オルハン パムクのレビュー一覧

  • わたしの名は赤〔新訳版〕 下

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    イスラム文化の頂点たるコーランの特徴はアラブの民族性に由来したその視覚・聴覚的側面にある。それは視覚的表現に満ちた内容を指すと同時に翻訳されたコーランを経典として拒絶する理由となる。しかしながら偶像崇拝禁止の教義は絵画文化の発展を抑止し、結果として書体や挿絵に意匠を凝らすイスラム文化が確立した。パムクはヒジュラ暦ミレニアム直前における細密画職人の文化を現代に再構築することで、失われた技術への憧憬とイスラム文化のルネサンスを喚起する。芳醇な文化的背景に裏打ちされながらも、歴史推理ものとして楽しめる娯楽小説。

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    2013年06月13日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 上

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    トルコはイスラム圏でありながらEUの加盟を目指しており、古くから東洋と西洋の出会う文明交差点としての役割を果たしている。それ故に生じる文明間の葛藤や衝突をテーマに著作活動を続けるトルコ作家、オルハン・パムクの代表作は16世紀末のオスマン帝国を舞台とし、細密画士の殺人と男女の恋愛話を軸としながらも屍や犬、馬や貨幣までもが語りだす「無数の一人称小説」。興味深いのは遠近法の技術に対して"異教徒の技法"として反発する場面。章ごとに入れ替わる「わたし」とはつまり、中心点を排した非遠近法的な小説であると言えるだろう。

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    2013年06月12日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 下

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    イスタンブルと細密画の濃密な描写の背景に、近代化・世俗化というテーマが見え隠れし始める。
    「東も西も、神のものである。」

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    2013年03月03日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 上

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    近世トルコのイスタンブル、細密画と呼ばれる芸術の工房が舞台。皇帝から極秘に依頼を受けていた一人の絵師が殺された。その犯人は誰か。理由は何だったのか。複数一人称で描かれるイスタンブルの濃密な空気に圧倒される。

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    2013年03月03日
  • 雪〔新訳版〕 下

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    “わたしたちは他人の苦悩であるとか、愛であるとかを理解することが、果たしてできるのだろうか?自分よりもなお深い苦悩を抱え、貧困にあえぎ、虐げられる人々を理解することができるのだろうか?”
    作中で問いかけられるこの言葉について考える。
    そして舞台である中東の情勢や、宗教などについて自分はまだまだ知らないことが多く、理解するにはほど遠いことを思い知る。それでも、知らないことに気付き、考え、知ろうとするきっかけをこの本に与えてもらえたと思う。

    灰色に沈む雪に閉ざされた街の陰鬱さが、何故か美しく思えてしまった。
    雪と共にKaに詩想が舞い降りたのだろうなぁ。

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    2013年01月27日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 下

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    上巻の「赤」が恍惚として扇情的で、色鮮やかな原色の「赤」だったとしたら、下巻の「赤」は暗く、深く、いくつもの色が混ざり合った「赤」なのだろう。
    幾つもの血が流され、混じり合い、赤は濃さを増していく。トルコという地で東と西が混ざり合い、16世紀という時代に旧い様式と新しい手法が交わり合ったみたいに。

    『お前はどうして純粋であろうとする? わたしたちのようにここに留まれ。そして交わり合うんだ』
    一つの文化が失われていく瞬間が、一人の絵師の死という形で語られているように思った。その絵師に掛けられるこの言葉は、混じり合う文化の中で失われてしまった「細密画」そのものへの哀惜と追悼の辞に思える。

    今度

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    2013年01月25日
  • 雪〔新訳版〕 上

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    詩人のKaを主人公として、政治と宗教と恋を軸に物語が進む。
    何故かお芝居を観ているような気にさせられるのは、(Kaの知人であると思われる)第三者の視点で語られているからか。
    詩人Kaが出会う多種多様な人々と、雪に降りこめられたカルスの風景。深々と降り続ける雪の音が聞こえてきそうな空気を感じながら、下巻に続く。

