ベルナール・ミニエのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
まるで、某メーカーの酎ハイのようなタイトルで、中身はフレンチミステリー。
凍り付くような季節・場所・事件に、スピードのある展開と緊迫感満載の場面の連続で、あっという間においしく飲み干してしまった。
舞台は、暗い谷の奥に怪しげに佇む精神医療研究所と閉鎖的な町。
雪と氷で閉ざされた水力発電所のロープウエイ頂上で、首を斬られた馬が吊り下げられていたという事件から始まる連続殺人(馬一頭含む)事件と、時代錯誤とも感じるほどの「治療」方法が行われる「研究所」の謎。
入所しているのは最強のシリアルキラーたち、なかでも最強なのが知性と残虐性を併せ持つハルトマン。外に出ることが不可能なはずのハルトマンの痕跡が殺人(馬)現場に、…。
運動音痴(でも体力勝負)のセルヴァス警部とクールビューティでパーフェクトなイレーヌ大尉のコンビによる捜査と、研究所に着任したばかりの心理学者ディアーヌが体験する研究所の出来事が交互に語られ、飽きる暇もなく進む。
しかし、やっぱり主役の刑事さんは離婚している……。
ヨーロッパの警察は過酷な職業で、優秀であればあるほど家庭との両立ができないってこと?それとも性格的にクセの強い人しかなれないの?
ちょっと、日本人のヒーロー像と違っているかなー。 -
Posted by ブクログ
マルタン・セルヴァス警部シリーズ第四弾。今回は初めて上下分冊ではなく初の一冊もの。700ページに近い大作であるにも関わらず、だ。読者としては、分冊よりもコスパは有難い。
前作『魔女の組曲』では、セルヴァスが休職療養中で、連続殺人鬼ジュリアン・ハルトマンから離れた独立系の犯罪と、そのとんでもない経緯と真相に向かうストーリーテリングのジェットコースター感に、まったくもって脱帽させられた。シリーズとしてよりも、単独作品として十分に成り立つため、新たな読者を獲得したのではないかと喜んでいる。
翻訳出版としては『氷結』(2016年)『死者の雨』(2017年)。その後、忘れ去られたかのように邦訳が途絶えていたシリーズが、前作を機に息を吹き返した感があり、今後のシリーズ続編に繋がる本作も、またもやリーダビリティ満点のスリラーとして満喫させてもらった。何と言ってもシリーズ本筋のセルヴァスvsハルトマンという全面対決構造が素晴らしい。さらには二人の間に奇妙な親密感さえ生まれ始めた点が、本書の新たな転回点であろう。ある少年の存在によって、セルヴァズはかつてない試練を味わうことになる。
ストーリー構成も抜群である。本作は、オスロ警察の女性刑事シュステンの乗る夜行列車でスタートする。教会での惨殺死体。現場に残されたシュステンの名のメモ。被害者の勤務する北海の海洋プラットホームでの危険極まりない時間。夜と嵐。そこから姿を消した容疑者の正体は?
