ドン・ウィンズロウのレビュー一覧
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ドン・ウィンズロウは『犬の心』3部作以外読めておらず、他の作品はわたしの好きなメキシコも関係なさそうだし、どうかな…?なんて思っていたけれど、もちろん杞憂も杞憂。めちゃくちゃ面白い。読み始めたら止まらん。
今作も、誰が生き残るのか(ほとんど生き残らない)全然わからず、重要かと思われた登場人物があっけなく死亡したりして、予測のつかないエンタメを存分に楽しめる。
「みんな救ってくれると信じておまえを見ている。だったら、救ってやろうじゃないか。」とか、文章もバチっと決まってかっこいい!少年漫画のようにテンションを上げてくれる。
ラストは、ドラッグを憎む気持ちがすごく伝わってきた。次作以降も楽しみすぎる。 -
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前作でのハリウッド篇を受けて、今回はギャングと切っても切れないラスベガス篇。
と言ってもバグジー・シーゲル以来のギャングが暗躍する世界ではなく、それらが一掃された世界で、実業家としてダニーが突き進む様子が描かれる。
主人公がアイリッシュ系ギャングという事で、ギャング物、ハリウッドやラスベガスを舞台にするから「ゴッド・ファーザー」との相違点が取りざたされるのは当然だろう
しかし、こうして3部作を読んでみると、この作品は、アイリッシュギャングのファミリーの一員として生を受け、そこで育ち、それ以外の価値観や規範を持てない男が、それ以外の世界で生き延びようと格闘し、もがく物語であり、ドラマとしての側面が強い。
最後に収まるべきところに収まり、物語は終わるが、ほぼ50年の時を経て、オープニングに戻っていく構成は見事で、ダニーの生涯、その生き方を象徴するラストには感動すらおぼえる。
(若干、後日談が不明なキャラもいるので、そこらは映像化の際に追加して欲しい)
これでドン・ウィンズロウは引退らしいが、これだけの作品を残せるのだから、正直、こんな大作出なくても、多少レベルは下がっても、まだ作品を紡いでほしい。
これだけ傑作、しかも映像化向けの作品が多いのに、そのあまりにもスケールの大きさゆえか、なかなか映像化の話が進まないのが本当に残念。 -
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麻薬捜査官アート・ケラーの長い長い闘いの物語は遂に終わりを告げた
だが、現実世界での麻薬との闘いは尚続いている
ではアート・ケラーが我々が麻薬と闘い抜くために、そしていつかは勝利するために残してくれたものとは何だったのか
ケラーは言う
麻薬の密売人が存在するのは、密売人たちが縄張り争いを繰り広げのは、巻き込まれ無辜の人々が殺され続けるのは、麻薬の密売がとてつもなく儲かるからだ
当然だ
ではなぜ麻薬の密売がとてつもなく儲かるのか?
この答えも恐ろしく簡単だ
それは麻薬が違法だからだ
暴論には違いないが、真実でもある
そしてもうひとつ麻薬を求める人がいるからだ
消費者がいなければ商売はなりたたない
そして当然ながらこの問いも生まれる
ではなぜ人々は麻薬を求めるのか?
この答えも恐ろしく簡単だ
芥子畑を焼き払うこと
密売人を一掃すること
中毒者を刑務所や更生施設に送り込むこと
根本的な解決にはほど遠い
麻薬に逃げ込まなければ生きられない社会を変えること
誰もが生きやすい社会に作り変えること
そしてそれが不可能だと思わないこと
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ネタバレ麻薬戦争3部作、堂々完結!!
