木村榮一のレビュー一覧

  • 黄色い雨

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    ネタバレ

    たったひとりで、過疎化した村の終わりを見届けた男の話だった。孤独に死に向き合う語りが胸を打つ。
    主人公は死ぬまでの果てしなく思える年月を過ごしたあと、死んでからの真に果てしない時をも過ごしている。荒廃した村に流れる時間が、まるで止まっているような錯覚を引き起こし、不思議な体験ができた。
    主人公の生まれ育った土地であるし、戦争から息子が帰ってくる、娘の墓があると思えば移住が選択肢に入ってこないのもやむを得ない。生活があったかつての村の姿を知るだけに孤独感は増すと想像できる。サビーナの自死、雌犬の最期は特に深い悲しみが襲ってきた。
    現在と過去と未来のすべてが主人公の記憶の中で一体となり、最後はただ

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    2025年10月30日
  • 黄色い雨

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    ①文体★★★★★
    ②読後余韻★★★★★

     こちらは廃墟、廃村が主な舞台となっている小説で、一人の男の死を村の消滅にかさねて描かれています。
     語り手はその男による死者の視点。これが不思議な設定で、彼の回想や死に行く過程が語られています。その孤独のなかで生と死の境界が淡くなり、昼と夜の境が無くなっていくのが読んでいて感じます。季節の移り変わりとともに朽ち果てていく家や村、はなれていく人、死に行く人。ポプラの枯葉とともに降りしきる黄色い雨。深い沈黙の中に消えていく記憶。
     この何とも退廃的な状況を詩人である著者の透明感溢れる文章で綴られているのがとても印象的でした。そこには死が漂っているのにもか

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    2022年10月29日
  • 黄色い雨

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    ネタバレ

    ・文体の美しさ。
    ・簡素な舞台と、奥深さ。
    ・不吉さ。
    ・幽霊。
    ・雌犬の存在。
    ・悲しくも優しいまなざし。
    ・異文化。
    出会えてよかった本。



    以上は、2012年、ヴィレッジブックス単行本初読時の、きれぎれの感想。
    以下は、10年経って2022年5月、河出文庫で再読しての感想。
    文庫版では短編をふたつ(「遮断機のない踏切」「不滅の小説」)収録。

    まずは、初読後10年、本書を思い出すたびに脳裏に描かれていた、カバーイラストの美しさについて。
    ニコラ・ド・スタール(露: Сталь, Никола де、仏: Nicolas de Staël、1914年1月5日 - 1955年3月16日

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    2022年05月23日
  • 謎ときガルシア=マルケス

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    「百年の孤独」で有名なガルシア=マルケスの生涯、作品の紹介とラテンアメリカ文学、歴史を含めて論じたエッセイ。ガルシア=マルケスはノーベル文学賞を授与された作家で、ラテンアメリカの人々を描いた作品は、緻密でオリジナリティーがあり大変人気がある。
    若い頃から苦難の連続だったが、チャンスを捉える能力もあった。 コロンビアは、政治の堕落が激しくて、日本人の感覚では耐えられないような世界だ。著者は、明治維新の頃の日本を例えながら、ガルシアマルケスの置かれた状況を説明する。 彼が生み出した作品群の執筆経緯、時代背景、物語のモチーフとなった事件など様々な考察がされていて、この本を読むとガルシア=マルケスの作

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    2022年01月01日
  • 黄色い雨

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    寂れゆく村に一人取り残される老人。
    圧倒的な孤独と寂寥感が漂う、散文詩のような幻想譚。
    木村榮一の訳が素晴らしく、硬質で乾いた文章と絵画的な世界観に魅了された。

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    2021年08月09日
  • 黄色い雨

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    「遮断機のない踏切」「不滅の小説」のスバイス加味もあり、すぐ読める厚さながら、受けた衝撃はただならぬ初体験。

