杉晴夫のレビュー一覧
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ストレスの概念を確立し広めたのはハンス・セリエ。その出発点となったのは、1936年のたった半ページのNature論文。被験体はラット、著者はセリエひとり。ただ、論文に「ストレス」の文字は出てこない。どうしてそんな実験をしたのかもわからない。私はそれがずっと疑問だった。
本書には、その答えが書いてある。当時の内分泌学の研究の流れのなかに位置づけると、いろんなものが見えてくる(人間関係までも)。なるほど、そういうことだったのか。
著者の専門は筋収縮の生理。「あとがき」によると、定年後、生理学全般の講義をもつことになり、ストレスについても勉強せざるをえなくなったということらしい。
でも、もうひとつ、 -
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論文捏造はなぜ起きたのか?
著:杉 晴夫
光文社新書 714
各国で熾烈な競争が続く、生命科学の最先端で起きた、理研STAP細胞事件
その原因と、その背景にある文部科学行政の病理を描く
気になったのは以下
■理化学研究所
タカジアスターゼやアドレナリンの合成者である高瀬譲吉が渋沢栄一らの援助を得て設立した民間研究所が理化学研究所である
GHQは、理化学研究所を解体を命じ、生産部門は、科研製薬として分離、研究部門は和光に移転して、理化学研究所となった
STAP細胞事件が発生したときの、理事長は、ノーベル化学賞の野依良治
背景としては3つ
①ノーベル生理学賞を受賞した京都大学のip -
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「食物に有毒な物質が含まれていれば病気になることは誰でも容易に理解できるが、食物中にごく微量の物質が欠けていても病気になることを人々に納得させる困難さは、現代のわれわれの想像をはるかに超えるものであった。」
栄養学の成立に至るまでの、関連分野も含めた学者達の苦闘の歴史が綴られている。
ノーベル賞が慎重になったのは、後に誤りと判明した理論に早々と受賞させてしまったケースが続いた事への反省だった、とか、
実践の学問として栄養学を化学から分離独立させようという動きが、世界に先駆けて日本で起こっていた、など、
色々と興味深い話が載っていた。
中でも自説を盲目的に信奉し、証拠が出ても他説を認めなか -
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いつも思うことだが人類の科学結果は素っ気ないこともあるが、その発見の歴史はいろいろな紆余曲折があり興味深い。
本書は、栄養学(一部は生化学となるが)の歴史を追いながら、今では当たり前になっていることがどのようにして発見・研究されたかわかる中で、意味づけがわかってくると思う。
内容は、1章が熱関係も含めた自然科学、2章が3大栄養素、3.4章がビタミンの発見史、5章が生化学としてクエン酸回路に至るまでの発見史(著者の専門に近いらしい)、6章が第二次世界大戦後の給食開始などのエピソードである。
試験のためだけだともったいないので、栄養素や仕組みを覚える前に本書のように歴史を知ったうえで学ぶと、 -
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今では当たり前のように受け入れている科学的な事実が発見される過程が、こんなにドラマチックだったのかと驚かされる。熱力学がいかにして栄養学という果実を宿すのか。ビタミン発見の競争。ビタミンB12が発見されるまで、悪性貧血の患者は生のレバーを毎日500g食べなければならなかった。クレブス回路で有名なクレブスは研究室を追い出された。
栄養学はまだまだ新しい学問で、最初のビタミンが発見されてから来年で100年である。科学的な発見につながるかはともかく、過去を見直すことで、未来がすこしは見えてくるのではなかろうか。
硬いテーマだが、予想以上に面白い本だった。文句なしにお勧め。 -
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栄養学・生化学についてのお勉強中の息抜きとして。単に「栄養素の○○は○○という機能がある」という覚え方には限界があるので、それぞれが発見された背景をふまえて覚えてみることにした。そうか、解明されるまにでこんな苦労があったのかー。先に発見したのは別の人なのに…科学論文の世界はシビアだなー。な~んて思いながらよんでたら、いつのまにか覚えられた!やはり無理やり頭に入れるだけじゃダメだなぁ、と。たまには変った暗記方法を試してみるのも吉。大学の授業じゃ、さすがに功労者達のバックグラウンドまでは教えてくれないしね。一番印象に残ったのは軍医(栄養学者的な)としての森鴎外の意外な一面です…。
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この本は7つの章から成ってます.
初めが鍼灸の治療効果の謎,2つ目が地場の人体に及ぼす影響の謎,3つ目が睡眠の謎,4つ目が「病は気から」の謎,5つ目が筋肉の謎,6つ目が記憶のメカニズムの謎,最後が人体の設計図の謎,です.
鍼灸の話を読みたくて買いましたが,他の章も結構面白かったですね.科学者としての立場から論じているので…何というか…信じやすかった(あまり胡散臭く思わなかった/笑)です.
杉先生は筋肉の研究をなさっているので,やはり第5章の筋肉の話が一番長かったです(笑).色々な裏話も載ってました.
基本的な事から説明がされており,専門用語もできるだけ避けていた印象があったので,医学 -
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筆者が冒頭に述べているように、生体電気信号の説明はほんの数行であるか、あっても難解であるかのどちらかであると思う。
その点、本書では歴史的な背景を含め生体電気信号の基本的な原理を丁寧に説明されている。標準生理学のはじめの章だけ読み飛ばしている自分のような人間には丁度よい。
ただし、206頁のMGの病態に関する記述は不正確で、MGではなくむしろLEMSではないだろうか。本書の価値には影響はしないが。
また、余程苦渋を味わったのか、最終章では今日における脳科学研究の手法の問題点や本邦の科学研究費配分の偏りに関し軽く触れられている。若手の支援の重要性で締めているところは教育者としての姿勢を感じさせる -
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日本の生理学者がSTAP細胞に関する報道等から、日本の研究環境の異常事態を論じている。教授選におけるインパクトファクター重視による弊害、旧科学技術庁主導による研究費配分の偏在の問題、国立大学独立法人化による研究室の改廃、競争的資金など、現在の制度の何が問題なのかということもわかりやすく書かれている。
もちろん、これによって、莫大なお金を得て、進歩した研究もあるのだろうが、おそらく大半はそうではないであろうと思っていたのを納得させるに十分な話であった。
だから、大学はダメなんだというのは簡単で、こんな中で何が出来るだろうかと投げかけられたような気もして、身も引き締まる思いになりました。
でも、巨 -
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STAP細胞という妄想が引き起こしたのは、不毛な争いばかりじゃない。日本の科学界がいかにお粗末で、パクリだらけの論文を提出する学者たちと、それをチェックできない学界の無力・無知が明らかになったことは、不幸中の幸いだろう。
そんな腐敗した学界は今にはじまったことではなく、内情はもっともっと腐りきっていると、現役研究者が説いた怒りの本書。なかなかの過激さで、小保方氏はもちろん、理化学研究所所長の野依良治の脱税問題や野口英世の不確かな功績までもバッサリ切ってしまう。研究者らしからぬ思い切りの良さだ。そのあまりの暴れっぷりで、説明不足の点がやや気にかかるが、日本の学界の主義のなさに比べれば、許容範囲