例により、のっけから強烈インパクトの舞台装置。いよいよセルヴァズのこれまた派手なシーンの急転直下シーンに舞台は移る。序章だけではなく、セルヴァズは満身創痍を越えるくらいの命の危険に本書では何度も合わされる。セルヴァズ。シュステン。ハルトマン。舞台は、一作目『氷結』の土地に戻ってくる。スペイン国境のピレネー山麓、雪と山。銃撃。
そう、セルヴァズは銃の扱いが疑いもなく下手である。運動音痴。運転が苦手だ。銃は車のダッシュボードに放り込んで素手で出かけるというタイプである。その銃を使った殺人事件への容疑と、新手の敵=内部監察官ロラン・ランボーの登場。内と外にいる敵ばかり。
休みなしのストーリーの上に連続し堆く重ねられてゆく危機感と疑惑。ハルトマンとの距離が近くなるにつれ、対決模様が期待される重厚なスリラー感満載の一冊であり、ラストのどんでん返しも効いている。
全仏で今や最強のベストセラー1位、Netflixでもドラマ化されているシリーズ作品であるという。ノワールの本家フランスで、ピエール・ルメートルと双璧を成すベスト・ミステリー作家として、ぐんぐん勢いのついてゆくシリーズと言ってよいだろう。次作もまた同レベルかそれ以上に加速感のあるストーリーを期待したい。それも猛烈に。 -
Posted by ブクログ
ベルナール・ミニエ『夜』ハーパーBOOKS。
シリーズ第4弾。全仏ベストセラー第1位を獲得し、Netflixドラマ化、さらには累計300万部突破のミステリー・シリーズ。またまた殺人現場から連続殺人鬼ジュリアン・ハルトマンのDNAが検出される。第1作以来なかなか姿を見せないハルトマンに今回も肩透かしを喰らうのか……
シリーズの中では一番面白く、ようやく及第点を得たという感じかな。今回も色々と詰め込みながら、全く新たな方向に物語は展開し、連続殺人鬼のハルトマンがセルヴァズに執拗に絡んで来るのだから堪らない。
ノルウェーの教会で女性の撲殺死体が発見される。死体のポケットにはオスロ警察の女性刑事シュステンの名を手書きで記したメモが残されていたことから、地元警察の要請でシュステンは真夜中にノルウェーへと向かう。
悪天候の中、シュステンが被害者の女性が働いていた北海の石油プラットフォームを捜索すると悪名高き連続殺人鬼ジュリアン・ハルトマンのDNAが検出される。彼の部屋にあった大量の隠し撮り写真の被写体が警部セルヴァズだと知ったシュステンはフランスに合同捜査を申し入れるが……
シリーズの第5弾は来年の春に翻訳され、他に本国では第6弾、第7弾が刊行されているようだ。一体、結末はどこへ向かうのだろうか。
定価1,440円
★★★★★ -
Posted by ブクログ
前作はピレネー山脈との国境の街を風雪の季節を背景に描いたものだが、本書ではトゥールーズの近くの架空の町マルサックを背景にし、全編よく降る雨の季節と、前作とは雰囲気を変えている。タイトルとは全く無関係な邦題が選ばれたのも、本書中で絶え間ないほどに降り続く雨と、その奥で起こった犯罪の姿を想起させるべく、訳者と版元とで決められたものに違いない。
原題はフランス語で「ル・セルクル」、英語に直せば『ザ・サークル』で、作中、いつこのタイトルが姿を現わすのかとやきもきさせられるが、読み進むにつれ、そのタイトルの意味は明らかになる。全作同様に過去に何が起きたのか? が現在何が起こっているのか? という疑問への回答となる、全作の写し絵のような細工の施された大作である。
前作に比べると劇的とまではゆかない進行度合いだが、途中から例によって加速するのと、ミスリードを幾重にも招いてゆく騙し絵のような迷路構造は、この作家のどうやら本懐とするところらしいから、疾走感を思わせる面白さには十分期待して頂いて構わないだろう。
前作に増して、弱点いっぱいだがどうにも憎めない主人公マルタン・セルヴァス警部は、その個性をしっかりと出し続ける。主役に負けず劣らずの周囲の個性ある捜査スタッフたちに助けられ、パンクな娘マルゴとの距離感もつかず離れずの微妙な親子関係で味わいを持たせたまま。
