伊井直行のレビュー一覧

  • 会社員とは何者か? 会社員小説をめぐって

    Posted by ブクログ

    非常に興味深い「会社員小説」をめぐる文芸評論であり、良い作品紹介となっていると思う。ここで紹介され分析が加えられた作品群を読んでみたい。とりあえず著者の『岩崎彌太郎—「会社」の創造』(講談社現代新書)は注文してみた。

    0
    2016年05月11日
  • さして重要でない一日

    Posted by ブクログ

    岩井克人は『会社はだれのものか』で会社という存在の不思議さを論じています。そして伊井直行は本書(表題作を含めた中編2本)で会社員の不思議さを描いています。

    カフカやピンチョンなどによる「謎」めいた作品が好きであれば気にいるでしょう。柴田元幸の解説つきで、待望の文庫化です。

    0
    2012年04月30日
  • 濁った激流にかかる橋

    Posted by ブクログ

    街を左右に分断する激流と、それをつなぐ改築に改築を重ねた異形の橋。それを取り巻く左岸と右岸の人々の物語。連作短編。

    帯に「寓話的都市」とある通り、この街は現実の都市には似ていない。左岸と右岸にまたがる露骨な格差、文化の違い、想像を絶する大渋滞、役所の無能、ずさんな工事、利権がらみの政治、街に支配的な4つの姓から感じられる閉鎖性・・・。週刊誌をにぎわすようなありきたりな噂話の数々。
    解説にある通り、現実に比べてこの小説に登場する世界は分かりやす過ぎる。ステレオタイプだ。

    にも関わらずこの話は面白い。

    この前読んだベルンハルトの『消去』で、芸術とは誇張だ、誇張こそが実存へ架橋する手段だ、とい

    0
    2011年05月26日
  • ポケットの中のレワニワ

    H

    購入済み

    最後が・・・

    小説として面白いと思いますが、最後の終わり方が、個人的には少し拍子抜けしました。そのため、星を一つ減らしました。

    0
    2018年03月04日
  • 尻尾と心臓

    Posted by ブクログ

    作者が『会社員とは何者か?――会社員小説をめぐって』で展開している論を、見事に小説へと昇華しています。

    たとえば、源氏鶏太「英語屋さん」論において注目していた英語屋さんの社内でのヌエ的な立ち位置を、本作では子会社へと出向している男、その子会社に関連企業から派遣されている女という形で、再現させています。

    また、会社員小説を書くときに私生活を紋切り型に描かないという課題にも、柔軟に取り組んで書いているのが伝わってきます。作者の作品を愛読してきた読者としては、現時点での集大成と思わせてくれる快作でした。

    0
    2016年09月04日
  • 濁った激流にかかる橋

    Posted by ブクログ

    笙野頼子の解説にあるとおり、濁った激流にかかる「橋」が人格化したように存在感をもち、それに翻弄されるかのような住民たちをめぐる連作短篇。橋が意志をもっているかのような描写は、まさにカフカの「橋」を連想させます。

    考えてみれば、伊井さんは『草のかんむり』でカフカ的な変身譚を書いていました。しかし、それは氏の作品の魅力が「カフカ的」という言葉で済ませられるということではなく、むしろ「~的」と形容すればするほど微妙かつ確実にズレているような気にさせるところに氏の魅力があるのです――と言ったとたん、また微妙かつ確実にズレているような気がしてくるのです。

    0
    2016年02月13日
  • 愛と癒しと殺人に欠けた小説集

    Posted by ブクログ

    私は十分な癒しとちょっとの愛を感じられた。まえがきにある通り、一般の小説に見られる愛や癒しや殺人は少ない。なんというか、石橋をミリ単位で叩いて渡るような繊細な作業が重ねられたんだろうなと思えるような文章。愛と癒しと殺人を避けるというはあと今だと露悪とか、とにかくそういう盛り上がりを排除して小説を仕上げるのはきっととてつもない技術なんだろう。
    「ヌード・マン」と「えりの恋人」が好きでした。