とんでもないページ数を読んだのだけど、面白かったのであっという間に駆け抜けたように感じた。
ていうか、ニコとフロル、ニコのいた少年拘置所の仲間たちのその後や、ノーラとカランのエピソードももっと知りたく、こんなに読んだのにちょっと消化不良なくらいだった。すごく現実に即した、時事的な要素がある小説だから、出版が急がれたのかもしれない。
『ザ・ボーダー』については、ラストの「麻薬合法化」というケラーの主張を伝えたいがために書かれた物語なのだろうと思った。
以前、各国で禁止されている食べ物や飲み物を味わうトラベルエッセイ『悪魔のピクニック』を読んだ際、作者がドラッグについて「精神を変化させる薬物は商品として扱ってはならない」「非商品化」するのがいいのではという結論に達していたのを思い出した。真剣に考えていくと、ドラッグでは儲からない社会を作っていく必要があるというところにみんなたどり着くようだ。
エンタメ的に楽しんだのはもちろん、すごく勉強になったシリーズだった。
いつかまた『犬の力』から読み直したい。 -
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鬼★5 もはや犯罪小説の大河ドラマ、ラスベガスのカジノホテル経営が商売敵との抗争に発展… #終の市
■あらすじ
ハリウッドからラスベガスへ流れてきたダニーは、今や新進気鋭のカジノホテル経営者となっていた。既に成功を収めていた彼だったが、さらなるカジノ王国を築くために商売敵とホテル買収を争うことになる。
ただ強引な手段で事を進めていくうちに、過去のマフィアの亡霊やFBIたちが追いかけてくる。さらに利益に群がる新たなマフィアが彼の前に立ちはだかり…
■きっと読みたくなるレビュー
東海岸のマフィア抗争から始まった犯罪小説の三部作ラスト『終の市(ついのまち)』、堂々の完結です。
犯罪小説って欲望にまみれた汚い物語なんて思ってません? きっとあなたが思う以上にエモいし、深く深く胸を打つ物語なんです。今年イチオシの犯罪小説ですね、凄かった…
さて本作のダニーはカジノホテル経営者として物語が始まる。犯罪小説ということを忘れるくらいビジネスマンとして手腕を発揮。これまで切った張った人生を繰り返している彼にとっては根回し、交渉、強み弱みを見抜く力なんてお手の物。しかも経営者としてのセンスもいいし、行動力もあるし、筋も通っていて、もはや理想の経営者なんすよね。
しかしながら過去の悪事、人脈は幽霊のように彼についてまわる。どれだけクリーンに生きようとしても、周りがそうはさせてくれないんです。敵対する組織はもちろん、本来応援すべき警察すら悪役に見えてくる。人間ってどこまでも業が深いし、遺恨ってのはどれだけ洗ってもぬぐい切れないんだよなぁ、許してやってくれよと何度思ったことか…
そう、やっぱり本書の一番の読みどころは主人公ダニーの人間性なんです。愛する女性を大切できる男であり、我が子を守る父であり、困っている仲間たちを助けてあげられる。友人を大事に思い、強欲でも自分勝手でもない、頭脳明晰でリーダーシップのある優しい男。完全に惹かれっぱなしですよ、こんなの目の前にいたら男でも惚れちゃうよ。
他の登場人物もクールなんですよ、もう脳天が痺れっぱなし。商売敵のワインガードも筋の通ったビジネスマン、逃亡中だったクリスも頭脳派として光る、ケヴィンとショーンの二人組も若者ギャングらしく華々しい。
今回のイチ推しはネッドだなぁ。これまで父、ダニー、息子を三世代にわたって守ってくれた彼。人を守るとは「どっしりと構える」こと、終盤のクライマックスは今年読んだ本の中でもっともクールなシーンだったわ。
また本作のもうひとつの読みどころとして、法廷シーンもあるんですよ。かつてマフィアのドンと自身の母を殺害してしまった人物の刑事裁判。もうこれだけで一本長編を書けるんじゃねーのって内容で、重厚感と緊迫感ありまくり。鬼アツなんです!
