原武史のレビュー一覧

  • 〈出雲〉という思想 近代日本の抹殺された神々

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    明治時代における国家神道の形成の裏で、出雲国造の千家尊福がオホクニヌシを中軸に据える神学をたずさえて戦いをいどみ敗れた経緯と、彼の思想の背景にあった復古神道における幽界にまつわる解釈の歴史をたどった本です。

    『日本書紀』の一書第二には、オホクニヌシが国譲りを承諾し、「顕事」をニニギに託すとともに、もうひとつの世界である「幽事」の支配を引き受けることになったとしるされています。このことに注目し、アマテラスを中心とする神道理論に対抗する言説を構築したのが、平田篤胤でした。本居宣長の没後の門人を名乗った篤胤は、死後の霊魂が黄泉国に赴くとする宣長の考えに反対し、われわれの死後のありかたについて独自の主張を展開しました。

    こうした篤胤の思想は、江戸時代後期に大きな勢力をもつにいたりますが、明治になると水戸学や大国隆正の神道理論の後塵を拝することになります。明治政府は、アマテラスを中心とする神道理論にもとづいて、近代の国民国家の構築に好都合な国家神道をつくりあげようとしますが、そこに理論闘争をもちかけたのが、スサノヲとオホクニヌシを祭神とする出雲大社の千家尊福でしたが、最終的には天皇の勅裁によって彼の主張はしりぞけられるにいたります。

    また著者は、「幽」の世界についての言説をつむいで、アマテラスを中心とする神道理論に挑戦した大本教をとりあげ、第二の「敗北」としての意味をそこに認めています。ほかに、出雲系につらなる埼玉県の大宮氷川神社について考察をおこなった文章も収録されています。

    篤胤の思想のうちに、近代国家の確立をさまたげる要素がふくまれていたことが、歴史的な観点から跡づけられているように感じました。

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    2025年09月17日
  • 天皇問答

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     書名にある通り、対談がまとめられたものなので、まとまった論考が展開されているわけではない。でも、明治以降令和にいたるまでの天皇や皇室の変遷を二人で振り返ってくれているので、頭の中を整理できる。昭和天皇の崩御で、それまで存在感が薄れていた天皇の身体が急に表面に登場し、天皇のタブー性を再認識させられたこと(p156)、平成天皇は雲仙普賢岳の大火の時被災地を訪れひざまずいて国民と対話する姿が印象的だったが、一方で戦地訪問先は敗れたところのみ訪れ、旧満州や真珠湾などは意図的に回避しており、平成天皇の訪問した戦地のみであの戦争を振り返るのは実態を歪めてしまうこと(pp166-177)、眞子さんのニューヨーク行きは、国民の平安を祈るよりも「私」を優先させますという宣言であり、皇室のイメージを変えると同時にパッシングにつながったこと(pp190-193)。本書の最後では、天皇制は、多様性やLGBTQを認めていこうという時代の流れと乖離しており、被災地の視察や祈りは政治家や宗教者に任せ、天皇の仕事を減らし、いずれくる、天皇の存在しない社会の姿を考えておくことが大切、という結論で締められる。

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    2025年03月08日
  • 鉄道旅へ行ってきます

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    東日本大震災もコロナ禍も起こる前の2000年代初め、鉄男2人鉄子1人の旅が企画された。案内人は原氏。2024年に文庫化されるに当たり、当時のお店が無くなったという注が入っていたりして、鉄道離れとコロナ禍が恨めしい。文庫版スペシャル旅(カバー写真も)は、我が故郷の銚子電鉄。自分的保存版なのだが、風呂で読んでいる時に居眠りして水没させてしまい、よれよれになってしまった(涙)

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    2025年02月15日
  • 天皇問答

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     20世紀の総力戦に取材した小説を多く発表してきた小説家と、近代天皇制とメディアとのかかわりを粘り強く追いかけて来た政治学者との対談本。新書という媒体的な制約もあって、基本的な知識の確認に多くのページが費やされているが、大正天皇の振る舞いを「大正流」として取り出したり、徳川時代の身分差をめぐる人々の身ぶりと近代天皇制のそれとの連続性を問題化したりと、興味深い論点も提示されている。原武史が、近代天皇制を研究していて最も分からないのは、「なぜ民衆が天皇制を支持し続けたか」「いったい誰が宮中の儀礼を設計したのか」が分からないことだ、とコメントしていたことも印象に残った。原が構造的な女性差別性を提起することで、近年では絶滅危惧種(?)となった天皇制廃絶論に言及していることにも注目したい。

     本書の中では、原が日経新聞記者時代、昭和天皇の癌の手術の際に遊軍的に宮内省詰めとなった際の経験についての記述が印象に残った。何一つ新しいニュースはないのに、「万が一」を考えて毎日深夜まで宮内庁記者クラブに詰めていなければならない。社の上層部もほんとうはどうでもいいと思っているのに、自社だけが「特ダネ」を逃すのは失態に当たると惰性で報道の準備を続けていることこそが、「王の身体が日本という国の時空間を支配している現実」を再生産している――。では、そのような天皇の権威は誰が・どんな理由で求めているのか?