    0
    2014年07月27日
  • 濁った激流にかかる橋

    Posted by ブクログ

    激流によって二分された町、唯一架かる増殖する巨大な橋、左岸と右岸に分かれて住む市民。9つの短篇で描かれる町はどこかにありそうな町では決してない。この町は現実にある町のどのリアリティにも属さないのにもかかわらず、現実の町の全てに思い当たる部分を見出すことができる。変な頭を持つ一族、常軌を逸した恋愛譚、自己増殖のように膨らむ巨大な橋、広大で濁った激流。現実を寓話的に扱ったり、非現実的に描いて、逆にリアリティを獲得する作品は多くあるが、これはわざわざ捨て去ったリアリティをいったん再構築していながら、次元の違う現実感を得ていると思う。それは舞台の書き割りのようなセット世界ともいえるのだが、世界をそのよ

    0
    2013年03月16日
  • ポケットの中のレワニワ

    Posted by ブクログ

    どなたかの「会社員とは何か?」の感想を読んで、読んでみたくなった記憶が……。
    そしてだいぶ長いこと積んであった……。
    伊井直行氏の著作を読むのは初めて、たぶんお名前すら、しかとは存じ上げなかったんだけど……。
    おもしろかった! これ、もっともっと話題になってもいいと思うんだけど!(いやわたしが知らないだけで話題になってたのか?)
    すごく好きな感じだった。わたしはこういう小説をもっと読みたい!

    主人公は家庭環境が複雑で今はハケンで仕事している青年、その義理の弟でひきこもりの青年、ベトナムから難民として入国して団地にすんでる人々、となかなか困難な状況の人々ばかりで、主人公は未来にまったく希望がも

    0
    2013年01月31日
  • 会社員とは何者か? 会社員小説をめぐって

    Posted by ブクログ

     著者は<会社という条件の中で生きる人間とその関係を描くことで>成り立っている小説を「会社員小説」と定義する。このカテゴリを見いだしたことは、文学にとってひとつの収穫だとおもう。とくに<企業や業界、そこで働く人々や事件などを扱った小説>である「経済小説」とは明確な線を引いた。この分野において登場人物は、効率的に情報を伝えるために比較的紋切り型に近いキャラクターとして使われるからだという。「会社員小説」は「経済小説」とは違い<人間を描くことが、手段ではなく目的であるような世界>―つまり、近代文学の世界の作品を指すのだとする。
     具体論に入ると、まず取り上げている作品の趣味がいいなぁと感じる。会社

    0
    2012年07月28日
  • さして重要でない一日

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    伊井直行『さして重要でない一日』講談社文芸文庫版。
    以前読んでいたんだけど解説が柴田元幸せんせいということで再読。
    「会社員小説」という特異なジャンルを切り開いた作家の初期作品で野間文芸賞受賞作。

    地の文の与える奇妙な印象はいろんなところで言われるけど、
    それこそ「会社」というなんだかわからんものの体内で生きている
    「会社員」っつう奇妙な生物の住む環境のアレゴリーでござろうな。
    一人称と三人称が溶けたような、誰の視線かわからない眼に監視されて
    (しかもその視線は彼の眼にすら起源している瞬間がある)動き続ける「彼」。
    テキストの間から実存のうえに、不可思議な「相」が立ち現われてくる。
    生々しい

    0
    2012年05月16日
  • 会社員とは何者か? 会社員小説をめぐって

    Posted by ブクログ

    「会社員」というよく知られた存在に敢えて注目していて、どういうわけか読み手の関心をくすぐります。じぶんが会社員であるかどうかに関係なく、伊井さんの著作が好きであれば楽しめるでしょうし、氏の著作を読んだことがなくとも、これを読めば会社員がフシギな存在であることがわかるでしょう。

    氏のおかげで津村記久子『アレグリアとは仕事はできない』や庄野潤三「プールサイド小景」を読んでみたくなり、ハーマン・メルヴィル「書写人バートルビー」を再読したくなりました。というわけで、「会社員小説」をめぐる読書案内と思って読んでもいいかもしれません。

