あらすじ
十二年ぶりに故郷トルコに戻った詩人Kaは、少女の連続自殺について記事を書くために地方都市カルスへ旅することになる。憧れの美女イペキ、近く実施される市長選挙に立候補しているその元夫、カリスマ的な魅力を持つイスラム主義者〈群青〉、彼を崇拝する若い学生たち……雪降る街で出会うさまざまな人たちは、取材を進めるKaの心に波紋を広げていく。ノーベル文学賞受賞作家が、現代トルコにおける政治と信仰を描く傑作
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Posted by ブクログ
詩人のKaを主人公として、政治と宗教と恋を軸に物語が進む。
何故かお芝居を観ているような気にさせられるのは、(Kaの知人であると思われる)第三者の視点で語られているからか。
詩人Kaが出会う多種多様な人々と、雪に降りこめられたカルスの風景。深々と降り続ける雪の音が聞こえてきそうな空気を感じながら、下巻に続く。
Posted by ブクログ
オルハン・パムクは、ノーベル文学賞を受賞した、トルコを代表する作家です。
題名から受ける印象とは違い、この小説ではトルコにおける政治の複雑な状況が描かれています。
オスマン帝国後に誕生したトルコ共和国が国是とする共和主義や世俗主義、そしてそれに対するイスラム教や民族主義、更に社会主義や共産主義といったそれぞれの政治信条が絡み合い、主要な登場人物達の思惑が交錯します。
久しぶりに帰郷した主人公のKaは、ある事件についての記事を書く目的で地方都市カルス(トルコとアルメニアの国境付近)に来ますが、そこでかつて恋心を抱いていたイペキ、イスラム主義運動家「群青」など、さまざまな政治背景を背負った人々に出会います。
詩人であるKaに思想はないのですが、イペキと結ばれて幸福を得ようとする過程で、図らずも思想対立に絡めとられていきます。
パムクは作中でKaにこう言わせています。「人は何かの信条を守るために生きているんじゃない、幸せになるために生きているんだよ」
この一言に作家の普遍性が垣間見える思いがしました。個人の幸福の希求の前に、政治信条や思想の構図が一気に後退するシーンでした。