あらすじ
謎の「国家」の正体に迫る
イスラーム国はなぜ不気味なのか? どこが新しいのか? 組織原理、根本思想、資金源、メディア戦略から、その実態を明らかにする。
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Posted by ブクログ
ISは一見、信者からすると目から鱗のような新しいことを言っているのだと思っていたが「新しい思想を提示することへの無関心こそがイスラーム国の特徴」とあって、今まで知らなかった事実を本書に教えられた。
ムスリムが一般的に信じているか、あるいは強く反対はできない基本的な教義体系から要素を援用している。
ISの特徴はメディア戦略。ビデオにおいてはハリウッド並みの技術を持つ。映像における構成もしっかりしており、人々が目をそらさず、思わず見てしまうような演技、演出をしている。
表立って欧米人を使うことで話題性を作っている。組織が大きく見えがち、噂されがちのため、本当の実態はもっと小さい可能性がある。
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イスラーム国(IS)について解説する一冊です。なぜ中東の情勢が不安定で、この地域でイスラーム国が台頭したのか?本書を読むとその背景がだんだんと浮き上がってきます。イラクを筆頭に米国の武力によって民主主義が破壊されてしまったという事実が中東地域をさらなる混乱に陥れたのではないか?そう思わずにはいられない一冊です。
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発行から1年以上経ち、ISを巡ってはその間にも色々なことが起きているが、本書は中東の「今」を知る最初の一冊として最適であると思う。抑制の効いた文章が、著者の地に足のついた取り組みをよく表している。
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2014年6月以降、イラクとシリアの広範な領域を実効支配し、単なる「テロ組織」を超越した存在になろうとしているイスラーム国について、わかりやすく、論旨明快に叙述。
イスラーム国の来歴(アル=カーイダ「ブランド」からの発展)、思想(ジハード論=イスラームの基本的教義の援用。異教徒や、ジハードを阻害するイスラーム支配者との戦闘を、一般的義務とし、高い価値を見出す)、台頭の理由(「アラブの春」による辺境統治の弛緩、イラク国内における中央政府(シーア派)とスンナ派勢力の関係悪化、シリアの混乱、巧みなメディア戦略etc.)、今後の展望(イスラーム国を模倣したカリフ国宣言や近代国家の分裂の可能性、イラン、トルコ、サウジアラビア、エジプト等の地域大国による解決の可能性)…等々、様々な視点からの分析がなされている。
イスラーム国とは何か?何が問題なのか?をよく知ることのできる名著。
Posted by ブクログ
うちの両親はカトリックで、毎週必ずではないにしても日曜日は教会でミサを受けるのが幼少期の常識だった。長じて、科学的思考に親和性を持ち、SFなんか読みふけっていた少年にとって信仰の相対化はたやすいことであったが、それに先だって子供心にまず疑問に思ったのは、ミサのあとの集会で「布教しましょう」とか言っているのに、両親がちっとも布教しないことだった。
教義を守ってねえじゃねえか。ということだが、では厳格に守るとどういうことになるのか、というと、原理主義となるのである。
本書によると、「イスラーム国」は何ら新しいコンセプトは出しておらず、ムハンマド時代に確定された教義、つまり世界のイスラム教徒の常識に基づいた主張をしているのだという。それもものすごいこじつけ解釈というわけではなく、イスラム教徒なら誰でも知っているような、あるいは正面切って反論できないような教義に基づいて自己の行動を正当化しているだそうだ。この辺はイスラーム教に明るくない平均的な日本人にはピンとこないところだろう。
例えば、「カエサルのものはカエサルへ」と一応は政教を分けるキリスト教、異教徒による支配を諦めているかの感があるユダヤ教と異なり、イスラームはムハンマドが多神教徒を武力で倒してイスラーム法の国を作ったということが教義の中心にある。「アッラーの道のために」という目的にかなった戦争がジハードであり、それへの参加がイスラーム教徒一般に課せられた義務である、というのはイスラーム法学上、揺るぎない定説である。よって、イスラームの民が異教徒に支配されているとか、イスラーム教が危機にあるという認識があれば、ジハードに身を投じなければならないというのが、アル=カーイダから「イスラーム国」までの論理である。