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    2025年01月28日
  • 象徴天皇の実像 「昭和天皇拝謁記」を読む

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    原武史さんらしい視点がたくさん。「皇太后節子に対する昭和天皇の人物観」(あとがき)とか。
    そう、あとがきにある「史料というのは万人に向けて公開されるべき」が原さんの信条。そして「今後も在野の政治学者として、研究を続けてゆきたい」が立場の表明だと思う。

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    2025年01月26日
  • 象徴天皇の実像 「昭和天皇拝謁記」を読む

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    NHKでも紹介された「拝謁記」か岩波書店から出た時、是非欲しいと思ったが、値段を見て、断念した。
    「拝謁記」の要点を項目別にまとめ、解説した本書が出ると知って、早速手にした。
    昭和天皇の肉声が直接伝わって来るようで、新鮮だ。皇太后や兄弟との確執、戦前戦後の政治家や軍人、学者に対する評価、戦後の政治体制等にかかる不満等、本音ベースで語られる。皇太子の事を東宮ちゃんと呼ぶところに親近感を感じた。

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    2024年11月16日
  • 鉄道ひとつばなし3

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    面白い。「池田大作と鉄道」なんてのもあったりして、こういうの、研究とまでいかなくても、もっとあってもいいのにな、とか思う。

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    2024年09月15日
  • 戦後政治と温泉 箱根、伊豆に出現した濃密な政治空間

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    戦後の宰相たちが多くの時間を過ごした温泉ほか保養地。箱根、伊豆、軽井沢。温泉を舞台とした濃厚な政治空間を描く。通信手段の未発達な時代の方が首相が首都不在の期間が長いのが面白い。

    通信手段も交通手段も未発達な時代、天皇皇后両陛下の那須や葉山の御用邸で過ごすように、当時の首相は温泉に滞在し、英気を養っていた。現代の方が危機管理の観点から首都不在なだけでマスコミが大騒ぎする時代との違いは何なのだろうか。毎週末公用車で湯河原の別荘を訪れた舛添都知事を思い出した。

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    2024年02月08日
  • 「松本清張」で読む昭和史

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    面白かった。好きで清張さんは、読んでいたが、いかに表面しか見ていなかったか、反省させられる一冊。天皇制、宮中のいろいろも興味深く読んだ。皇室の記事の見方が変わる。

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    2023年11月05日
  • 歴史のダイヤグラム〈2号車〉 鉄路に刻まれた、この国のドラマ

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    旅行旅に限らず、通勤だったり出張だったりふとした時に考える思考の世界。テツ兼歴史学者から見た視点が何とも楽しいエッセイ。

    近年の鉄道紀行では右に出るもののない筆写の作品。皇室だったり日本史に連想が傾くのはご愛嬌だろう。好きに乗って好きに連想するのも鉄道旅の魅力の1つだろう。

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    2023年07月31日
  • 「民都」大阪対「帝都」東京 思想としての関西私鉄

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    ネタバレ

    関西って東京と比べてメッチャ私鉄が発達してるじゃないですか!

    初めて阪急梅田駅のホームを見た時、圧倒的なターミナル感にビビった記憶があります。

    鉄道の視点から、大阪と東京の違いを読み解いていく魅力的な試みの一冊。面白かったです。

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    2023年07月22日
  • 歴史のダイヤグラム〈2号車〉 鉄路に刻まれた、この国のドラマ

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    土曜版の連載は読んでるんやけど、けっこう忘れてんのよね。昭和天皇が伊勢神宮に戦勝祈願したのを反省する話、昭和天皇崩御の時の侍従の話、辻政信逃走、終戦直後の共産党の話とかは覚えてた。
    今回読んでおもしろかったのが、只見線復旧の話の中で「台湾では幅広い層が鉄道に関心を持っている」って書かれてたこと。宮脇俊三が台湾の鉄道に乗りに行った時に「時刻表なんて何で持ってるんだ?」って鉄道員に物珍しそうに聞かれたって書いてたけど、時代が変わったのかな…

