ドン・ウィンズロウのレビュー一覧
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ネタバレ”ネズミ”となり追い込まれて行く、主人公。
ここから冒頭の牢屋のシーンに辿り着くのかと思いきや、話はドンドン加速していく。
”汚れた”代償として次々に命を狙われ、利用される主人公が周り全てを巻き込みながら疾走する熱いドラマは圧巻で、下巻は一気に読み終わる迫力だった。
が、やはりいくら主人公の論理では正義であっても、既に一線を何歩も超えた正義は肯定できず、それが読後感に響いている。
しかし、ドン・ウィンズロウの筆力は衰えるどころかますます熱くなってくる。「カルテル」以降、「報復」「失踪」と少し軽めだったがここに来て本領発揮。
しかも「カルテル」の続編もあるらしい!
何より、リドリー・スコットで「犬の力」「カルテル」が映画化もあるらしい。楽しみ!
(マイケル・マンで撮って欲しかった気もするが)
今作も映画にすれば、優秀な監督であれば相当な傑作になりそう。このジャンルでは「セルピコ」や「プリンス・オブ・シティ」などもあるしね。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ待ちに待ったドン・ウィンズロウの新作。
しかも上下2巻の厚さ。
今回は汚職刑事が主人公で、汚職故に留置されているところから物語が始まる。
・・・という事で、ここからいつもの作品と違う。
正義を実行するための手段として”汚職”という世界に足を踏み入れた、という訳だけでもないし、ひたすら主人公の言い訳めいたモノローグが多く、今一つキャラに共感できない。
しかも、まるでニューヨーク賛歌でもあるがごとく、街の裏表を含めた様々なエピソード紹介が多い。確かに興味深く読めるエピソードは多いし、作者の博識ぶりはよくわかるが、その分、物語のリズムがそがれ、名作「犬の力」や「カルテル」のような物語のダークな疾走感がない。
”転落”が始まるであろう後半に期待。 -
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いやもうすさまじい。「ストリートキッズ」のリリカルな世界から遠く離れて、これは「犬の力」をしのぐ血と暴力にまみれた物語だ。
元デルタフォース隊員の主人公デイブは、飛行機事故で妻子を失う。それはイスラム過激派によるテロだったのだが、政府により隠蔽され「事故」とされる。そのことを知ったデイブは「世界最強の傭兵チーム」とともに、自らの手で報復する決意をする。
と、こういう紹介を読んで、これって政治的な陰謀がどうとか利権がどうとか、そういう話なのか(あんまり好きじゃない)とちょっと思っていたのだけど、いやそっち方面にはまったく行かない。ほぼ全篇、デイブと仲間たちが、テロリストを追い標的を追い詰めて行く過程が、ウィンズロウの圧倒的筆力で、これでもかとばかりに真に迫って描かれる。
いや実に「迫真」とはこういうことかと何遍も思った。冒頭、ミサイルに撃墜され墜落する飛行機内の様子なんかリアルすぎて、そうかエンジンが爆発したら乗客はこんな風に死ぬのか、ああ当分飛行機乗れないよ~と震え上がった。ミリタリー関係はとんと疎いので、微に入り細をうがって描写される武器のスペックがどれほどのものなのかほとんどわからないが、「本物」の持つパワーが放射されていてねじ伏せられてしまう。
短くたたみかけていくような展開で、冗長さは皆無。ダイハードなデイブの内心の苦悩や、傭兵チームのメンバーそれぞれの背景なども、くどくど語られないのに、きっちり伝わってくる。やはりウィンズロウは当代きっての書き手の一人だ。
まったくすごい。すごいのだが…、「犬の力」のように手放しで「いやあおもしろかったー」とは言えない読後感が残る。「犬の力」では、闘う相手は麻薬マフィア=絶対悪であった。ここではイスラム過激派。イスラム=敵、という図式にそう簡単に乗る気にはなれない。対イスラムという形は「わかりやすい」。エンターテインメント小説では大事なことなんだろうとは思うが、そこにどうしても引っかかりを感じてしまうのだ。
もちろん、ウィンズロウなのだからして、そんな安っぽい単純な描き方はしていない。テロリストたちは信仰を捨てた者であり、テロ行為はなによりも私利私欲を満たすビジネスであると明示されている。傭兵チームの一人アミールはパレスチナ人のムスリムで、彼がここにいる理由も説得力を持って語られる(このアミールがデイブよりも同情を誘うかも)。アメリカ政府は、都合が悪ければ、国のために闘った兵士たちを躊躇なく泥沼に追い落とすようなことをする存在として描かれる。
ここでは、テロの首謀者を殲滅することは、デイブ個人の復讐だ。当然ながら、復讐を成し遂げても妻子が戻るわけではない。それがわかっていてなお、死地へと駆り立てられていくデイブの姿を、作者は時に突き放したように描く。死や暴力や危険は、一面ひどく魅力的で、人を惹きつけてやまないが、それはどこにも行き着かない。アメリカ人の好きなヒーローも、今やひどく孤独なものだなあと思う。 -
