ドン・ウィンズロウのレビュー一覧

  • ダ・フォース 上

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     生産・流通を担っている麻薬カルテルを描いてきた著者が、一大市場であるニューヨークの麻薬市場を書いた作品が本書だ。麻薬を取り締まる警察官の活躍が描かれるが、蛇の道は蛇で、警察官の守る正義は一筋縄ではない。

     知らず知らずに正義を踏み外していく刑事たちは、なぜ踏みとどまれなかったのか。それは一歩一歩、少しづつ踏み外していったからだ。ただ、彼らの胸の内にあふれる正義感は熱くあふれている。

     冒頭で留置されている刑事が書かれ、過去にさかのぼり正義から逸脱していく様が語られる。終盤、伏線を回収するように逸脱の背景が書かれ、刑事たちの哀愁が立ち昇るように感じられる。

     市警察、市行政、連邦捜査局、アメリカの警察組織は複雑で、それを理解することもエンターテイメントの一つだ。映画を観ているような感覚で、一気にページがめくられていく。

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    2022年08月21日
  • 業火の市

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     読後の興奮冷めやらず、すぐにレビューが書けないほど、この本のカオスにやられた。そしていつもながら、ウィンズロウの文章にやられた。ともかくキックの強い作品なのだ。いつも。キャラクターたちの運命が神の視点で書かれてゆく悲喜こもごもの人間絵図。愚かで、強欲で、弱くて、それでも必死に生きてゆき、時に美しく、明るく、悲しく、それぞれの生を楽しんでいながら、運命の残酷に翻弄されざるを得ない男たち、女たち。

     この初夏、この本の出る少し前の頃、大画面TVに新調した我が家で、ぼくはコーエン兄弟のTVドラマ『ファーゴ/FARGO』シリーズ4作に、遅まきながらはまっていた。ユーモアと残酷を取り混ぜながらの人間の愚かさ、可笑しさ、運命の皮肉などを抽き出してゆく脚本と演出は、昔から変わらぬコーエン兄弟の元気っぷりを見せてくれるが、中でも家族対家族というやくざ一家同士の対立を描くシーズン2と、人種の違いによる長年の二大やくざ組織の平和と対立を描くシーズン4は、それぞれが、ミネソタ州ファーゴ、ミズーリ州カンザスシティが舞台である。

     アメリカの中心とは決して言えない田舎町での殺し合いや絶滅を描くプロットが、実はロードアイランド州プロビデンスという田舎町を舞台にした本書とイメージで重なる。多くの共通点や違いを比べながら本書を『ファーゴ』ともども楽しむことができたのは幸運だったように思う。

     さて本書に集中しよう。手に汗握る展開、個性あふれる語り口、展開の妙、全体の構成、人間喜劇のような皮肉極まる展開、そして終わってみれば愚かな一握りのキャラクターによって引き起こされる大きな悲劇。累々と転がる屍のトレール。どちらも運命の皮肉を痛感させながら、かくも愚かなる闘争に巻き込まれてゆかざるを得ない業と欲にまみれた人間たちの悲劇。

     本書は、ウィンズロウがこれまで数限りなく描いてきた、愚かでありながら精いっぱい人生の海を漕いでゆこうと足掻いてゆく若者たちの姿を、再度、舞台を変え、時代を変え、生き生きと描く三部作の第一篇である。この一作だけでも一端完結しているが、巻末には次作のエピローグというサービス・ページが寄せられている。ここでやめられなくなる次なる地獄への手引きのようだ。

     これまでに巨大麻薬カルテルと執念の保安官の対決や、メキシコからの密入国者たちの運命などを大掛かりに取り混ぜて書いてきた感の強いウィンズロウだが、本書では一端既存の作品をリセットして、人生最後の作品と作者自ら豪語して書き始めた、いわゆる魂の三部作なのである。これまでの他シリーズを読んでいなくても、本書で改めてウィンズロウの作品の魅力、読みやすさ、不思議なその文章の引力、などを体験されることを望みたい。