イスラーム教ではムハンマドの正統的な後継者がカリフである。「イスラーム国」の指導者バグダーディーがカリフを宣言するのもまたイスラームの常識に則って世界中のイスラーム教徒の盟主であると宣言しているわけである。もちろんそれに同意するイスラーム教徒は少ないが、イスラーム統一国家への夢をかきたてるという意味で支持する者が出てくるのだ。
しかも「イスラーム国」ではやはり聖典のハディースによって、世界の信仰者と不信仰者の全面対決が起こるという終末論的な教えを唱えている。いまこのようなテロ集団が生じたことは、オスマン帝国崩壊後のアラブ世界の分割やイスラエルの建国など欧米の勝手な振る舞いに端を発するという批判は正しくとも、非信仰者であるわれわれ日本人は「イスラーム国」に滅ぼされるべき敵であるということも認識しておかなければならない。
よって筆者は「神の啓示による絶対的な規範の優位性を主張する宗教的政治思想の唱導」を日本の法執行機関と市民社会がどこまで許すか許さないか、確固とした基準を示さねばならないと述べる。
こうしてみていくとイスラーム思想は大変危険な思想ではないかと思う。上記の思想は過激派の思想というわけではなく、穏健なイスラーム教徒も広く受け入れている教義だからである。もちろん危険視は西欧的価値観のもとにある日本の思想的な現状からみた限りのことかも知れない。しかし結局われわれは何かに価値観の基盤をおかねばならない。そのとき最大公約数的に受け入れやすいのは、民主主義や自由主義のイデーしかないだろう。われわれがイスラーム法を受け入れるわけがないからであり、「イスラーム国」が奴隷制を復活するのを許すわけにはいかないからである。
そこで筆者は「イスラーム国」が呈示する過激思想を世界のイスラーム法学者が反論できるような宗教改革をしなければならないのではないかと述べる。
本書の論点は「イスラーム国」成立に至る思想的・政治的な流れ、その実情、今後の中東情勢の見通しなど多岐にわたり、たいへん勉強になった。ただ、中東の今後の見通しを読むだに弱者が踏みにじられていくのだろうと思わざるを得ない。
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著者の専門とするイスラム政治思想史の知識に立脚したイスラム国の分析は説得力があった。イスラムの専門家といわれるものが、往々にして露骨にアンチ西欧に立脚して立論にしているのに対して、誠実な印象を持った。
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2014年に日本人がシリアで拉致されて斬首され、その衝撃的な映像で存在を世界に知らしめた「イスラム国」の正体を書いた本。
欧州では、イスラム国の存在は日本にいるよりずっと身近であるが、日本に住む著者がここまで書くのはすごいと思う。
アルカイダと何が違うのか、など謎の部分を丁寧に簡潔な文章で説明してある。中東情勢を知るのに一番分かりやすい本ではないだろうか。
まとめると、イスラム国は2011年の「アラブの春」により中東諸国の政治基盤が緩んだ環境で、ジハードを呼びかける過激派が、シリアとイラクの無統治地区で勢力を広げて発生したものらしい。また、代表者がメディアで宣伝をしたアルカイダと違い、地下組織的なネットワークで個人単位で活動しているケースも多い。
斬首映像がいかに心理的効果を考えて工夫して作られているかや、オレンジの囚人服が意味するものなど、本書で初めて知った。読んでよかった。
Posted by ブクログ
Islamic State に至る経緯、2015/1出版だが特に最後の二十年、その論理の位置付け、メディア戦略について知ることができる。
知らないいことばかりだった。精読すれば膨大な情報が得られると思うが、理解しながら読むには相当な時間がかかりそうで、表面的にしか読めなかった部分も多い。
IS がどうなるにせよ、中東の前途は悲観的にしか考えられない。
IS が出している生の情報には接していないが、説明によりその質の高さはよくわかった。
Posted by ブクログ