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ネタバレダニーの人生は終わった。
もっと過酷な運命が待ち受けていると思ったが、最後は以外にも平穏な日々が待っていた。
ロードアイランドで生まれ、逃亡し、西海岸で一旗上げて、ラスヴェガスで成功する。
しかし、欲望と憶測とちょっとした偶然で抗争が始まる。
最後、ダニーはラスヴェガスの利権を手放し、命をかけて復讐する。
ダニーの物語は何だったんだろうか。
アメリカの暗部をさらけ出し、移民、人種に通じた血を血で争う抗争を描きたかったのか。
今までの作者の犯罪小説に比べたら、ライトでカジュアルだ。
映画を見るようなスタイリッシュでクールな感じもする。
作家として最後の最後まで、作品ごとのスタイルを模索した結果だったのかもしれない。
これで、作者は筆を置く。
残念でならない。 -
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「悪の勝利に必要なのはただ……善人が何もしないことだ」(トルストイ『戦争と平和』)
9.11とアル・カイーダ殲滅作戦のあとのアメリカに、旅客機が落ちる。
テロであることをひたすら隠そうとする政府に対し、家族を失った元特殊戦闘員がプロの傭兵集団を使って独自にテロ組織を追い詰める。
ウィンズロウには珍しく、王道の冒険小説だ。
『ナヴァロンの要塞』など、個性的なメンバーを率いた戦闘物は、既にたくさんの作者に書かれている。
それでも、
「貪るように」、ドン・ウィンズロウの本を読む感覚は変わらない。
やはり、「アベンジャーズ的」なものは考えて読んではいけない。
これまでも、この後も、さまざまな小説を繰り出す、ウィンズロウの物語たちのことは、巻末にある杉江松恋氏の解説で良くわかる。
色々楽しませてくれる、やはりお気に入りの作家です。 -
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ネタバレロードアイランドから逃げてきたライアンたちが、カリフォルニアで人生を立て直す。
しかし、簡単にはいかない。
そこでスーパーウーマンであるダニーのママが一発逆転のお膳立てをする。
原題は “City of dreams” 。ハリウッド進出まで果たしてしまうダニーたちに、いささか出来すぎた感は否めないが、そこは一作目とは対象的なダニーを描くことによってファミリーのリーダーとしての成長を描く。
3作目はまた抗争劇に戻るのだろうか。
今作でもダニーは人を殺さない。仲間から非難を浴びようが殺さない。なるべく。
そして母は強い。ダニーの安全弁にもなっている。
この2点が崩れることによってダニーに本当の危機が迫り、ラストへ向かっていくのではないか。 -
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現在も深刻な麻薬問題を抱える米国の実態を凄まじい暴力の中に描いた一大叙事詩「犬の力」(2005)/「ザ・カルテル」(2015)/「ザ・ボーダー」(2019)。作家人生の集大成ともいうべき、この渾身の三部作によって、ウィンズロウは紛れもなく頂点に達した。アクチュアルでラディカル。麻薬に関わる者は全て死する運命にあるという暗鬱なる黙示録。現在進行形の鋭利な文体を駆使して生々しい諸悪を抉り出した現代ノワールの境地。どの作品もページを捲る手が白い粉と紅い血に染まっていくような錯覚に陥ったほどだ。現時点での最終作「ザ・ボーダー」に取り掛かる前に構想した本作は、馴染みの〝ウインズロウ節〟が炸裂する犯罪小説の延長線上にあるが、根幹に麻薬戦争を置いており、三部作を補完する作品といっていい。
「ダ・フォース」では、米国/麻薬取締局(DEA)とメキシコ/カルテルは登場しない。フォーマットは悪徳警官物だ。舞台はニューヨーク。物語は、ここから一歩も離れることはない。それだけに分厚い。富裕/貧困という歴然とした格差社会保持の潤滑油としても機能/蔓延する麻薬。吹き荒れる暴力の嵐。ウィンズロウは、通り名や店名などの固有名詞を執拗に列挙してリアリティを高め、汚れた街に生きる者どもの生態を克明に描写する。
主人公はNY市警マンハッタン・ノース特捜部(通称〝ダ・フォース〟)部長刑事デニス・マローン。叩き上げの刑事で、荒々しく狡猾。不条理な犯罪を憎みつつも、男を突き動かすのは、徹底して打算的なエゴイズムだ。そのために小さな綻びから破滅を招くこととなる。マローンは、冒頭で既に何もかも失った男として姿を現す。つまり長大な本篇は、男がいかにして転落の道を辿ったのかという記録なのである。
