクの情報を狙っているらしい。そして植物遺伝子にまつわる重要な情報をみぎっているらしいギ・ブ・センないしギボンズという男を捜している。
アンダースンの側近として働く、中国難民の老人ホク・セン。かつて大企業主であった彼は、再起を図って、アンダースンを出しぬき、地元のギャング「糞の王」と接触する。
ねじまき少女エミコ。遺伝子操作で作られた「新人類」。人間と区別するため、わざとぎこちない動きをするように作られていて「ねじまき」と蔑まれているが、ゼンマイで動いているわけではないようだ。日本で作られ、日本の企業家の秘書兼愛人としてタイに連れてこられたが、主人が帰国する際、経済的理由から捨てられ、見世物小屋で働く。
タイの繁栄を守っているのが環境省、通称、白シャツだが、役人は賄賂を取り、腐敗している。賄賂を取らず、不正を暴く、環境省の役人ジェイディーはやり過ぎてしまい、政争に巻き込まれる。
章ごとに別の登場人物の視点に切り替えつつ進む語りは、ひとりの登場人物への感情移入を妨げつつ、全体的な状況をゆっくりと明らかにしていくが、それは登場人物たちみながそこから駆け出すことができるように、慎重にゼンマイのねじを巻いているかのようだ。 -
Posted by ブクログ
近未来のバンコクを舞台にした物語ですが、現在私たちが映像などで知っているバンコクとあまり違わないように思えます。違うのは、市場にありとあらゆる遺伝子組み換え植物が並んでいたり、象を組み替えた動物がいたり、日本で作られたアンドロイドが出てくるところでしょうか。遺伝子組み換え植物は新たな病気をもたらし、人間には対抗策がありません。しかしアンドロイドなどつくられた生き物たちは、そうした病気と無縁です。必要から生まれたアンドロイドのエミコは、日本では大切に扱われていたものの、ここバンコクでは敬意を払われず、蔑まれています。主人(持ち主)に服従することを教育されているため、不満があっても逆らうことはありません。このあたり、日本の女性が置かれた社会的環境を示唆しているようです。バンコクには不穏な空気が満ちており、その中で登場人物たちは思い思いに行動します。エミコは課せられた拘束を解き、自由になりたいと思っていますが、上巻ではまだ答えは出ていません。