モームのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ『存在のすべてを』の登場人物が読んでいた本というのでどんな本か読んでみた。『存在の~』はいまいちだったけど、この本は最高だった!
空想上(ゴーギャンがモチーフになってるとかなってないとか?)の芸術家を追って一人の作家がまとめた物語という設定なんだけど、ただただ原田マハさんのようにきれいに積み重ねられた物語だけでなく、モームの哲学を楽しむことができた。いつものことながら文章表現も豊かで巧みであるので行間もなく延々と文字が連ねられていても全く負担にならず面白いようにページが進んでしまう。
このタイトルも意味深で、ついついwikiでその意味まで調べてしまうと、ああ、なるほど深いわぁってなる。ストリックランドの生き方を羨ましいとは思わないが好きなことのためにすべてを投げ出して突き進める人生は素晴らしい。
この光文社の古典新訳シリーズは昔からの名作を現代語訳として読みやすくしているせいもあってスムーズに頭に入ってくるから間のある時にちょいちょい挟ませてもらっている。このシリーズなら『罪と罰』も完読できそうな気がするから今度挑戦してみるかな。 -
Posted by ブクログ
有名な『月と六ペンス』。思わせぶりなタイトルなので、どういう意味だろうと何十年か気になったままだったので読んでみた。
答えは本篇にはなく、解説にあった。
P406
題名『月と六ペンス』は、前作『人間の絆』についての書評が「タイムズ文芸付録」に掲載されたときの文句をモームが使ったもの。その書評には、「ほかの多くの青年と同様、主人公フィリップは『月』に憧れつづけ、その結果、足もとにある『六ペンス』銀貨には気づかなかった」と書かれていた。これを読んだモームが、「月」は理想を、「六ペンス」は現実をあらわす比喩として、『月と六ペンス』のストリックランドに応用できると考えたものと思われる。
病気になったストリックランド(ゴーギャンがモデルらしいが、似たところは少ないらしい)が、献身的に世話をしてくれた三流画家兼一流の目利きであるストルーブから、まずアトリエを、ついで愛妻を、結果的には家も奪ったうえ、そのストルーブの妻を自殺に追い込んでしまい、かつ、まったく悪びれない、というとんでもない人格に驚いた。
妻の死後、ストリックランドによる妻の裸婦像を見つけたストルーブが、スクレイパーでキャンバスを切り裂こうとして、思い止まり、芸術を守る、というシーンは、壮絶だった。
とんでもない人格なのに、数少ない理解者の好意で何とか絵を描き続け、最後に大作をものにするも、描いた先が自宅の壁で、死後遺言によりすぐに焼かれてしまうのは何とも勿体無い。芸術家たるもの、作品は後世に残したいだろうに。こうした理解し難い点が多いので、感情移入も難しいが、それでもほぼ一気に読めたのが不思議。。
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Posted by ブクログ
明かすのも恥ずかしいが、途中まで実話だと思って読んでた。実在した画家と記者の話かと。もちろん、そうではないんだけど。
まあ、それぐらいリアリティのある、描写豊かで人間臭さのある文章だということで、自分を慰めておこう。
モームの本は初めて。
主人公の記者は傍から見ればかなりのひねくれ者。実際、人はこれぐらい当たり前にひねくれ者だけど。対象の画家は、これまたビックリするほどの変わり者。いや、本当は羨ましい。こんなに自分に正直な人がいるのか?と疑ってしまう程に。
日本では特に他人様に迷惑をかけないように言い聞かされて育つことが多いように感じるが、実際のところ何が迷惑なのかは分からない。自分だったら不快に感じること、その程度の基準でしかないだろう。でもそれって、不快なだけで物理的に迷惑かどうかは別問題なんだよね。
妻を奪い取ることは迷惑なのか?迷惑とはちょっと違う気もする。そう思うと、案外ことの画家は誰にも迷惑かけてないような気もしてくる。さて、どうなんだろう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ語り手に一番共感した。若い人の感性はわからないしきっと素晴らしい物があるんだろうけど、きっと自分はそれが評価されなくなっても古い物にこだわり続けてる。それに絵のセンスも自分と全く一緒……。その辺通して、勝手にモームとお話出来たら絶対楽しいんだろうなあって想像してた!!
