原武史のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
著者とはまったく同い年。同じ時代に区市は違えど都内の小学校に通っていた。ここまでの教育活動が試みられていたとは本当に驚いた。確かに、今の学校現場に比べるとかなり違うと思う。私の場合、君が代も日の丸も覚えていないが、卒業式の呼びかけはあった。証書授与は壇上ではなく、自席で受け取った記憶がある。学芸会の劇は自分たちで分担してシナリオを書き、大道具作りにも時間をかけた。それでいて、学習指導要領上の授業時数は今よりも多かった。一体いつ勉強していたのだろう、それは思い出せない。本書のような極端な例はあまりないのかも知れないが、全国のあちらこちらでこれに近いことがきっと行われていたのだろう。「一人の手」や「わんぱくマーチ」はこれを読むとちょっと歌えなくなりそう。
-
Posted by ブクログ
講談社のPR誌「本」に連載したコラムを1冊の本にまとめたもの。
著者の専門である日本政治思想史に絡めながら、日本の近代化という視点から鉄道を視る。
日本人の時間意識と時刻表や「ひかり」や「のぞみ」のルーツなどちょっとした鉄道小話が満載で、知れば知るほど鉄道に乗りたくなってしまう。
本書の記述に関して事実関係云々と言う方がおられるかもしれないが、この本が言わんとすることを考えればそれは訂正すればいい話であり、そうでなければ、この本の読み方として非常につまらないものとなってしまうであろう。
鉄道ファンというよりは鉄道に少しでも興味のある人にオススメしたい本である。 -
Posted by ブクログ
日本の近現代史において鉄道の果たした役割は非常に大きいと思いますが、それは単にヒトやモノを運んだというだけにとどまりません。私たちの時間感覚や規範感覚、「権力」観のようなものにも、鉄道は非常に強く影響を及ぼしているでしょう。しかし、この点に意識的である鉄道本は、それほど多くありません。そして本書の著者・原武史氏は、そうした鉄道本を書ける数少ない人であると思うわけです。つまりこの本は、「鉄道」を通して「私たち」を描いている、ととらえて読むべきものではないでしょうか。こういう鉄道本を書ける人って、ほかにだれがいるでしょうかね……。(20070520)
-
Posted by ブクログ
●日本固有の存在である天皇を中心に日本の政治思想を概観した本。
●日本の政治思想を探求して、日本という国家の知見を深める。→天皇という存在を軸とした政治思想を俯瞰できたように思う。
●本書は、記紀神話から現代の象徴天皇制までを貫く「日本固有の思考様式」を、天皇という存在を軸に鮮やかに描き出す。注目すべきは、「空間」に着目した論点で、皇居前広場のような「空地」に天皇という生身の身体が現れることで、一瞬にしてそこが聖なる政治空間へと変貌すると述べている。この「可視的な身体」と「空虚な空間」の相互作用こそが、言説化されない日本的な「国体」を支えてきたという指摘は極めて独創的である。また、儒教(朱子学)が「革命」を是認する論理を持つのに対し、日本はそれを「万世一系」という血統の論理で封じ込めたという比較思想的なアプローチも、日本政治の特殊性を理解する助けとなる。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ日本の政治思想の通底にある政治体制を支える思想は言語化されていないとして、個々の思想家を追うのではなく、天皇制を柱の一つとして政治思想を戦後まで記述する。街道、鉄道、宮城前広場、公園、銭湯等の公共空間、儀礼による視覚化、団地と共産党など面白い視点があるが羅列的・断片的。
・「まつりごと」は、本来奉仕事=政事。儒教の政治構造は、天命を受けた天子が礼楽を主、刑政を従として民をみちびくもの。天皇制の政治構造は、臣民が万歳等により天皇をまつり、天皇はアマテラスをまつる構造。
・「国体」は、万世一系の天皇を統治の主体とする概念ではあっても、言語化されず定義されず、君民一体の空間を通じ視覚化されることで身体ごと実感されるもの。それゆえ、あらゆる思想と両立し無限に抱擁できる可能性。