前作に比べ、さらに猫の目のように移り替わる視点により、後半はより読書が加速すること請け合い。最近感心させられたJ・D・バーカーの猿三部作シリーズなどと共通のジェット・コースター性はほぼ全作において保つ作家である。そのストーリーテリングに、文学性趣味も加わって、不器用で痛い思いばかりしてしまう主人公ともども、ますますシリーズ加速化が期待される。
前作でその生死の謎が期待されるハンニバル・レクターなみの例の人物が本書ではどのように関わってくるのか、も無論かなりの読みどころになっており、ラストのどんでん返しの連続はやはりプロットの妙、そしてなぜこの作家が現代フレンチ・ミステリーの代表格にのし上がっているのかが、理解できると思う。
現在、四作目の邦訳が待たれる作家としてぼくは相当注目しています。 -
Posted by ブクログ
前作はピレネー山脈との国境の街を風雪の季節を背景に描いたものだが、本書ではトゥールーズの近くの架空の町マルサックを背景にし、全編よく降る雨の季節と、前作とは雰囲気を変えている。タイトルとは全く無関係な邦題が選ばれたのも、本書中で絶え間ないほどに降り続く雨と、その奥で起こった犯罪の姿を想起させるべく、訳者と版元とで決められたものに違いない。
原題はフランス語で「ル・セルクル」、英語に直せば『ザ・サークル』で、作中、いつこのタイトルが姿を現わすのかとやきもきさせられるが、読み進むにつれ、そのタイトルの意味は明らかになる。全作同様に過去に何が起きたのか? が現在何が起こっているのか? という疑問への回答となる、全作の写し絵のような細工の施された大作である。
前作に比べると劇的とまではゆかない進行度合いだが、途中から例によって加速するのと、ミスリードを幾重にも招いてゆく騙し絵のような迷路構造は、この作家のどうやら本懐とするところらしいから、疾走感を思わせる面白さには十分期待して頂いて構わないだろう。
前作に増して、弱点いっぱいだがどうにも憎めない主人公マルタン・セルヴァス警部は、その個性をしっかりと出し続ける。主役に負けず劣らずの周囲の個性ある捜査スタッフたちに助けられ、パンクな娘マルゴとの距離感もつかず離れずの微妙な親子関係で味わいを持たせたまま。
前作に比べ、さらに猫の目のように移り替わる視点により、後半はより読書が加速すること請け合い。最近感心させられたJ・D・バーカーの猿三部作シリーズなどと共通のジェット・コースター性はほぼ全作において保つ作家である。そのストーリーテリングに、文学性趣味も加わって、不器用で痛い思いばかりしてしまう主人公ともども、ますますシリーズ加速化が期待される。
前作でその生死の謎が期待されるハンニバル・レクターなみの例の人物が本書ではどのように関わってくるのか、も無論かなりの読みどころになっており、ラストのどんでん返しの連続はやはりプロットの妙、そしてなぜこの作家が現代フレンチ・ミステリーの代表格にのし上がっているのかが、理解できると思う。
現在、四作目の邦訳が待たれる作家としてぼくは相当注目しています。 -
Posted by ブクログ
フランスの売れっ子作家と聴き、興味深く読み始めたが、幕開けが奇妙かつ派手な事件、その舞台となるのが冬のピレネーの山村、とアクロバティックで一気に引き込まれる大スケール&アクション・ミステリーであった。これがデビュー作ならフレンチ・ミステリーのスターダムに一気に輝いたというのも容易に頷ける。
連続する猟奇殺人にしても、山麓の村にある重罪犯を集めた研究所の存在にしても、相当に不気味である。腕利き警部マルタン・セルヴァスの活躍の中に挿入されるのが、その不気味な研究所にやってくる女性心理学者ディアーヌ・ベルクの章である。事件と並行して存在感を増す連続猟奇殺人犯と研究所の存在が、気になって仕方ない。
注目される連続殺人犯は、ジュリアン・ハルトマン。死体を残さないが、40人以上の女性の不審死の容疑者とみなされる。またシリアルキラーでありながら元検事、という特異な知的犯罪者の容貌を持つところなど、心を操る知的犯罪者としての側面から、どうしてもハンニバル・レクターを連想させる。この作者、よくぞ勇気ある勝負に出たものだ。
しかし彼を考慮に入れずとも、ロープウェイの山頂駅で最初に発見される皮をはがされた首なし馬の