    男は生きてるか否か 定かでない。
    降りしきる黄色い雨がその境を作るわけでもない。

    境界はどうでもよくなり、存在を証明する物質の手触り、重量、臭い、色すら感覚としての埒外。

    ポフラの木は死の象徴とされるスペイン~そこからくる黄色。

    繰り返し、読み、自分の生きていることを確認させてくれるような気になった。

    マルケスの「百年の孤独」に似た空気感。中南米の作品はあまり読んで来なかっただけに、もっと読みたくなった。

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    2020年09月11日
  • 黄色い雨

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    すとん、と、心が落ちていきます。
    周囲にひたひたと、孤独が満ちていきます。
    黒い闇のようで、でもそれは黄色い雨です。
    スペインの山奥の棄てられつつある村で、最後の男はどこから、この世のものでは無くなったのかわかりません。
    自分の最期も、こんな風にひとりで、じわじわと彼方側との境がわからなくなるのかな。
    とてつもない空気でした。孤独と哀しみは、近いようでそうではない気がします。
    後編ふたつの狂気も好きでした。列車の通らなくなった線路で、踏切に遮断機をおろし続ける男。創作に没頭して妄執にかられる男。

    小説だけど詩のようでした。
    これからも読んでいきたい作家さんです。

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    2020年05月12日
  • 語るボルヘス 書物・不死性・時間ほか

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    美しい言葉、秩序立った言葉で、親密に語るボルヘス。
    著作はあんなにも中心のない、めまいのする、読み手などいない、一方的な印象なのに、語る言葉は明白で、揺らぎが少なく、対話的、了解的だ。

    以下、雑駁な印象記。
    書物(それを読む人はそれが書かれてから、その時までの全ての時間を読む)
    不死性(ソクラテスの最後)
    スヴェーデンボリ(神を、天国と地獄を明晰に書く)
    探偵小説(これには驚く。秩序のない時代に唯一の秩序が探偵小説)
    時間(無限の考察)

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    2019年07月26日
  • 黄色い雨

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    何と美しい退廃であろうか、と、読後に本を閉じたまま、暫し呆然としてしまった。

    まるで叙情詩のような手触りだったと思う。文章の流麗さということがまず一つ、その要因として挙げられるだろう。
    それから、語り手が自らの心象風景を一人称で独白する文体である、ということも効果的だと感じた。読み返して気付いたのだけれど、会話文のカギカッコが一つもない。語り手以外の人物のセリフというものがそもそも一つしかないのだけれど、それも語り手の内言語にいつしかすり替わって、その独白の一部になってしまう。つまり外言語を排除することで語り手の内面に焦点が向くように仕掛けられているのかもしれない。
    「彼ら」という言葉の暗喩

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    2017年06月04日
  • 黄色い雨

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    花ちゃんに出会ったばかりの頃におすすめして貰った本を、六年越しに見つけた。snowdropに売っていた。時間はかかるけれど、僕は忘れない。

    黄色のことを真剣に考えたことがなかったと気付かされた。見過ごしてきた。この作品では、死に近しいものとして描かれている。そこに付随する懐かしさや風化してゆくさまなどと共に。
    黄色というと、稲穂の実りや夕暮れのきらめきなどを想像する。黄色とは僕にとって一瞬間の光景であったのかもしれない。だからこそこの作品で段々と黄色に染まってゆく村の景色が新鮮で、それが死という永遠に向かってゆく道程がうつくしかった。

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    2024年08月12日
  • 黄色い雨

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    朽ちていく村に一人残った男。彼が生きているのか死んでいるのか、境目が曖昧に溶けていく。音もなく降る雪のような感触の文章にいつの間にか引き込まれていった。

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    2021年06月25日
  • 黄色い雨

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    百年の孤独の舞台マコンドを想起させられる。
    嵐のように畳み掛けるが如く滅び去るマコンドではなく、
    じりじりと時間を費やして滅ぶマコンド。

    時間を費やすというとうよりも
    無時間、時間感覚の不確かさ。
    男は、いつ死んだのか定かではない。
    生と死の境もあやふやであり、
    たしかなことは村が滅びること、家も人も土に帰ること。

    短い小説だが、言葉の密度と緊張感を徹頭徹尾、
    維持している事が素晴らしい。

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    2019年08月17日
  • 語るボルヘス 書物・不死性・時間ほか

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    ベルグラーノ大学で行われたボルヘスの講演記録です。
    幻想的な小説で知られる著者の世界観と、脱帽するほどの知識量に圧倒されます。
    哲学的であり神学的であり、論理的・科学的でもある語りに魅力を感じました。
    また、ボルヘスの本を読みたくなる一冊。

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    2018年09月23日
  • 謎ときガルシア=マルケス

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    ネタバレ

    『百年の孤独』を読んだのはもはや20年も前。ラテンアメリカ文学も「魔術的リアリズム」も馴染みがなく取っ付きづらかったのだけど、あるタイミングを過ぎたらまったく読むのを止められず、文字通り「気づけば朝」だった。その時理解できなかったこと、知らなかったことが平易に書かれていて、死ぬ前にはもう一度『百年の孤独』を再読したいと強く思わされた一冊。

