池内恵のレビュー一覧
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イスラム国等、中東情勢の混迷は続いている今日ですが、これは何も今始まった出来事ではなく、過去から続く問題が同じような形のまま現れているに過ぎないということを理解すること。それによらなければ、今日の状況を理解することが出来ません。その状況に「サイクス=ピコ協定」がどんな役割をはたしているのか。それを理解するためには、負の側面だけではなく、これが上手く利用され、この地域の混迷を一時凍結したことも知る必要があります。本書では、中東地域に渡る複雑な情勢について、ポイントとなる点を章ごとに詳しくまとめられています。一つ一つを丁寧に整理することにより、何が起こっているのかの見取り図が、かなり明るく見渡せるようになると思います。そして、複雑さは問題になりやすいのですが、安易に簡単な解決を行うことは悪であり、慎重さと対話がいかに重要であるかを考えさせられます。
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イスラーム国の衝撃というタイトルにあるように、何が衝撃だったかといえば、以下の部分に端的に描かれている。
「『カリフ制が復活し自分がカリフである』と主張し、その主張が周囲から認められる人物が出現したこと、イラクとシリアの地方・辺境地帯に限定されるとはいえ、一定の支配地域を確保していることは衝撃的だった」(14頁)。
さらに、「既存の国境を有名無実化して自由に往来することを可能にした点も、印象を強めた。既存の近代国家に挑戦し、一定の実効性を備えていると見られたからである」(14頁)とあるように彼らは「挑戦」をしたのだと、つまり新しい展望を切り開くかのように見えたこと。
そのように見えたことが重要である。
なぜならそれは「現状を超越したいと夢みる若者たちを集めるには十分である」からだ。
また、メディア戦略とその卓抜さも指摘される。「『イスラーム国』は…少なくとも『ドラマの台本』としては、よくできているのである。ラマダーン月の連続ドラマに耽溺して一瞬現実を忘れようとするアラブ世界の民衆に、あらゆる象徴を盛り込んだ現在進行形の、そして双方向性を持たせた『実写版・カリフ制』の大河ドラマを提供した」。(19頁)
こうした戦略は「イスラーム世界の耳目を集め…それによって一部で支持や共感を集め、義勇兵の流入を促がし、周辺の対抗勢力への威嚇効果を生んでいるとすれば」(19頁)、その効果は単なるPR以上にイラクやシリアでの戦闘や政治的な駆け引きでも有効だと指摘されている。
そしてこうした「イスラーム国」はどこから現れたのだろうか。基本的には「2000年代のグローバル・ジハード運動の組織原理の変貌を背景にしている」(34頁)。ここでいう組織原理の変貌とは2001年の9・11事件以降の「対テロ戦争」によってアル=カーイダという組織が崩壊したためである。これは「『組織なき組織』と呼ばれる分散型で非集権的なネットワーク構造でつながる関連組織の網を世界に張り巡らせ…アル=カーイダの本体・中枢は、具体的な作戦行動を行う主体というよりは、思想・イデオロギーあるいはシンボルとしての様相を強めた」(34頁)ことによる。米国によるアル=カーイダへの攻撃に伴い、「それに共鳴する人員と組織は生き残り、新たな参加者を集め、グローバル=ジハード運動が展開していった」(45頁)。この運動の展開を、以下のように筆者は四つの要因として指摘している。
「(一)アル=カーイダ中枢がパキスタンに退避して追跡を逃れた。
(二)アフガニスタン・パキスタン国境にターリバーンが勢力範囲を確保した。
(三)アル=カーイダ関連組織が各国で自律的に形成されていった。
(四)先進国で『ローン・ウルフ(一匹狼)』型のテロが続発した。
」(45頁)
(一)及び(二)はパキスタン、アフガニスタンという国家機構の脆弱な地域において組織の回復が行われたことを指摘している。これは今のシリア、イラクと似たような状況に陥っていた地域、つまり国家機構の脆弱性を突く形での勢力範囲の拡大ともとれる。一方、(三)(四)は「フランチャイズ化」と呼べるようなものであるが、これも様々な形での脆弱な部分を突く形である。特にインターネットを介しているという点が目新しいといえばそうだ。
