【感想・ネタバレ】第六ポンプのレビュー

あらすじ

出生率の低下と痴呆化が進行した異形のニューヨークを下水ポンプ施設の職員の視点から描いたローカス賞受賞の表題作など、全10篇を収録した『ねじまき少女』著者の第一短篇集 化学物質の摂取過剰のために、出生率の低下と痴呆化が進行したニューヨーク。下水ポンプ施設の職員の視点から、あり得べき近未来社会を鮮やかに描いたローカス賞受賞の表題作、石油資源が枯渇して穀物と筋肉がエネルギー源となっている、『ねじまき少女』と同設定のアメリカを描きだすスタージョン賞受賞作「カロリーマン」ほか、全10篇を収録。数多の賞に輝いた『ねじまき少女』でSF界の寵児となった著者の第一短篇集。

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Posted by ブクログ

今注目している作家の一人。SF作家さんだけど、学生時代は東アジア学を専攻し、経営コンサル経て、環境専門雑誌の編集をしながら執筆を続けているそう。
『ねじまき少女』から思っていたけど、場面の空気を描くのがすごくうまいと思う。『ポケットの中の法』や『イエローカードマン』なんかは読んでいると自分の周りすらジトジトしているような気になる。土地のにおいがしてきそう。
環境問題にも造詣が深く、そのせいか物語もディストピアが多くて若干気が滅入るかも。でも目が離せない。
SFをやっと数作読んできたけど、科学技術単品を軸に進む物語より、その技術で社会や人間がどう変わったか、みたいな部分の割合が多めの作品が好きみたい。
にしても作者のデビューは27才かぁ。いろいろ考えるなぁ

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2014年04月18日

Posted by ブクログ

読みやすいSF
でも想像力が必要かな
細かい説明が無いところが
スローペースで読ませる
だからこそ頭に残る作品たち

いろんな話が詰まってる
読めば読むほど
面白みの増す短編ばかり

ひとつ読み終える度に
その世界を その様子を想う

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2025年07月07日

Posted by ブクログ

ディストピアSF短編集。一話ごとに人体改造、食糧危機、資源枯渇、渇水、痴呆化など、さまざまな状況が設定されています。
情景が目に浮かびそうな近未来世界観と、厳しい環境下でしぶとく生き伸びようとする庶民の姿が気に入りました。

■ポケットのなかの法
四川省成都を舞台にしたサイバーパンクっぽい物語。路地裏の少年が偶然手に入れた外部記憶媒体の中身とは。

■フルーテッド・ガールズ
フルートにされた少女たちが秘密のパーティーの舞台に立たされる妖しい物語。映像で見てみたい作品。

■砂と灰の人々
食糧危機に陥った人類は、腹の中にゾウムシを飼って砂を喰らっている世界。そこに生身の犬があらわれる。

■カロリーマン
鉱物資源がなくなり、穀物と筋肉がエネルギー源になったら。

■タマリスク・ハンター
水を吸い上げる植物タマリスクによって水資源が枯渇する世界。

■やわらかく
日常ミステリーっぽい感じ。死んだ妻の側にいる男の独白。

■第六ポンプ
低出生率化と痴呆化が進んだ社会では、下水ポンプの整備ができず、街に汚物があふれる。

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2024年06月23日

Posted by ブクログ

全体的に資源を際限なく使いまくり成長し切った世界の後、様々な物質や資源が枯渇した世界を描くお話が多く占めるSF短編集になります。

全話通して救われないような展開が多いですが、そういうのが好みの方には刺さります。(僕は大好物です)

中でも好きだった作品は以下
・「砂と灰の人々」 
・「カロリーマン
・「ポップ隊」
・「イエローカードマン」
・「やわらかく」
・「第六ポンプ」

第六ポンプは表題であることもあり、群を抜いて良かった気がします。ポップ隊も引けをとらないくらい好みでした。

その他はサイバーパンクと雨が似合うような作品多数。映像化されたら間違いなく好きな作品ばかりでした。

「ブルーテッド・ガールズ」に関してはよくこんな設定思いつくなぁと感心。
「砂と灰の人々」はやっぱり荒廃したSFと犬の相性は抜群。
「やわらかく」はこの中では特殊ですが、とても面白い。

