ダフネ・デュ・モーリアのレビュー一覧
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1951年作。
とても充実した、良い小説だった。
なにしろこのところ『聊斎志異』や江戸時代の草双紙集を読んでシンプルな「物語」の楽しさを味わい、次いで西村京太郎さんの今風のスカスカな小説世界を『スーパー北斗殺人事件』でざっくりと走り抜けてきた私は、本書のページをめくりたちまちにして<西洋近代小説>の重厚で濃密な文学世界に放り込まれたのだった。
主にサスペンス系、すなわちエンタメ・サイドの作家と思われるだろうが、このダフネ・デュ・モーリアの文学作品は恐ろしく緻密に描き込まれた心情や情景が鮮やかな、エモーショナルに充実した作品世界なのである。この音調は、西欧19世紀後半の後期ロマン派の調性 -
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イギリスはコーンウォールの原野に建つ元宿屋の館「ジャマイカ・イン」は、建物も住む人も禍々しく謎めいていた。
若き女性が孤独の身となって、叔母が住むその館に頼よるしかなかったのだから、叔母が息も絶え絶え、叔父が荒くれ男で、災禍がおこるのもやむなし、けれども自立心の強い女性であるゆえ、危険がせまっても、冒険をせずにはいられない、避けられない。なるべくして謎と暴力との目まぐるしい展開になるのを、息もつかせず読まされるのであった。
コーンウォールの荒々しい風景描写と心理描写が巧みでグッと引きつけられ、設定は19世紀なのに現代をも彷彿させる困難な女性自身の自主独立へのあがきは心強いものがある。
『レ -
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19世紀半ば、イギリスはコーンウォールの領地にある古い館で、両親を亡くした主人公フィリップ(わたし)は従兄アンブローズに育てられた。
教育を授けてくれ、領地の管理、小作人達の面倒をみながら暮らす領主の生活を身に付けていった。ゆくゆくは領主という肩書きと莫大な財産を受け継ぐ身の坊ちゃまとして。
ところが40代になった従兄アンブローズは転地療養のためイタリアに度々出かけるようになり、ある年、レイチェルという女性と結婚してしまい、急逝してしまった。
わたしは従兄アンブローズを父と思い兄と思い、愛し愛されて穏やかに暮らし誰にも邪魔されずにいたのだったから、彼の妻となったレイチェルに猛烈な恨みを抱 -
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ヒッチコックの映画「レベッカ」の原作者として有名なデュモーリア。
「レベッカ」と双璧をなすといわれる作品です。
フィリップは、幼くして両親を失い、年の離れた従兄アンブローズに育てられます。
時代は19世紀。ひろびろとした荘園で、独身男ばかりの気楽な暮らし。
フィリップも成人した後、イタリア旅行に出かけたアンブローズはかの地で出会った女性レイチェルと結婚。
ほどなく病で世を去ります。
衝撃を受けたフィリップは、レイチェルを恨み、怪しむ。
訪ねてきたレイチェルを迎え撃とうという勢いでしたが、小柄でおとなしやかな美しいレイチェルに、あっという間に魅了されてしまいます。
微妙に態度を変えるレイチェ -
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ダフネ・デュ・モーリアといえば、「レベッカ」「鳥」などの恐怖を煽るような小説の名手。
モーリアの、あまり有名でない作品。とはいえ、映像化はされているそうです。
時代は19世紀の初め頃、舞台はコーンウォール。
メアリーは、母と二人だけで農場をやっていたが、母が亡くなり、叔母のペイシェンスの元へ行くことになります。
叔母は、夫と共に旅館を経営しているという。
ボドミン・ムーアという荒野の真っただ中に建つ「ジャマイカ館」、そこは…
叔母はすっかり変わってしまい、顔色が悪く、おどおどしていた。夫であるジョスは荒っぽい大男で、夜になれば不審な輩が大勢集まってくる。
とうてい若い女性が住むようなところ -
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1966年、1970年、1971年に出版された原著からセレクトして訳出されたデュ・モーリアの短編集。
やはりこの作者の文体は濃く、なかなか巧みに書かれており、それを辿ってゆく読書体験は一種の「充足」である。このような「充足」を感じさせる文章といえば、久生十蘭を思い出す。それは単純なパロールの流れというよりも、よく寝られたコンポジションだ。
そんな完成度の高いデュ・モーリア文学だが、本書のうち、巻頭の「いま見てはいけない」はオチが弱くて、そこに至るまでは秀逸なだけに惜しいような作品だった。
最後の「第六の力」はSF小説。こんなものも書いたのかと驚いた。1編のSF短編として、ちゃんと水準に -
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イギリスのポドミン・ムーアという荒野の街道にポツンと立つジャマイカ館(実在していた旅館)。そこに巣くう荒くれ男たちに立ち向かう勇敢な女性メアリーの冒険物語。
彼女は母が亡くなったことで叔母ペイシェンスが住むジャマイカ館に身を寄せるが、建物は寂れ果てていた。夫であるジョスは荒くれ者の大男、叔母は昔の面影はなくやつれ、いつも怯えていた。そして、夜になると集まる不審な男たち、不気味な物音、酔っぱらっては異様に怖がるジョス。
うら若き女性なら普通は、怯え縮こまるところだが、メアリーはジョスに立ち向かったり、彼と他の男たちとのつながりを暴こうとする。ジョスの跡を追って原野をさまよったり、命の危機にも遭遇 -
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ネタバレ最後のオチが「え、そっち!?」だった。
レイチェルの趣味が『園芸』と聞けば、ミステリー好きにはピンと来そう。
レイチェルの人物描写が実に見事。読みながらうっかり私も恋しちゃった。
主人公フィリップのウブさもまた見事!こういう男性いる!作者はいつもどんな風に他者を観察してるんだろう。
実は、ルイーズにもう少し頑張って欲しかった。これからリベンジが始まるか!という時に物語が終わってしまって、少し物足りなかった。でも人によっては「語り過ぎないからこそ」なのかな。
でもさ、彼女は毒婦なのかそれとも…ってあったんだけど、普通の常識と礼儀貞節を知る女性なら亡き夫の実家に何ヶ月も居座らんだろう。愛だから