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従兄アンブローズ――両親を亡くしたわたしにとって、彼は父でもあり兄でもある、いやそれ以上の存在だった。彼がフィレンツェで結婚したと聞いたとき、わたしは孤独を感じた。そして急逝したときには、妻となったレイチェルを、顔も知らぬまま恨んだ。が、彼女がコーンウォールを訪れたとき、わたしはその美しさに心を奪われる。二十五歳になり財産を相続したら、彼女を妻に迎えよう。しかし、遺されたアンブローズの手紙が、想いに影を落とす。彼は殺されたのか? レイチェルの結婚は財産めあてか? せめぎあう愛と疑惑のなか、わたしが選んだ答えは……もうひとつの『レベッカ』として世評高い傑作。
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Posted by ブクログ
1951年作。
とても充実した、良い小説だった。
なにしろこのところ『聊斎志異』や江戸時代の草双紙集を読んでシンプルな「物語」の楽しさを味わい、次いで西村京太郎さんの今風のスカスカな小説世界を『スーパー北斗殺人事件』でざっくりと走り抜けてきた私は、本書のページをめくりたちまちにして<西洋近代小説>の重厚で濃密な文学世界に放り込まれたのだった。
主にサスペンス系、すなわちエンタメ・サイドの作家と思われるだろうが、このダフネ・デュ・モーリアの文学作品は恐ろしく緻密に描き込まれた心情や情景が鮮やかな、エモーショナルに充実した作品世界なのである。この音調は、西欧19世紀後半の後期ロマン派の調性音楽を思わせる。さらに言えば、このほとんど過度なまでに書き込まれた描写の重さ・そしてある意味「まどろっこしさ」は、セザール・フランクの交響曲のそれに似ている。もちろん20世紀半ばの本作なので、「遅れてきたロマン主義者」「頑なな伝統主義者」に分類されることだろうが。
本作のような濃密な情緒性と「まどろっこしさ」は、現代の、スピードを至上のものと据える情報消費社会の読者には「重苦しくてつまらない」「読むのに時間がかかりすぎる」等といった不評の種となることだろう。どこまでもgraveなこの文学世界を味わい尽くすには、現代人の心は多忙に過ぎることだろう。
本作は20代男性の「わたし」の1人称として、その眼前に現れる謎の女性(絶対他者としての異性)レイチェルの実体を掌握しようともがくその焦燥感の物語である。女性の作家が男性の視点を通して、女性という謎を追究するという倒錯したこの構図は、素晴らしく上手くいっている。ナイーブなタイプの主人公男性をよく捉えており、その心理描写は濃やかで実にリアルだ。
圧倒的な心理描写のストリームに「他者」レイチェルの像がちらつき、近づき、遠ざかり、やがて破局へと向かう。本当に後期ロマン派音楽の圧倒的クライマックスを思わせる。
ここでは肉も情感も過剰であり、その過剰さによる息苦しさがそのまま、この文学世界の価値となっている。かけがえのない値打ちのある小説と思う。
Posted by ブクログ
19世紀半ば、イギリスはコーンウォールの領地にある古い館で、両親を亡くした主人公フィリップ(わたし)は従兄アンブローズに育てられた。
教育を授けてくれ、領地の管理、小作人達の面倒をみながら暮らす領主の生活を身に付けていった。ゆくゆくは領主という肩書きと莫大な財産を受け継ぐ身の坊ちゃまとして。
ところが40代になった従兄アンブローズは転地療養のためイタリアに度々出かけるようになり、ある年、レイチェルという女性と結婚してしまい、急逝してしまった。
わたしは従兄アンブローズを父と思い兄と思い、愛し愛されて穏やかに暮らし誰にも邪魔されずにいたのだったから、彼の妻となったレイチェルに猛烈な恨みを抱く。
レイチェルがフィレンツェからコーンウォールの館に訪ねてきた。
田舎くさい一途な青年と、洗練された魅力的な女性。
従兄アンブローズの疑惑に満ちた手紙と、必然的にやってきた恋のせめぎあい。『わたしが恋した女性は従兄を殺したのか?』(帯)
もうひとつの「レベッカ」と帯にある。同じようにそくそくと迫ってくるようなミステリの醍醐味、やはり一気に読ませる。
「レベッカ」もそうなのだが、冒頭のうまさ。結末の以外さ。
『人生はあともどりできない。引き返すことは出来ない。やり直しはきかない。』余韻が残る。
Posted by ブクログ
ヒッチコックの映画「レベッカ」の原作者として有名なデュモーリア。
「レベッカ」と双璧をなすといわれる作品です。
フィリップは、幼くして両親を失い、年の離れた従兄アンブローズに育てられます。
時代は19世紀。ひろびろとした荘園で、独身男ばかりの気楽な暮らし。
フィリップも成人した後、イタリア旅行に出かけたアンブローズはかの地で出会った女性レイチェルと結婚。
ほどなく病で世を去ります。
衝撃を受けたフィリップは、レイチェルを恨み、怪しむ。
訪ねてきたレイチェルを迎え撃とうという勢いでしたが、小柄でおとなしやかな美しいレイチェルに、あっという間に魅了されてしまいます。
微妙に態度を変えるレイチェルに翻弄されるフィリップ。世間知らずですからねえ‥
レイチェルは果たして悪女なのか‥?
クリスチアナ・ブランドの「領主館の花嫁たち」を読んだ後、似たテイストのものをもっと読みたくてたまらなくなって。
こういう話の大御所ともいうべきデュモーリアならいいかな、と。
堪能しました。
雰囲気たっぷりで、レイチェルの姿が目に浮かぶよう。
引き込まれて、あっという間に読めます。
いまや古典的な作品なので、ある意味ではシンプルなのですが、レイチェルの態度とフィリップがそれをどう解釈していくかというあたりが、何とも上手い。
じわじわと盛り上がっていく~そして、最後のスリリングな展開、この集中させっぷり、さすがです。
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