まずは、初読後10年、本書を思い出すたびに脳裏に描かれていた、カバーイラストの美しさについて。
ニコラ・ド・スタール(露: Сталь, Никола де、仏: Nicolas de Staël、1914年1月5日 - 1955年3月16日)という画家の作品らしい。
ロシアで生まれたがロシア革命を逃れ欧州方々に移り最終的には自殺したんだとか……。
ただ黄色い絵ということではなく、ちゃんとした文脈がありそうだ。
古屋美登里が豊崎由美との対談で類推していわく、訳者である木村榮一が某新潮社や某白水社に持ち込んだにもかかわらず門前払いされたあと、ソニー・マガジンズの海外文学に積極的な編集者に辿り着いた結果、出版にこぎ着けたのだろう、と。
その(想像の中の)編集者に感謝。
このカバーイラストを選んだもその編集者なんじゃないか(と勝手に想像を重ねてしまう)。
また今回は連想を拡げながら読み返せたのもよかった。
・2014年に読んだ、フアン・ルルフォ「ペドロ・パラモ」1955。墓の下からの語り……コマラという町そのものの……と、いつ死んだか判然としない語り手の一人称と、は重なり合っている。生者と死者の境界は曖昧なのだということ。
・幽霊の語りという点で、2017年デヴィッド・ロウリー「A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー」も。
・ビクトル・エリセ「ミツバチのささやき」などの風景。
・やや無理矢理だが、押井守「天使のたまご」の、窓のこちらと向こうという構図も。
・前回読んだときは読後ネットで探すことをしなかったが、今回いろいろ検索してみて、なんと作者自身が(本当に実在した)アイニェーリェの跡を訪れた動画を見つけて……胸塞がる思い。それこそアナ・トレントが成人して「ミツバチのささやき」の舞台を訪れたときの映像に近い。