    0
    2017年03月17日
  • ポケットの中のレワニワ

    Posted by ブクログ

    いくつかのサイトで『1Q84』と似ていると紹介されています。じっさい読んでみて「なるほど」と思いましたが、どこが似ているかというと・・・物語の設定や展開とかではなく、作風というか手触りが似ている気がします。

    4つ星にしたのは、伊井さんの作品(たとえば『さして重要でない一日』)は、いつも何かが欠けている感じがしてるから。でも、その欠落感が決して不快ではなく、いい感じなのです。

    0
    2012年05月15日
  • 三月生まれ

    Posted by ブクログ

    中学生の少年達の心の動きを描いているのに、子ども子どもしていないで、静かで大人っぽい世界。著者の作品は初めて読んだが、他の作品も読んでみたいと思う。

    0
    2010年12月17日
  • 愛と癒しと殺人に欠けた小説集

    Posted by ブクログ

    週刊ブックレビューのお勧めを見ていてタイトルにググッツと来たので買ってみた。実は、このタイトルが示唆するような「何もないような話」というのがすごく好きなので。この分野(?)での個人的ナンバー1は保坂さんの「カンバセイション・ピース」なのですけども。柴崎友香さんもその流れで大好き。

    残念なことに読み始めて直ぐに気付いたのだけど、この本はタイトルが言うほど何も無い日常の中の特異さみたいなものは描かれておらず、むしろきわめてフィクショナルな設定のストーリー性が少々鼻につく小説という感じがする。どうせそういうことなら、三崎亜記みたいに不自然な枠組みの中でとことん日常に徹する(それでいて物凄い皮肉が

    0
    2009年10月07日
  • 愛と癒しと殺人に欠けた小説集

    Posted by ブクログ

    話題短編を集めた、伊井氏の第二小説集。 「ヌード・マン・ウォーキング」のロングバージョンをいれた珠玉の作品集。
    読売賞作家の魅力が満載された、特異の前書き付きの話題作。

    0
    2009年10月07日
  • 草のかんむり

    Posted by ブクログ

    これまた伊坂幸太郎が推薦していたので、読んでみる。文庫で。

    伊坂幸太郎の書く物語は楽しくて仕方ないのだが、伊坂幸太郎が薦める物語はそんなに楽しくない。

    好きな人と意見が合わないようで、寂しくもあるが、そんなもんだろうという思いもある。

    0
    2025年04月06日
  • 草のかんむり

    Posted by ブクログ

    文体が誰ぞに似てると思ったら、村上春樹だった。

    後半~結末が有耶無耶になっていくあたりも酷似している。

    中盤までは読みすすめ易かったのだが・・・

    0
    2022年09月12日
  • ポケットの中のレワニワ

    Posted by ブクログ

     死ぬのか。死ねよ。悲しんでやるよ。
     きっと泣く。俺にはお前しかいないんでね。お前以外、だれも俺を必要としていないんで。だけど、だから、お前のところに、今晩、行かないんだ。
     お前しかいないなんて、たまらない。いっそ、お前すらいなくなった方がいい。まったくの孤独がいい。
    (P.262)

    「うん。でも、ずるいだけじゃないと思う。沈黙するしかない時が、世の中にはあるから。自分がうまく言葉にできないこともあれば、そもそも世にある言葉では伝えられないこともある。沈黙でしか言い表せないなにか、っていうのが確かに存在してるんだ」
    (P.422)

    0
    2019年09月02日
  • 愛と癒しと殺人に欠けた小説集

    Posted by ブクログ

     小説は世界を映す鏡という二百年前の人物による定義に、だれに頼まれてもいないのに、今さら一票を投じることにする。世界は理解されなくてはならず、世界は生きている人々の眼前に像として提出される必要がある。小説にはそれができる、と信じたい。私の小説がどうかのかは、また別の話。
    (P.14)

    0
    2019年04月25日