イスラーム国はアルカーイダの理念に共鳴した者たちが各地でローン・ウルフ型のテロを行う一方で、「アラブの春」によりイラクやシリアなどの政権が崩壊したことに乗じて組織化していった。
イスラーム国が発する教義はイスラーム法学上は極めてオーソドックスであり、特別なものではない。
イスラームを脅かす異教徒や侵略者が現れればジハードを行うというのは、イスラーム法上の義務でありそれを実行しているに過ぎない。
Posted by ブクログ
73年生まれの東大准教授による著作。リアルタイムで進行しているシリア・イラクでのISISの勢力拡大を、イスラム教の教義や、中東各国・欧州各地の近年の政治イベントと照らし合わせながらひもといている。参考になる記述が多数あり、片っ端からキンドル本でハイライトした。
読んで下さい
メディアの皆様に是非とも読んでいただきたい一冊です。特に報道にたずさわっている方は是非是非読んで下さい。お願いします!これを読んでからというものニュースを見るたびにハラハラしております。
Posted by ブクログ
かなり細かいところまで書かれており、難解だが、最終章の中東秩序の行方の章を読めば、頭の整理ができてこの本が読みやすくなる。
むしろ、最終章を序章に持ってくるべきだったろう。
Posted by ブクログ
9.11以降、アラブの春を経てどのようにイスラム過激派が振興し、イスラム国がカリフ制復活を宣言するに至ったのかをかなり詳しく描いている。
新しい知識が沢山。
Posted by ブクログ
イスラーム国の衝撃というタイトルにあるように、何が衝撃だったかといえば、以下の部分に端的に描かれている。
「『カリフ制が復活し自分がカリフである』と主張し、その主張が周囲から認められる人物が出現したこと、イラクとシリアの地方・辺境地帯に限定されるとはいえ、一定の支配地域を確保していることは衝撃的だった」(14頁)。
さらに、「既存の国境を有名無実化して自由に往来することを可能にした点も、印象を強めた。既存の近代国家に挑戦し、一定の実効性を備えていると見られたからである」(14頁)とあるように彼らは「挑戦」をしたのだと、つまり新しい展望を切り開くかのように見えたこと。
そのように見えたことが重要である。
なぜならそれは「現状を超越したいと夢みる若者たちを集めるには十分である」からだ。
また、メディア戦略とその卓抜さも指摘される。「『イスラーム国』は…少なくとも『ドラマの台本』としては、よくできているのである。ラマダーン月の連続ドラマに耽溺して一瞬現実を忘れようとするアラブ世界の民衆に、あらゆる象徴を盛り込んだ現在進行形の、そして双方向性を持たせた『実写版・カリフ制』の大河ドラマを提供した」。(19頁)
こうした戦略は「イスラーム世界の耳目を集め…それによって一部で支持や共感を集め、義勇兵の流入を促がし、周辺の対抗勢力への威嚇効果を生んでいるとすれば」(19頁)、その効果は単なるPR以上にイラクやシリアでの戦闘や政治的な駆け引きでも有効だと指摘されている。
そしてこうした「イスラーム国」はどこから現れたのだろうか。基本的には「2000年代のグローバル・ジハード運動の組織原理の変貌を背景にしている」(34頁)。ここでいう組織原理の変貌とは2001年の9・11事件以降の「対テロ戦争」によってアル=カーイダという組織が崩壊したためである。これは「『組織なき組織』と呼ばれる分散型で非集権的なネットワーク構造でつながる関連組織の網を世界に張り巡らせ…アル=カーイダの本体・中枢は、具体的な作戦行動を行う主体というよりは、思想・イデオロギーあるいはシンボルとしての様相を強めた」(34頁)ことによる。米国によるアル=カーイダへの攻撃に伴い、「それに共鳴する人員と組織は生き残り、新たな参加者を集め、グローバル=ジハード運動が展開していった」(45頁)。この運動の展開を、以下のように筆者は四つの要因として指摘している。
「(一)アル=カーイダ中枢がパキスタンに退避して追跡を逃れた。
(二)アフガニスタン・パキスタン国境にターリバーンが勢力範囲を確保した。
(三)アル=カーイダ関連組織が各国で自律的に形成されていった。
(四)先進国で『ローン・ウルフ(一匹狼)』型のテロが続発した。
」(45頁)
(一)及び(二)はパキスタン、アフガニスタンという国家機構の脆弱な地域において組織の回復が行われたことを指摘している。これは今のシリア、イラクと似たような状況に陥っていた地域、つまり国家機構の脆弱性を突く形での勢力範囲の拡大ともとれる。一方、(三)(四)は「フランチャイズ化」と呼べるようなものであるが、これも様々な形での脆弱な部分を突く形である。特にインターネットを介しているという点が目新しいといえばそうだ。