     長年に渡って全作を読んできたこの天才作家の超愛読者のぼくとしては、最後の作品が、ロードアイランド州プロビデンスという、大都会でもメキシコ国境地帯でもない海の町を舞台にしているところが、一時書いていたブーン・ダニエルズ・シリーズや映画化もされている『野蛮な奴ら』みたいで新鮮であった。のっけからビーチで仲良く遊ぶアイルランド系とイタリア系の二大ファミリーの姿が登場。この辺りの描写がとても書きなれていて上手いのだ。しかしここで登場する二大ファミリーが運命の決裂によって如何に愚かな争いに巻き込まれてゆくかという、例によって時間軸でのスケールが大な物語である。

     人物たちの個性と、運命の歯車が回ってゆく様子を、巨大な人間絵図として見て頂きたい。ウィンズロウのラスト三部作は、何とギリシア神話を基にした人間悲喜劇の現代版=ウィンズロウ版だそうである。壮大な構想。本書だけでも満腹になる内容だが、これは三部作のまだアペリティフに過ぎない。嘘だろう、とそんな風に思わず呟きたくなるけれど、大いなる序章として、まずは十分に満足である。

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    2022年07月16日
  • ザ・ボーダー 下

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    ネタバレ

    主人公のケラー(麻薬取締局局長)がメキシコの麻薬撲滅のためにあらゆる手段を尽くす。ケラー自身がアダン・バレーラ(最大の麻薬カルテルの首領)殺害を告白したことで、最愛の妻マリーは離れていった。孤立無援の男は孤独を噛み締めながら、40年にも及んだ苦闘を振り返り、自問する。自分の周りでは何人も死んでいった。カルテルに関与することで殺害され、一般住民は薬物パンデミックで死亡する。これまでの麻薬対策によって何が変わったか?何も変わっていない。世界中の人々を苦しめる麻薬問題に大いなる一石を投じた本書の価値は高い。⑤↑

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    2022年07月05日
  • ザ・ボーダー 上

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    ネタバレ

    米国、メキシコ、グアテマラ、3か国を中心とした麻薬カルテル、密売、殺人。タイトルのボーダー(境界線)には色んな意味がある。麻薬の国境越え、人間が正常に保てるか、刑務所の外と内、生と死。メキシコの麻薬王アダン・バレーラの死によって麻薬戦争の終結をもたらすどころか、内部抗争が起こり混とんとする。それに巻き込まれる一般住民。壮絶な社会派ミステリーです。疲労感とともに人間の闇、麻薬の闇への疼痛を感じる。カルテルのボス・カーロ、麻薬取締官・ケラー、貧困少年・ニコ、どう関わってくるのか!後半の800ページが楽しみ。⑤

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    2022年06月30日
  • 業火の市

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    ドン・ウィンズロウ、これで絶筆って聞いて残念がってたけど本屋に行ってみればまさかの三部作!!
    これはどんどん分厚くなる予感!!
    一年おきくらいで出るのかな。
    待ち遠しいよ!!

    相変わらず主要な登場人物がバンバン死ぬのが非常にしびれますね!!
    パムは何かしら隠してるのかなと思ったけど単に美女なだけだったな笑

    さて続きはどうなるのやら。
    一気にイアンの話になったりして!!?

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    2022年06月12日
  • 業火の市

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    80年代のアメリカが舞台のギャング小説。アイルランド系マフィアの一員のダニー。冒頭はあまり不穏な空気もなくイタリア系マフィアともうまくやっているような日常が描かれているのだけれど、じわじわと緊張感が増していく。その感じが堪らない。そこから一線を越え報復がありまた復讐がありと止まらない。組織同士の抗争とその裏で起こるダニーの家族のこと。終盤は読んでいるのが苦しくなるほどの感情に襲われる。これが三部作の一作目ということでこの先が本当に楽しみなんだけど次作発売が一年後。

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    2022年06月05日
  • ザ・ボーダー 下

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    15年かけてこの3部作を読み終えた。
    終盤の公聴会での長い証言は40年以上に及ぶ麻薬戦争の歴史だ。
    最高傑作と言っていい。
    連続ドラマになったら必ず見たい。

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    2021年11月05日
  • ザ・ボーダー 上

