西村健のレビュー一覧
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西村健『バスを待つ男』実業之日本社文庫。
トラベルミステリーと安楽椅子探偵の融合という珍しい仕掛の連作短編である。主人公は70歳の元刑事とその妻で、最後まで2人の名前は明かされない。様々なミステリーが描かれるが謎解きは明解で、この殺伐とした時代に思わずほっこりする短編ばかりが並び、非常に面白い。是非とも読むべき作品である。
定年を迎え、特に趣味も無く日常を過ごしていた70歳になる元刑事が見付けたのはシルバーパスを利用しての都バスの小さな旅。旅先で出会う様々な日常のミステリー。しかし、謎を解くのは、いつも元刑事の妻というのだから面白い。
『第一章 バスを待つ男』。元刑事が不審に感じたバス停 -
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都バスを乗り継いで、各テーマに沿ったセルフスタンプラリーをするような小さな旅。街の見え方が変わる面白さがあった。
これから大通りを走る際はバス停や行き先が気になってしまうだろう。時には積極的に都バスに飛び乗ってみたい。乗り放題の旅に出てみようかな。さあ、どう乗り継ぐかを考えてみよう。業10系統の路線バスは必須で。
この本の中で引用されていた荒俣宏先生監修の作品も読んでみようと思う。トリビアの泉に出てた人、帝都物語を書いた人だったと知らなかった。「夏への扉」を並行して読んでいたのだが、予期せぬところでSF被りを果たした。本書の中でも行き当たりばったりの良さが書かれているが、本の外でも良い偶然 -
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中盤以降で日召サイドの物語の雰囲気がガラリと変わり、革命家として扇動していく姿には心ならずもカリスマ性が感じられた。決して共感はできないが、革命のために無関係な被害を出してはいけないという信念と冷静な態度が魅力を放っていたのだろう。下巻に関しては
團パートよりも日召パートの方が興味深かった。この2人に加え、富士隈、山海駒吉の4人の視点が回転していく終盤は、結末は分かっているのに先を追いたくなる緊張感と疾走感があり、作者の技量を感じた。
驚いたのは、彼らテロリストが皆恩赦で、太平洋戦争後も生き続けたこと。團目線では酷いバッドエンドと言えるかもしれない。 -
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團琢磨一福岡に生まれ、三池炭坑の工業、ひいては近代日本工業の基礎を築いた三井物産総師。この男を描いた本作を読まなかったこと、炭抗の町で生まれた私としては恥ずべき思いに駆られた。
物語は幼少期~青年期のアメリカ時代、出立期の三池時代を描き、彼の熱意と何よりも誠実さが周囲を巻き込み成功を遂げていくのが心地良い。
本作のもう1つの特徴は團を暗殺する井上日召を並行して描いている点。正直こちらの話になると、一気に頁をめくる手が止まる。汚く意地悪な男への嫌悪が拭いきれない。あえて対照的に描くことで團をより魅了的にしているとも言えなくないが。この二項対立がどう終着するかは下巻の注目ポイントである。 -
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西村健『激震』講談社文庫。
ミステリー色を感じさせながら、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、新型コロナウイルス感染禍などの大事件に揺れながらも、エンコーやJKビジネスなどモラルの低下に喘ぐ日本社会の現実を描いたような変わった作品であった。
明確な結末は描かれず、日本の行く末に不安を投げかけるようなエンディングはまさに日本の今を見せられているようにも思う。
年明け早々に阪神地方を襲った大地震に衝撃を受け、被災地に駆けつけたヴィジュアル月刊誌『Sight』記者の古毛冴樹は、その凄まじい惨状に言葉を失う。神戸でも火災被害の激しかった長田地区で、焼け跡に佇む若い女と遭遇する。夕方の光を背にこち -
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夫 戸田昭伸と離婚調停中の奈津美は検針員の仕事をしているが、殺人事件のあったお宅も訪れていたことから、何者かに監視されているのを感じていた.警察に相談し穂積亮右からアドバイスを受ける.穂積は"見立て屋"と称され、個人行動を黙認されており、彼なりの捜査を続行する.殺人現場の様子から犯人の冷静さを見立てた穂積は衛生服に注目し、個人での購入者を調べる.雑誌記者の諏訪部武貞の行動も調べ、大きな事件後に空き巣事件が発生していた事例を数件見つけた.諏訪部とボイスチェンジャーを使う男との接触も関知しており、昭伸が会社の古い保養施設の管理を担当していることも突き止めた.幼稚園に通う奈津美の