林田球『ドロヘドロ』は退廃的で殺伐とした世界を描くダークファンタジー漫画である。2018年に完結した。林田球はアルファベットではHayashida Qと書く。著者は女性であるが、作風はステレオタイプな女性漫画家らしくない。都立芸術高等学校、東京藝術大学美術学部絵画科油絵専攻卒業。林田と言えば『ブラタ
...続きを読むモリ』で有名になった林田理沙アナウンサーも東京藝術大学卒業である。
主人公らのいる世界は「ホール」と呼ばれる。「魔法使いの世界」から来た魔法使いが襲ってきて人間を魔法の練習台にしている。荒廃した世界である。理不尽と混沌の世界である。魔法使いが登場するが、中世ヨーロッパ的なファンタジー世界とは大きく異なる。放射能汚染された近未来の世界のようなイメージである。
主人公カイマンは魔法使いによって頭部を爬虫類に変えられ、記憶を喪失した。カイマンの口の中には謎の男が存在している。何故か魔法が効かない属性を持ち、襲ってくる魔法使いを返り討ちにする。どのような経緯で、このような世界になっているのか。主人公達はどのような経緯で生きてきたのか説明されない。読者も理不尽と混沌の世界に叩き込まれた気分になる。謎ばかりの物語についていく読者は大変である。一方で本作品のテーマは自分が何者か探すことである。純文学とも重なる真っ当なテーマである。
ニカイドウはカイマンの友人で、一緒に魔法使いと戦う。荒廃した世界に似合わない美女である。世紀末的な空間にありえないくらいのかわいさである。ニカイドウは食堂を営業している。あのような荒廃した世界で営業が成り立つか不思議である。
序盤では魔法使いの練習台にさせられ、ギリギリのところでカイマンに救われる。戦闘では解説係タイプかと思ったが、その後で話では格闘能力の高さを示した。カイマンに助けられる存在ではない。カイマンが助けに行こうとした展開もあったが、結局、自分で何とかしている。むしろ、逆にカイマンを助けている。足手まといの女性キャラという昭和のジェンダー感覚とは異なる。
安い服の店に入った人を貧乏人とする決めつけに対して、「服の趣味は人それぞれですからね。ビンボーとはかぎりませんよ」との台詞がある(林田球『ドロヘドロ 2』小学館、2002年)。値段と価値は比例しない。