この本が刊行された時期はイスラーム国の衝撃が盛んに唱えられていた。そのイスラーム国誕生までの経緯は2000年代の9.11テロおよびイラク戦争を背景に、90年代のジハード主義者の国内テロ路線から対米およびグローバル路線への転換、80年代の冷戦構造下における対共産圏への対抗馬たるアフガンゲリラへのアメリカの支援等、イスラームの歴史として捉えるだけでなく、冷戦構造を支え、その後の唯一の超大国となったアメリカと関連する歴史上の産物でもある。もちろんその特性が宗教的特性と無関係ではない。
しかし、私にとってのこの「衝撃」は現状の支配的な価値観、つまり近代ヨーロッパ的な様々な枠組みに対しての極端な相対化とそれを行う実効力があった事は間違いない。
Posted by ブクログ
9.11アメリカ同時多発テロ以降、各メディアで言われるように
なったイスラム過激派またはイスラム原理主義者という言葉。
世界各地で起きたテロのニュースを見ながらも、どこかで日本
には無関係だと思っていなかっただろうか。過去には日本人が
人質になったこともあった。殺害された日本人もいた。
だが、日本も無関係ではなくなったのがイスラム国による
邦人ふたりの拘束・殺害事件だったのではないか。
あの事件以降、イスラム国に関する書籍がいくつか出されて
いる。既にジャーナリストの常岡浩介氏の著作を読んでは
いるのだが、もう少し歴史的背景から知りたいと思って
選んだのが本書である。
感情を廃し、実に冷静にイスラム国の成立からその背景に
あるもの、彼らが行う報道活動、外国人戦闘員の有効な
使い方を解説している。
ただ、読み手の私の知識不足で十分には理解出来ていない
部分も多い。
結局はアメリカの中東政策の失敗だったのか?湾岸戦争以降、
アメリカは中東に自分たちの都合のいい政権を作ろうとした。
それがことごとく失敗している。統治能力がなかったり、
アメリカが手を引いたそばから暴走したり。
部族、民族、宗派の対立。そして、抑圧された一部の集団が
権力の隙をついて支配を広げて行く。
「ビンラディンを殺害しても、第二・第三のビンラディンが
生まれるだけだ」と言った人がいた。
もし、アメリカがアサド政権と手を組んでイスラム国殲滅に
成功したとしても、似たような組織はまた生まれて来るのでは
ないだろうか。
中東が安定するには国境線を引き直すしかない?まさかね。
Posted by ブクログ
ポピュリズムの本を読んで、西欧においてイスラムに対する風当たりは思った以上に強いんだな、と感じたので、積んでたイスラーム関係本を読んでみた。聞きかじった知識が断片的にあるよ、くらいの状態だったので、まとまったものを読んで整理されたような気がする。
Posted by ブクログ
イスラーム国の背景、来歴、特徴をイスラーム政治思想史と政治学の視覚から分析。イスラーム国について知るのに最適の一冊。
イスラーム国の衝撃のポイントして、全イスラーム教徒の政治的指導者になることを志向していることを示すカリフ制を宣言したこと、領域支配を行っていることを挙げている。
イスラーム国の成立・発展の背景として、思想的要因(グローバル・ジハード、アル・カイーダのフランチャイズ化)、政治的要因(アラブの春)を指摘している。
そして、イスラーム国には、独自のイスラーム思想を打ち出しているわけではないところに特徴があり、一定のイスラーム教徒から支持される可能性があるとしている。
日本とイスラーム国の関係については、左翼思想の代替としてのイスラームに警鐘をならしている。
Posted by ブクログ
いゃぁ、難しい。いろんなことが複雑に絡み合って今があり、ISILを生み出したことはわかった。しかし、結びにも書いてあった通り、ISILは根絶することはできない。世界はこれから彼らとどのように共生していくんだろうか。
しかし、知りたいのはISILはどうしたいんだろうか?ほっといてくれ、なのか世界征服なのか?後者であれば抗戦すべきだし、前者であれば本当にほっといた方がいいんじゃ無い?とはいえ、ここまでグローバル化している世界で、全く付き合いを断つことは困難だろうね。
理解できないことを理解することをこれからの世界はできるんだろうか?