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    ネタバレ

    面白い。最後の一章は本当に身につまされた。この闘いに終わりがあるのだろうか。
    ハーパーコリンズさん出来れば3巻にして紙質を少し良くして欲しかった。

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    2020年03月06日
  • ザ・ボーダー 下

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    犬の力から始まり「息子たち」世代の話になる麻薬戦争、三部作最後。
    このシリーズを読むとメキシコについて、麻薬戦争の現状について詳しく調べたくなる。
    少し調べただけでもこの小説に書かれていることは決して物語の中だけのことではないとわかる。
    ラストの見解についてはびっくり。

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    2020年01月11日
  • ザ・ボーダー 上

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    シリーズ3作目。読み応えがあり前作より読みやすく感じるが面白さは相変わらず。
    カランが出てきたあたりで三部作を最初からまた読み返したくなった。
    上巻最後に出てきたニコが今後どう関わっていくのか気になる。

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    2020年01月04日
  • ザ・ボーダー 下

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     小説に圧倒されるというのはどういうことを言うのだろう。かつてドストエフスキーやトルストイの大長編作品群にぼくは確実に圧倒された。加賀乙彦の『宣告』に圧倒された。五味川純平の『戦争と人間』全9巻に圧倒された。船戸与一の『猛き箱舟』に、高村薫の『マークスの山』に、ジェイムズ・エルロイのLA三部作『ブラックダリア』『LAコンフィデンシャル』『ホワイトジャズ』に圧倒された。劇画でいえば白戸三平の『カムイ伝』に圧倒された。手塚治虫の『火の鳥』に圧倒された。そういう圧倒的なパワーに打ち倒されるような感覚を失って久しい。敢えて言えばアンデシュ・ルースルンドの『熊と踊れ』二部作がその類いだったろうか。

     読者を圧倒する小説とは、壮大なスケール感を持つ骨太な物語でなければならない。阿修羅の如き悪と、神のごとき善とを内包する人間たちの運命のぶつかり合う軋みが聴こえるようなドラマでなければならない。壮大な構想で読者を牽引してくれる力がなければならない。それらすべての困難な条件をクリアして余りある作品が、ウィンズロウのライフワークと言ってもよい巨作が、実は本シリーズであり、完結作である本書だ。

     シリーズ第一作『犬の力』が<このミス一位>、第二作『ザ・カルテル』が<このミス二位>(ちなみにこの年は『熊と踊れ』が一位だった)、そして第三作であり完結編である本書がこの夏登場となった。圧倒と言うしかない分厚さと重さと物語性を引っ提げて。世の読書子が心の底から待ち望んでいたような小説として。

     メキシコ麻薬戦争をめぐる現代史を学ぶ機会はなかなかないだろう。このシリーズがなければ闇に葬られてたかもしれない暗黒の現実。コロンビア産の麻薬がメキシコを経由してアメリカ国境を渡るという単純な構図を見ると、生産利益、運搬利益、販売利益を目的とする反社会的な受益団体の存在が見えてくるはず。メキシコは運搬と販売を司る仲介利益に群がる組織間の戦場と化してしまう。一般人やジャーナリストの犠牲者を多く出した40年という長い暗黒史にメスを入れたのが、実はこのシリーズなのである。

     麻薬捜査官のアート・ケラー、麻薬王アダン・バレーラ。二人の対立構図を描いた大河小説とも言える前二作を受けて、本書では第二世代の組織による新たな暗闘が幕を開ける。『ザ・カルテル』ではメキシコ麻薬戦争で実際に犠牲者となったジャーナリストに作品は捧げられていたが、本書では麻薬カルテルによって葬られたバス一台分の無辜の学生たちの実名が挙げられ、作品は彼らに捧げられている。

