ドン・ウィンズロウのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
平置きされているこの文庫本を手に取ると、どの本よりも厚い感触に、まず手が驚く。765ページだ。『犬の力』、『ザ・カルテル』に続くこの3部作は、ボリュームだけでも作者の執念を感じる。
主人公は今や麻薬取締局DEAの局長になっており、上巻では彼の直接的な活躍より、麻薬を取り巻く周辺(すなわち主人公の人生なのだが)の人物を描いていく。
麻薬カルテルの首領の首をすげ変えてもすぐに次の顔が現れるように、麻薬の売人から中毒者まで、次から次へと登場人物に不足はしない。また、登場人物にトランプ大統領のモデルが登場するように、この物語は現実社会に基づいている。作者の執念はジャーナリズムに根差していると強 -
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終わった。膨大な3部作。ここに書かれていたのはメキシコの麻薬の歴史であり、アメリカの麻薬の歴史でもある。
アメリカが買い続ける限り、メキシコのマフィアが儲かる。
取締を強化すれば、価格が高騰して結局マフィアが儲かる。
儲かるからマフィアはもっと儲けようとする。
効率良く運べるように、もっと効き目の強い常習性の高い製品を開発する。
設けは膨大でマフィアの規模は大きくなる。
また、取締を強化する。
ずっとそれの繰り返し。いたちごっこ。
善と悪のボーダー、アメリカとメキシコのボーダー、主人公ケラーはそのボーダーのどちら側にも存在することで物語はついに完結する。
この上下巻で、トリステーサの -
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ネタバレケラーの戦争が終わった。
最後は合衆国大統領まで敵に回し、孤独になり、そして独白して終わる。
良い小説を読むと、読後も予熱みたいなものが続くが、読み終わって一週間以上経つというのに、その熱が冷めない。
正義とは何か?
常にその問いを突きつけられているような気がしてならない。
ケラーのように自らの正義を貫き通すことができるのか。
それとも生きるため、正義に目をつぶるのか。
人は人の弱みにつけ込み、ビジネスは弱い人を飲み込んでいく。
現実はケラーのようには生きられない。
命が大事だし、生きていくことに精一杯だからだ。
だからケラーの生き方が物語になる。
ラスト、ケラーに安息の地を用意し -
Posted by ブクログ
まぁ、一応、“正義は勝った”感じにはなりますが、スカッとスッキリという感じでも無いですねぇ。最終的に、アート・ケラーは、自爆したわけでもありますから。
劇中に出てくる、大統領がなんとも・・・。かの大統領にも、様々な疑惑があるので、この作品で描かれている事も、途中まで「マジか・・・」と思っていました。モチーフ的には、ロシア疑惑だったみたいですが、これも無い事でも無いかな。
『ザ・ボーダー』と言うタイトルですが、色んな意味がありますね。文字通りのボーダーであり、アート・ケラーのやっている事だったり、彼の立っている立場であったり。
上巻は中々読みにくかったのですが、下巻に入ると面白くて一気に読 -
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『犬の力』は麻薬カルテルが第一世代から第二世代に引き継がれるまで。『ザ・カルテル』はその後日談で、前作のような二項対立ではなく、闘争劇を掘り下げる。そして完結編となる本作品は、第三世代が主役となる話ではあるが、領土の奪い合いに終始するわけではなく、第一世代と第三世代の対立の構図が重要な意味を持つ。そこに闘いを挑むケラーはついにDEA長官となり、その権力をフルに発揮し、自己否定ともとれる大胆な作戦でアメリカ側からカルテルを追いつめていく。
ストーリーは、メキシコ側とアメリカ側に分かれ、場面展開を繰り返しながら並走していく。ケラーが長官になったことで、政治的色合いの濃い完結編となったが、熾烈な -
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ネタバレ等身大の登場人物たちが、正義の境界線を徐々に超え、戻れなくなる。
俺たちはやってる。平和に貢献している。
毎日命を張り、悪いやつらを刑務所に送り込んでいる。
だから、多少のことは、少しぐらいの小遣い稼ぎぐらいはいいだろう。
家族のためだから。
一線を超えると次は正義ではなく家族のためになる。
そして元に戻れなくなり、何でもやるようになる。
本来であれば正義のために行わなければならない行為も。。
警官としてかっこよく生きたかったのに。
正義のために命を張っているからこそ超えてしまう境界線。
主人公デニーを通し人の弱さと正義について叙事詩のように歌い上げるウィンズロウの手腕に脱帽。