サイバーパンクな世界観でも陰と陽で陰な世界観のサイバーパンクが好きな人は読むべし。

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2024年05月21日

Posted by ブクログ

ディストピア物のSF短篇集(SF9篇+SFではない『やわらかく』の1篇を収録)。

人口、民族対立、エネルギー、化学物質、水、食料や食品添加物など、貧富の差や環境問題を下敷きにした退廃的未来を描いています。しかし、最後は希望が持てる終わり方が多いので、想像していたよりかは読後感は悪くないです。
とはいえ、代償は有りますが、民俗文化の対立をテーマとした『パショ』を除いて、未来世界を好転させるヒーローが不在なため、どの世界もその先の未来は、暗澹たる終局を迎えることは想像出来ますが。以下、個別に。

『ポケットのなかの法』
場所は未来の四川省成都。“活建築”という生物的に増殖する市街地の路地裏で、ストリート・チルドレンがチベット人にデータキューブを運ぶように依頼されますが、約束の場所に相手が現れません。その後、その依頼物を狙う外国人が現れて…サイバーパンクの雰囲気が良かったのと、データキューブの中身に驚きました。

『フルーテッド・ガールズ』
双子の姉妹が、金持ちの女性パトロンに楽器に生体改造され、秘密のパーティーのステージに上がり…荒唐無稽な手術と肉体改造された女性の復讐劇。えっちいのはいいとしても、ちょっと苦手な描写があるのが難です。

『砂と灰の人々』
生態系は破壊し尽くされ、食糧難に対応するため、砂を食べて栄養を得ることが可能になり、かつ四肢を切断しても生えてくる不死身を手に入れた人類。その世界では他に生き物の姿はなく、実物は動物園の保護下でしか生存出来ない。そこに一匹の犬があらわれ…犬好きは読まないように。ボロボロの犬の姿は、ミカエル・リンドノード『ジャングルの極限レースを走った犬 アーサー』を思い出しました(こちらは感動ノンフィクション)。

『パショ』
砂漠の村から商業都市に留学した青年。学問を修めて村に帰ったところ、伝統を重んじる人々に受け入れられない。その筆頭たる人物が、一番理解して欲しい身内の祖父だった。はたして彼のとった行動は…まるで、アーシュラ・K・ルグィンのような世界観。短篇という尺の短さが仇になっており、全体的に説明不足な感じ。しかし、民俗対立をテーマにしていたり、太字で書かれた教訓めいた言葉など捨てがたい。長篇にしたら化けるかも。

『カロリーマン』『イエローカードマン』
この二作は、同じ世界観を描いており、長篇の『ねじまき少女』に繋がっていきます。短篇でも面白いので、いつか『ねじまき少女』を読んで感想を書きたいです。

『タマリスク・ハンター』
深刻な水不足に陥っている近未来のアメリカ中西部。長い根を張って水を吸ってしまう、砂漠化の原因とされるタマリスクを伐採すると、報酬として給水割り当てが貰えます。主人公は知恵を絞って、より多くの給水割り当てを貰うため、タマリスク・ハンターとして生業を立てていますが…干上がった川の流域に暮らす、少ないながら目の前に水があっても、優先的な利用を抑えられた住民の嘆きが描かれています。住み慣れた場所を離れるべきかどうか、環境問題に限った話しではないですね。

『ポップ隊』
寿命が延び、永遠の命が手に入った世界。そこでは、出産と育児が厳禁であり、違法に生まれてくる子供を見つけてポップ(処分)する警察の隊員がいて…描写は苦手。ただ、主人公が完璧な女性より、肌に張りのない、どこもかしこもたるんだ体の女性に心を奪われるところが好き。

『やわらかく』
ある日曜日の朝、熱いバブルバスの湯船に夫婦仲良く入浴している。ただし、その妻は死んでいる…これはSFではないです。きっかけは些細なことだったりするものですが、この夫婦にはどの道未来はなかったでしょうね。