・輿論public opnion は公共圏で形成され、世論(せいろん)popular opnion は公共空間(銭湯)で形成された。 -
Posted by ブクログ
一家言ある者同士の対談は読みにくい、と感じる。小説家と政治学者、立場を異にするとはいえ、両名ともに近現代日本史に関する著作を書いている。また「天皇制」に対する考え方も、一致はしないが、遠いとも言い難い。
本書で目についたのは“皇后の強さ”。本書によれば、貞明皇后(大正天皇の皇后)、美智子上皇后、紀子皇嗣妃は、宮中祭祀に熱心であった/であるらしい(紀子皇嗣妃も“皇嗣妃”となったことから宮中三殿に上がることとなった)。「家父長制的イエのトップ」(p.184)として天皇家を捉えたとき、外から皇室に嫁いできた女性というのは、そのイエの中でのアイデンティティ確立のために、熱心になってしまうのではないか、と思った。目一杯「俗」に引き寄せてイメージするなら、テレビのホームドラマ(橋田壽賀子ドラマ的な家庭劇)において奮闘する「嫁」の立ち位置。なお、雅子皇后と香淳皇后(昭和天皇の皇后)は「宮中祭祀に熱心」というふうには語られないのだが、雅子皇后は「体調が万全ではない」(p.189)からということだろう。また、香淳皇后は本書にまったく登場しないのだが、生まれながらの皇族(誕生のときから「女王」の身位)というところが前後代の皇后と異なるものと思う。 -
Posted by ブクログ
昭和天皇実録とは、昭和天皇崩御後の1990年より宮内庁により編纂が開始された、昭和天皇の伝記である。編纂期間は2014年までの25年間であり、全61冊1万2,137ページ(うち一冊は目次・凡例のみ)に及ぶ膨大な量の書籍となっている。考えてみれば、昭和という時代が1926年から1989年迄の63年以上続いたわけだから、それだけ在位期間も長く、編年体で描かれた本書の量が多くなるのも理解できる。因みに、同じ様に編纂された天皇の伝記としては、明治天皇紀が全13巻、大正天皇実録(補正版)が別巻含む7巻となっており、文字数や出版サイズとの違いがあるため、単純な量の比較は難しいものの、それらが公開にあたっては一部個人情報を黒塗りにしていたのに対して、昭和天皇実録は公開を前提に塗り潰しなしで公開された。また、読み易く口語体で書かれているのも特徴である。とは言え、その様な膨大な量を我々一般人が端から端まで読むには相当の時間を要するし、それなりに時代背景に対する理解が必要になってくるから、原本本体を読もうとされる方は覚悟と時間が必要である。私にはこうした新書サイズの訳本がちょうど良い。
自分が生まれた昭和の記憶については、昭和天皇崩御と共に時代が終わり、既に40年近くになろうとしている今、リアルな頭の中の記憶も薄らいでいるが、戦争経験のある年齢にしてみれば、正に激動として記憶に残る時代であったに違いない。日本は諸外国特にアメリカと戦争し、2600年以上続く天皇制の存続そのものが大きな危機に見舞われた。この戦争一つとっても昭和天皇1人が決定し開戦を決意したものではないが、当時の戦勝祈願の内容や天皇ご自身がどういったお考えをお持ちでいらっしゃったかなどをある程度推測可能でもある。それらは更に生い立ちの時代に遡って、幼少期を誰とどこでどの様に過ごされたかも関係してくるだろう。特に一般の国民とは異なる皇室という世界観は我々には余り多くの情報がない上、特に天皇即位前の時代はこうした実録的なものが無ければ、中々想像するだけでは解らない世界だ。
本書はそうした我々には理解が難しい皇室のしきたりや伝統について昭和天皇とその周辺の人々を生き生きと描く事により、少しでも読み手に天皇の体験を伝えようとする内容となっている。読みながら不思議と皇居の周りを散策している様な気分になるし、伊勢神宮や熱田神宮を訪れた際の情景も思い出される。天皇家の重要な役割である祭祀についても、その意味合いなどを学びながら、日本という国が何なのかという事への理解も深まる。激動の戦争時代に国家のトップとして君臨し、戦後も長期に渡り、天皇という地位にあり、その責任の取り方に苦悩し続ける日々。そうした昭和天皇の苦しみも伝わってくる気がする。今は既に平成天皇(現上皇)の時代から生前退位により、令和の世になっている。