    長い時は数十年もマルケスの頭の中に生き残り、熟成された出来事が小説として昇華されてくるプロセスには感動。

    ちょっと繰り返しのネタが多いのはご愛嬌。長い時間書き溜め・温めてきた原稿なのかな。

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    2015年09月30日
  • ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件

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    ボルヘス好きなのだが、うーんこれは面白……みを感じづらかったな。
    というのも、パズラー式に情報の提供と解明が行われるわけでもなく、依頼人がダラダラと喋りまくり、パロディが推理、というよりは「説明」していく。
    申し訳ない、ほとんど流し読みになってしまった。
    「簡潔なご説明をお願いできますか」
    「はい、一切の隠喩を差し挟むことなく直截な表現を試みてまいりますが、私のごとき描写の才に欠けた者の見聞きしたことで本当にお眼鏡にかなうものでしょうか、ところでウェルギリウスの同伴者でもあったかの才に長けた作者の言葉を借りれば」云々、
    みたいなお喋りキーワードが時々出ていて、そこを探すのが面白かった。

    解説

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    2024年12月28日
  • ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件

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    大作家2人の共作、しかもミステリーということでワクワクしながら読んだのですが、割と難解で読むのに時間がかかってしまいました。

    身に覚えのない殺人の罪で服役中のドン・イシドロ・パロディのもとに様々な依頼人がやってきて話をし、彼が独房から出ることなく事件を解決していく連作短編集。

    とにかく相談者たちがみんな饒舌。大袈裟な話し方をしたり、見栄を張ったり、脱線しまくったりで、肝心の事件の全貌が分かりづらいのです。各短編は事件編と解決編に分かれているものの、事件を解決するのを楽しむというよりかは彼らのお喋りをどれだけ楽しめるか(耐えられるか)、みたいな感じの作品でした。

    収録されいる中では電車の話

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    2024年12月18日
  • 黄色い雨

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    感想
    死と触れ合う。恐怖もなくただ親しみだけが残る。朽ちていく自然の中に回帰する。その諦念は昔手放したもの。やっと戻ってきた。

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    2023年06月10日
  • リャマサーレス短篇集

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    自分もかなりの田舎に生まれて、地理的に人間が偏屈になったり、偏った情報が正義!みたいな気持ちはわかる。日本も同じように山川あるり、閉鎖的なベクトルの角度が日本と似ているような気がするんだよねー。そんなことをしみじみ思う程、この短編種は牧歌的というか、田舎くさいというか、思ってたのと違うというか。人と違うことをするのは勇気がいる。ホームで電車待ってる時に傘を差すとかさばるので持参タオルをかぶるとか。でも田舎って比べる対象の人間が少ないからその機会もないんだよなー。虚無感もある(別に田舎の本ではない)

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    2023年02月28日
  • リャマサーレス短篇集

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    ネタバレ

    待ちに待っていた本。
    手に入れた瞬間、うわー装丁素敵だな、と。
    ざっくり言うと、
    ・あるシチュエーションに落ち込んだ人物を描写するシニカルでブラックなユーモアに満ちたコント。
    ・いまや失われた人や時代への愛惜。
    の2種類。
    私が求めていたのはもちろん後者。
    だがほどよく前者もありバラエティ豊かで、決して詩的小説だけではないという作家の多面性を感じることのできる、いい一冊。
    あと、当事者以外の息子娘世代が、上の世代を思うという形式も、短編らしい一ひねりでいいスパイス。

     @

    ◇読者へ

    ◇Ⅰ『僻遠の地にて』1995の短篇集 7篇
    ■冷蔵庫の中の七面鳥の死体 ……シニカルの極致。
    ■自滅的なド

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    2022年06月20日
  • 語るボルヘス 書物・不死性・時間ほか

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    本編は全129頁。1978年ブエノスアイレスの大学で行われた連続講義の記録。
    人に伝えるためにボルヘスを日本人で例えると誰になるのだろうと考えたが、うまく説明できず。ベクトルは違うけど立花隆?
    書物、不死性、エマヌエル・スヴェーデンボリ、探偵小説、時間 それぞれのテーマで横軸だけでなく縦横無尽に智の巨人が語ります。

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    2020年01月21日