     例えば2014年のケラーの嘆き。「メキシコではバスに乗った四十九人の学生が亡くなった。アメリカでは二万八千六百人がクスリで亡くなった。誰ひとり復活しない。おれにはやるべき仕事がやれていない」
     「二〇〇〇年から二〇〇六年までは、とオブライエンはケラーに説明する。ヘロインの過剰摂取による死亡者数は横ばいで、一年に約二千人だった。二〇〇七年から二〇一〇年までは、約三千人に増加した。それから急激に増え始め、二〇十一年には四千人、二〇一二年には六千人、二〇一三年には八千人になった。」
     「二〇〇四年から現在までに、イラクとアフガニスタンで失ったわが国の兵士の総数は七千二百二十二人だ」
     「同じ期間に、十万人以上のメキシコ人が麻薬戦争で殺され、二万二千人が行方不明になっています。ちなみにこれはひかえめな数字です」

     この数字の規模でシリーズは進んできたのだ。そしてケラーが取り組んできた長い麻薬との闘いの人生でもある。本書はその総括ともなる大作で、何と上下巻併せて千五百ページを軽く超える重量級のクライム小説である。凄い厚みと重みだが、それを読ませてしまう推進力こそが、ドン・ウィンズロウという作家の持ち味である。

     それぞれの章に登場する複数主人公が良い。潜入捜査官として苦闘するボビー・シレロ。ビリー・ザ・キッドの異名を持つ殺し屋ショーン・カラン。グアテマラからアメリカへの国境越えを図る少年ニコと少女フロルの運命。そしてメキシコのファミリーたちのそれぞれの狂気の個性。またも犠牲になるジャーナリストの悲惨。前作までの覇者と死者とその子供たち。刑期を終えて再登場する古き麻薬王たち。

     何よりも時代は変わり、ドナルド・トランプを思わせる新手の大統領がアメリカと現代とを掻き回す。麻薬戦争はメキシコからアメリカに移る。さらに過激に残酷になり地下に潜ってゆく薬物戦争に対峙するケラーの運命。

     多くの人間の運命を乗せた重機関車のように物語は疾走する。ケラーのラストの法廷での証言が彼の辿った四十年を振り返る。まさに現代の『戦争と平和』と言える本シリーズ。できれば一作目『犬の力』から辿って頂きたい。そして本作の持つ圧倒的な力に、是非とも魂まで揺さぶられて頂きたい。

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    2019年08月08日
  • ザ・ボーダー 上

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     小説に圧倒されるというのはどういうことを言うのだろう。かつてドストエフスキーやトルストイの大長編作品群にぼくは確実に圧倒された。加賀乙彦の『宣告』に圧倒された。五味川純平の『戦争と人間』全9巻に圧倒された。船戸与一の『猛き箱舟』に、高村薫の『マークスの山』に、ジェイムズ・エルロイのLA三部作『ブラックダリア』『LAコンフィデンシャル』『ホワイトジャズ』に圧倒された。劇画でいえば白戸三平の『カムイ伝』に圧倒された。手塚治虫の『火の鳥』に圧倒された。そういう圧倒的なパワーに打ち倒されるような感覚を失って久しい。敢えて言えばアンデシュ・ルースルンドの『熊と踊れ』二部作がその類いだったろうか。

     読者を圧倒する小説とは、壮大なスケール感を持つ骨太な物語でなければならない。阿修羅の如き悪と、神のごとき善とを内包する人間たちの運命のぶつかり合う軋みが聴こえるようなドラマでなければならない。壮大な構想で読者を牽引してくれる力がなければならない。それらすべての困難な条件をクリアして余りある作品が、ウィンズロウのライフワークと言ってもよい巨作が、実は本シリーズであり、完結作である本書だ。

     シリーズ第一作『犬の力』が<このミス一位>、第二作『ザ・カルテル』が<このミス二位>(ちなみにこの年は『熊と踊れ』が一位だった)、そして第三作であり完結編である本書がこの夏登場となった。圧倒と言うしかない分厚さと重さと物語性を引っ提げて。世の読書子が心の底から待ち望んでいたような小説として。

     メキシコ麻薬戦争をめぐる現代史を学ぶ機会はなかなかないだろう。このシリーズがなければ闇に葬られてたかもしれない暗黒の現実。コロンビア産の麻薬がメキシコを経由してアメリカ国境を渡るという単純な構図を見ると、生産利益、運搬利益、販売利益を目的とする反社会的な受益団体の存在が見えてくるはず。メキシコは運搬と販売を司る仲介利益に群がる組織間の戦場と化してしまう。一般人やジャーナリストの犠牲者を多く出した40年という長い暗黒史にメスを入れたのが、実はこのシリーズなのである。

