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三十年住んだ武蔵野の地を離れ、妻とふたりで都心へと居を移した「私」。ゆっくりと確実に変化していく日常と、家族の形。近づいてくる老いと沈殿していく疲れを自覚しながら、相変わらず取材旅行に駆けまわる毎日だ。そんなとき、古い友人の悪い報せが「私」を大きく揺るがせる……。『岳物語』から二十余年。たくさんの出会いと別れとを、静かなまなざしですくいとる椎名的私小説の集大成。
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Posted by ブクログ
集英社の月刊文芸誌『すばる』2001年1月号~2002年8月号に掲載された小説をまとめ、2003年4月に刊行されたもの。椎名氏の長女は当時ニューヨークに住んでおり、2001年9月11日に同時多発テロが発生する。自分は久しぶりのアメリカ旅行を計画していたのだが、この事件のせいで当然ダメになってしまう。...続きを読む当時の世相を思い出しつつ椎名一家がどのように過ごしていたのか、興味深く読ませていただきました。
なんと池澤夏樹氏との対談が僅かではあるが取り上げられていて、二大好きな作家の共演に読書人生のヨロコビをかみしめた一冊。
この方の著作は半分も読んでいませんが、細々と読み続けてきたので、思いいれがあります。この本は正直衝撃的でした。自分的には名著です。
長年のシーナファンだけれど、隊長の執筆量たるやものすごく、とても全部は読めていない。あまり読んでいない時期もあったので、ちょっとさかのぼって読もうかと思い、特に好きな「私小説」シリーズで未読のものを文庫や古本で入手。 まずこれをしみじみ読み終えて、本棚の椎名本の列に加えようとしたら、なんと! 同じ...続きを読むのがあるじゃん! 読んだことあったのか。この手の話は珍しくもないけれど、自分だけは無縁だと思ってたのに…。 ええ、面白かったですよ。しみじみ読みましたよ。葉ちゃんも岳君も遠く離れようと、「家族」はいつも「かえっていく場所」なんだなあと思いながら。きっと前もそう思ってしんみりしたんでしょうよ。全然覚えてないけどさ。むう。
哀愁の街に霧が降っていたころから、随分歳をとった。 よくよく見ると、特別変わっているというわけでもない日常。面白いことがあったり、鬱になったり。 何気ない日常を切り取ったスナップ写真が、普段は気づかない、いつもそこにあるちょっと面白いものを教えてくれるように、シーナさんが物語のありかを教えてくれ...続きを読むる。そんな本。
久しぶりにシーナ作品を読んだ。 ギラギラしていた若い頃とはうってかわって、なんだか妙に元気のない姿。時の流れを感じるとともに、ほんわかした暖かい気持ちに触れたような気がした。
海辺で作った砂の城が、ゆっくりと乾燥していきいつの間にかもうその形をとどめていないのに気づいてしまった喪失感。最初はそう思った。過去そうであったものが、知らないものに形を変えられてしまったような。 でも読み終わって考えていたらそうではないことに気がついた。もともと砂は一粒の細かな何かで作られていて、...続きを読むただ形を変えただけのこと。そんな石も貝もそれぞれ元素で構成されていること。 「帰る」とは「還る」ではない。「還る」なら、どこからか生まれてまた違う形になるめぐりめぐる旅だろう。肉体は土に還り、魂は宗教という概念を作り出してしまった人間によって神の御許に戻る。「帰る」とは出てしまったものだ。帰ることを目的にする人は余りいなく、目的地や目標があって、そこから戻る工程が「帰る」ことになるのだろう。つまり「帰る」は廻らない。 でもうまれてしまった茫洋とした思いは、どこにも行けないかわりに、どこにも帰れない。行き場をなくした思いの終着点はどこなのだろうか。 もう20年近くシーナ家を私小説のような、エッセイのような形で見ていて、さながら「北の国から」で純と蛍の成長を見守っているかのような気持ちになってしまっているのだが、シーナ家のみんなが抱える思い、そして不幸にしておこってしまった忘れもしない9.11のテロ。家族、友人、仕事仲間。幾人ものいくつもの想いがすれ違い、触れ合いながら袖触れ合ってまたどこかに行ってしまう。みな今、現在のベースを移しながら歩みを続けている。もしくは歩かされている。 家があるなら帰れば良い。「気をつけて帰るんだよ。家に着くまでが遠足ですよ」と使い古され、埃が出るくらいの冗談を笑いながらいってあげよう。