この裁判の結末、そして未来への選択が、本作に出てくる全ての登場人物を癒してくれてるようでしたね。
東海岸のマフィア抗争『業火の市』、ハリウッド映画業界『陽炎の市』、ギャンブル街『終の市』。広大なアメリカをまるっと描いた犯罪小説でありながら、人間が持ち合わせている純粋な愛情に光を照らした作品です。
控え目にいって名作、今年ぜったい読むべき三部作なのでお時間をとってゆっくりどうぞ。
■ぜっさん推しポイント
『終の市』---終わりの街とは何処だったのか、そこには誰がいるのか。
彼が残してきたことの答えがそこにあり、ちっぽけな私の生き様なんかではとてもじゃないが受け止めきれません。私にも家族がありますが、同じ境遇だったらどこまでできたのだろうか…
こんなにも壮大な人生劇場でなくてもいい。それでも大切に思う人に対しては、自分ができることを精いっぱいやり尽くさなければいけませんね。 -
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★5 マフィアがハリウッド映画業界に進出?! 欲望と家族愛がマシマシで描かれる犯罪小説 #陽炎の市
■あらすじ
マフィア抗争に敗れたダニーは、わずかな仲間と共にカリフォルニアに逃走する。幼いわが子を養いつつ、隠れながら暮らしダニーたちに、FBIから取引を持ち掛けられる。その後ダニーは母親との交流を経て、ハリウッド映画界にも影響力をもたらすことになり…
■きっと読みたくなるレビュー
★5 もう、めちゃくちゃ! 前作からどんな展開になるんだと思いきや、エンタメ増し増しじゃないですか~
序盤はダニーの逃亡劇から、新たな謀略と犯罪が繰り広げられる。人間の闇の部分をむしろ生き生きと描写してくれるから、キャラクターの顔が目の前に見えてくるんすよね。ヒリヒリしながらワクワクしちゃう展開も相変わらず最高なの。
このままこんな展開が続くのかなーと思いきや、中盤から場面はハリウッド映画業界に。これまで生き延びるために隠れ続けていたはずのダニーが、ド派手な表舞台で大騒ぎなんです!これが面白いのなんのって。もうノワールだったことを忘れそうになりますね。
今回も素晴らしいキャラクター陣、まず推したいのはマフィア仲間のケヴィンとショーンの二人組ですよ。中途半端なワルって、こんな感じだよねって奴ら。若いゆえの愚さを余すところなく発揮してくれてカワイイ。
彼らと映画監督のやり取りが笑っちゃうんだよな~。こんな奴らと付き合っちゃダメなんだよ、ああもう、やっぱり… 予想通り無茶苦茶になっていく。でもこの映画業界や役者のリアルを垣間見れて、ニヤニヤが止まりませんでした。
また本作ではダニーのお母さんマデリーンが大活躍。彼女も悪党ではあるんですが、苦労人で経験豊富。いつも筋が通った判断がクールだし、母性あふれる優しさに惚れちゃう。ダニーとの関係性が徐々に変わっていく様子がめっちゃ癒されたなぁ、やっぱり家族は大事だよ。
そして主人公のダニーは、すっかりボスの風格で頼りになる男になっている。でもマフィアにも関わらず非情にはなり切れない奴で、人間味に溢れてるんだよね。本作の後半では、その部分が弱点となり再び自らの急所と向き合うことになるんです。それでも彼を救ったのは、やっぱり家族への想い。もはや人間でなく動物としての本能が鬼アツで痺れました。
ノワールではありながら、見たこともないエンタメ渦巻く展開だった本作。次回で本シリーズも完結とのこと、最後までしっかりダニーの人生を楽しみたいと思います!
■ぜっさん推しポイント
本作ではもう一人重要な役回りの女性がいるんですが、めっちゃ魅力的に描かれてるんですよね。世界中の幸福と不幸を丸ごと背負ったような人物で、とてもじゃないが彼女を受け止められない。
すべてを手に入れられることと、それを受け入れられるってこととは別の話なんだよなぁ… 辛い。自分に素直に生きることの難しさを痛感させられました。 -
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★5 生き残るのは誰か… 血肉にまみれた欲望が膨れ上がる、圧巻のマフィア抗争劇! #業火の市
■あらすじ
1980年代のアメリカ、ダニーはアイルランド系マフィアに所属し、日々シノギをこなしながら暮らしていた。先代からイタリア系マフィアとは縄張りを分かちながら仲良く共存をしていたが、ある日トラブルに見舞われる。
その諍いをきっかけに二つのマフィアは抗争に発展、ダニーはいかに生き残っていくのか…
■きっと読みたくなるレビュー
★5 おもろい!