この本が刊行された時期はイスラーム国の衝撃が盛んに唱えられていた。そのイスラーム国誕生までの経緯は2000年代の9.11テロおよびイラク戦争を背景に、90年代のジハード主義者の国内テロ路線から対米およびグローバル路線への転換、80年代の冷戦構造下における対共産圏への対抗馬たるアフガンゲリラへのアメリカの支援等、イスラームの歴史として捉えるだけでなく、冷戦構造を支え、その後の唯一の超大国となったアメリカと関連する歴史上の産物でもある。もちろんその特性が宗教的特性と無関係ではない。
しかし、私にとってのこの「衝撃」は現状の支配的な価値観、つまり近代ヨーロッパ的な様々な枠組みに対しての極端な相対化とそれを行う実効力があった事は間違いない。
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高校世界史で「帝国主義列強の理不尽の象徴」として学ぶサイクス・ピコ協定。旧オスマン帝国の領土を、そこに住む民族に全く配慮せず英仏(露)で線引きして植民地化。しかし著者はその捉え方は(間違っていないとしても)一面的と考える。
まず以って、サイクス・ピコ協定はそのままの状態ではほとんど発効していない。著者は、むしろそのあとのローザンヌ条約、セーヴル条約への短期間の変遷の意味に着目する。詳細は略するが、要は列強も(自らのエゴは当然ありつつも)何はともあれ「つかの間の平穏」をのぞんだのであり、その時々に優勢だった勢力の主張を追認する形で次から次へと条約を改定していったのだ(次々と支配権を確立した少数民族に配慮したローザンヌ、それを平定して統一国家となったトルコに配慮したセーヴル)。
「・・・この三つの協定・条約には、それぞれに別個の根拠があり、それぞれに異なる難点を抱えている。これらの協定・条約は中東の問題の原因というよりも、むしろ、オスマン帝国の崩壊後に中東の社会が抱えた困難な条件に対して提示された、三つの異なる対処の方法なのである。三つの協定・条約は、中東問題の困難さを、それぞれに示している。これら三つの協定・条約と、それが結ばれた経緯の中に、近代の中東に国家と国際秩序を形成するという、今もなお結論の出ていない問題への、これまでの試みの成功と失敗がいずれも含まれている」(P.46)
今現にシリアで起きている大規模な難民問題を少しでも立体的に理解したいと思う人々にとって、必読の書と思う。 -
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サイクス=ピコ協定を銘打って、池内先生が書かれているので、面白そうと思い手に取りました。
冒頭で池内先生が指摘されているように、サイクス=ピコ協定は大国による密約で悪でしかないもの、と私も思っていました。悪ではないわけではないですが、オスマン帝国崩壊に際して、1つの「解決策」として考えられたものだという視点を本書によって得られました。
皮肉なことにアラブの春によって、再び中東が混迷する中、欧米が手をこまねいている間にロシアが進出してくるという、100年前と同じような構図ができている、というのもなるほど、というお話でした。
国民国家を前提とした国境の線引き、というのはかなり破綻した考え方だと最近とても感じていますが、では中東の国々はどのような形になると中東の人々にとって”最善”といえるのか、本書を読むことでますます難しい問題に思えてきました。 -
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「オスマン帝国なんてぶっ潰して、あいつらの領土を山分けしよう
ぜ」とイギリスが持ち掛けて、「そりゃいい考えですな、旦那」と
フランスが合意したのが1916年のサイクス=ピコ協定である。
その協定の詳細な解説かと思いきや違った。私も現在の中東の
混迷を考える時、この協定を頭に置いているのだが、著者はこの
協定だけが本当に中央混迷の根源なのだろうかと疑問を提示し、
中東の歴史や地政学、複雑に交錯した民族模様や国家間の関係
を解説した書だった。
サイクス=ピコ協定単独ではなく、セーブル条約・ローザンヌ条約
の3つをセットとして考えなければならぬと著者は説く。もうここで
躓きましたよ。私はセブール条約とローザンヌ条約を調べるところ
から始めなければならなかったもの。
確かにサイクス=ピコ協定がすべての根源だとするには、この協定
内容がすべて守らていなければならない。でも、それ自体が無理。
だって、子供が考えても「それは無理だろう」っていう約束ばかり
しているのだも、イギリスは。
サイクス=ピコ協定の前年、「アラブ人の国を作るのを認めてやる