皇室のあり方も昭和以前のものとは大きく変わっているだろう。だがこの国に形は変わらない。我々が暮らす日本という国には、神武天皇から世界最長の王族が続いているとされる(今上天皇は126代目)。太平洋戦争という元寇以来の国難も乗り越えた昭和天皇。そしてその後の長きに渡り戦争放棄し平和な時代を築き上げた日本。自分の所属している国という感覚を改めて思い起こす機会はそれ程あるわけではないが、紛れもなく日本人である私は、オリンピックやワールドカップでの日本人の活躍に熱狂し、エールを送り、そして私以外の日本人と一体になって喜び、君が代を歌う。改めて自分の属する国である日本について、こうした書籍で学び直す事は、更なる一体感を醸成し、平和の尊さを感じる機会になる。 -
Posted by ブクログ
加藤陽子との対談「この国の戦争 太平洋戦争をどう読むか」の、相手は代われど続編的な本。
実は高校の頃は中上健次や大江健三郎、三島由紀夫、吉本隆明にカブレたクチなので、いろいろ考えたものだが、その後はとんと。
実際天皇と聞けば必ず、もう何百回も思い出すのが、女子高生のツイート「「天皇誕生日おめでと あんま絡みないけど、素敵な82歳にしてね」の、唐突なブッコミ作法と、無知ゆえのフランクさと。
で、その想起にこちらの頭も浸されてグズグズになったくらいに自分も落ちていたわけだが、その地点に片足置いて、またいろいろ考えるようになったのが、やっぱり文芸経由で、しかし四半世紀後に背中を押してくれているのは石牟礼道子や森崎和江だったり。
しかしこの停滞の時期ずっと読み続けていたのが、奥泉光だったので、その当人がまるで自作解題のように出してくれた対談、面白くないわけがないし、四半世紀のあいだ自分にマスキングしてきた考えが、ぶわっと沸騰した思いがする。
が、結論としてはグズグズ考え続けなければというものでしかないが。
このおふたりが本書の最後のほうで天皇制反対の理由を簡潔に述べているが、その落ち着いた、現実的な口調に、同意するものである。
ファナティックになってはいけない。
@
明治・大正・昭和・平成・令和……今こそ問う、この国にとって天皇とは、皇室とは何なのか? しばしば天皇制を扱ってきた小説家と、天皇研究の第一人者が、対話を通じてその本質に迫る。
この国には天皇がいる、皇室がある。
それはいったいどういうことなのか――――?
神格化のはじまり、「大正流」の可能性、昭和の戦争と熱狂、行幸啓の変遷、宮中祭祀の内実、「平成流」の功罪、「象徴」の意味、令和の空気、皇室のこれから……
【目次】
まえがき(奥泉光)
Ⅰ 天皇制の見方・考え方
天皇制の何が難しいか/フィクショナルな出発点/徳川時代と変わらない/生き神がやってくる/三つの層で考える/「新しい伝統」は誰がつくったのか/「祈る天皇」というイメージ/貞明皇后が立ちはだかる/昭和・平成・令和の宮中祭祀/文明開化は天皇とともに/明治天皇の神格化と一般大衆への浸透/現れる天皇、見えなくなる天皇/神出鬼没の大正天皇/昭和天皇を神格化する演出/主導する中間層/秩父宮と二・二六事件/一般大衆の想像力と空虚な支配構造
Ⅱ 昭和の戦争と天皇制
江戸時代との断絶と連続/「国家神道」への道/天皇が東京に移るということ/男性化する「玉」/「国民」をどうつくるか/明治憲法が孕んでいた矛盾/日清・日露戦争に勝ったことの意味/世代による感覚の違い/大正天皇という人/封じ込められる「大正流」/君主制の危機と新しいイメージ戦略/天皇崇拝が止まらない/「政治」が消えてしまう/とにかく神器を失ってはならぬ/大衆の熱狂はどこへ行ったのか/最大の疑問/新憲法下での昭和天皇/変わらない国民/なぜ熱狂に火がついたのか/反省しても反省しきれないポイント
Ⅲ 昭和から平成へ、平成から令和へ
代替わり体験/天皇崇拝の構造/昭和の聖性、平成の聖性/ひざまずく皇太子妃──「平成流」の萌芽/宮中祭祀という使命/天皇が私たちの代わりに死者を悼む/一人一人と相対してきた厚み/国民は「象徴」の意味を考えてこなかった/自衛隊との結びつき/反天皇制の理由/平成と令和の皇室の違い/秋篠宮家の存在感/令和の空気/天皇制は続くのか
あとがき(原武史)