冒頭のゆるくエロいバカンスシーンから始まるものの、その後とんでもないことになる犯罪小説。アイルランド系マフィアとイタリア系マフィアの抗争劇です。
誰しも一度くらいは見たり聞いたりしたことがある『ゴッドファーザー』『グッドフェローズ』『レザボア・ドッグス』なんかを思い出しますね。
ドストレートの喧嘩劇場で、次々とやり合い、化かし合い、裏切りが続く。どこまでも血肉にまみれた欲望が膨れ上がった結果、こんなにも恐ろしい泥沼になるのかと思うと怖すぎてビビる。
物語自体はもう何もいうことがないくらいの最高なんですが、私が大好きなのはキャラクターの色合いなんですよ。
まずなんといっても主人公のダニーが最高。幼い頃からの恩義がありつつも、ナンバー3,4といった立ち位置でいつも苦い汁を吸わされている。とは言え愛する仲間や妻にも囲まれ、平穏で幸せに暮らしてはいるんです。
いつも複雑な感情に苛まれる彼が、愛おしくて愛おしくて仕方がない。このえげつない抗争の中、どんどんリーダーらしく成長していくところが読みどころで、これが不謹慎ながらカッコイイんだよね。
イチ推しキャラはリアムですね、クズofクズ。こういう奴がいると、犯罪小説として引き締まります。こんな奴とは関わらないのが正解なんだろうけど、もし自分がボスや仲間だったらどうすりゃよかったんだろうか。むしろ人生勉強になるわ。
他にもいっぱい強烈キャラが登場しますが、胸に刺さるのは女性たちですね。様々な背景を経て、女として、母として、マフィアの世界で懸命に生きている。
ひとりひとりの人生劇場、特段間違ったことはしてないんだけどな… なんでこんなにも幸せを継続するのって難しいんでしょうか。
そして物語のクライマックスは超ドエンタメな展開です。これまでの悪逆なマフィア抗争だったはずが、人間同士の争いとなり、最終的には生き物の食い散らかしになっていく。この生命力とプライドのうねりが凄まじさは圧巻でしたね。
次作以降も気になる本シリーズ、楽しみに読みたいと思います!
■ぜっさん推しポイント
犯罪小説ではあるんですが、これは完全に人間ドラマです。ほんと絶対に近寄りたくない奴らなんですが、読んでると何故かイイ奴にも思えてくるんすよね… もっともっと人間の本質を知りたくなる作品でした。 -
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ついに三部作ラスト!
アダン不在、さすがに面白い?大丈夫?と思っていたけど杞憂でした。すごいボリュームだけど、飽きる暇なくぐいぐい読んだ。
『犬の力』で好きだったあの2人が再びご登場したのもテンション上がった!こんな嬉しいサプライズがあるとはね!
でもこの作品で起きる事件が事実に基づいていると知ると、手放しに面白い!と言っていいのか、後ろめたい気分にもなる。43人もの学生がバスで拉致、殺害された事件とか、残酷すぎて信じられないほど。
読書中、メキシコ市長が就任直後に首を切断されて車の上に置かれた事件もちょうどニュースで取り上げられ、小説と現実がオーバーラップして、逆に現実味を感じられなかった。この小説で描かれることは実際に起こっているんだと、肝に銘じて読み進めていかなければならない。 -
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一冊ずつ三年。書き継がれた三部作の遂に終わりを告げる本書。そしてドン・ウィンズロウが作家人生の終わりを告げてから、世に放たれた最後の作品である本書。何と言うべきか。堂々の作風で最後の大掛かりな仕掛けを完成してみせた観のあるビッグ・ストーリーに向き合って読み始めた本書。いつもの疾走感のある文体。簡潔、かつ重厚、読みやすいページターナー。さらに、衝撃的で突然すぎるアクション。やっぱりウィンズロウは個性の塊であり、才能の集積だ。興奮に包まれる一分一分という貴重で忘れ難い読書の時間。
約30年ほど昔、ニール・ケアリーというものすごく平凡なのにオリジナリティの横溢した主人公を引っ提げてスタートしたウィンズロウの作家人生は、現在、こんなにも巨きな物語を紡ぎ、そして鮮やかに閉じてゆく。その後、このウィンズロウという人はどう生きてゆくのだろうか? それは本シリーズの主人公ダニー・ライアンの終わりの章を読むと、なぜか作者の今後のイメージと重なりそうだ。それは様々な歓びも哀しみも、すべてを引き受けて人生を疾駆し、そして終焉に向かい合う。人の人生は、すべて重く、大きなドラマであるからだ。
読者ひとりひとりにも勿論、それぞれのドラマがあり、それらは大きな波のうねりのようにも見えれば、打ち上げられたビーチの砂粒のように、様々な形と色をした微細な破片たちの膨大な集積のようにも見えるかもしれない。あるいは、陽炎の如く、流星の如く、一瞬の儚さであるのかもしれない。一人の人間の誕生と成長と成熟と、そして死。それらは、スケールにこそ違いがあれ、いずれも同じような経路を辿るものだ。ましてや死んでゆくときに、生きた時間のスケールの違いが果たして問題になるだろうか?