からこっちの味方になってトルコと戦え」とメッカの太守であった
フサイン家との約束である、フサイン=マクマホン協定があるで
しょう。
そうしてサイクス=ピコ協定の翌年には「ちっ、戦争にお金がかかっ
て財政がピーンチ。あ、ちょっとお金貸してよ。貸してくれたらパレス
チナに住んていいよ」と、ユダヤ人コミュニティのリーダー的存在で
あったロスチャイルド家と約束したバルフォア宣言があるでしょう。
「うわ、どれも守れないわ。しゃあない。新しい条約作って線引きしな
おそう」で、セーブル条約とローザンヌ条約が出来たのね。って、こん
な理解でいいのか、私は。
イギリスにしてみたら自分たちは痛くも痒くもないから、どんな無理な
約束でもしたんだろうけれどね。でも、やっぱりこの三枚舌外交は
問題が多いと思うんだよね。
百年の呪縛は解けるどころか益々混迷を深くしているように思える。
ただ、本書で著者が書いているように難民が流出していることで
少数民族の問題がある程度解決に向かっているという面もある。
本当はあってはいけないことだけれど。
結局は力でしか状況は変えられないのかな。アメリカとロシアの仲介
でシリア内戦の、2度目の停戦合意が取り付けられたのはつい先日。
それなのに、反政府勢力の地域にロシア軍が空爆だよ。
大国の思惑に翻弄されるのは、いつも一般の市民なんだよね。どれ
だけ血が流れて、涙が流れたら和平が訪れるのかな。
読んでいて余計に出口が見えなくなってしまったので、私はやっぱり
イギリスの三枚舌のせいにしたくなったよ。 -
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9.11アメリカ同時多発テロ以降、各メディアで言われるように
なったイスラム過激派またはイスラム原理主義者という言葉。
世界各地で起きたテロのニュースを見ながらも、どこかで日本
には無関係だと思っていなかっただろうか。過去には日本人が
人質になったこともあった。殺害された日本人もいた。
だが、日本も無関係ではなくなったのがイスラム国による
邦人ふたりの拘束・殺害事件だったのではないか。
あの事件以降、イスラム国に関する書籍がいくつか出されて
いる。既にジャーナリストの常岡浩介氏の著作を読んでは
いるのだが、もう少し歴史的背景から知りたいと思って
選んだのが本書である。
感情を廃し、実に冷静にイスラム国の成立からその背景に
あるもの、彼らが行う報道活動、外国人戦闘員の有効な
使い方を解説している。
ただ、読み手の私の知識不足で十分には理解出来ていない
部分も多い。
結局はアメリカの中東政策の失敗だったのか?湾岸戦争以降、
アメリカは中東に自分たちの都合のいい政権を作ろうとした。
それがことごとく失敗している。統治能力がなかったり、
アメリカが手を引いたそばから暴走したり。
部族、民族、宗派の対立。そして、抑圧された一部の集団が
権力の隙をついて支配を広げて行く。
「ビンラディンを殺害しても、第二・第三のビンラディンが
生まれるだけだ」と言った人がいた。
もし、アメリカがアサド政権と手を組んでイスラム国殲滅に
成功したとしても、似たような組織はまた生まれて来るのでは
ないだろうか。
中東が安定するには国境線を引き直すしかない?まさかね。 -
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イスラーム国の背景、来歴、特徴をイスラーム政治思想史と政治学の視覚から分析。イスラーム国について知るのに最適の一冊。
イスラーム国の衝撃のポイントして、全イスラーム教徒の政治的指導者になることを志向していることを示すカリフ制を宣言したこと、領域支配を行っていることを挙げている。
イスラーム国の成立・発展の背景として、思想的要因(グローバル・ジハード、アル・カイーダのフランチャイズ化)、政治的要因(アラブの春)を指摘している。
そして、イスラーム国には、独自のイスラーム思想を打ち出しているわけではないところに特徴があり、一定のイスラーム教徒から支持される可能性があるとしている。
日本とイスラーム国の関係については、左翼思想の代替としてのイスラームに警鐘をならしている。 -
