【感想・ネタバレ】会社員とは何者か? 会社員小説をめぐってのレビュー

あらすじ

果たして会社員は小説の主要な登場人物になりえるのか? 著者はこんな命題を抱え、会社員が主人公の古今の小説に切り込んでいきます。取り上げられるのは、源氏鶏太、山口瞳、庄野潤三、黒井千次、坂上弘、絲山秋子、長嶋有、津村記久子、カフカ、メルヴィル……。そこから見えてくるのは、自明なものとして受けとめられている「会社員」という言葉・存在に潜む謎だった。いったい、会社員とは何者なのか?

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Posted by ブクログ

非常に興味深い「会社員小説」をめぐる文芸評論であり、良い作品紹介となっていると思う。ここで紹介され分析が加えられた作品群を読んでみたい。とりあえず著者の『岩崎彌太郎—「会社」の創造』(講談社現代新書)は注文してみた。

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2016年05月11日

Posted by ブクログ

 著者は<会社という条件の中で生きる人間とその関係を描くことで>成り立っている小説を「会社員小説」と定義する。このカテゴリを見いだしたことは、文学にとってひとつの収穫だとおもう。とくに<企業や業界、そこで働く人々や事件などを扱った小説>である「経済小説」とは明確な線を引いた。この分野において登場人物は、効率的に情報を伝えるために比較的紋切り型に近いキャラクターとして使われるからだという。「会社員小説」は「経済小説」とは違い<人間を描くことが、手段ではなく目的であるような世界>―つまり、近代文学の世界の作品を指すのだとする。
 具体論に入ると、まず取り上げている作品の趣味がいいなぁと感じる。会社員小説の説明に使ったのは「アレグリアとは仕事はできない」(津村記久子)であり、「泣かない女はいない」である。その際の、取り上げ方(スジの紹介の仕方、読みどころの的確さ)もすばらしい。
 さらには、いわゆる「会社員」が出てくる小説ばかりではなく、カフカ「変身」やメルヴィル「バートルビー」までも「会社員小説」というハサミで切っていくことで、あらたな「読み」に挑戦している。刺激的だし、楽しい。あっぱれ、だ。

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2012年07月28日

Posted by ブクログ

「会社員」というよく知られた存在に敢えて注目していて、どういうわけか読み手の関心をくすぐります。じぶんが会社員であるかどうかに関係なく、伊井さんの著作が好きであれば楽しめるでしょうし、氏の著作を読んだことがなくとも、これを読めば会社員がフシギな存在であることがわかるでしょう。

氏のおかげで津村記久子『アレグリアとは仕事はできない』や庄野潤三「プールサイド小景」を読んでみたくなり、ハーマン・メルヴィル「書写人バートルビー」を再読したくなりました。というわけで、「会社員小説」をめぐる読書案内と思って読んでもいいかもしれません。

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2017年03月17日

Posted by ブクログ

絲山秋子さんの「沖で待つ」が好きだ。
芥川賞を受賞されたときの文藝春秋を捨てられずにいる。

伊井直行さんの本書は、会社員小説の書評を集めたような本である。その中に「沖で待つ」を見つけたときには嬉しかった。解説を読んで、なるほどなと思う。

いつだったか、駅から会社に向かう道路を歩いているとき、同じ会社の従業員が行列になって歩いている姿を見て、みんないろんな問題抱えているだろうに、毎朝ちゃんと出勤して仕事してえらいなぁとしみじみ感じた。華々しく活躍している一部の人を除き、大抵の会社員は地味に堅実に仕事をこなして、その働きが会社の支えとなっている。会社員小説というのは、そういった会社員に寄り添う存在なのかな、と思う。働く中での良いことも悪いことも小説の中に散りばめて。

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2012年06月17日

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