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    2013年01月17日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 下

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    下巻になると俄然面白くなってきた。
    イスラムの細密画と、
    その宗教的背景に強くひき込まれた。
    思索し苦悩する人間の、
    多視点の物語は圧倒的な作品であった。

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    2012年09月26日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 上

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    イスタンブールに行きたくなる。
    表紙の鮮やかさどおり、作品も極彩色。
    翻訳も秀逸。
    (2012.8)

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    2012年08月31日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 下

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    イスラム教では偶像崇拝が禁止されている。そしてそれが徹底しているが故に絵画芸術の発展が非常に限定的になってしまった。
    神を現した像も、絵もその制作は許されない。絵に描けるものは神の眼で見られたものだけに限られる。このため、描かれるものは、先人が描いたものの範囲を超えることはなく、絵を描く者はひたすら模倣し続けるしかない…

    そうした中でも細密画というものは発展し、名人と呼ばれる芸術家を輩出もする。

    しかし、西洋絵画の発展が、細密画を追い詰めていく。
    作品を芸術家そのもののものとすること、すなわち署名。そして、遠近法。
    細密画は神の眼を通したものであり、細密画師個々人の手によるものの、無名(ア

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    2012年03月20日
  • 赤い髪の女

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     主人公の過去語りで物語は進行する。大学進学費用を稼ぐために、親方について井戸掘りに従事していた頃の話だ。日が暮れると親方と語り合い、その中に父親の息子殺し、息子の父親殺しの古典寓話で、オイディプスやロスタム(ロスタムは知らなかった)が出てくる物語だ。ほかに娯楽は街に出てお茶を飲むことぐらいだ。その街で見かけた赤い髪の女に恋をしてしまう。

     親方を井戸の底に置き去りにしたことを罪に感じたまま、長じて成功した主人公がたどった物語は石川達三「青春の蹉跌」を思い起こさせるが、危篤としか言いようがない方向へ展開する。やがて語り手は転じるが、その事情は父親殺しの寓話に通じたものとなり、物語は終わる。

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    2025年11月11日
  • 無垢の博物館 上

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    上巻だけでだいぶいろんな展開がありましたが…下巻も楽しみです。トルコは行ったことがありませんが、この話の時代は西洋的なものへの受容が進んできた入り口の部分で、そこも読んでいて面白かったです。

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    2025年11月08日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 上

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    オルハン・パムクの本は以前にも読んでいて、静かで美しい文章と、没入できる世界を感じていて
    好みだった。
    本作は代表作と謳われており、期待も高かったが、あまり面白く感じれなかった。
    というよりも、本作の舞台であるオスマン帝国の時代背景や細密画の知識が私にあまりにも
    欠けていたためかもしれない。

    オスマン帝国を舞台に、冒頭で殺された細密画師の犯人を捜すストーリーが軸となり、
    登場人物が入れ替わりで語り手となってストーリーが展開していく手法は面白い。
    また、東洋で花開いた細密画の文化の衰退と西洋の絵画の手法(遠近法)がもたらしたインパクト
    など、東西の文明がどのように相対立し、融合していったのかに

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    2025年09月13日
  • ペストの夜 下

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    地中海の架空の島、ミンゲル島でのペストの流行。封じ込めのために各国に海上封鎖されて閉じ込められた中で毎日死者が増えていく。八方塞がりの中で有効な手を打てないオスマン帝国からの島の独立というもう一つの大きな動きがあり、しかし、その主役たちも次々にペストや政争に倒れていきます。スケールの大きな歴史小説のようなのですが、残念なことに末期頃のオスマン帝国の歴史に詳しくなく、小説がどういうふうに史実とオーバーラップしているのか分からなくて、その知識があればさらに面白く読めたような気がします。

