ドン・ウィンズロウのレビュー一覧
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ネタバレケラーの戦争が終わった。
最後は合衆国大統領まで敵に回し、孤独になり、そして独白して終わる。
良い小説を読むと、読後も予熱みたいなものが続くが、読み終わって一週間以上経つというのに、その熱が冷めない。
正義とは何か?
常にその問いを突きつけられているような気がしてならない。
ケラーのように自らの正義を貫き通すことができるのか。
それとも生きるため、正義に目をつぶるのか。
人は人の弱みにつけ込み、ビジネスは弱い人を飲み込んでいく。
現実はケラーのようには生きられない。
命が大事だし、生きていくことに精一杯だからだ。
だからケラーの生き方が物語になる。
ラスト、ケラーに安息の地を用意したのは、作者のささやかなプレゼントのように思えた。 -
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まぁ、一応、“正義は勝った”感じにはなりますが、スカッとスッキリという感じでも無いですねぇ。最終的に、アート・ケラーは、自爆したわけでもありますから。
劇中に出てくる、大統領がなんとも・・・。かの大統領にも、様々な疑惑があるので、この作品で描かれている事も、途中まで「マジか・・・」と思っていました。モチーフ的には、ロシア疑惑だったみたいですが、これも無い事でも無いかな。
『ザ・ボーダー』と言うタイトルですが、色んな意味がありますね。文字通りのボーダーであり、アート・ケラーのやっている事だったり、彼の立っている立場であったり。
上巻は中々読みにくかったのですが、下巻に入ると面白くて一気に読み進んでしまいました。 -
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『犬の力』は麻薬カルテルが第一世代から第二世代に引き継がれるまで。『ザ・カルテル』はその後日談で、前作のような二項対立ではなく、闘争劇を掘り下げる。そして完結編となる本作品は、第三世代が主役となる話ではあるが、領土の奪い合いに終始するわけではなく、第一世代と第三世代の対立の構図が重要な意味を持つ。そこに闘いを挑むケラーはついにDEA長官となり、その権力をフルに発揮し、自己否定ともとれる大胆な作戦でアメリカ側からカルテルを追いつめていく。
ストーリーは、メキシコ側とアメリカ側に分かれ、場面展開を繰り返しながら並走していく。ケラーが長官になったことで、政治的色合いの濃い完結編となったが、熾烈な跡目争いとなるメキシコパートの熱量は流石と言うべきか。また、前作以上に多くの人物が登場し、ケラーと犯罪組織の闘いの合間に、麻薬戦争の犠牲となったジャンキーや少年ギャングのドラマが描かれるのが印象的でもある。
濃密で重厚で壮大な物語には間違いないのだが、この完結編は作者の主張がやや強すぎた感もある。ケラーがウィンズロウのスポークスマンのように見えるシーンも少なからずあり、そこが余計でもあり残念でもあった。読後、いろいろと考えさせられた。怒りと虚しさの長い長い物語──ウィンズロウ、ありがとう。 -
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ネタバレ等身大の登場人物たちが、正義の境界線を徐々に超え、戻れなくなる。
俺たちはやってる。平和に貢献している。
毎日命を張り、悪いやつらを刑務所に送り込んでいる。
だから、多少のことは、少しぐらいの小遣い稼ぎぐらいはいいだろう。
家族のためだから。
一線を超えると次は正義ではなく家族のためになる。
そして元に戻れなくなり、何でもやるようになる。
本来であれば正義のために行わなければならない行為も。。
警官としてかっこよく生きたかったのに。
正義のために命を張っているからこそ超えてしまう境界線。
主人公デニーを通し人の弱さと正義について叙事詩のように歌い上げるウィンズロウの手腕に脱帽。 -
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ネタバレ”ネズミ”となり追い込まれて行く、主人公。
ここから冒頭の牢屋のシーンに辿り着くのかと思いきや、話はドンドン加速していく。
”汚れた”代償として次々に命を狙われ、利用される主人公が周り全てを巻き込みながら疾走する熱いドラマは圧巻で、下巻は一気に読み終わる迫力だった。
が、やはりいくら主人公の論理では正義であっても、既に一線を何歩も超えた正義は肯定できず、それが読後感に響いている。
しかし、ドン・ウィンズロウの筆力は衰えるどころかますます熱くなってくる。「カルテル」以降、「報復」「失踪」と少し軽めだったがここに来て本領発揮。
しかも「カルテル」の続編もあるらしい!
何より、リドリー・スコットで「犬の力」「カルテル」が映画化もあるらしい。楽しみ!
