グレッグ・イーガンのレビュー一覧
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ここに、ひとの感情を固定させることのできるインプラントがあるとしよう。インプラントは鼻孔に挿入された後、脳まで一直線に掘りすすみ、そこから放出されたウイルス大のロボットが適切な処置を施してくれるのだ。もちろん痛みはない。
さて、ここで質問。あなたは夫婦間、あるいは恋人への愛情を例えば倦怠期による磨耗から守るために、このインプラントを使用するだろうか。
テクノロジーの発展がもたらす社会的道徳や価値観の変容。本書は、まだ変容を受け入れきれていない社会を舞台に、倫理と欲望の葛藤、そして思わぬ落とし穴を描く作品がちらほら。現代SFの最高峰グレッグ・イーガンの短篇集は全7篇収録。
テクノロジーの発展 -
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いやあこれは意外。前作の「白熱光」がガチガチのハードさだったので、おそらくまたわからんだろうけど頑張って読むもんね!と鼻息荒く読み出したら、おっとっと、なんだか雰囲気が違う。若干途惑いつつ、そうだよ、ここのところ文系読者にはキビシイのが続いてたけど、人の心に繊細に分け入るドラマ性の豊かさもまたイーガンの持ち味だったよね~とずんずん読み進め、本を置いた今はしみじみとした満足感の中にいる。やっぱりイーガンは最高だ。
何よりも意外だったのは、本作には度肝を抜くようなSF設定がないことだ。人間の脳をスキャンしてヴァーチャルな存在を作り出すというお話ではあるが、「ディアスポラ」でその突き抜けた形を差し -
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ネタバレ小学校の理科の時間に、口の粘膜を綿棒ですくって顕微鏡にかける実験があった。接眼レンズを覗くと、本当に教科書で見たような細胞があった。
「祈りの海」の主人公が覚えた衝撃は、そのときの記憶に似ているかもしれない。
地球とは別の海の星で、主人公の「ぼく」は暮らしている。幼いころにある体験をして、それ以来大いなる女神の存在を信じている。しかし、成長した彼が自らの研究で判明させたのは、その体験が単に微生物の排泄物がもたらす幻覚だったという事実だ。
信じていたものから神秘的な(俗悪な)ヴェールを剥ぎ取られ、主人公の拠り所は一気に瓦解する。
発想の点では、「誘拐」の、「人の心の誘拐」が一番刺激的だった。 -
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ネタバレどうやって人間をサイバー空間に送り込むか? という問題については、つまりこの順列都市の「スキャン」って方法で解決できちゃうのかも。身体構造をまるごと写しとって、仮想世界に用意した真っ白いインテリアの部屋にぶちこめばいい。魂というものがない限り、人間はそれで問題なく動くかも。
この小説で面白いのは、その「スキャン」の発想と、ダラムの展開する「塵理論」。なんだけど、その解釈が難しいのでこれが塵理論かな? と思うのを二つ書いておく。
塵理論その①
主人公の一人であるダラムは妻によって一度仮想世界を体験し、自身をコピーと思い込んだ。その結果、「ベッドで眠る自分」と「コピーとしての自分」という二つの -
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最近(一部で)超話題のウルトラハードSF『ディアスポラ』を読破!!「近年のSFでは最高」だとか、「イーガンの頂点の一つ」だとかの評価があったので、ずっと読みたかったんですよ。
グレッグ・イーガンって人はすごい作品を書くのはわかってました。『万物理論』は難解ながらもとんでもない方向に行っちゃうところが刺激的だし、『しあわせの理由』や『祈りの海』なんかは「技術とアイデンティテイ」という問題を考える上で重要な事柄を扱ってて興味深い。とにかく、いまホットな人なんですよ!(力説)
『ディアスポラ』の評判は聞いてたんですが、近くの本屋になかったので、いままで読んでなかったのです。この前、渋谷による用事 -
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グレッグ・イーガンのソフトな人々が描かれたハードなSF作品です。
人類の多くが肉体を捨て、意識をシミュレートできるコンピュータ上に生活環境を移した世界で、問題に直面した人類の外宇宙への進出が描かれます。
そして、ハードなSFだけに、その辿り着く果てである結末も、ハードボイルド(煮詰り過ぎ)です。
<そんなに簡単に、ヒトが身体を捨ててコンピュータに移り住むの?>
”私”という意識は、身体ではなく、脳内の電気的、化学的な変化自体でもない。
脳内の電気的、化学的の変化が、連続的な意味のある変化の場合に、生み出される現象…雷とか風とかと変わらない…と思われる。
同様の変化が起こるなら、例え機械であっ -
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1997年発表、グレッグ・イーガン著。仮想現実都市ポリスに住む、ソフトウェア化した人類。ソフトウェア化を拒み、肉体を保ったまま地球で生きる肉体人。地球を襲う天文学的危機をきっかけに多次元空間へと逃れた人類は、遠くの星へクローンを飛ばす「ディアスポラ」を開始する。その果てに未知の生命体と接触する。
とんでもない小説だった。全力で理詰めだ。ストーリーの流れは何となく分かるのだが、冒頭の孤児ヤチマが生まれるシーンなどはまだしも(このシーンが個人的には一番面白かった)、幾何学やワームホール、多次元の話など、大学で物理科や数理科を専攻でもしていないと完全には書かれていることを理解できないに違いない。 -
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ネタバレ上下巻あるうちの「下巻」。こちらに入ると俄然話が進んで一気に面白くなる・・・のだが、最後の半分は「順列都市」内の話になって、いきなり数千年ほど時間がたったりしてしまい、そこにいくともうSFと言うよりはファンタジーになってしまう。
最初読んだ時にはエリュシオンと塵理論の話がさっぱりわからず(というか最初からわかる人は皆無だろう・・・)解説しているサイトを色々読んで、二回目をようやく理解。わからなかったのは、エリュシオンを動かしているハードウェアを停止しているのに「なんで数千年もエリュシオンは動き続けるのか?」ということ。。
で、これを理解する・・というか解釈するためには塵理論が必要なんだけど -
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ネタバレタイトルからは全く内容を想像することが出来ないSF。上下巻に分かれており、上巻だけでは全く話をつかむことが出来ないし、どこに着地するのかを想像することもできない・・・・。
あらすじはこんな感じ。
近未来、人類は神経系を全てスキャンすることで、肉体がなくなった後もコンピューター上に「データ」として生き続けることが出来るようになった。コンピューター上の人格は現実とコミュニケーションをとることもできるし、企業に干渉することもできる。ただし、コンピューターを動かし続けるには資産が必要であり、それを手もっていないものはゆっくりとしか時間を過ごすことが出来ずにいた。
主人公の女性プログラマーはそのような -
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特に携帯メールの予測変換の進化ときたら、あまりにもすばらしいものだから、面倒なメール返信のときにはついつい予測で表示される単語をそのまま繋げて送ってしまったりする。・・・でも、これって、本当に「ワタシ」が送ったメッセージなんだろうか。私の介在は最小限であり、携帯がメッセージを作ったと言っても良いのではないだろうか。
こんな風に日常を取り巻くさまざまな事象が進化していくと、これまで当たり前だった「境界」がものすごく曖昧になる。どこまでが「自分」で「自分の意思」なのか、「生命」とか「人」と認識されるにはどんな条件が必要なのかとか、「選択した現実」と「選択しなかった現実」の差異とか。
・・・なんてこ