ストルーブとその妻の話が一番面白かった。どうして妻がストリックランドを好いたのか最初全然わかんなかったし、むしろストルーブみたいな人と私も結婚出来たらなあって思ってたけれど、妊娠していた話を聞いて印象が一変。でもストルーブみたいな可哀想なくらい滑稽な人、確かにこういう人どこかに居るよね……ってなる、本当に描くの上手い。ストリックランド夫人とかも。モームはふっと浮かぶ印象とか感覚を本当に上手に言葉に表すなあって思う。あと言葉も皮肉も入っているけれど、とっても美しい表現や的確でハッとさせられる言葉を使う。
私の勝手だし時代背景とかも絶対に解説者ほど詳しくないけれど、この本の巻末の解説には全然共感できなかった。未開の地にアメリカ製のストーブがあるのは悪意のある社会風刺的な皮肉じゃなくて、もっと純粋な悪意のないただの情景描写してたら案外面白い物があったからって雰囲気の皮肉?って印象を持った。私は言葉すっごく下手だし、モームに親近感湧きすぎてるのか神聖視しすぎかもしれないけれど……。 -
Posted by ブクログ
話が激しく展開していくのとは裏腹に、読みながらゆったりまどろむような気持ちになって、まるで童話のようだった。
男女の機微が随分ミステリアスに描かれていてかわいいなあ、と思っていたのですが最後の解説を見て腑に落ちました。まあそんなの抜きにしてもオトコとオンナのことは第三者が見てわけわかんないくらいの方が素敵だと思います。恋や愛を言葉で説明したってしょうがないや。
しかしこの登場人物と読み手の間の絶妙な距離感はなんだろう。冗談でも「あーわかるわかる」なんて言えない彼らのシンプルな神々しさは。
どの登場人物をとっても「このひとはきっとどこで何しててもこういう風にしか生きられなかったろうな」と思わせる凄みがあって、人はそれを生命力と言うのかもしれないし、使命とも宿命とも、あるいは呪いの様にも見えるんだけど不思議と恐怖も嫌悪も感じなくて、ただ愛おしい。或いはもしかしたら、羨ましい。
その性格の頑固は、多くの人にはきっと滑稽だったろうけれども本人たちはなかなか満足そうだし私みたいな他人はなにも言えませんのである…。
でもせつないなあ。寂しいなあ。
こっそり言うけど。 -
Posted by ブクログ
ここ最近まとめてモームを読んでいての感想。
他の出版社から出ている同じ短編を読んでいるが、訳の違いで随分印象が変わっている。この古典新約文庫は柔らかい翻訳、ハンマーで棘棘していた日本語をならしている感じがした。例えば「ジェイン」なんかは、他の文庫では印象的な言葉だった単語が言い換えられていたりして、インパクトは減っている。流れをとるかパンチ力を取るかというところだった。こっちの方が後から読んでしまったというのもあるけれど、もう少し、尖っててもよいと思う。語り手の距離感が微妙に近くなり、個人的にいくつかの、良さが消えている気がした。
内容は文句なく面白いです。 -
Posted by ブクログ
「人間の不可解さを浮き彫りにする珠玉の6編」とあるように、まともだなぁと思っていた登場人物が話の進展に伴い黒い面を見せてくれる。個人的に良かったのは、「雨」「掘り出しもの」だろうか。今までミステリは避けて通ってきたが、これだけ面白いなら手を出してみようかな、と思う。思うだけでもある。
人間の醜く卑しい面を見せつけつつも、どこか笑い飛ばせるような読後感。「雨」のデイヴィッドソンなど、どんなオチで締められるのかと思ったら、まさかそこまで堕ちるとは・・・聖人なんていないよね、と思ってしまう。
