池内恵のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
昨年は日本人人質を殺害するなど話題になり、最近では報道の量も減ってきたが、いまだに中東の一角で猛威を振るっているいわゆる「イスラーム国」(この呼称にも議論はあるが、ここでは書名にもあるこの呼称で統一)について書かれた新書。「イスラーム国」に限らず、広く中東問題全般については、何度報道を見てもどうにも理解できない印象が強く、関聯する書物を繰り返し読んでおかなければとかねてから思っていたところ、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞や「新書大賞2016」第3位の報が折よく聞こえてきたため、今回は本作をチョイスしてみた。読んでみるとなかなかわかりやすく、なるほどその高評価も頷けるわけであるが、とりわけよかった点は、長年の個人的な疑問が完全に氷解とまではゆかないにせよ、大部分が解消されたこと。それはつまり、なぜイスラーム教徒の過激派ばかりがそういった行動に走るのかということ。世界中のあらゆる宗教には当然狂信者というべき存在があり、じっさいに古今東西で事件を起こしてはいるのであるが、イスラーム教過激派ほど世界じゅうでテロリズムに走ったり、長年紛争を続けたりといった行動を起こしていない。キリスト教の信者のほうが人口的には多いはずで、それなのになぜこういう事態となっているか、個人的にずっと疑問であったのだ。本作のタイトルは『イスラーム国の衝撃』であるから、この疑問に対する100%の回答はもちろん書かれていないのであるが、それでも「イスラーム国」が既存の教義や権威をたくみに利用しながら勢力を拡大していったことが書かれていて、中東地域における過激派の同様に活潑な活動についても、おそらくおなじであろうと得心がいった。宗教学者ではないから断定的なことはいえないが、イスラーム教はほかの宗教と比べて信仰心が篤く、また信者間の紐帯が深いから、過激派思想にも簡単に染まってしまうのではないであろうか。これはあるいはほかの局面においても使える論法で、なにかに対するこだわりが強ければ強いほど、それを間違った方向に誘導しやすくなる。つまり、「イスラーム国」はなにも中東固有の現象ではないのかもしれない。世界中に警鐘を鳴らすという点で、本作を読めたことはじつに有意義であった。
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出口治明氏の著作の中で勧められていたことから興味を持ち、読んでみた。
アラブ社会の根っこにある思想を、アラブ世界の著作物等を読み解く中で明らかにしていく。
イスラーム主義=楽観的(理想的社会と現実のギャップを埋める必要性を認めない)で排外的(イスラーム的なものと外来的なものを区別し、後者にアラブ世界の問題点を一方的に帰責する)なもの。
これらは、『コーラン』や『ハディース集』自体には、社会や制度に関する規範が具体的に示されていない一方、イスラーム教徒は、「イスラーム=教徒の全生活を規定する包括的システム」であると信じており、多様な要素を「イスラーム的」なものとして構想できることから生じている。
本書が出版されたのは2002年であり、イラク戦争、アラブの春、ISILの台頭等には当然触れられていないが、現代のアラブ思想(前記イスラーム主義や、イスラーム教がもとより胚胎し、現代でも流行する終末論)が抱える問題点が、これらの事態にも深く関係していることがよく分かる。
アラブ・イスラーム入門としておすすめ。
第9刷にしてわずかながら句読点にミスがあったのは気になったが、難解な記述なども無く、とても読みやすい文章。 -
Posted by ブクログ
70億もの人間がいれば、一般人には理解できない異常な行動をとる人がいても不思議はないし、広い世界ではそういう人たちが組織化することもあるだろう。イスラーム国についてなんとなくそう思っていたが、事実はそんな単純な話ではない。
2011年の『アラブの春』から、2001年の9.11から、1991年の湾岸戦争から、さらには1919年の第一次世界大戦後からもその萌芽を見ることができる、連綿と続く中東の歴史問題の一面が、イスラーム国の登場だ。
大戦終結後、多くのアラブ諸国は不安定な王政からクーデターにより安定した軍制へ移行した。しかし、当然のように腐敗した軍制国家の一方は、資金の確保のため親米派となり、それに対抗する形で成り立つ反米派は、軍備を増強した結果、戦争により崩壊した。しかし、親米派にしてもその腐敗を発端にして『アラブの春』が起こり、一時的に宗教性の薄い民衆派が政治を担うこともあったが、多くはその統治能力の無さから崩壊した。そうしてできた空白地帯を占拠したのがイスラーム国だ。
それが単なる火事場泥棒を狙う盗賊集団であれば、いくら空白地帯といえども勢力の拡大に限界はあっただろう。だが、イスラーム国にはその名の通り、イスラム国家としての覇権を夢見る宗教的意義がある。
王政、軍制、民主制に失望し続けた人々が唯一すがることができるのが宗教だけだとしたら。また、その人々が暴力の歴史に慣れさせられていたとしたら、異教徒の奴隷化、斬首処刑、種々のテロ行為が『異常な行動』ではなく、『歴史の延長』であり『宗教的に正しい行為』とさえ見えても不思議はない。
こうして歴史を学んでも、『自分がイラクに産まれたとしても、イスラーム国には組みしない』と言える人はいるだろうか。