疑問しか思いつかない…
そして、結局のところISILの正体は書かれていなかった。コアとなる物事かわ無いのだろうね。
Posted by ブクログ
ISILにもそれなりの理屈があり、やっている行為は
到底私たちには容認出来ないものであるにしろ、
ある一定のイスラム教徒の人や、他宗教の新しい
政治原理やパワーバランスを求める人を惹きつけている
という事実は、今も変わっていない。
その、それなりの理屈とはどんなものなのか。
めまぐるしく変化するニュースの情報は、
センセーショナルな事象だけが残って
何がどんなふうに変化しているのか
誰がどうなっているのか
諸外国がどう噛んでいるのかが整理できないまま
置いて行かれる。
この本は出版されてから時間が経っているが
出版された時点までの、こういう疑問を明確に
してくれる。
イスラム教徒の人たちの国の中で、宗教がどんなふうに
機能しているのか。訳の分からない怖い組織としか
見えないISILにも、いろんな考え方や蓄積があった
事がわかる。
それを踏まえて、この本以降の起きた事象を
新聞などから追って、自分なりに図式にして
みたりすると、ニュースの解説番組以上に
深読みできたり考えたりさせられる。
あそこから抜けたい人が殺されたり
新たな標的としてテロが強行されることが
すっぱりとなくなればいいのに。
紛争や武装の力でこれ以上いろんな事態を
こじらせるより、一旦武器を置き
リセット!と言えればいいのだろうけれど…
人間って意外と拘る生き物なのでそれが出来ない。
世界はどこに行くのだろう。ね。
Posted by ブクログ
昨年は日本人人質を殺害するなど話題になり、最近では報道の量も減ってきたが、いまだに中東の一角で猛威を振るっているいわゆる「イスラーム国」(この呼称にも議論はあるが、ここでは書名にもあるこの呼称で統一)について書かれた新書。「イスラーム国」に限らず、広く中東問題全般については、何度報道を見てもどうにも理解できない印象が強く、関聯する書物を繰り返し読んでおかなければとかねてから思っていたところ、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞や「新書大賞2016」第3位の報が折よく聞こえてきたため、今回は本作をチョイスしてみた。読んでみるとなかなかわかりやすく、なるほどその高評価も頷けるわけであるが、とりわけよかった点は、長年の個人的な疑問が完全に氷解とまではゆかないにせよ、大部分が解消されたこと。それはつまり、なぜイスラーム教徒の過激派ばかりがそういった行動に走るのかということ。世界中のあらゆる宗教には当然狂信者というべき存在があり、じっさいに古今東西で事件を起こしてはいるのであるが、イスラーム教過激派ほど世界じゅうでテロリズムに走ったり、長年紛争を続けたりといった行動を起こしていない。キリスト教の信者のほうが人口的には多いはずで、それなのになぜこういう事態となっているか、個人的にずっと疑問であったのだ。本作のタイトルは『イスラーム国の衝撃』であるから、この疑問に対する100%の回答はもちろん書かれていないのであるが、それでも「イスラーム国」が既存の教義や権威をたくみに利用しながら勢力を拡大していったことが書かれていて、中東地域における過激派の同様に活潑な活動についても、おそらくおなじであろうと得心がいった。宗教学者ではないから断定的なことはいえないが、イスラーム教はほかの宗教と比べて信仰心が篤く、また信者間の紐帯が深いから、過激派思想にも簡単に染まってしまうのではないであろうか。これはあるいはほかの局面においても使える論法で、なにかに対するこだわりが強ければ強いほど、それを間違った方向に誘導しやすくなる。つまり、「イスラーム国」はなにも中東固有の現象ではないのかもしれない。世界中に警鐘を鳴らすという点で、本作を読めたことはじつに有意義であった。
Posted by ブクログ
70億もの人間がいれば、一般人には理解できない異常な行動をとる人がいても不思議はないし、広い世界ではそういう人たちが組織化することもあるだろう。イスラーム国についてなんとなくそう思っていたが、事実はそんな単純な話ではない。
2011年の『アラブの春』から、2001年の9.11から、1991年の湾岸戦争から、さらには1919年の第一次世界大戦後からもその萌芽を見ることができる、連綿と続く中東の歴史問題の一面が、イスラーム国の登場だ。