『第六ポンプ』
食品添加物の過剰摂取により、出生率の低下と痴呆化が浸透した近未来の人類。ニューヨークの下水処理施設の維持管理を担当する職員たちは、維持管理の技術継承もなく、大量の危険を知らせるログは無責任にも無視し続けられます。そんなある日、第六ポンプが故障し、危険な化学物質だらけの汚物が市街に溢れる危機に遭遇します…日本は食品の規制が他の先進国と比較してゆるゆるみたいで、がんになる人も年々増えています。やはり関係があるのでしょうか?ふと、考えさせられました。あと、トログという逆ポストヒューマンの存在は恐ろし過ぎます。

気に入ったのは、『ポケットのなかの法』『パショ』『カロリーマン』『イエローカードマン』『第六ポンプ』。しかし、全体としては他の人に勧めづらいので★4。

同じようにSF短篇集である、オースン・スコット・カード『無伴奏ソナタ』やレイ・ブラッドベリ『十月の旅人』のような感じの描写が大丈夫な人にはおすすめ。

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2024年02月04日

Posted by ブクログ

文明が衰退・滅亡した後のオルタナティブな文明を描いたお話がつまった短編集。
荒廃した世界の過酷な境遇の中で主人公たちがそれぞれの矜恃、それぞれの希望を見出していくところに「SF的美しさ」が存在している。
挿入される造語に初めは戸惑うが、読み進めるにつれて造語に馴染みそれと共にその世界にも馴染んでいく感覚があった。
身体を所有され(改造され)支配される少女といったフェミニズム的テーマの「フルーテッド・ガールズ」、異なる種族(ポストヒューマンと犬)の間の残酷な友情が扱われる「砂と灰の人々」を筆頭に「パショ」「カロリーマン」「ポップ隊」「イエローカードマン」など脳の痺れるような傑作ばかりだった。
同作者は長編を主戦場としているらしく、そちらもいずれ読んでみたいと思った。

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2023年11月24日

Posted by ブクログ

これぞディストピア・オブ・ディストピアって感じ。「こんな未来は嫌だ」の大喜利のような暗い設定ばかり。絶対にこんな世界で生きたくはないが読み物としては好みだ。
特に『イエローカードマン』の世界が一番暗くて嫌だったなー。
『ポップ隊』の設定は映画化されそう。

特に“科学技術による生命倫理への挑戦”みたいなテーマが好きな作家さんっぽい。
人格をデータ化して小さなキューブに保存したり、楽器のように改造したり、遺伝子操作で不死身にしたり。
環境破壊のせいで新たな格差社会が生じたり、人々が痴呆化したり。科学技術が部族間の争いに繋がったり。

各短編の翻訳を中原尚哉さんと金子浩さんの2人が別々に担当されていて、なんとなくだけど、中原さんが翻訳したのは内省的な主人公の内面描写が多い作品で、金子さん翻訳の作品はそうでないものが多い気がした。
どちらも甲乙つけ難く好きです。

『カロリーマン』『イエローカードマン』と同じ世界観で描かれてるらしい『ねじまき少女』も是非読んでみたい。

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2022年10月02日

Posted by ブクログ

「ねじまき少女」世界の短編集。
環境分野に携わる作者の描く、環境破壊の先にあるイヤ~な情景てんこ盛り。こんな未来は嫌だってのを堪能してしまいました。

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2017年12月26日

Posted by ブクログ

全体的に読みやすくて、SF短編集だったけど「こういうのもアリだな」と思える内容だった。中でも表題作の「第六ポンプ」が一番面白くて印象に残った。
どの話もSFらしい設定ながらも、読みやすい文章と考えさせられるテーマでぐっと引き込まれた。

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2025年07月12日

Posted by ブクログ

10話からなる短編集

この中でより心に残っているは
パショ
イエローカードマン
そして表題作の
第六ポンプ

パショは
新しいものを取り入れて変わっていくことに抵抗感があり新しいものを取り入れない人の顛末
知識が持つ絶大な力
対立していて不穏な空気が漂う場面はあれど
ガツガツしている雰囲気は一切な
穏やか過ぎていく日常を感じたお話