(マイケル・マンで撮って欲しかった気もするが)
今作も映画にすれば、優秀な監督であれば相当な傑作になりそう。このジャンルでは「セルピコ」や「プリンス・オブ・シティ」などもあるしね。 -
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ネタバレ待ちに待ったドン・ウィンズロウの新作。
しかも上下2巻の厚さ。
今回は汚職刑事が主人公で、汚職故に留置されているところから物語が始まる。
・・・という事で、ここからいつもの作品と違う。
正義を実行するための手段として”汚職”という世界に足を踏み入れた、という訳だけでもないし、ひたすら主人公の言い訳めいたモノローグが多く、今一つキャラに共感できない。
しかも、まるでニューヨーク賛歌でもあるがごとく、街の裏表を含めた様々なエピソード紹介が多い。確かに興味深く読めるエピソードは多いし、作者の博識ぶりはよくわかるが、その分、物語のリズムがそがれ、名作「犬の力」や「カルテル」のような物語のダークな疾走感がない。
”転落”が始まるであろう後半に期待。 -
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いやもうすさまじい。「ストリートキッズ」のリリカルな世界から遠く離れて、これは「犬の力」をしのぐ血と暴力にまみれた物語だ。
元デルタフォース隊員の主人公デイブは、飛行機事故で妻子を失う。それはイスラム過激派によるテロだったのだが、政府により隠蔽され「事故」とされる。そのことを知ったデイブは「世界最強の傭兵チーム」とともに、自らの手で報復する決意をする。
と、こういう紹介を読んで、これって政治的な陰謀がどうとか利権がどうとか、そういう話なのか(あんまり好きじゃない)とちょっと思っていたのだけど、いやそっち方面にはまったく行かない。ほぼ全篇、デイブと仲間たちが、テロリストを追い標的を追い詰めて行く過程が、ウィンズロウの圧倒的筆力で、これでもかとばかりに真に迫って描かれる。
いや実に「迫真」とはこういうことかと何遍も思った。冒頭、ミサイルに撃墜され墜落する飛行機内の様子なんかリアルすぎて、そうかエンジンが爆発したら乗客はこんな風に死ぬのか、ああ当分飛行機乗れないよ~と震え上がった。ミリタリー関係はとんと疎いので、微に入り細をうがって描写される武器のスペックがどれほどのものなのかほとんどわからないが、「本物」の持つパワーが放射されていてねじ伏せられてしまう。
短くたたみかけていくような展開で、冗長さは皆無。ダイハードなデイブの内心の苦悩や、傭兵チームのメンバーそれぞれの背景なども、くどくど語られないのに、きっちり伝わってくる。やはりウィンズロウは当代きっての書き手の一人だ。
まったくすごい。すごいのだが…、「犬の力」のように手放しで「いやあおもしろかったー」とは言えない読後感が残る。「犬の力」では、闘う相手は麻薬マフィア=絶対悪であった。ここではイスラム過激派。イスラム=敵、という図式にそう簡単に乗る気にはなれない。対イスラムという形は「わかりやすい」。エンターテインメント小説では大事なことなんだろうとは思うが、そこにどうしても引っかかりを感じてしまうのだ。
もちろん、ウィンズロウなのだからして、そんな安っぽい単純な描き方はしていない。テロリストたちは信仰を捨てた者であり、テロ行為はなによりも私利私欲を満たすビジネスであると明示されている。傭兵チームの一人アミールはパレスチナ人のムスリムで、彼がここにいる理由も説得力を持って語られる(このアミールがデイブよりも同情を誘うかも)。アメリカ政府は、都合が悪ければ、国のために闘った兵士たちを躊躇なく泥沼に追い落とすようなことをする存在として描かれる。
ここでは、テロの首謀者を殲滅することは、デイブ個人の復讐だ。当然ながら、復讐を成し遂げても妻子が戻るわけではない。それがわかっていてなお、死地へと駆り立てられていくデイブの姿を、作者は時に突き放したように描く。死や暴力や危険は、一面ひどく魅力的で、人を惹きつけてやまないが、それはどこにも行き着かない。アメリカ人の好きなヒーローも、今やひどく孤独なものだなあと思う。 -
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ネタバレダニーの人生は終わった。
もっと過酷な運命が待ち受けていると思ったが、最後は以外にも平穏な日々が待っていた。
ロードアイランドで生まれ、逃亡し、西海岸で一旗上げて、ラスヴェガスで成功する。
しかし、欲望と憶測とちょっとした偶然で抗争が始まる。
最後、ダニーはラスヴェガスの利権を手放し、命をかけて復讐する。
ダニーの物語は何だったんだろうか。
アメリカの暗部をさらけ出し、移民、人種に通じた血を血で争う抗争を描きたかったのか。
今までの作者の犯罪小説に比べたら、ライトでカジュアルだ。
映画を見るようなスタイリッシュでクールな感じもする。
作家として最後の最後まで、作品ごとのスタイルを模索した結果だったのかもしれない。
これで、作者は筆を置く。
残念でならない。 -
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「悪の勝利に必要なのはただ……善人が何もしないことだ」(トルストイ『戦争と平和』)
9.11とアル・カイーダ殲滅作戦のあとのアメリカに、旅客機が落ちる。
テロであることをひたすら隠そうとする政府に対し、家族を失った元特殊戦闘員がプロの傭兵集団を使って独自にテロ組織を追い詰める。
ウィンズロウには珍しく、王道の冒険小説だ。
『ナヴァロンの要塞』など、個性的なメンバーを率いた戦闘物は、既にたくさんの作者に書かれている。
それでも、
「貪るように」、ドン・ウィンズロウの本を読む感覚は変わらない。
やはり、「アベンジャーズ的」なものは考えて読んではいけない。
これまでも、この後も、さまざまな小説を繰り出す、ウィンズロウの物語たちのことは、巻末にある杉江松恋氏の解説で良くわかる。
色々楽しませてくれる、やはりお気に入りの作家です。 -
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ネタバレロードアイランドから逃げてきたライアンたちが、カリフォルニアで人生を立て直す。
しかし、簡単にはいかない。
そこでスーパーウーマンであるダニーのママが一発逆転のお膳立てをする。
原題は “City of dreams” 。ハリウッド進出まで果たしてしまうダニーたちに、いささか出来すぎた感は否めないが、そこは一作目とは対象的なダニーを描くことによってファミリーのリーダーとしての成長を描く。
3作目はまた抗争劇に戻るのだろうか。
今作でもダニーは人を殺さない。仲間から非難を浴びようが殺さない。なるべく。
そして母は強い。ダニーの安全弁にもなっている。
この2点が崩れることによってダニーに本当の危機が迫り、ラストへ向かっていくのではないか。