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    2025年05月25日
  • ペストの夜 上

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    トルコのノーベル賞作家の小説。ペストが流行り始めた1900年代初めの東地中海の島で押え込みに四苦八苦する主人公たち。オスマン帝国末期の人々の様子が興味深かったです。

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    2025年05月17日
  • ペストの夜 下

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    オスマン帝国末期の架空の島を舞台に、ペストの惨禍と島の独立が描かれる。語り手は女性の歴史家という想定なんだけれど、下巻を読む頃には、私の中では語り手がオルハン・パムクになっていた。
    疫病をめぐる諸々については、20世紀初頭の物語ではあるけれど、コロナ禍を経験した21世紀の読者にはとても身近に感じられるかもしれない。消毒と隔離、外出禁止という政策はまったく同じ。イスラム教とギリシャ正教の対立という宗教的な要素や、クレタ難民、欧州諸国の海上封鎖、帝国からの独立という筋書きがトルコらしいところ。
    個人的にトルコの歴史には疎いので、どのあたりが史実とフィクションの境目なのかよくわからないまま読み進んだ

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    2025年02月19日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 下

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    ネタバレ

     数ヶ月前に読んだ同じ著者の『赤い髪の女』がとても面白くて、ぜひ同じ著者の本を読んでみたいと思って読んだ本。歴史と美術が関係していてミステリーらしい、ということがあらすじで分かり、なんかダヴィンチ・コードみたい、ぜひ読んでみたい、と思って読んだ。「訳者あとがき」に書いてあるあらすじがとても分かりやすいので、少し引用する。
     「舞台はイスラム暦一千年紀の終わりがおし迫る十六世紀末のイスタンブル。半世紀前には栄華を極めたオスマン帝国も、隣国であるサファヴィー朝ペルシアとの長い戦に疲弊し、巷には雁金が横行、人々は音曲や絵画、葡萄酒や珈琲に耽溺し、そうした不品行を過激に糺そうとするエルズルム出身の説教

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    2024年04月15日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 下

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    冗長な部分を読み飛ばしてしまった。
    オスマン棟梁はカラと一緒に犯人探しをしてるのかと思ったら、実はそうではなく、工房の様式を守ることに固執して?自分の眼を潰してしまうというあたり、よくわからない展開。

    確かに『薔薇の名前』に似た要素が多いけれど、視点が次々変わる形式のせいか、(写実的に描かないという細密画と同じように)制限された表現のせいか、背景に馴染みがないせいか、読みにくさがある。

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    2023年11月23日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 上

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    一人称で、人が入れ替わり立ち替わり語るという形式で、オスマン帝国の歴史に疎いこともあり、最初はなかなか頭に入ってこない。語り手は死人だったり、金貨だったりもする。

    絵師を殺したのは誰なのか?という謎解きもあり、カラとシェキュレの恋物語もある。

    上の真ん中くらいまで読むと、キリスト教世界の写実画とオスマンの細密画の対比が浮かび上がってくる。昔の名人の画を忠実に写すこと、人物の個性を出さずに描く細密画の理念はイスラム教の反偶像主義に裏書されており、個人の人生を一枚の絵に描き出そうとするキリスト教の画とは相容れない考え方であることがわかってくる。

    細密画に描かれた人物やモノに順番に焦点を当て、

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    2023年11月17日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 下

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    これは、、、ミステリーなのかな、、、。

    細密画の様式から犯人を推理していくシーンがスリリングなんだろうけど、全然分からん。

    様々な当時人物ばかりか人以外の物まで語り手として登場し、多視点で物語られる物語は、常に緊張感をはらんでいて面白い。

    背景知識が乏しかったのでよく分からないところも多かったけれど、それでも十分に面白かった。知らない世界だから面白いし、こんだけ人を惹きつけている。さすが、ノーベル文学賞作家。

    『雪』と本作、長年の積読作品がようやく読めた。

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    2023年07月29日