この街を浄化したいというマローンの理想/清廉さは、ニューヨーク最下層の現実を前に脆くも崩れ去り、体内から腐り切る利己主義へと変転する。焦燥と居直り。私利私欲を貪り、掴んだ権力を過信した果てに堕ちてゆく泥沼。すべては偽善と虚構であった、とマローンが気付く時には、何もかもが手遅れになっている。
本作で特に印象に残るのは、独善的な正義と悪を主人公と共有し、常に行動を共にする「マローン班」各々の関わり方だ。そこには仲間意識よりも、おれたちの縄張り/特権を守るためには不正/暴力を辞さないという閉鎖的で排他的な帰属意識がある。平然と大物麻薬ディーラーを殺し、莫大なカネに代わるヘロインを掠め取り、懐に捩り込む。共犯関係にあるマローン一味は、限界を超えた傲慢に起因する事件を機に崩壊し、強固であったはずの信頼/愛情から、不信/裏切りへと急転直下し、互いを憎悪する最悪の結果へと至る。己の命を捨ててでも〝友〟を守り抜くと誓った男たち。マローンは、それが幻想に過ぎなかったことを、追い詰められ、易々と国家権力に屈する己の甘さを前に痛感するのである。終盤で延々と続く羞恥心の吐露。アンチ・ヒーローの末路は憐れではあるが、敢えて読み手の共感を拒むが如く、作者は主人公を突き放し、正義と悪に境界など無いことを示唆して、物語を断ち切る。
快楽に通じる歪んだ自愛こそが人生の麻薬である。ウインズロウの達観は、さらに深まっている。 -
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ダーティーな刑事が、裏切者の枠の中でもがき踏み止まろうとするストーリー。ミステリ要素はほとんどない。彼らは汚職で手にした金で贅沢するのではなく、子供たちをいい大学に通わせるための資金にしようとするなど、あくまで目的は現実的。少し前に見た海外ドラマ『シェイズ・オブ・ブルー』を連想してしまう。下巻に入った辺りから徐々に歯車が動き出す。
そこで描かれるのは、腐敗の底なし沼と圧倒的なリアリズム。マローンが目指すところは、ニューヨークの犯罪組織を根こそぎ撲滅することではなく、犯罪組織を管理し現状を維持すること。このスタンスに現場の警察官のハードさがよく表れているように、作者の刑事に対する共感や敬意が本作品の根底にある。巻頭に列挙された殉職警察官のリストは印象的。
帯には”犬の力 ザ・カルテル すべてはこの作品のプロローグに過ぎなかった!”とあるが、それは過大評価。スケール、熱量、どれをとっても二作品の方が上回っている。マローンのキャラにしても途中から「刑事の王」に見えなくなってきたし、ツッコミたくなるシーンもちらほらあったかな。
ジャンルとしてはノワールでしょう。これを「警察小説」とすると、汚職刑事を肯定するようでイヤなので、個人的には犯罪小説として読んでほしいです。 -
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こういうのを力業って言うんだろうなあ。主人公は、賄賂を贈り受け取り、押収薬物をかすめ取り、私刑をためらわずに殺人まで犯す悪徳警官。おまけにこいつは街の「キング」を自認する、ヒーロー気取りが鼻について仕方がないヤツなのだ。まあウインズロウなので、お話は面白く、上巻は我慢してつきあってやるかという気持ちだったのだが、あーら不思議、下巻の途中からはいつのまにか、このマローンに肩入れしてハラハラしながら読んでいるではないか。
およそ共感を呼ぶタイプとは言えないこういう主人公を造型し、最終的には感動的なラストへ持って行くというこの離れ業。ウインズロウの凄さをあらためて見せつけられた気がした。むせかえるような熱気がページから立ちのぼり、特に終盤の迫力は圧倒的だ。「本の雑誌」の新刊ガイドで「あまりのかっこよさに身もだえ必至の血みどろ外道ポリス・アクション・ノワールの傑作」と紹介されているが、確かにそうだろうと思う。
しかし、これを「かっこいい」と言い切るのは、私は抵抗がある。読みながらまるでヤクザやマフィアものみたいだなあと思ったが、それらと決定的に違うのは、マローンが権力の側にいることだ。現場はもとより、警察上層部や行政幹部、果ては司法に携わる者にまで深く腐敗ははびこり、何が正義かわからない混沌とした状況の中、自分の体を張って少しでも害悪を取り除こうとしたマローンの生き方には心を揺さぶられるものがある。それでも、悪には悪で対抗するという姿勢を肯定してしまってはいけないんじゃないか。
もちろんウインズロウは単純な暴力礼賛を書いているのではなくて(当然だけど)、どうしようもなくそこに向かって一歩一歩進んで行ってしまう、人間の苦悩を描いている。そこに人を惹きつける力があると思う。それでもやはり私は、同じ米国警察小説で言えば、コナリーの書くボッシュが好きだ。1対1の状況でシリアルキラーを追い詰めながら、ボッシュは引き金をひけなかった。そいつが当然償うべき罪から逃れるかもしれないとわかっていたのに。そのことで苦しみつつ、「自分が戦う相手と同じものになる」ことを拒む姿を断固支持するのだ。