人間と絆、月と六ペンスを読んだ際に感想を書くのを忘れてしまったのが悔やまれる。もう一度読み直してみようか -
Posted by ブクログ
ネタバレ何より面白かったのは、語り手の視点の冷静さ、観察の細かさ、対象との距離の取り方だ。登場人物の虚栄や自己欺瞞を容赦なく見抜きながら、それを露骨に断罪するのではなく、イギリス風京言葉のような上品な皮肉に包んで差し出してくる。描写は美しく、文章のキレも最高。
登場人物は悉く魅力的。ストリックランドは「安定した生活を捨てて夢を選んだ人」ではないと思う。そもそも選んでいない。描かずにはいられず、そうせざるを得なかった、そういう習性の生き物だ。社会や家族や身体からは自由でも、美への衝動には完全に隷属している。
中でも一番魅力的だったのはストルーブ。善良だからストリックランドを助けるのではなく、美の基準に抗えないから助ける。道化に見え、自分では凡庸な絵しか描けないのに、審美眼だけは確か。妻を奪い、自分を徹底的に傷つけた男の絵なら駄作であってほしいはずなのに、傑作を傑作として認め、破壊することができない。単なる善良な寝取られ亭主ではない。私情によって美の価値を曲げられない、ひどく純粋な狂信者。最高です。
エイミー、ブランチ、アタもそれぞれ好き。置かれた場所も欲しいものも違うが、三人とも欲しいものは欲しいと言い、自分から取りに行く女たちだ。
誰もが同じ月を見ているわけではない。ある人物には六ペンスにしか見えないものが、別の人物には月なんだろう。
前半の怒涛の展開とキレに対して後半、ストルーブが去り、タヒチへ着いてからは少し勢いが落ちている。タヒチの風景描写はひたすら美しい。ストリックランドが求めた場所へ行き着き、あるいは帰り着き、完成したことはわかる。ただ、病や身体の崩壊が彼にとって無関係であることは、もうこちらは十分に知っている。前半の「悍ましいほど美しくて目を離せない」から、後半は「美しい場所で美しいものを完成させる」へ移り、美と醜の摩擦が弱くなったように感じる。
ストルーブが絵を切れなかった場面で、作品の主題はほぼ決着している。妻の死、屈辱、憎悪より美が勝つ。これ以上、何を証明する必要があるのか。そこへ病、失明、壁画、死、焼却まで積むから、証明ではなく列聖の儀式に見えてくる。
美しい蛇足。それよりもう少しストリックランドとストルーブを見ていたかった。 -
Posted by ブクログ
再びモーム。「月と六ペンス」、「聖火」、「ジゴロとジゴレット」に続き四作品目。円熟期に、“自らの魂の満足のために”書いた四大問題劇のなかの二篇、という位置付けらしい。
原題はそれぞれ、「報いられたもの」=For the services rendered と、「働き手」=The breadwinner。
いずれの作品も、自己犠牲は幸せに通じていない、という点で共通している。前者は、戦争で国家に、三姉妹の長女が視力障害者となった兄に、後者では、父親が家族に、献身的に尽くすが、誰も幸せではない。
かといって、身勝手に生きることが推奨されているわけでもない。
寺地はるなさんの「架空の犬と嘘をつく猫」のなかのおばあちゃんの次のセリフを思い出した。
「自分の人生を生きなさい。」
わたしも雪乃もあんたよりずっとはやく死ぬ。
山吹、自分以外の人間のために生きたらいかん。
「誰かを助けるために、守るために、って言うたら、聞こえはよかよ。でも、人生に失敗した時、行き詰まった時。あんたは絶対、それをその誰かのせいにする。その誰かを憎むようになる。そんなのは、よくない」