ドン・ウィンズロウのレビュー一覧
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ネタバレ”ネズミ”となり追い込まれて行く、主人公。
ここから冒頭の牢屋のシーンに辿り着くのかと思いきや、話はドンドン加速していく。
”汚れた”代償として次々に命を狙われ、利用される主人公が周り全てを巻き込みながら疾走する熱いドラマは圧巻で、下巻は一気に読み終わる迫力だった。
が、やはりいくら主人公の論理では正義であっても、既に一線を何歩も超えた正義は肯定できず、それが読後感に響いている。
しかし、ドン・ウィンズロウの筆力は衰えるどころかますます熱くなってくる。「カルテル」以降、「報復」「失踪」と少し軽めだったがここに来て本領発揮。
しかも「カルテル」の続編もあるらしい!
何より、リドリー・スコッ -
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ネタバレ待ちに待ったドン・ウィンズロウの新作。
しかも上下2巻の厚さ。
今回は汚職刑事が主人公で、汚職故に留置されているところから物語が始まる。
・・・という事で、ここからいつもの作品と違う。
正義を実行するための手段として”汚職”という世界に足を踏み入れた、という訳だけでもないし、ひたすら主人公の言い訳めいたモノローグが多く、今一つキャラに共感できない。
しかも、まるでニューヨーク賛歌でもあるがごとく、街の裏表を含めた様々なエピソード紹介が多い。確かに興味深く読めるエピソードは多いし、作者の博識ぶりはよくわかるが、その分、物語のリズムがそがれ、名作「犬の力」や「カルテル」のような物語のダークな -
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いやもうすさまじい。「ストリートキッズ」のリリカルな世界から遠く離れて、これは「犬の力」をしのぐ血と暴力にまみれた物語だ。
元デルタフォース隊員の主人公デイブは、飛行機事故で妻子を失う。それはイスラム過激派によるテロだったのだが、政府により隠蔽され「事故」とされる。そのことを知ったデイブは「世界最強の傭兵チーム」とともに、自らの手で報復する決意をする。
と、こういう紹介を読んで、これって政治的な陰謀がどうとか利権がどうとか、そういう話なのか(あんまり好きじゃない)とちょっと思っていたのだけど、いやそっち方面にはまったく行かない。ほぼ全篇、デイブと仲間たちが、テロリストを追い標的を追い詰めて -
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ネタバレダニーの人生は終わった。
もっと過酷な運命が待ち受けていると思ったが、最後は以外にも平穏な日々が待っていた。
ロードアイランドで生まれ、逃亡し、西海岸で一旗上げて、ラスヴェガスで成功する。
しかし、欲望と憶測とちょっとした偶然で抗争が始まる。
最後、ダニーはラスヴェガスの利権を手放し、命をかけて復讐する。
ダニーの物語は何だったんだろうか。
アメリカの暗部をさらけ出し、移民、人種に通じた血を血で争う抗争を描きたかったのか。
今までの作者の犯罪小説に比べたら、ライトでカジュアルだ。
映画を見るようなスタイリッシュでクールな感じもする。
作家として最後の最後まで、作品ごとのスタイルを模索し -
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「悪の勝利に必要なのはただ……善人が何もしないことだ」(トルストイ『戦争と平和』)
9.11とアル・カイーダ殲滅作戦のあとのアメリカに、旅客機が落ちる。
テロであることをひたすら隠そうとする政府に対し、家族を失った元特殊戦闘員がプロの傭兵集団を使って独自にテロ組織を追い詰める。
ウィンズロウには珍しく、王道の冒険小説だ。
『ナヴァロンの要塞』など、個性的なメンバーを率いた戦闘物は、既にたくさんの作者に書かれている。
それでも、
「貪るように」、ドン・ウィンズロウの本を読む感覚は変わらない。
やはり、「アベンジャーズ的」なものは考えて読んではいけない。
これまでも、この後も、さまざまな小 -
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ネタバレロードアイランドから逃げてきたライアンたちが、カリフォルニアで人生を立て直す。
しかし、簡単にはいかない。
そこでスーパーウーマンであるダニーのママが一発逆転のお膳立てをする。
原題は “City of dreams” 。ハリウッド進出まで果たしてしまうダニーたちに、いささか出来すぎた感は否めないが、そこは一作目とは対象的なダニーを描くことによってファミリーのリーダーとしての成長を描く。
3作目はまた抗争劇に戻るのだろうか。
今作でもダニーは人を殺さない。仲間から非難を浴びようが殺さない。なるべく。
そして母は強い。ダニーの安全弁にもなっている。
この2点が崩れることによってダニーに本当の -
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現在も深刻な麻薬問題を抱える米国の実態を凄まじい暴力の中に描いた一大叙事詩「犬の力」(2005)/「ザ・カルテル」(2015)/「ザ・ボーダー」(2019)。作家人生の集大成ともいうべき、この渾身の三部作によって、ウィンズロウは紛れもなく頂点に達した。アクチュアルでラディカル。麻薬に関わる者は全て死する運命にあるという暗鬱なる黙示録。現在進行形の鋭利な文体を駆使して生々しい諸悪を抉り出した現代ノワールの境地。どの作品もページを捲る手が白い粉と紅い血に染まっていくような錯覚に陥ったほどだ。現時点での最終作「ザ・ボーダー」に取り掛かる前に構想した本作は、馴染みの〝ウインズロウ節〟が炸裂する犯罪小説
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ダーティーな刑事が、裏切者の枠の中でもがき踏み止まろうとするストーリー。ミステリ要素はほとんどない。彼らは汚職で手にした金で贅沢するのではなく、子供たちをいい大学に通わせるための資金にしようとするなど、あくまで目的は現実的。少し前に見た海外ドラマ『シェイズ・オブ・ブルー』を連想してしまう。下巻に入った辺りから徐々に歯車が動き出す。
そこで描かれるのは、腐敗の底なし沼と圧倒的なリアリズム。マローンが目指すところは、ニューヨークの犯罪組織を根こそぎ撲滅することではなく、犯罪組織を管理し現状を維持すること。このスタンスに現場の警察官のハードさがよく表れているように、作者の刑事に対する共感や敬意が本 -
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こういうのを力業って言うんだろうなあ。主人公は、賄賂を贈り受け取り、押収薬物をかすめ取り、私刑をためらわずに殺人まで犯す悪徳警官。おまけにこいつは街の「キング」を自認する、ヒーロー気取りが鼻について仕方がないヤツなのだ。まあウインズロウなので、お話は面白く、上巻は我慢してつきあってやるかという気持ちだったのだが、あーら不思議、下巻の途中からはいつのまにか、このマローンに肩入れしてハラハラしながら読んでいるではないか。
およそ共感を呼ぶタイプとは言えないこういう主人公を造型し、最終的には感動的なラストへ持って行くというこの離れ業。ウインズロウの凄さをあらためて見せつけられた気がした。むせかえる