あらすじ
30歳のケマルは一族の輸入会社の社長を務め、業績は上々だ。美しく気立ての良いスィベルと近々婚約式を挙げる予定で、彼の人生は誰の目にも順風満帆に映った。だが、ケマルはその存在すら忘れかけていた遠縁の娘、十八歳のフュスンと再会してしまう。フュスンの官能的な美しさに抗いがたい磁力を感じケマルは危険な一歩を踏み出すのだった──。トルコの近代化を背景に、愛に忠実に生きた男の数奇な一生を描く長篇小説
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Posted by ブクログ
p445
「もしわたしとあなたがもっと現代的だったら、本当のヨーロッパ人だったら、きっとそれは問題にもならないんでしょうね。でも現実にはわたしたち、伝統に縛られているし、娘の純潔というのは、あなたにとってはとても大切なものでしょうし、他の人たちも敬意を払うべきものなんですものね。
明治時代における日本人の心情に通ずるような気がして、異世界ながらも親近感が湧いた。「西欧的近代化」に対する違和感、焦燥感、反発など、旧式の伝統から脱することができない場面が至るところで感じられる。イスタンブールという街自体が「西欧-イスラム」を象徴していて美しさも感じられた。
恋人を想起させる物品を片っ端から収集する主人公の狂気には辟易するものの、同作品でノーベル賞を受賞したように、時代の葛藤をうまく捉え、文学的な評価を受けた理由がよくわかった。
Posted by ブクログ
ノーベル賞の対象がかくのごとき 主観の結晶もあるという事を発見した大作。
病、餓えと貧しさ 不安定な立ち位置・・何れもない若さという宝も手にした30歳の青年が 不倫と横恋慕という大海原に堂々と漕ぎ出でる 妄想が大半の主観の総決算★
中世~近世ではこういった小説が堂々と第一位を占めていたことを思い出す。