石牟礼道子のレビュー一覧

  • 天の魚 ―続・苦海浄土―

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    水俣病の被害を直接訴えるため、東京丸の内のチッソ本社に赴いた川本輝夫たちの行動を追い、チッソとの交渉の様子を克明に記しています。

    『苦界浄土』にくらべると、患者たちの苦しみとその活動の困難さを、いい意味でも悪い意味でもジャーナリスティックな側面が強い印象を受けました。もちろん著者は、どこまでも川本たちに寄り添う観点に立って、彼らの活動の実情をていねいにえがいているのですが、水俣病をめぐるさまざまな立場からの働きかけが錯綜している状況についても触れざるをえず、そのことがこうした印象をあたえる原因になっているのかもしれません。

    あるいは、病と世間の無理解に苦しめられてきた患者たちの時間の長さと

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    2021年02月03日
  • 魂の秘境から

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    1927年生まれだそうですが、彼女が育ったころはまだ現実界と異界の差があいまいだったのか、彼女の感受性が鋭いのかわかりませんが、まるでファンタジーを読んでいるような気分になるエッセイでした

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    2020年08月20日
  • 食べごしらえ おままごと

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    『苦海浄土』で知られる作家、石牟礼道子が自らがこれまでに作り食べてきた数々の手料理について、実際に調理しながら描いたエッセイ集。

    出てくる料理はどれも熊本での市井の生活に根差したものであり、その一つ一つの料理に尽くせない思い出が潜んでいる。ただ料理を描くのではなく、料理を通して、石牟礼道子という希代の作家が感じたことが丹念に描かれる。

    巻頭の石牟礼道子自身が調理した料理の数々の画像も大変素晴らしい。

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    2020年03月01日
  • 遺言 ――対談と往復書簡

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    上演の情報をぼんやりと見送ってしまって、後になって気になっていた、石牟礼道子の新作能「沖宮」。それが生み出されるにいたった石牟礼道子と志村ふくみの往復書簡と対談。解説が適切に解説として機能している。お二人がそういう危機感を持つことはわかるのだけど、残念ながら私は世界の捉え方が違っているので共感できない。でも収録されている「沖宮」の詞章には深く感じるものがあったので、もし再演があればと思った。

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    2019年01月13日
  • 食べごしらえ おままごと

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    しょうゆや味噌まで手づくりしていた昔に思いをはせた食エッセイ。今の時代に同じことをやろうとすれば、女はとてもじゃないが会社で仕事などできないだろう。

    にも関わらず、昔の暮らしが、今よりずっと豊かに思えて、うらやむ気持ちを止めることができない。

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    2016年09月26日
  • 水はみどろの宮

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    昨年末に南九州の高千穂峡から天孫降臨の地と言われている天岩戸神社、霧島人社、えびの高原、宮崎の鵜戸神宮、青島神社、鹿児島、桜島をめぐり、神話の世界を堪能しました。

    高千穂峡では、山伏の姿をした狐のごんの守が銀色に光る錫杖の音をしゃらしゃら慣らし、山犬のらんが駆け回り、えびの高原のすすきの原で黒猫おノンが神楽を舞っている姿が見えるようです。

    石牟礼道子の描く物語世界は独特の魅力があり、忘れかけたアニミズムの記憶を呼び覚まされます。
    読書会のすすめで読んだ本ですが、貴重な本に出会えたと思っています。

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    2016年06月10日
  • 石牟礼道子

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    少々読みづらいところはありましたが、
    読み進めると、引き込まれていく感じのする作品でした。
    熊本の水俣を中心とした地域を舞台にした話。
    水俣病の『苦海浄土』が有名な作者ではありますが
    その『苦海浄土』とは違って(?)熊本、水俣の
    美しい自然風景をふんだんに感じられる物語です。
    とくに『水はみどろの宮』は、映画のもののけ姫の
    ような感じで、森や山や川の精霊や、動物、猫・犬との交流
    が美しく描かれてあって、美しく、引き込まれるような
    お話しでした。
    その他『椿の海の記』『西南役伝説』『ダデ子の記』。

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    2016年05月01日
  • 食べごしらえ おままごと

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    一昔前の田舎の人が、どのように作物や獲物を食べ物にしていたかがよくわかるだけでなく、どんな思いでその行為を行っていたかがわかる。
    昔の人がお米一粒でも捨てたりしなかったのは、ここに書かれたような苦労をして(今の農業よりずっと過酷)やっと手に入れたものだからなのだと改めて思ったし、添加物などもちろんなく、すべて捕ったものか作ったもので作った食事がいかに滋味に富んだものであったかは、化学的な味になれてしまった身としては想像するしかないが、どんなにおいしかったことだろう。
    今だって、大金を払えば、この本にあるような食材を使った手のかかった料理を食べることはできるかもしれないが、ここに書かれているほど

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    2014年11月23日
  • 食べごしらえ おままごと

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    水俣病問題を描いた作品「苦海浄土」で知られる……が読んだことはなかった石牟礼道子の書く食のエッセイ。
    いわゆるグルメと呼ばれるような華やかで豪奢な食ではなく、風土と記憶の中にある食を取り上げ、どこか厳粛で静謐な雰囲気の文章でまとめている。
    自然があって、料理をする人間がいて、食べる人間がいる。間違いない食の真理の一側面を描いているが、作者自身それを失われつつあるものとして捉えているように感じるのが寂しい。紹介される料理も興味深いがいろいろと考えさせられる本だった。

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    2012年10月08日
  • 死を想う

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    石牟礼道子さんと伊藤比呂美さんの対談集パーキンソン病を患う石牟礼さんが老いや死をどのように受けとめているかを、執拗に伊藤さんは聞く。梁塵秘抄の「暁静かに目覚めして、思えば涙ぞ抑えあへぬ、儚く此の世を過ごしては何時かは浄土に参るべき」。石牟礼さんの到達した地点に私はまだ遠い。しかし浄土に参るという考え方に共感。豊かな時間を生きてきた人だと痛感する。昔、老人との別れの言葉は「さようなら」ではなく「お名残惜しゅうございます」だったとか。このコトバには「この次においでるときは私はもういません」という含みがある。生きることは死ぬこと。そんな遠いことではないようだ。

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    2009年10月07日