死体という劇場型バイオレンスに始まる連続猟奇事件のミステリとして十分にサービス性が満点なのだ。二体目の殺人も、渓谷に発見されるが、劇場型であるところ、まるで横溝正史か? と懐かしささえ覚える。
派手な事件に、複雑に絡む人間関係。裏側に潜む真実はかなり深い部分に、そして時間軸を掘り下げてゆくことで真相は近づく。多くのミスリードの向こうに見えてくる真実。つまり語り口、プロットともに優秀な作品だからこそ、優れたエンターテインメントとしての完成度を誇る。ミステリーにとどまらぬ大自然を使った昔懐かしい冒険小説的魅力も兼ね備えているところがもしかしたら、最大の魅力なのかもしれない。
それにしても巻末解説においてこの作家の作品を、しかもセルヴァス警部のシリーズを、ぼくは既に
読んでいた。そして楽しんだということに気づいてしまった。シリーズ三作目の『魔女の組曲』! そう、これは一気読みの面白さであったが、セルヴァス警部としての個性は目立たなかった。運動神経オンチで、銃の扱いも乗り物も苦手。恰好悪いが事件の真っただ中に突入してしまうこの中年刑事は、本作では、とても存在感濃厚である。『魔女の組曲』は、ストーリーと被害者のほうが目立ち過ぎて、警部は救世主ではあるのに、狂言回し的な地味な役柄なのであった。
それにしてもストーリーテリング最高の作家に出会えました。とりあえず、フレンチ版ジェフリー・ディーヴァーと呼んでおこう。 -
Posted by ブクログ
フランスの売れっ子作家と聴き、興味深く読み始めたが、幕開けが奇妙かつ派手な事件、その舞台となるのが冬のピレネーの山村、とアクロバティックで一気に引き込まれる大スケール&アクション・ミステリーであった。これがデビュー作ならフレンチ・ミステリーのスターダムに一気に輝いたというのも容易に頷ける。
連続する猟奇殺人にしても、山麓の村にある重罪犯を集めた研究所の存在にしても、相当に不気味である。腕利き警部マルタン・セルヴァスの活躍の中に挿入されるのが、その不気味な研究所にやってくる女性心理学者ディアーヌ・ベルクの章である。事件と並行して存在感を増す連続猟奇殺人犯と研究所の存在が、気になって仕方ない。
注目される連続殺人犯は、ジュリアン・ハルトマン。死体を残さないが、40人以上の女性の不審死の容疑者とみなされる。またシリアルキラーでありながら元検事、という特異な知的犯罪者の容貌を持つところなど、心を操る知的犯罪者としての側面から、どうしてもハンニバル・レクターを連想させる。この作者、よくぞ勇気ある勝負に出たものだ。
しかし彼を考慮に入れずとも、ロープウェイの山頂駅で最初に発見される皮をはがされた首なし馬の
死体という劇場型バイオレンスに始まる連続猟奇事件のミステリとして十分にサービス性が満点なのだ。二体目の殺人も、渓谷に発見されるが、劇場型であるところ、まるで横溝正史か? と懐かしささえ覚える。
派手な事件に、複雑に絡む人間関係。裏側に潜む真実はかなり深い部分に、そして時間軸を掘り下げてゆくことで真相は近づく。多くのミスリードの向こうに見えてくる真実。つまり語り口、プロットともに優秀な作品だからこそ、優れたエンターテインメントとしての完成度を誇る。ミステリーにとどまらぬ大自然を使った昔懐かしい冒険小説的魅力も兼ね備えているところがもしかしたら、最大の魅力なのかもしれない。
それにしても巻末解説においてこの作家の作品を、しかもセルヴァス警部のシリーズを、ぼくは既に
読んでいた。そして楽しんだということに気づいてしまった。シリーズ三作目の『魔女の組曲』! そう、これは一気読みの面白さであったが、セルヴァス警部としての個性は目立たなかった。運動神経オンチで、銃の扱いも乗り物も苦手。恰好悪いが事件の真っただ中に突入してしまうこの中年刑事は、本作では、とても存在感濃厚である。『魔女の組曲』は、ストーリーと被害者のほうが目立ち過ぎて、警部は救世主ではあるのに、狂言回し的な地味な役柄なのであった。
それにしてもストーリーテリング最高の作家に出会えました。とりあえず、フレンチ版ジェフリー・ディーヴァーと呼んでおこう。 -
Posted by ブクログ
