杉山正明のレビュー一覧
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バカ面白い。中国という枠組みが虚像である、それはなぜか?証拠を上げていく流れに引き込まれて一気読みしてしまった。同シリーズの五胡十六国自体〜前巻の宋代までいかに「異民族」が中国に進出し、血としても文化としても混じり合ってきたかを学んできた、その伏線が一気に回収される本巻。「異民族」の従来の暴力的なイメージをひっくり返された(沙陀軍閥は除く)。
ポイントだと元寇のモンゴルサイドの背景が面白かった。日本史(特に戦前の一般に流布した史観)からすると英雄時宗が国難を打破した事件だが、実態は南宋征伐の牽制、というのがなんとも肩透かしのような気分。本郷和人さんの執権時代の入門書では時宗の外交的失敗という主 -
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ネタバレモンゴル軍の軍事的な意味での強さが伝わっているのは、ヨーロッパやロシアが自国の歴史を喧伝するために過大評価してきたもの、つまり西欧中心史観が根底にあることを著者は繰り返し説いている。実際のモンゴル軍は情報収集と内部工作に長け、戦わずしてバグダードまでもを開城させていたという。確かに、従来のモンゴル軍への見方とはがらりと変わってくる。
モンゴル帝国の影響も、予想以上に大きい。
ティムールもイヴァン4世もホンタイジも、チンギス王家ゆかりの王女と結婚することでモンゴル帝国の威光にあやかる、という政略結婚を行なっていた。ユーラシアという世界を東から西まで繋いだ、という点において、モンゴルは空前絶後の帝 -
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p.73
「……ながいあいだ人類の営みのおもな舞台であったユーラシアの歴史のうえで、きわめてまれな例外として、ユーラシアの中央部をおおう史料の雲が晴れ、東西の世界を文献のうえからもひとつのまとまった姿で眺められる時代がある。それは、モンゴル時代である。もとめれば、たしかな証拠がもとめられ……もとめようとするだけの史料の壁と言語の壁をのりこえることができる状況が、いまようやく開けつつある。それが成就したとき、『世界史』は西欧中心史観とはまったく別のもうひとつの全体像を真の意味でとらえることができる……。」
本書はもともと朝日新聞社より1995年に発売されたらしく、それを講談社学術文庫が再出版し -
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世界史についての本。
興亡の世界史というシリーズの中の最終巻。2007年に出されていたが、文庫化されるにあたって新しく手直しされたもの。
従来の世界史というのは西洋史を中心としたものであったが、本書ではそれに対してもっと多文化的で中立的な世界史を提唱している。
人口問題については、人口バランスとその国の繁栄について書かれており勉強になった。日本は戦後の復興期、高度成長期に人口ボーナス期を迎え、一気に経済繁栄した。これからは急速な高齢化と少子化で人口減少時代を迎える。経済的な縮小はやむを得ないだろうと思う。しかし、世界的には人口増加による環境問題に直面しており、日本の人口減少は今後に必要な世界的 -
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ネタバレモンゴル帝国はユーラシアからヨーロッパにかかる広大な世界を征服し、統治した。
本書は、疾風怒濤のごとく各地へ攻め入って暴れまくり殺しまくったという、モンゴルの従来のイメージを全く覆すもの。
当時はヨーロッパもロシアもたいした文明国ではなく、また、モンゴルが野蛮なやり方で諸国を蹂躙したという事実はなく、なるべく戦わずに調略などを駆使して勢力を拡大した。
著者は従来の「西洋中心主義」の歴史のあり方に強く抗議・詠嘆しつつ、モンゴルがユーラシア大陸全体に残した遺産について指摘している。
広い世界を支配したチンギス・カンの系譜は長く尊崇され、後世まで統治者たちはこれを無視できず、栄光を継承しようとし -
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中国の北に長期間繁栄し、強大を誇ったというキタイ帝国という言葉は学校時代の世界史では学んだことが無かった用語。そしてその始祖・耶律阿保機(916年に帝権確立)という英雄も初耳。キタイは後年、中華風の国名「遼」を名乗ったという。遼、金、西夏などの国々は中国史の地図の中で北に描かれているが謎の国だった。キタイと北宋、そして沙陀の李克用・李存勗親子の三国者迭立なども知らなかった世界。いかに中華王朝を中心とした歴史しか視野に入っていなかったかを痛感させられた。キタイは金、西夏を滅ぼし、その政治的遺産がモンゴルに受け継がれていくという。モンゴルの世界席捲という覇業はモンゴル系であったキタイの継承であり、
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ネタバレ著者らしく、既存概念へのアンチテーゼを強調しているのか、モンゴルへの称揚と伝統中華やヨーロッパへの批難が激しい。特に明朝に対しては手厳しい。残虐なモンゴルへのイメージ脱却のため、世界帝国形成の間の戦況を説明し、モンゴル征服後も人口の大幅な減少が起こっていないこと、都市の繁栄は続いていることを強調する。モンゴルの快進撃は、イスラーム帝国が急激な膨張をしたように、改宗を迫らなかったこと、降伏させて経済的に取り込むことを優先したことが挙げられる。
クビライが大元大蒙古帝国として志向したのは、経済統合による世界システムだった。ムスリム商人を取り込んでの自由経済の奨励と、そこからの商税、そして大半を占め -
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ネタバレモンゴル帝国にして元朝の皇帝クビライの人物、あるいはモンゴル帝国の研究書。従来のモンゴル帝国にたいする再評価を迫る作品である。NHK『文明の道』第5週でモンゴル帝国が海上交通や駅伝網を重視し、緻密な行政システムを作り上げていた研究成果を示した。これに関する詳細な文献を探していたところ本書にたどりついた。モンゴル帝国に関してはヨーロッパからの評価を引き継ぐ形で今まで語られることが多く、野蛮な遊牧民族の側面、軍事的な側面ばかりに注目されてきた。しかし実際は「通商王国」ともいうべき交通の発展をもたらし、東西文化の結節の役割を果たし、「大航海時代」を準備したと結論付ける。著者の主張は明快でダイナミック