池内恵のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
うちの両親はカトリックで、毎週必ずではないにしても日曜日は教会でミサを受けるのが幼少期の常識だった。長じて、科学的思考に親和性を持ち、SFなんか読みふけっていた少年にとって信仰の相対化はたやすいことであったが、それに先だって子供心にまず疑問に思ったのは、ミサのあとの集会で「布教しましょう」とか言っているのに、両親がちっとも布教しないことだった。
教義を守ってねえじゃねえか。ということだが、では厳格に守るとどういうことになるのか、というと、原理主義となるのである。
本書によると、「イスラーム国」は何ら新しいコンセプトは出しておらず、ムハンマド時代に確定された教義、つまり世界のイスラム教徒の常識に基づいた主張をしているのだという。それもものすごいこじつけ解釈というわけではなく、イスラム教徒なら誰でも知っているような、あるいは正面切って反論できないような教義に基づいて自己の行動を正当化しているだそうだ。この辺はイスラーム教に明るくない平均的な日本人にはピンとこないところだろう。
例えば、「カエサルのものはカエサルへ」と一応は政教を分けるキリスト教、異教徒による支配を諦めているかの感があるユダヤ教と異なり、イスラームはムハンマドが多神教徒を武力で倒してイスラーム法の国を作ったということが教義の中心にある。「アッラーの道のために」という目的にかなった戦争がジハードであり、それへの参加がイスラーム教徒一般に課せられた義務である、というのはイスラーム法学上、揺るぎない定説である。よって、イスラームの民が異教徒に支配されているとか、イスラーム教が危機にあるという認識があれば、ジハードに身を投じなければならないというのが、アル=カーイダから「イスラーム国」までの論理である。
イスラーム教ではムハンマドの正統的な後継者がカリフである。「イスラーム国」の指導者バグダーディーがカリフを宣言するのもまたイスラームの常識に則って世界中のイスラーム教徒の盟主であると宣言しているわけである。もちろんそれに同意するイスラーム教徒は少ないが、イスラーム統一国家への夢をかきたてるという意味で支持する者が出てくるのだ。
しかも「イスラーム国」ではやはり聖典のハディースによって、世界の信仰者と不信仰者の全面対決が起こるという終末論的な教えを唱えている。いまこのようなテロ集団が生じたことは、オスマン帝国崩壊後のアラブ世界の分割やイスラエルの建国など欧米の勝手な振る舞いに端を発するという批判は正しくとも、非信仰者であるわれわれ日本人は「イスラーム国」に滅ぼされるべき敵であるということも認識しておかなければならない。
よって筆者は「神の啓示による絶対的な規範の優位性を主張する宗教的政治思想の唱導」を日本の法執行機関と市民社会がどこまで許すか許さないか、確固とした基準を示さねばならないと述べる。
こうしてみていくとイスラーム思想は大変危険な思想ではないかと思う。上記の思想は過激派の思想というわけではなく、穏健なイスラーム教徒も広く受け入れている教義だからである。もちろん危険視は西欧的価値観のもとにある日本の思想的な現状からみた限りのことかも知れない。しかし結局われわれは何かに価値観の基盤をおかねばならない。そのとき最大公約数的に受け入れやすいのは、民主主義や自由主義のイデーしかないだろう。われわれがイスラーム法を受け入れるわけがないからであり、「イスラーム国」が奴隷制を復活するのを許すわけにはいかないからである。
そこで筆者は「イスラーム国」が呈示する過激思想を世界のイスラーム法学者が反論できるような宗教改革をしなければならないのではないかと述べる。
本書の論点は「イスラーム国」成立に至る思想的・政治的な流れ、その実情、今後の中東情勢の見通しなど多岐にわたり、たいへん勉強になった。ただ、中東の今後の見通しを読むだに弱者が踏みにじられていくのだろうと思わざるを得ない。 -
Posted by ブクログ
2014年に日本人がシリアで拉致されて斬首され、その衝撃的な映像で存在を世界に知らしめた「イスラム国」の正体を書いた本。
欧州では、イスラム国の存在は日本にいるよりずっと身近であるが、日本に住む著者がここまで書くのはすごいと思う。
アルカイダと何が違うのか、など謎の部分を丁寧に簡潔な文章で説明してある。中東情勢を知るのに一番分かりやすい本ではないだろうか。
まとめると、イスラム国は2011年の「アラブの春」により中東諸国の政治基盤が緩んだ環境で、ジハードを呼びかける過激派が、シリアとイラクの無統治地区で勢力を広げて発生したものらしい。また、代表者がメディアで宣伝をしたアルカイダと違い、地下組織的なネットワークで個人単位で活動しているケースも多い。
斬首映像がいかに心理的効果を考えて工夫して作られているかや、オレンジの囚人服が意味するものなど、本書で初めて知った。読んでよかった。 -
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読んで下さい
メディアの皆様に是非とも読んでいただきたい一冊です。特に報道にたずさわっている方は是非是非読んで下さい。お願いします!これを読んでからというものニュースを見るたびにハラハラしております。