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新しい職場であるNGOの先輩に薦められた本。現在のシリア難民の経緯を紐解く一助になる、サイクス=ピコ協定の経緯と詳細、そしてこの協定がいかに現在の中東情勢に影を落としているかを簡単に説明した本。セーブル条約による細かい民族や宗派へのトルコ領の割譲とローザンヌ条約によるトルコ国民主義を反映した国境線の策定を経て現在の中東があるが、情勢不安を抑制する手は果たしてあるのか。協定の話以外にも気になる三文字団体、PKK・PYD・YPG・KNCなどが簡単に説明されており助かった。領土を広げたいロシア、クルド独立を抑制するためシリア情勢を混沌のままにしておきたいトルコ、ISを抑えるために「テロ集団」を支援するアメリカなど、各国の思惑が錯綜する中での難民問題解決は気が遠くなる程難しい事を痛感した。結局害を被るのは一般市民なのに。
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トルコ・シリアを中心に、第一次大戦から現在までの中東情勢を「サイクス・ピコ協定」「露土戦争」「東方問題」「難民」等を切り口に読み解いていく。時系列に事情を追うよりもかえって個々の事象の連関をクリアに浮かび上がらせることに成功しており、地図の豊富さとも相まって理解しやすい。イスラエル史を思い切って切り捨てたのも奏功していると思う。何より140頁程度と短いのが良。
著者はサイクス・ピコ協定以前と現代の情勢の異同について、西欧のアラブ諸国に対する相対的優位性の低下を指摘しているが、現代では西欧側が様々な不都合を押し込めておいた中東という「壁」が決壊したとの表現は言い得て妙。人権保護が不十分と批判しつつも、自らに影響がないうちは抜本的解決を望まないというご都合主義も限界に来たということだろう。同じく壁のこちら側で安穏としていられた日本にとっても、最早対岸の火事ではない。
サイクス・ピコ協定が中東の一時期を切り取った断面図に過ぎないことがよく理解できる本書だが、ではなぜこの題名が採用されたのか。恐らくは本文にあるように「わかった気になるマジック・ワード」なるがゆえに、専門家にとっても「題名にしたくなるアイキャッチング・ワード」でもあるのだろう。 -
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いゃぁ、難しい。いろんなことが複雑に絡み合って今があり、ISILを生み出したことはわかった。しかし、結びにも書いてあった通り、ISILは根絶することはできない。世界はこれから彼らとどのように共生していくんだろうか。
しかし、知りたいのはISILはどうしたいんだろうか?ほっといてくれ、なのか世界征服なのか?後者であれば抗戦すべきだし、前者であれば本当にほっといた方がいいんじゃ無い?とはいえ、ここまでグローバル化している世界で、全く付き合いを断つことは困難だろうね。
理解できないことを理解することをこれからの世界はできるんだろうか?
疑問しか思いつかない…
そして、結局のところISILの正体は書かれていなかった。コアとなる物事かわ無いのだろうね。 -
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ISILにもそれなりの理屈があり、やっている行為は
到底私たちには容認出来ないものであるにしろ、
ある一定のイスラム教徒の人や、他宗教の新しい
政治原理やパワーバランスを求める人を惹きつけている
という事実は、今も変わっていない。
その、それなりの理屈とはどんなものなのか。
めまぐるしく変化するニュースの情報は、
センセーショナルな事象だけが残って
何がどんなふうに変化しているのか
誰がどうなっているのか
諸外国がどう噛んでいるのかが整理できないまま
置いて行かれる。
この本は出版されてから時間が経っているが
出版された時点までの、こういう疑問を明確に
してくれる。
イスラム教徒の人たちの国の中で、宗教がどんなふうに
機能しているのか。訳の分からない怖い組織としか
見えないISILにも、いろんな考え方や蓄積があった
事がわかる。
それを踏まえて、この本以降の起きた事象を
新聞などから追って、自分なりに図式にして
みたりすると、ニュースの解説番組以上に
深読みできたり考えたりさせられる。
あそこから抜けたい人が殺されたり
新たな標的としてテロが強行されることが
すっぱりとなくなればいいのに。
紛争や武装の力でこれ以上いろんな事態を
こじらせるより、一旦武器を置き
リセット!と言えればいいのだろうけれど…
人間って意外と拘る生き物なのでそれが出来ない。
世界はどこに行くのだろう。ね。