過去、強固な国家システムに変革を与えることが出来たのは戦争だけだったが、過去の戦争の結果が今の状態なのだとしたら、一体何が出来るのか。行動経済学、社会心理学、分子生物学、そして数多の科学技術の先に、答えが見つかる日が来るかもしれない。 -
Posted by ブクログ
著者の池内さんは、長年、中東地域の政治や、
イスラームの政治思想を研究をされていて、、
なんて風に書くと、一見とっつきにくい感じですが、
非常にわかりやすく、丁寧にまとめられています。
当初、池袋のジュンク堂で探していたのですが、
新書にしては珍しく売り切れていて、地元で発見しました。
そういった意味では、ちょうど時節に合致しているのかなと。
その内容は、第1次大戦後の秩序形成からイラン革命、
湾岸戦争、9.11テロ、そして「アラブの春」。
この辺りをざっと俯瞰しながら、
イスラーム社会の質の変容をまとめられています。
キーワードは“グローバル・ジハード”、
明確な指導者を持たない拡がり、とはなるほどと。
興味深かったのは、こちらと前後して読んでいた、
『新・戦争論』や『賢者の戦略』とシンクロしている点。
アンダーソンの言う“遠隔地ナショナリズム”とも関連する、
“新しい国家”のカタチなのか、どうか。
ん、個人的には“イスラーム法学”が、
次のキーワードとして、気になっています。 -
Posted by ブクログ
アラブ社会の現代史を簡単にまとめながら、二つに分かれていった思想の潮流を読み解く。
非常に読みやすく、わかりやすかった。
こうして二つに分かれた思想は理どちらも行き詰まり、終末論や陰謀史観が出現する。
終末思想が人々の心をとらえたり、求められたりするようになった、要因を思想史として見る上でわかりやすく、興味深かった。
しかし、この閉塞感や袋小路に陥った理由を思想の問題で言い表すのは、限界があるように思えてならない。
閉塞的になる原因は、エジプト庶民の多くが感じている経済的事情にあるように思える。つまり一向に良くならない雇用問題や貧富の格差の増大などである。
それらはこの本が出てから10年たった今でも、根本的には変わっていないように思える。 -
Posted by ブクログ
[ 内容 ]
なぜ今、終末論なのか。
なぜ「イスラームが解決」なのか。
学術書からヒットソングまで渉猟し、苦難の歴史を見直しながら描く「アラブ世界」の現在。
[ 目次 ]
序 アラブ社会の現在(狭まる世界認識 悪化する世相)
第1部 アラブの苦境(「一九六七」の衝撃―社会思想の分極化 「人民闘争」論の隆盛 パレスチナへの視線 ほか)
第2部 高まる終末意識(終末論の流行 セム的一神教と終末論 『コーラン』の終末論 ほか)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ] -
Posted by ブクログ
日本人はというか少なくとも私は「政治と宗教は別物」と考えていたが、アメリカ(特にトランプ支持層)では、宗教的な信念がそのまま選挙の投票行動に直結している。トランプ人気は単なる一時的なブームではなく、根深い宗教の世界観とつながっており、ロシアやインドなどでも、宗教は昔の古い習慣などではない。いま現在の「国を強くするための国家戦略」として、リアルタイムで激しく利用されている。
一番ハッとさせられたのは、私たち日本人の話である。日本人はよく「私は無宗教だ」と言うが、実際には「先祖を大事にする」「世間の空気を読む」といった、独自の「見えない宗教」にどっぷり浸かって生きている。
本書の内容を分かりやすく例えるなら、世界と日本では「ゲームの遊び方」が全く異なる。
全くの別物だ。これを頭の中で理解できた途端に現世界情勢の解像度は一気に上がった。
世界の宗教(アメリカや中東など)は「ルールブック型」。
反対に、日本の宗教は「暗黙の了解型」。
明確なルールブックはない。しかし、「みんなで長年なんとなく共有している空気」があり、その空気を乱すことは絶対に許されないという強力な縛りがある。これまで私たちが「文化やマナー」だと思っていたものの正体は、この日本人特有の「空気という宗教」だったと捉えた。
宗教を学ぶことは、特定の神を信じるためではない。「世界でいま何が起きているのか」「なぜあの国はあんな行動をとるのか」という、国際社会の裏事情を読み解くための必須の教養だった。
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Posted by ブクログ
ある意味、強権国家の支配者にとって統治に邪魔な民族を追い払い、均質な住民構成とする方が支配は安定する
→難民を流失させることは政権維持のための合理的判断
難民問題は欧米の有力メディアに報じられ、世論喚起により初めて国際政治上の問題として注目されるようになる
西欧諸国の中東諸国への批判(中東の政治的自由の不在、人権侵害、民主化の遅れ)
独裁政権の民族主義(反欧米、反イスラエルの排外的スローガン)喚起
→多様な国民(言語・宗教宗派の多様なコミュニティ)を一方向 に向け、統制する有効な手段
アラブ諸国やトルコがその背後の地域からの難民を人権や自由の理念から疑わしい手法で受け入れてきた
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西欧諸国はそれを非難するが、第二次世界大戦後、かっての植民地から大量の難民の波に襲われることなく、紛争の影響を受けることなく、経済発展に必要な移民のみをある程度選択して受け入れることが可能であったのはこれらの諸国が難民の防壁となっていたこともまた事実。