命と無。この広大過ぎ、わかりにくい永遠の命題の中で、ウィンズロウという作者も、ダニー・ライアンという本三部作の主人公も、ともかく目の前の人生を生きざるを得ず、最後には死なざるを得ない。そんな命の重要さと儚さとつまらなさとおかしさと、様々な生を展開して、巨大な街を語り、世界と時とを語ってみせる、この作家の最終作が本書なのだと、意識しながら読んだ本作。
序論が長すぎたが、頂戴な本三部作の構成を振り返ってみよう。ロードアイランドで形成されたアイリッシュ・マフィアの組織の戦いと成熟?ぶりが一部、イタリアンマフィアとの間で激化する抗争と、敗走を描く二部。ウエストコーストに辿り着いた主人公たちが、ウエストコーストに身を隠し合法的商売に鞍替えしてラスベガスで再生を果たしつつある主人公とその後の経済抗争を描く本書第三部。
全体を振り返ると、アイルランド移民たちとイタリアン・マフィアがアメリカ史で果たした舞台裏的役割を、壮大な支配絵図を基に、数々の個性的なキャラクターを配置して、経済支配に誰が到達するのかを描いた暗黒史と言えるのが本三部作なのである。三作目の本書では誰もが若者から卒業し、そして成熟し、合法的な経済マフィアとして、ベガスの支配闘争に浸かっている構図である。最早、若きマフィアたちの殺し合いで片が付く世界ではなく、経済支配と組織連携によるマウントの取り合いといった様相を呈している。もはや暴力や闘争ではなく、合法的な経済闘争である。複雑に絡み合うこうした人間絵図が、本三部作では簡潔でスピーディな語り口で描かれてゆく。
マフィアという過去を隠し去りながらアイリッシュもイタリアンも、ベガスを舞台に金を積み上げて、これでもかというほどの小競り合いを繰り広げる。過去を引きずってきた戦士たちが金のなる大都会を舞台に、互いにしのぎを削るなか、闇から闇へと蠢き、やがて葬り去られゆく男や女の数は大変なものなのであり、一部と二部で登場してきた古い戦士たちは暗闇のなかで次々と命を捨ててゆく。後半部分、彼ら多くの馴染みのキャラクターが破滅してゆくシーン。その展開のスピードとスケール。人間の経済闘争が生む犠牲者や家族の不幸が何ともやるせない。アメリカ暗黒史の傑作がまた一つここに誕生したのだ。
巨大な国家の経済が生む大きなうねりを、個々のキャラクターの行動で描き切ることで、作者が展開してみせた移民闘争の地獄絵図。それを乗り越えられ生き延びることのできた者は少なく、そのために失われた命は計り知れない。ギリシア悲劇を底本にしたという、新大陸アメリカが完成(?)するまでの人間悲喜劇。それを個人という人間の、活きた目線で描いた大宗教画のような三部作がここに終わりを告げる。ウィンズロウは最後のペンを置く。半世紀近くに愛読してきたこの作家。その全作品に触れられた幸せに、ただただ感謝したい。 -
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あぁ、読みだせばあっという間だったな。
分厚さを感じさせないのは流石のドン・ウィンズロウと言ったところか。
70歳か。パスコよりまだ若いんじゃない??笑
アルター・ボーイズの友情、美しかったなぁ。
自分も友情に対してはかくあるべしと思ったよね。
生き死にの話はともかく、似たシチュエーションはありうるよ。
いやぁ、やはり真骨頂はリカタが乗り込んできてからだよね。
そうそう、これを待っていたと。
ドン・ウィンズロウの小説はヒリヒリしながら読みたいんですよ。笑
さっきまで笑ってた人がページめくったら死ぬ可能性あるって頭のどこかで準備しながら読みたいし、この人殺さないでって人が殺されていくところを、読みたいんですよ。笑
大満足でございました。
ロードアイランド、行ってみたいねぇ。
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ドン・ウィンズロウ『終の市』ハーパーBOOKS。
ダニー・ライアンを主人公にしたギャング小説、三部作の完結篇。
またまた、しばらく本棚で寝かせていた。最近は本を読む力が衰えたのか、読み易い国内作品ばかり先に読む悪い癖が付いてしまった。
前作『陽炎の市』の巻末に収録されていた本作の一部抜粋は、タイトルが『荒廃の市』だったのだが、またも『終の市』にタイトル変更されたようだ。気になるのは、帯に踊る『犯罪小説の王ドン・ウィンズロウ、最後の大作!』の文言。本当だとしたら、余りにも悲しい。
