尾崎真理子のレビュー一覧
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石井桃子(1907-2008)、編集者・翻訳家・作家としていくつもの時代を駆け抜け、101歳で亡くなった。本書は、1994年以降の取材(とくに2002年の5日間にわたる集中インタビュー)をもとにした充実の評伝。読んでゆくと、その人脈の凄さ・豊かさに圧倒される。
くまのプーさんとの出会いのくだりは、何度読んでも感動的だ。24歳の時、石井は和漢書の整理の手伝いのため犬養家に出入りするようになる。犬養毅は彼女を気に入った。しかし首相になり、そして暗殺。石井はクリスマスに失意の犬養家に行き、そこでプーの絵本を発見し、子どもたちにそれを読んであげるのだ。犬養毅や5・15事件がプーさんに関係しているとは! -
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2006年に行われ、テレビ放映もされた連続インタビューを再構成し編集・追補された「推敲された」インタビュー。尾崎氏が大江のことばを引き出す役に徹したことで、細密に描き込まれた作家・大江健三郎の自画像ができあがっている。文庫版には「後期の仕事」三部作を書きおえたあと、2013年の対話も収録されている。
全体を読み終えて、あらためて大江の勤勉な読書家であり勉強家であることが印象に残った。谷崎潤一郎にも似たようなことが言えるが、研究対象が自分よりもどう考えても知識教養に優れている場合、研究者はいったい何をすればよいのだろうか。
強靭な記憶力、とくに自身に対する批判をよく覚えていることにも驚かさ -
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大江作品が凄いのは勿論だが、全小説(「夜よゆるやかに歩め」は未収録だけど)を網羅・総覧できる、素晴らしい一冊本。
しかも必要にして十分なあらすじと、時代の説明、同時代のリアクションから、2020年の今だからこその評まで。
巨大な山脈の、微細なミニチュア模型。
目次
◆はじめに
■第01章 よろしい、僕は地獄に行こう!
奇妙な仕事/他人の足/死者の奢り/石膏マスク/偽証の時/動物倉庫/飼育/人間の羊/運搬/鳩/芽むしり仔撃ち/見るまえに跳べ/暗い川 おもい櫂/鳥/不意の唖/喝采/戦いの今日/部屋/われらの時代
──初期作品群その1
■第02章 惨憺たる青年たち
ここより他の場所/共同生活/上機 -
Posted by ブクログ
この夏読んだ「働くわたし」の中にブックガイドがあって、そこで紹介されていた石井桃子、いや幼い日の記憶にある、いしいももこの評伝です。かなり厚めの文庫でしたが圧倒的な面白さ。ご本人の山荘のある軽井沢でのロングインタビューをベースに新聞記者ならでは取材力と推論の組み立て、要点を明確にする簡潔な文章で、「くまのプーさん」「小さなおうち」「ピーター・ラビット」などの翻訳、あるいは「ノンちゃん雲に乗る」などの著作で児童文学の巨大な最高峰である石井桃子の101年の人生を大きく描き出しています。「しゃべりすぎた」「聞きすぎた」「生きている間は書かないように」というように本人の中だけの箱をあける作業も含めて、
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石井桃子といえば、私にとっては『くまのプーさん』の本に載っている名前という印象。そういえば『ちいさいおうち』にもその名前が載っていたかなあという印象。「ももこ」という響きから何の根拠もなくおっとりとした人物を想像していたけど、実像はむしろ頑なな人だったよう。
戦前から児童文学の世界では名を上げつつあり、それだけに戦時中は国策に協力するようなこともあったようだが、そのときの反省がその後のひとつの原動力になったのだろうと思う。その一方で、戦後は東北に移り仲間と開墾に励むなど、児童文学にとどまらず新しいことに臆せず飛び込むような感じもある。それはある意味、独立した人間ならではの勝手さのようなところも