セルヴァズ警部シリーズ第三作ということだが、前二作が未読でも楽しめる、とのお墨付き作品。並みいるレビュワーらも一押し。そうした傑作の予感に押され、本書を開く。結果、評判は嘘ではなかった。ページを開いた途端、その瞬間から、物語の面白さに、ぼくは捕まってしまった。
期待のセルヴァズ警部は、何と心を病んで療養休職中。彼の元に届けられる荷物も、こわごわと紐解く警部だったが、送られてきたのは高級ホテルのカードキー。その客室は、何と一年前に女性写真家が凄惨な自殺を遂げた現場であった。セルヴァズ警部は、休職中の身でありながら、事件の謎の深みに魅せられたかのように身を乗り出す。
一方のゲスト主人公は、ラジオ局のパーソナリティであるクリスティーヌ。謎の誰だかもわからない人間からの自殺予告を受け取ったことを契機にして、いやがらせやハラスメントが職場でも私生活でもスタートする。数々のいやがらせは、時と共にヒートアップし、彼女を急激に社会から孤立させてゆく。
セルヴァズ警部とクリティーヌとの二つの物語が、オペラの形で語られ、混乱は重層構造を示してゆくのだが、とりわけクリスティーヌへの強い悪意が半端じゃない。次第に姿を見せてくる凶暴な人間たち。また彼らを背後から操る人物が誰なのか不明なまま、敵も味方もわからぬ混沌(カオス)に追いやられてゆく。転落の物語が底を着くのはいつなのか? またその理由は何なのか? 誰が彼女を陥れているのか?
フレンチ・ミステリー特有の、疑問だらけのエレベーター式心理サスペンス。そこにフランス南西部の都市トゥールーズを特徴づける航空宇宙産業を絡ませ、物語は地球を飛び出し、宇宙へ。そうした世界的歴史的スケール感まで絡ませて物語は緊張度を高めてゆく。組曲のクレッセント。
セルヴァス警部は事件を解決できるのか? またその心はこの捜査活動で果たして癒されるのか? クリティーヌの地獄に終わりはあるのか? そんな二人の主人公たちと共に震える心を抑えつつページを繰る手が止まらない。
終盤に於て徐々に見えてくる真相に対し、クリスティーヌの運命、また真犯人の目論見と計画のゴールは? 関わった人物たちを襲う容赦のない運命と、未来までを押さえつつ、巻を閉じる圧巻の真相は、長大な物語のフィナーレを飾るに相応しく、最終ページまで予断を許さぬ疾走感に満ちている。
ぼく自身はあまり普段謎解き方面を目指さない読者であるのだが、ここまで謎解きの面白さ、またその深淵を強烈に示されると、さすがにその出来栄えに喝采を贈らざるを得ない。それを支えた作者のストーリー・テリングぶりにも当然ながら脱帽。今年のベスト作品まで狙えそうな確かな手ごたえを感じた一作であった。 -
Posted by ブクログ
セルヴァズ警部シリーズ第三作ということだが、前二作が未読でも楽しめる、とのお墨付き作品。並みいるレビュワーらも一押し。そうした傑作の予感に押され、本書を開く。結果、評判は嘘ではなかった。ページを開いた途端、その瞬間から、物語の面白さに、ぼくは捕まってしまった。
期待のセルヴァズ警部は、何と心を病んで療養休職中。彼の元に届けられる荷物も、こわごわと紐解く警部だったが、送られてきたのは高級ホテルのカードキー。その客室は、何と一年前に女性写真家が凄惨な自殺を遂げた現場であった。セルヴァズ警部は、休職中の身でありながら、事件の謎の深みに魅せられたかのように身を乗り出す。
一方のゲスト主人公は、ラジオ局のパーソナリティであるクリスティーヌ。謎の誰だかもわからない人間からの自殺予告を受け取ったことを契機にして、いやがらせやハラスメントが職場でも私生活でもスタートする。数々のいやがらせは、時と共にヒートアップし、彼女を急激に社会から孤立させてゆく。
セルヴァズ警部とクリティーヌとの二つの物語が、オペラの形で語られ、混乱は重層構造を示してゆくのだが、とりわけクリスティーヌへの強い悪意が半端じゃない。次第に姿を見せてくる凶暴な人間たち。また彼らを背後から操る人物が誰なのか不明なまま、敵も味方もわからぬ混沌(カオス)に追いやられてゆく。転落の物語が底を着くのはいつなのか? またその理由は何なのか? 誰が彼女を陥れているのか?