     麻薬捜査官のアート・ケラー、麻薬王アダン・バレーラ。二人の対立構図を描いた大河小説とも言える前二作を受けて、本書では第二世代の組織による新たな暗闘が幕を開ける。『ザ・カルテル』ではメキシコ麻薬戦争で実際に犠牲者となったジャーナリストに作品は捧げられていたが、本書では麻薬カルテルによって葬られたバス一台分の無辜の学生たちの実名が挙げられ、作品は彼らに捧げられている。

     例えば2014年のケラーの嘆き。「メキシコではバスに乗った四十九人の学生が亡くなった。アメリカでは二万八千六百人がクスリで亡くなった。誰ひとり復活しない。おれにはやるべき仕事がやれていない」
     「二〇〇〇年から二〇〇六年までは、とオブライエンはケラーに説明する。ヘロインの過剰摂取による死亡者数は横ばいで、一年に約二千人だった。二〇〇七年から二〇一〇年までは、約三千人に増加した。それから急激に増え始め、二〇十一年には四千人、二〇一二年には六千人、二〇一三年には八千人になった。」
     「二〇〇四年から現在までに、イラクとアフガニスタンで失ったわが国の兵士の総数は七千二百二十二人だ」
     「同じ期間に、十万人以上のメキシコ人が麻薬戦争で殺され、二万二千人が行方不明になっています。ちなみにこれはひかえめな数字です」

     この数字の規模でシリーズは進んできたのだ。そしてケラーが取り組んできた長い麻薬との闘いの人生でもある。本書はその総括ともなる大作で、何と上下巻併せて千五百ページを軽く超える重量級のクライム小説である。凄い厚みと重みだが、それを読ませてしまう推進力こそが、ドン・ウィンズロウという作家の持ち味である。

     それぞれの章に登場する複数主人公が良い。潜入捜査官として苦闘するボビー・シレロ。ビリー・ザ・キッドの異名を持つ殺し屋ショーン・カラン。グアテマラからアメリカへの国境越えを図る少年ニコと少女フロルの運命。そしてメキシコのファミリーたちのそれぞれの狂気の個性。またも犠牲になるジャーナリストの悲惨。前作までの覇者と死者とその子供たち。刑期を終えて再登場する古き麻薬王たち。

     何よりも時代は変わり、ドナルド・トランプを思わせる新手の大統領がアメリカと現代とを掻き回す。麻薬戦争はメキシコからアメリカに移る。さらに過激に残酷になり地下に潜ってゆく薬物戦争に対峙するケラーの運命。

     多くの人間の運命を乗せた重機関車のように物語は疾走する。ケラーのラストの法廷での証言が彼の辿った四十年を振り返る。まさに現代の『戦争と平和』と言える本シリーズ。できれば一作目『犬の力』から辿って頂きたい。そして本作の持つ圧倒的な力に、是非とも魂まで揺さぶられて頂きたい。

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    2019年08月08日
  • ザ・ボーダー 下

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    『犬の力』、『ザ・カルテル』の続編。前2作と比べて激しい戦闘シーンが少なめの上巻。それでも駆け引きや計画を練るところなんかは緊張感がある。麻薬戦争の終わりが見えないアート・ケラーの日々。現場に戻りカルテルを潰そうとする計画。今作も群像劇でたくさんの人たちのことが語られる。それぞれの思惑、欲がよりわかる。静かななかにも張り詰めたものがあり徐々に膨れ上がっていく。そして下巻に入り物語は加速していく。麻薬を通してアメリカの暗部がこれでもかと描かれ権力のために麻薬を利用し金を得ようとする。ケラー対アメリカのような構図。一人の人間が麻薬に溺れていくさま、悪に染まっていくさまには絶望を感じる。ラスト近くにあるケラーの語りは著者の声のようにも思えトランプ大統領への批判とアメリカへの想いが強く込められている。終わりの見えない麻薬戦争と今作で完結したケラーの物語。残酷な暴力に支配されたなかにある未来を見据える目があったことが救いになっている。本当に面白い作品だし圧倒されっぱなしの3部作でした。

