日本一慈しい鬼退治、そのあいま 「世界には理不尽なことも悪意も間違いなく存在するし時にはどうしようもなく打ちのめされる瞬間もあるけど尊い瞬間や助けてくれる人もたしかに存在する」「あなたの絶望とは関係なしに世界は回るし打ちのめされても生きていくしかない」というワニ先生の乾きながらも温かい世界観がよく現れたお話が詰まっていたと思います。全体的に1巻よりも文章が上手になられたな、という印象です。以下、小説及び鬼滅の刃本編のネタバレありで各話の感想↓↓
『片羽の蝶』:幼い頃の胡蝶姉妹と岩柱・悲鳴嶼行冥のエピソード。狂犬ポメラニアン時代のしのぶさんの生意気なお嬢さん具合が可愛らしかったです。挿絵の3人を見て微笑ましいと同時に「もう戻れないんだなぁ…」という切なさを覚えました。本編でのしのぶさんの生き様を見ている身としては癒されながらも泣きたくなる話でした。
『正しい温泉のススメ』:元音柱・宇髄天元の柱稽古の元で修行する善逸と伊之助が特別訓練として温泉を探し当てる話。善逸がとっても善逸。おそらくこの小説内で2番目にギャグ色が強いです。村田さんを筆頭とするモブ隊員達との掛け合いや宇髄さんのご隠居さん感に癒されます。
『甘露寺蜜璃の隠し事』:恋柱・甘露寺蜜璃がしのぶさんの過去を耳にしたことがきっかけで恋心を封印する話。何気に刀鍛冶の里の例の発言の前日譚でもあります。個人的には伊黒さんが思いの外ストレートに愛情表現していたところが印象的でした。蛇恋好きにも嬉しいエピソードですがしのぶさんとの女の友情も素敵です。『しのぶが柱の中で一番仲がいいのは蜜璃です』という情報をファンブックで目にした時は少し意外だった(しのぶさんが欲しかった身長も鬼を斬る力も持っている甘露寺さんに対して思うところはなかったのか?と不思議だったので)のですが、このエピソードでもほんの少しだけそれについて仄めかされています。ふわふわしていてちょっと喧しいけど芯がある優しい戦乙女・甘露寺蜜璃の魅力がぎゅっと詰まった話で、個人的には(私が甘露寺推しなのもあって)この小説の中で一番好きかもしれないです。
『夢のあとさき』:不死川兄弟の絆と弟・玄也の蝶屋敷での日常の話。鬼滅の刃本編の辛さに耐えかねて読み直したところ「もうここには戻れないんだなぁ…!」と逆にダメージを受けて咽び泣いてしまいました。時に非情で残酷な世界の中でも尊い瞬間や優しい人はいるのだということを改めて教えてくれる名エピソードです。ただ本編179話の直後に読むと切なさで死ぬので要注意。
『笑わない君へ』:お館様の命令のもと水柱・冨岡義勇を笑わせようと柱が奮戦する話。さらっと腕相撲のエピソードも回収されます。柱の皆さんが揃いも揃って我が強いか天然かはたまたその両方かだったことが如実に現れています。しのぶさん、とっても常識人だったんだなあ……。元気な煉獄さんの姿に少しグッとくるところはありますが個人的には冒頭とラストの水兄弟弟子の掛け合いに笑いました。特に意味のない偏見が風柱を襲う。直前の『夢のあとさき』でおはぎのエピソードを回収したのにこの仕打ちか。
『中高一貫 キメツ学園物語??〜パラダイス・ロスト〜』:言うまでもなく一番ギャグ色の強いお話です。宇髄先生+かまぼこ隊によるバンド・ハイカラバンカラデモクラシーの危険性に対策を講じようと奔走する生徒会メンバーの苦労が偲ばれます。原作であれほど苦戦した上弦陸兄妹をあっさり返り討ちにする4人や役に立たない煉獄先生にも笑いましたがラストの冨岡先生のポンコツ具合に耐えられなかったです。空気は読めるんだ俺。是非とも声付きで味わってみたいエピソードでした。
本誌の展開が辛すぎて読み直した結果感想が無駄に長くなってしまいました。何度打ちのめされ苦しみ悲しさを味わいながらも一生懸命に生きている彼らのほんの少し温かい瞬間の数々、切ないながらも癒されること間違いなしです。