イエローカードマンは
これは個人的に凄いなと思ったのは
昔大繁盛をしていた商売をしていたのに理不尽にすべてを奪われた一人の老人が
身体の動きが鈍くなる中けがをしても仕事をもらおうとしている様が
なんだか他人事とは思えなかった

そして
第六ポンプ
やっぱり知識大事だなと思った作品
虐げられてもポンプを守るために自ら考えて行動を起こし
立ち向かっていく姿…と書くと良い風な感じだけど
この話はそれだけではなくて
このなんとも言えない敗退的な雰囲気が漂う中で
これらのことが進んでいく

絶対的な絶望はないけど輝かな希望もない
でも私には心に残るお話だった

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2025年04月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

・あらすじ
近未来ディストピアSF短編集。

・感想
面白かった……んだけどなんだか読み終わるのにすごく時間がかかってしまった。
続きが気になって読む手が止まらない、とか読んでて高揚感がある作品じゃないしひたすら「こんな世界は絶対にやだ……」と思う世界観だったからかなw

科学技術の影響により環境破壊された世界、痴呆化した人類、エネルギー供給が限定された世界などなど。
倫理観、道徳感、死生観や哲学などの人文的素養が変質、退行あるいは消失して、根源的な欲望と快楽のみで動く人類もどきたちが彷徨いている世界。

特に印象的だったのがフルーテッド・ガールズと表題作の第6ポンプ。
痴呆化した人類(トログ)が蔓延る世界で孤軍奮闘し悩む第6ポンプの主人公より、欲望と快楽のみを追い求めてるトログ達は幸せなんだろうな。
そう思った時にふと「黄色い家」の一節が思い出された。

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2024年12月03日

Posted by ブクログ

中華の雰囲気漂うディストピアSFもの。
「カロリーマン」が一番印象に残った。
鉱物資源が枯渇した社会で、さらに植物がニッポン・ジーンハック・ゾウムシという害虫によって遺伝子に異変が起き、ソイプロというハイカロリー植物しか育たなくなった荒廃した世界。全てのエネルギー源をソイプロに依存し、またそのソイプロはアグリジェン社という企業に独占されているというディストピアな世界観がかなり良い。
遺伝子操作された動物のグロテスクな描写や、ゼンマイを回して動力を作ったりPCの操作が足踏み式だったりと、近未来感とアナログ感が上手く合わさり、資源が枯渇した後の荒廃した未来社会が暗く面白く描かれている。
また表題作「第六ポンプ」も救いようがなさすぎて面白かった。出生率の低下と痴呆化が進み、崩れた建物からコンクリートが降るニューヨークで下水処理というインフラの仕事についている主人公。痴呆化が進んだ結果、町にはトログという動物と化した人間が溢れかえる中、未だに文字が読める異端な天才主人公。第六ポンプの故障をきっかけに現在の人間社会の限界に徐々に気づいていく描写にゾッとした。誰も直せないインフラ設備、足りなくなっていく食料、閉鎖された大学……。その後がとても気になるディストピアだった。
アイディアも世界観も素晴らしいから是非長編でも読んでみたいと思った。

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2024年09月20日

Posted by ブクログ

表題作の第六ポンプは、化学物質の過剰摂取により痴呆化が進んでしまった未来という設定の短編。SF作品として非常に面白かったのはもちろんなんですが、テクノロジーが発展して利便性が増した結果、人間の知能が低下していくのではないか、なんてことが言われる現代にも通じるものがあるなと、少し怖さも感じました。

その他、いずれの短編も環境分野に特化した他に類をみない作品が多く、とても楽しく読めました。復刊してくれて本当に良かったです。

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2023年09月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「ポケットの中の法」★★★
「フルーテッド・ガールズ」★★★
「砂と灰の人々」★★★
「パショ」★
「カロリーマン」★★★
「タマリスク・ハンター」★★★
「ポップ隊」★★★
「イエローカードマン」★★
「やわらかく」★★★
「第六ポンプ」★★★★

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2015年02月22日

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