Posted by ブクログ
2021年02月26日
阪神淡路大震災とトンガ王国。「震災で負った心の傷を南の島で癒す」という単純なテーマに収まらず、4作品それぞれで視点を変えた登場人物たちが抱えたものを一つずつ吐露していって、読み易いのに不思議な深みのある物語だった。
特に最後の短編、亡き人への書簡体で綴られる<絶唱>は私小説的要素が強く、それまでの登...続きを読む場人物が感じた喪失感や無力感、やるせなさ、自省の念が一気に現実味を持って胸に迫ってきた。最後に「その後また災害がありました」と東日本大震災を彷彿させる記述など特に。
個人的には<楽園>と<太陽>の二つを読んで若いシングルマザー杏子の印象が全く変わったのが印象的。湊先生はそういう一つの状況に対する複数の視点の書き分け(特に女性同士)というか、「こっちにはこっちの事情があるのよ」っていう描写がどの作品でも物凄く上手いと思う。
セミシさんも尚美さん(のモデルになった方?)も亡くなってしまい、彼女らの思いが届かなかったのが残念。だけどそれも相まって、「綺麗事で終わらない感」というか、痛々しいリアルな形が伝わる。女の子たちに寄る路上での復興ソング弾き語り・CD販売が「震災を利用した金儲け」と捉えられる場面が強烈に胸を痛めた。
<約束>は理恵子先生が勝手なのと最後を無理やり綺麗にまとめ過ぎて逆に後味が悪かった。帯に書いてあるような痛切な「ごめんなさい」と滝本くんのやったことがそれほど釣り合わない気もする。