やはりウィンズロウの小説は面白い。ダニー・ライアンの激動の人生をその結末までをじっくり描いてくれた。そういう意味では、この最終巻は単なるギャング小説ではなく、人生訓めいたものまで感じさせる深い物語であったと言えよう。
東海岸で一人の女性を巡るマフィア同士の抗争に巻き込まれたダニー・ライアンが仲間と共に自由を求め、逃亡する。仲間たちと麻薬カルテルから隠し金を強奪したダニーはラスヴェガスに王国を築き、カジノホテル業界の陰の大物にのし上がる。
しかし、ダニーの飽くなき欲望から取った強引な手段が、商売敵のホテル王であるヴァーン・ワインガードとの関係に禍根を刻み、平穏な生活は終わりを告げる。FBIとマフィアにつけ狙われ、仲間を惨殺されたダニーは、再び血の抗争に身を投じていく。
果たして、ダニー・ライアンに安息の時は訪れるのか……
本体価格1,680円
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ウィンズロウが最後の作品として世界にプレゼントしてくれる三部作は第二作。第三作は執筆中とのことなので、一年に一作、書いては出版するというけっこうリアルタイムかつ歴史的作業なのかと想像する。翻訳者も出版社スタッフも綱渡りな作業だろうが、内容的にも、作家ウインズロウのラストワークとしても、あまりに重要な歴史的三部作に携わる多くの方のGood Jobに敬意を表しつつ、大切に本書を手に取る。
旅行業をしていると本に費やす時間が実は途切れ途切れで得られにくいのだが、8月に入ってようやく連続休暇が得られたので、二日くらいで一気に読ませて頂いた本作。分厚い作品だが、『業火の市』で故郷を追われた主人公ダニー・ライアンとその一行がウエストコーストに辿り着く状況と、そこでもまた張りつめる緊張と生死を賭けた日々に瞬く間にのめり込んでしまう。
テンポが速いせいか、ぐいぐい読み進む。とはいうものの、登場人物の多さが読みにくさに繋がるので巻頭の人物表を百万回くらいめくりなおさねばならないのは前作と同様。何せ人間関係図は、この物語にとって大変重要なものだし、それぞれの人間関係の矢印は、いつでも裏返ったり引っくり返ったりし得る信用のならないものだからだ。スリリングで緊張感いっぱいの登場人物表。
タイトルの「陽炎」は原語では”Dreams”。ちなみに具体化するとそれはハリウッド・ドリームだ。銀幕の世界。主演女優の魅力。札びらが舞う世界。夢という名の鉱脈が眠る土地。
売れっ子映画女優の作品撮影に燃えあがるサンディエゴ。ダニーたちが辿り着いた太平洋の岸辺にある世界。メキシコの闇カルテルやFBIの権力闘争、そしてロードアイランド州プロヴィデンスに遺してきた敗北の過去。勝者イタリアン・マフィアの追撃の恐怖。ダニーは空っぽであるかに見える。組織はばらばらに解体したかに見える。しかしダニーが持ち去ったマネー(大半は海に投棄したとは言え)への追撃網は緩まない。緊張した逃走ドラマのさなかで、ダニーたちは身を隠す。新天地カリフォルニア。
売れっ子女優ダイアン・カーソンの描き方が独特でウィンズロウらしい。そして映画製作現場の活気も、そこに寄せられる札束の気配も、男たち・女たちの欲望も。ダニーの母親はクールでリッチで悪女だが、それでも母親であり、ダニーの守護神でもある。ダニーの腹心のアルター・ボーイズは歩く凶器みたいなもので、スリリングな存在だ。いや、すべての腹心、部下たちが同じようなものかもしれない。何しろ彼らはギャング組織。影を踏んで歩く組織なのだ。
そしてこの三部作はギリシャ神話に基づいた物語だと言う。ウィンズロウ人生最後のチャレンジ。運命の渦に巻き込まれ錐もみ状態になったダニーの運命は未だこの作品まででは半ばまでしか語られていない。全く幸福とは別次元に転がっているかに見える主人公ダニーと彼に近づく者たちの不幸が際立つ。ダニーの彷徨の人生は、煌びやかに輝くと思うと、次の瞬間には闇に閉ざされる。血の匂い。硝煙の匂い。ドラッグの夢。命の儚さ。いつも摑みきれなかった愛。
本作もまた読後の興奮冷めやらぬところは前作同様。本当にドラマティックなクライマックスを予感させる最終作(本シリーズだけではなく、残念ながらウィンズロウの最終作)まで一年。今日のところは終わっちゃいない。気長に待つとしよう。