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Posted by ブクログ
本書は、中東政治を専門とし
現在は、東京大学准教授である著者が
現代中東政治について論じた著作です。
主要な新聞、テレビニュースのほか
学術誌や学会での発表、個人的な体験をもとに
近年のの中東・イスラムの主要なトピックスについて
評価・分析を加えます。
取り上げられるのは
イラン、イラクはもちろん
イスラムへの対応にゆれるヨーロッパ諸国
ソマリア、東南アジア、そして中国など
日本のニュースでも取り上げられる話題なので、
特に予備知識がなくても、読みにくさは感じません。
また、わかりにくい国際法や政治学などの用語もほとんど登場せず
具体的なエピソード中心に論じられることが、読みやすさを増します。
欧米における多文化主義・寛容と価値観の闘争
アフマディネジャドの挑発的な言説の真意
欧米とイスラムに対する、日本ならではの戦略
など、どの記述も興味深かったのですが、
著者がモスクを訪れた際に肌で感じた空気を皮切りに、
フィリピンの現政権とイスラム社会の緊張を論じた箇所や
ゲーツ国防長官の『ミネルヴァ・コンソーシア』を取り上げた箇所は
とりわけ印象深く、より深く知りたいと感じました。
書かれた順に従って読むのもよいでしょうが
個人的には、何気なく開いたページをパラパラと読む方が
いっそう長く、深く付き合えるように思います。
幅広いトピックスを論じながらも
統一的な評価・分析を知ることができる本書。
アルジャジーラ等をチェックしている方はもちろん、
国際問題等に関心がある方には、強くおススメしたい著作です☆☆ -
Posted by ブクログ
宗教感が希薄な日本人にはシーア派とスンニ派対立と聞くと、教義の対立と思いがちだが、そんな単純な構図でなく、その時の解釈や勢力図で協力するしないを繰り返してきたのが中東の混迷。今のイスラエル政権(主張は異なるが政権取るために手を組む)と同じに見えた。
また、著者の説明は、どの派にも偏る事なく冷静に、かつ裏の面の解説をしていて興味深かった。シーア派(ムハンマドと嫁、父等)の家庭事情、サウジ皇太子+ユダヤ人学者スポークスマンの反イラン広報活動等。
レバノンの政治制度は宗派の人口で割り当てられるが、これだと数の論理で、人口が少ない宗派は常に不利。しかし、少数派のシーア派は、移民で国外へ出ていかないし、出生率も高いのでいつの間にか多数になったというのも面白い。
アラブの春のうねりはSNSから。しかし、イスラームの文化や価値観は変わらなかったのか。この著が出てたのが2018年。今2026年、アメリカがイランを攻撃した。明らかに国際法違反で。中東大混迷なんて言ってる場合でない。 -
Posted by ブクログ
世の中で起きていることを調べていくとなにかと背景に宗教が絡んでいるようなことが多いなぁと思っていたのですが、詳しくないので知りたくて本を探していた時に見つけたこちら。
三宅香帆が毎日新聞だかで書評を書いたと聞き購入
まえがきが私には難しくて、教養としての宗教入門という別の新書を読んでからこちらを読んだ。
スイスイ読めた、面白かった。
特に、アメリカ、中国、ヨーロッパの宗教と今の世の中の話が面白かった。
シオニズムって言葉も恥ずかしながら初めてちゃんと知った。
宗教を守るために人生や命をかけるような暮らしをしていないので、生まれ育った土地や環境をもってヒトはこんなにも違う人生となるのかと改めて驚いた。
所詮ヒトが作った世界なんだけど、これをヒトが作ったのかと思うと恐ろしいなぁと思った。 -
Posted by ブクログ
いくつかの章からなる宗教についての講義。その中でも特に自分が気に入ったのは、「宗教と経営は互いに学び合える」というタイトルの章でした。経営と宗教の類似点の説明に始まり、経営者が創業書の理念について末端の従業員まで浸透させる手法はまさに宗教のそれと類似している事について共感しました。そして一見不可解な政治判断や軍事行動が実は宗教観に基づいているものだと気付かされた一冊。宗教が政治に影響を与えている事例を西洋、東洋問わず解説してくれている良書。書評者によって内容の分かりづらさ、読みやすさに差はあるが、それがかえって偏らずに読めたのも良かった。
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Posted by ブクログ
ウクライナ戦争についてのジャーナリスト的な本はたくさんでていて、どれも役にたつものだが、これは一味違った視点を与えてくれるものであった。
東京大学出版会からの本で、主として東大の教授などが中心となって執筆した論文集。
ロシアの侵攻に対する国よって異なる考えがあることがさまざまな地域の専門家が冷静に分析してある。
複数の視点をもつこと、価値観を共有することが難しい多極的な世界をどう理解するか、どう捉えるか。
と言っても、価値ニュートラルな相対主義的な世界にとどまることは、今回の戦争は倫理的に許されないという感覚がある。
そのあたりをしっかり考えるのに役にたつ。