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    2023年07月16日
  • 「線」の思考―鉄道と宗教と天皇と―(新潮文庫)

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     歴史ある面を鉄道という線で結んでいるところが新鮮で勉強になった。天皇の記述が多いが、所詮日本の歴史は天皇の歴史になってしまうのは、文書に残っているのはそれしかないのだから仕方がない。

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    2023年07月04日
  • 「線」の思考―鉄道と宗教と天皇と―(新潮文庫)

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    ハードカバーが出た時から気にはなってたんやけど、文庫持ってる版元で原武史であればそのうちやろ、と文庫落ち待ち。
    鉄道と皇室、時々カトリック、原武史の持ち駒全投入で楽しい。

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    2023年06月11日
  • 「線」の思考―鉄道と宗教と天皇と―(新潮文庫)

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    ただの偶然だが今住んでいる近くが舞台の、

    「古代・中世・近代が交差するJR阪和線」

    の他にも、多少なりとも縁のある地域を取り上げた、

    「二つの「常磐」-「ときわ」と「じょうばん」の近現代」
    「「裏」の山陽をゆく」
    「神功皇后と継体天皇と北陸本線と」

    があり興味深く読み進んだ。特に継体天皇は最も関心のある天皇とも言えるので、いつかまとまった研究を読んでみたい。

    所で著者は還暦を迎えた。そろそろ天皇史から一歩踏み出た鉄道史を語る頃合いだとめ思うのだが…

    谷島屋書店本店にて購入。

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    2023年05月28日
  • 「線」の思考―鉄道と宗教と天皇と―(新潮文庫)

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    宗教と天皇に関する知識が凄い…そこに鉄道を絡める必然性は一部疑問ではあるが、旭川の部分については鉄道との関連性がとても理解できた。

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    2023年05月15日
  • 大正天皇

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    原武史による大正天皇の研究書。著者らしく、鉄道や行幸を丁寧に追うことで、ありありとした皇太子時代の雰囲気がとても良く伝わってくる。
    また、それに対になるように、前後の明治と昭和との違い。その時の大正天皇を取り巻く政治的な思惑。それぞれの声を拾い上げて、イメージを作り上げるのは大変興味深い。

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    2023年03月09日
  • 滝山コミューン一九七四

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    筆者個人の体験に根ざした半自伝的な一冊。

    1970年代、都内の小学校で試みられた「自由で民主的」な教育。

    それは個人の自由よりも集団行動を優先させた極端な民主化の姿でもあった。

    集団行動に馴染まない筆者を追い詰めていく場の空気感が怖しい。

    原センセよりは少しあとの世代ですが、やはり同じような雰囲気が、当時の公立小中学校にはあって、異常なまでに児童、生徒による「自治」が推奨されてたんですよ。生徒総会とか、生徒会選挙の熱狂が凄かった。

    ただそれも、一部の先生方による強いられた「自治」だったのだなと、いまとなっては思う。

    係を選ぶときに立候補させ「ダメな方」を落選させる消去法選挙。ベルが鳴ったら席に着く「ベル席」の仕組み(座ってないと減点)。非協力的な児童を責め立てて「自己批判」させる謎の空気。

    当時はなんだかよくわからなかった「熱狂」の、思想的背景を知る意味で、ものすごく腑に落ちた一冊でした。

    集団行動に馴染めなくて疎外されていく、原センセなのですが、鉄道趣味や、中学受験による塾通いで「外の世界」を持っていることが救いとなっていく。

    学校や家庭以外に、第三の場所があることの大切さも教えてくれる一冊でした。

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    2022年10月08日
  • 歴史のダイヤグラム 鉄道で見る日本近現代史

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    お父さんに鉄道に乗りに連れて行ってもらう話があちこち出て来るのが印象強い。オイラも連れて行ってもらったし、連れて行ったし。ドンピシャとは言わんけど宮脇俊三亡き後、一番近いところにいる気がする。

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    2022年03月04日
  • 歴史のダイヤグラム 鉄道で見る日本近現代史

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     原さんと同じような政治学者は、他にもいよう。また、歴史を論じる人も。
     しかし、「鉄」であることを活かせる人はいまい。
     鉄道×政治の文章は、これまでも原さんは残してきたが、今回は「政治」「鉄道」の両方の成分が高い。

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    2022年02月13日