小松和彦のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
おびただしい数の怨霊が発生し、それにおびえ、
またそれとの戦いを繰り返してきた都市――
それが京都であった。(p.72)
物の怪が跋扈し、恨みを抱いて死んだ者の怨念に
人々が怯えた平安時代の痕跡を辿る、
妖怪論の大家でもある民俗学者によるガイドブック。
京都を洛中(中央部=一章)、洛北(北部=二章)、
洛東(東部=三章)、洛外(洛西・洛南=四章)、
宇治・大津(京都外縁=五章)に分けて、
それぞれの歴史・曰くのある、
俗な言い方をすればパワースポットを紹介した、
京都新聞連載記事に加筆・修正した一冊。
この本を携えて、新たな視点で改めて京都を旅してみたい。
ところで、洛外「帷子の辻」の項で、
写真(p.198)に付されたコメント
「四つ角にある店は繁盛しないという俗信」に心当たりあり。
今、住んでいる町にも、
条件に当て嵌まる場所があって、七年間で
コンビニ→長いブランク→ファストフード→
再び長いブランク→パン屋さんが去り、
以来、半年以上空き店舗なのだが、果たして……。 -
Posted by ブクログ
・妖怪の学といつたら小松である。その小松和彦「妖怪学新考 妖怪から見る日本人の心」(講談社学術文庫)を読んだ。おもしろい。当然、この書での、つまり小松和彦の妖怪の定義がまづ問題になる。それは例へばかうある、「『神』とは人々によって祀られた『超自然的存在』であり、『妖怪』とは人々に祀られていない『超自然的存在』なのである。」(201頁)神と妖怪が紙一重といふのは容易に想像がつく。それは祀られてゐるか祀られてゐないかの違ひだといふのである。確かに河童神社や豆腐小僧神社、付喪神神社などといふのはなささうである。しかし、これらも祀られれ ば神になる。祀られない限りは妖怪のままである。悪さをしようがしまいが、妖怪は祀られてゐないから神ではないのである。神にはなれないのである。これは 端的で分かり易い定義である。ただし問題はある。所謂祟りである。祠の神をしばらく顧みなかつたら凶事が続く。これはあの祠の神の祟りだ。祀らねばとお祀りをしたら収まつたなどといふのがそれであつて、この場合の祠は神なのか妖怪なのかといふことが問題になる。そこで別の定義、説明、「妖怪とは、日本人の 『神』観念の否定的な『半円』なのだ(中略)つまり、伝統的神観念では『妖怪』は『神』なのである。(中略)それが人間に対して多少でも否定的にふるまったとき、妖怪研究者からみれば『妖怪』になるという」(48頁)ことになる。落魄の神といふのではない。人間に否定的にふるまふ、悪さをする、さうすると妖怪なのである。ただし、誰にでもではなく、あくまでも「妖怪研究者からみれば」妖怪なのである。研究者は神と妖怪を峻別するが、普通の人はその違ひにそれほどこだはらないといふことであらうか。「かつて多くのムラやマチで、さまざまな怪異・妖怪伝承が語られていた。それらは人々の生活の一部であり云々」 (117頁)だから、普通の人は研究者のやうに、妖怪を相対化も、客観化もできないのである。いづれにせよ、私程度の妖怪との関はりの人間には、かういふ説明、定義は十分に納得できるものである。
・そんな妖怪は今もゐる。これも本書のポイントである。それを井上円了のやうに合理的な説明で否定することもできる。その方が話は早い。幽霊屋敷はない、 トイレにはな子さんはゐない……かういへば終はりである。しかしさうはいかない。やはりまだゐるらしい。恐怖を感じさせる様々な空間がなくならないからで ある。「妖怪は人々の心が生み出す存在である。」(163頁)からには妖怪は滅びない。ムラであれマチであれ、大都会であれ、人々は恐怖を感じ、そこから 妖怪は生まれる。そこにはこんな特徴があるといふ。「人面犬などわずかな例外はあるものの、現代の妖怪のほとんどが人間の幽霊(亡霊)なのである。(中略)現代人は動物などの妖怪はいまやすっかり信じなくなったが、人間の幽霊の存在をなお信じる人が多い、ということである。」(185頁)都会にタヌキやキツネはゐないのである。そして、問題はそれだけではないらしい。現代人は「自然を恐れる心を失ってしまっているらしいという」(186頁)のである。それがキツネやタヌキに化かされることを忘れさせたといふのである。闇を消し、自然を壊し、その結果、動物妖怪が消えて……現代はそんな妖怪世界であるらしい。それが副題の「妖怪から見る日本人の心」の一端である。妖怪学がかういふことをも突き詰める学問であり続けるならば、今後更なる隆盛の時代を迎えるかもしれない。小松和彦ほどの人がやるのである。まさか単なる分類学で終はるとは思へないが、更に発展した妖怪学を見たいものである。 -
Posted by ブクログ
当代一の民俗学者小松先生が昔書いた文章に加筆・修正した本。