大戦終結後、多くのアラブ諸国は不安定な王政からクーデターにより安定した軍制へ移行した。しかし、当然のように腐敗した軍制国家の一方は、資金の確保のため親米派となり、それに対抗する形で成り立つ反米派は、軍備を増強した結果、戦争により崩壊した。しかし、親米派にしてもその腐敗を発端にして『アラブの春』が起こり、一時的に宗教性の薄い民衆派が政治を担うこともあったが、多くはその統治能力の無さから崩壊した。そうしてできた空白地帯を占拠したのがイスラーム国だ。
それが単なる火事場泥棒を狙う盗賊集団であれば、いくら空白地帯といえども勢力の拡大に限界はあっただろう。だが、イスラーム国にはその名の通り、イスラム国家としての覇権を夢見る宗教的意義がある。
王政、軍制、民主制に失望し続けた人々が唯一すがることができるのが宗教だけだとしたら。また、その人々が暴力の歴史に慣れさせられていたとしたら、異教徒の奴隷化、斬首処刑、種々のテロ行為が『異常な行動』ではなく、『歴史の延長』であり『宗教的に正しい行為』とさえ見えても不思議はない。
こうして歴史を学んでも、『自分がイラクに産まれたとしても、イスラーム国には組みしない』と言える人はいるだろうか。
過去、強固な国家システムに変革を与えることが出来たのは戦争だけだったが、過去の戦争の結果が今の状態なのだとしたら、一体何が出来るのか。行動経済学、社会心理学、分子生物学、そして数多の科学技術の先に、答えが見つかる日が来るかもしれない。
Posted by ブクログ
著者の池内さんは、長年、中東地域の政治や、
イスラームの政治思想を研究をされていて、、
なんて風に書くと、一見とっつきにくい感じですが、
非常にわかりやすく、丁寧にまとめられています。
当初、池袋のジュンク堂で探していたのですが、
新書にしては珍しく売り切れていて、地元で発見しました。
そういった意味では、ちょうど時節に合致しているのかなと。
その内容は、第1次大戦後の秩序形成からイラン革命、
湾岸戦争、9.11テロ、そして「アラブの春」。
この辺りをざっと俯瞰しながら、
イスラーム社会の質の変容をまとめられています。
キーワードは“グローバル・ジハード”、
明確な指導者を持たない拡がり、とはなるほどと。
興味深かったのは、こちらと前後して読んでいた、
『新・戦争論』や『賢者の戦略』とシンクロしている点。
アンダーソンの言う“遠隔地ナショナリズム”とも関連する、
“新しい国家”のカタチなのか、どうか。
ん、個人的には“イスラーム法学”が、
次のキーワードとして、気になっています。
Posted by ブクログ
一見メチャクチャにもうつるISだが、かれらなりにオーセンティックなイスラムの教えに準拠しているということ。キリスト教が歴史的にそうしてきたようにイスラム教の世俗化が可能かどうかなど。
Posted by ブクログ
アル・カイーダ、アラブの春、イスラーム国とそこに一連の流れがある。それにしてもアラブ諸国やイスラムは洋語が複雑すぎる。(笑)もう何冊か読んで状況を俯瞰してみよう。
Posted by ブクログ
2年近く前の本なので、情報が古いのは仕方ないが、近代~現代における中東の状況をきちんと説明してあって、イスラーム国が生じるまでの背景がわかりやすい。
Posted by ブクログ
イスラーム国の成り立ちのためにイスラーム教やカリフ制を理解する必要があるし、戦闘員をならず者と大くくりしないようグローバル・ジハードという崇高な共同主観があることを理解する必要があるし、でまだまだ消化に時間がかかる本になりそうです。
Posted by ブクログ
イスラム世界の事を少しでも知ろうとして読んだか、想像以上にややこしかった。丁寧にイスラム国の成り立ち、資金源、外国人戦闘員はなぜ集まるのかが解説してあり、あまり詳しくない身としては為になった。
資金源は主に、石油(日100万ドル)と身代金(年2000万ドル)で、サウジアラビアなどが支援しているというのは、アサド政権やロシアのプロパガンダで流された情報らしい。
外国人戦闘員は貧困からイスラム国に身を投じるのではなく、思想に感化されて加わる者が殆どらしい。白人戦闘員は少ないがイスラム国のメディア戦略により、象徴的にクローズアップされているようだ。
主な外国人戦闘員の内訳(15年1月時)
チュニジア約3000人
サウジアラビア約2500人
ヨルダン2089人
モロッコ約1500人
レバノン890人
ロシア800人
フランス700人
リビア550人
英国400人
トルコ400人
この一年で状況が変わっているから新刊も読みたい