故郷に帰る人には、「ゆっくりして、旧友や親とあってきなよ、親孝行、したいときは親はなしっていうよ」と冗談めかして送るのだろう。亡くなった方には「頑張って生きましたね、忘れませんよ」とご冥福を祈って天国に送り出すだろう。僕は、自分の実家には、時間ができたら帰るといって3年近く帰っていない。 自らが生んでしまった「私」という自意識が育てた誰にも気づかれない「思い」はどこに向かって帰るべきなのだろうか。そもそもどこに向かっているのだろうか。このわだかまりは、わだかまったまま「存在」として残り続け、いろいろな形で僕を悩ますのだろうか。そうならば、帰り道を探す前に果ての地をつくらなくてはいけない。わだかまりの墓場を、墓標を作ってあげなければ、この想いは成仏しない。どこにも行けないし、帰れない。 まずは目的地を決めて、そこにに向かって歩こう。目的地についたら、一度来た道を振り返ろう。同じ道なら来た時よりは早く帰れるし、別の道ならまた道中に楽しみや悲しみがあるだろう。早く帰ることよりも、道中の天候に振り回されながらも疲労困憊になりながらも、ベッドを目指して歩こう。 こんな一人の思いのキャッチボールを、この本を通じでさせてもらったような気持ちだ。まだまだ、シーナ家の話は続いていく。僕の人生も悩みも続いていく。帰るべき場所をまずは探して。
20代はじめころまで椎名誠のエッセイはほぼすべて読んでいたのだけれど、いつしか読まなくなってしまい、今回は20年ぶりくらいに読んだかも。 「昭和軽薄体」なんて言われてた文体が、いまや、なんともしっとりと落ち着いていて、読んでいるとなにか心なぐさめられるような気が。 「岳物語」から、子供は成長して家を...続きを読む出て、シーナさんも年をとり。ああ、あの椎名さんの家族でもいつもいつも明るく正しくハッピーってことではなくて、椎名さんでも気弱になることもあるのだなあ、とか思って、逆にほっとするような。 中年期の鬱っぽい感じもすごくよく共感できて、なんだかしみじみと読んだ。よかった。 やっぱりひさびさに読んでも椎名さんのエッセイはいいな。 「春画」をぬかしてたのでそれも読んで、あと、この続きも読んでいきたい。
岳物語から続く椎名誠の私小説シリーズも二十年経って、最初とは全く違うカラーになった。 親子のやり取りが微笑ましい、読んでいてホッとする岳物語から、本書は子供たちも大人になり、それぞれの道をしっかりと歩み、一方父母は同じ歳を重ねた中でいくらか疲れ、気弱になっている。 そして昔のように家族が揃うことは少...続きを読むなくなってしまったが、椎名家の温かい家族の絆は何も変わらない。 たぶん子供たちも素敵な家庭を築くだろう。 そうして、本にはならないかもしれないが、この物語は延々と続いていくのだろう。
椎名誠の小説はひとつも読んだことがなくてときどき、旅のエッセイを読むことがあるくらいだけど、『岳物語』に始まる椎名家の物語は、ひそかに気にとめていて『続岳物語』『春画』と、本屋で出会うたびに、つい買っていた。先日、本屋でその私小説シリーズの続編ともいえる『かえっていく場所』を見つけて、さっそく手に取...続きを読むり、最近の椎名家のことを知ることとなった。『岳物語』ではまったく姿を見せなかった娘がずいぶんと登場していて、ちょっと驚いたが、それよりなにより、あのパワーの塊のような椎名氏が心を病んでいたこと、さらに、いつもきりっと背筋を伸ばしているイメージの一枝さんまでも、心を弱らせていたということに、あんなに元気に好き勝手してこれた人たちでも、やっぱりそうなんだ〜〜と、タメイキが出てしまった。まあ、でも、考えてみれば椎名誠も62歳だよ。信じられんが。椎名家の物語に惹かれるのは、この家族4人の成熟したオトナの付き合い方だ。今の日本では珍しい個人を尊重したスタイル。アメリカに住む子どもたちと、旅の多い親たちが、時には世界のあちこちに散らばりながら、好き勝手に暮らしているようでありながら、しかし、根っこの部分でつながっている。いったいどこの何がその求心力なのか。「かえっていく場所」を、それぞれに持っているということなんだろうか。それって、どうやって培われてくるものなのだろうか。椎名家のことが気にかかるのは、その部分。その謎を知りたくてこの家族の物語を追っているようなものだ。
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アド・バード
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