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    2019年08月01日
  • ダ・フォース 上

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    圧倒的な迫力の警察小説だ。あくまで現場にこだわり、汚辱にまみれながらも理想を目指す主人公デニー・マローンの生きざまは強烈だ。

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    2019年05月12日
  • ダ・フォース 下

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    重厚が半端ない上巻に比べ下巻は、マローンの進退がきになってほぼ一気読み。
    ニュヨークを愛し警官という仕事を愛し、一緒に働く仲間を家族を愛している、悪徳ヒーロー警官マローン。
    綺麗事では済まさせない腐敗しきった現実を生き抜く汚職警官マローン。巷には正義など何処にも無く、誰もが権力や富を欲しがり、そして悪に落ち犯罪に手を染める。それでも…人種差別、ドラック、銃、ドアの向こうには死が待っているかもしれない町で、身体を張り住民を守る警察官一人一人への敬意が感じられる。

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    2019年01月02日
  • ダ・フォース 下

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    ネタバレ

    汚職警官の自滅していく過程かと思いきや……最後まで目が離せなくなりました。
    汚れながらも街を守る警察官への敬意が、この作品を単なるクライムノヴェルでない、奥の深いものにしています。
    もう、圧巻と言うしかない警察小説です。

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    2018年12月08日
  • ダ・フォース 下

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    汚れた刑事の落ち着く先は、一つですね。

    汚れきったとは言えども、どこかに刑事と言う意識はあるし、かといって、以前の様な汚れていない刑事でもなく見方も居ない。結果については、因果応報と言う言葉だけで語るのも、面白くない気がします。

    いやぁ、それでも、汚れた警官って、西部劇の話かと思っていましたが、今でも小説になるほど居るのか・・・。って言うか、日本でもいるかもしれないので、あまり他人の事は言えないか。

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    2018年08月05日
  • ダ・フォース 下

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    仲間を売ったネズミにまで堕ちたニューヨーク市警特捜部「ダ・フォース」のマローン刑事部長。ダーティなお巡りがどこまで堕ちていくのか、人は自分のためにどこまで他人を犠牲にできるのかが問われているかのようだ。

    最初はマローンの意志だったかもしれない、それがいつの間にか自分では制御できなくなるまで深刻になる。悪いことはできないなあと思う反面、現場では綺麗事だけですまないことも事実。それは自分達の身の回りで起こっていることからも分かるだろう。マーロンは最終的に正義を貫いたと思う。彼なりの正義だけれども。

    クライマックスは、そのまま映画の脚本になりそうで、カット割りやBGMまで聞こえそうなくらい芸術的だった。

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    2018年07月18日
  • ダ・フォース 上

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    ニューヨーク市警特捜部のマローン部長刑事。NYの治安を守るために日々の仕事に邁進する。全体的には正義のヒーローなのだが、その裏では事件現場の麻薬や現金を盗んだり、マフィアとつながっていたり、悪いこともしている。それが当然であるかのように...。

    そんなマローンが罠に嵌められる。上巻は罠に嵌まったマローンが、ダークサイドの入口まで堕ちていくところまで。大きな犯罪を取り締まるための小さな犯罪は見逃してもいいのかといった倫理的なものを読者にも考えさせられる。単純に主人公のマローンに共感してよいのか迷いながら下巻に続く。

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    2018年07月17日
  • ダ・フォース 下

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    ネタバレ

    自業自得と言ってしまえばそうなのだけれど、それだけではない物語がここにはある。ニューヨークという街を守るために現場に出て活動する刑事たちの危険で命がけの毎日。失望、裏切り、怒り。その全てが降りかかった時のマローンの感情には圧倒され、自業自得とは思いつつ悲しくなり胸が詰まる。司法の腐敗への怒り。そして仲間、家族との別れ。命がけで街を市民を守ってきた男の誇り。何もかも失った男の叫び。圧巻の物語。

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    2018年04月12日