個人的に高知県物部村における「いざなぎ流」の呪詛の事例が興味深い。
科学趨勢の現代で、村の「ケガレ」(例えば病気とか災害)を「ハラウ」ために呪詛「すそ」儀礼を在村の「太夫」(呪術者)に依頼して行っていることに驚く。
主な内容は、「祓い」の視点から見たら「呪い」は人の心性に関わる「穢れ」の一種と捉えられている。
要は誰もが「呪う心」を生み出し、その心を浄化するために「呪詛」を行ったりしていたとされる。
(「呪うパフォーマンス」=心の浄化作用)
『古事談』みたいな三次史料を歴史的考察に活用してるなど若干の問題もあるが、
史料や文学作品、聞き取り調査で集めた内容はまさに日本呪詛史の嚆矢でしょう。 -
Posted by ブクログ
古本で購入。
民俗学者にして妖怪研究の大家・小松和彦が少年向け雑誌に連載した、妖怪たちの「身上調書」をまとめたもの。
酒呑童子や玉藻前、天狗につくも神…登場するのはどれも有名な妖怪ばかり。
彼らにまつわるエピソードだけでなく、その誕生や描かれ方の背景にも(ざっくりとではあるけど)踏み込んでいる。
人間世界の逆写しとしての妖怪世界、宗教の宣伝素材としてやっつけられる妖怪たち。
このあたりの要素にニヤリとしてしまう人にぴったり。
著者自身が「時間が不足した後半は不満が残る」と言うように、大嶽丸・橋姫の2編は確かにちょっとやっつけ感が漂う。
でも概説本としては、原著の出版が約20年前とは言え、結構いい。
小松さんには、2009年に開催された国立歴史民俗博物館・国文学研究資料館共催の「百鬼夜行の世界」展でお会いしたことがある。
まぁ会ったと言うか、ギャラリートークをする氏の話を間近で拝聴したっていうだけなんだけど…
丁寧な話でわかりやすい解説だったが、その際
「『百鬼夜行絵巻』は妖怪たちのパレードと言えるのか。絵巻という装置のせいでそう見えるのでは」
という説を披露しておられた。
ところが、この本では『百鬼夜行絵巻』をパレードであると言い切っている。
きっと執筆後の研究で、そうしたそもそもの部分に対する疑問が生まれたんだろう。
こういう学説の変遷を見るのも、研究者の古い本を読む楽しみのひとつかも知れない。 -
Posted by ブクログ
この本では怪異的な伝説の類が収集され、テーマごとに論じた文章が集められている。たとえば一つ目小僧や、人間に化ける魚や鰻、白鳥に化身する餅、巨人など。
一つ目小僧に関しては、隻眼の神のイメージが変容して妖怪化したものだろう、と柳田は結論づける。
これはいいが、他の文章は読み進めていくと、どうも解釈−結論づけが恣意的のそしりを免れず、学問(科学)としてあまり緻密な検証が完遂されていないような気がした。『海上の道』は特にそうだったが、確かな証拠が少ない中で、あまりにも飛躍的に仮説へと進んでしまうような危うさを感じてしまうのだ。
だがこのことは、開拓者としての柳田国男の価値を損じるわけではない。フロイトと同様、たどりついた「仮説」に幾つもの問題があったとしても、すべての人に先んじて革命的な思考をまっとうしたという事実が、彼の歴史的な偉大さを明らかにしている。
おまけに柳田国男の文章は相変わらず随筆風で、膨大な知見が柳田という主体の中で結びつき、からみあい、ゲシュタルトとして醸成されていく様子が読んでいて彷彿とされるために、柳田を読むことはわくわくするような読書体験をもたらしてくれるのだ。
本書は妖怪じみた伝説を集めたということで、一般に興味もひくし、やはり、何よりも楽しめる一冊だった。 -
Posted by ブクログ
神隠しを否定するでも無く科学的に検証する一冊。
コミュニティの維持のためになされた殺人(口減らし等)、狂気に駆られた人間の行動、そして失踪といった陰惨な事実をかくすヴェールとして、神隠しを提示する。神隠しのエピソードは紋切り型のイメージが多いが、そのような言説から要素をピンポイントで取り出し分析する方法は面白かった。また、人を隠す神として、天狗、狐、鬼などを個別に考察しているところも興味深い。
こどもの頃、親から「夕方になると人さらいが現れる」と言われ早々に帰宅したものだけど、大人になった今でも「神隠し」とはちょっと怖く、妙に惹かれる言葉だ。 -
Posted by ブクログ
なぜ「神隠し」は夕暮れに起こることが多いのか、季節は春が多いのか。体験者にこども、女性が多いのは?
文中でも何度か言及されていますが、私も「神隠し」という言葉のミステリアスさに惹かれる日本人の一人。だからこの本を手に取ったわけですが。
「神隠し」という言葉が次第に使われなくなっていったのは、日本人が「神」を信じなくなったからと冒頭著者は言います。正確には、起こった事象に対して人々が神秘的な何かのせいにするのではなく、合理的な理由を求めるようになったから。で、数々の「神隠し」を扱った民話や言い伝えから、その背景に起こった事実を分析し分かりやすく解説してくれます。