フレンチ・ミステリー特有の、疑問だらけのエレベーター式心理サスペンス。そこにフランス南西部の都市トゥールーズを特徴づける航空宇宙産業を絡ませ、物語は地球を飛び出し、宇宙へ。そうした世界的歴史的スケール感まで絡ませて物語は緊張度を高めてゆく。組曲のクレッセント。
セルヴァス警部は事件を解決できるのか? またその心はこの捜査活動で果たして癒されるのか? クリティーヌの地獄に終わりはあるのか? そんな二人の主人公たちと共に震える心を抑えつつページを繰る手が止まらない。
終盤に於て徐々に見えてくる真相に対し、クリスティーヌの運命、また真犯人の目論見と計画のゴールは? 関わった人物たちを襲う容赦のない運命と、未来までを押さえつつ、巻を閉じる圧巻の真相は、長大な物語のフィナーレを飾るに相応しく、最終ページまで予断を許さぬ疾走感に満ちている。
ぼく自身はあまり普段謎解き方面を目指さない読者であるのだが、ここまで謎解きの面白さ、またその深淵を強烈に示されると、さすがにその出来栄えに喝采を贈らざるを得ない。それを支えた作者のストーリー・テリングぶりにも当然ながら脱帽。今年のベスト作品まで狙えそうな確かな手ごたえを感じた一作であった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレセルヴァスシリーズ第6作。前作『姉妹殺し』の次作。相変らずもてまくりのセルヴァスだが、たかがタバコをやめることができないダメ男。前作の無茶な行為で責任を問われ、懲罰委員会の決定を待っている停職中の身である。
これが元恋人の助けを求める電話を受けたとたん前後を考えず突っ走る。もっと考えて動けよと突っ込みながら読み進む。多くの事件が発生するがそれらの被害者はそうされても仕方がないような悪事を働いていた犯罪者だったのである。セルヴァスの貢献はほとんどない中で、いつも通り危機一髪のところで犯人は捕らえられ、一時的な平和がおとずれて本編は終了するが事件が起こる社会的病理の基底の部分はなにも変わらず悪くなる一方だ。
フランスばかりでなく世界中が変わってきているのは共通の現象でそれも決して良い方向性でないのが感じられて怖くなる読書経験だった。
みなが良かれと思って行動しているその行為がホモ・サピエンスの終焉を近づけているようにしか思えない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレさすがの文章の美しさだし、セルヴァズの過去なども丁寧に描かれている。ああ、昔からこうなんだ、とくすっとしたり、お父さんとの確執にも一旦区切りがついてしんみりしたり、物語としては豊かだし中身は濃厚。
シリーズ大ファンとしては満足なのだが、すこし物足りなさも。なんでだろう?
死体の数は多いけど、シリーズ特有の残酷さがあまりなかったからだろうか?それともあの人の不存在?
それもきっとあるんだけど。
多分、丁寧に過去を描いて掘り下げ、過去と現在のクロスする事件などをなぞって進んだ結果、現在のメンバーがあまり登場しなかったから、かなあと思い至る。
マルゴも電話でちらり、エスペランデューやサミラもトータルで数ページ。そしてセルヴァズは体調不良だしシャルレーヌとのこともまるで終わってしまったかのよう。自分はもう50だ、とかいっちゃって。
思っていた以上に自分がセルヴァズの健康と幸せ、周りとの関わりを愛してるんだなって思い知ってしまった。いやまだ50ならまだまだですよ、警部補!がんばれ!
って、フランスの方にエールを送っちゃったよね。