あらすじ
三十年住んだ武蔵野の地を離れ、妻とふたりで都心へと居を移した「私」。ゆっくりと確実に変化していく日常と、家族の形。近づいてくる老いと沈殿していく疲れを自覚しながら、相変わらず取材旅行に駆けまわる毎日だ。そんなとき、古い友人の悪い報せが「私」を大きく揺るがせる……。『岳物語』から二十余年。たくさんの出会いと別れとを、静かなまなざしですくいとる椎名的私小説の集大成。
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「岳物語」が1985年、本書の単行本はその18年後の2003年の刊行。
著者の私小説シリーズは飾らない文体で家族の日々を描いてきた。いい時ばかりではないけど、その描写に温かい気持ちになる。
文庫版の吉田伸子さんの解説にも感動した。
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集英社の月刊文芸誌『すばる』2001年1月号~2002年8月号に掲載された小説をまとめ、2003年4月に刊行されたもの。椎名氏の長女は当時ニューヨークに住んでおり、2001年9月11日に同時多発テロが発生する。自分は久しぶりのアメリカ旅行を計画していたのだが、この事件のせいで当然ダメになってしまう。当時の世相を思い出しつつ椎名一家がどのように過ごしていたのか、興味深く読ませていただきました。
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長年のシーナファンだけれど、隊長の執筆量たるやものすごく、とても全部は読めていない。あまり読んでいない時期もあったので、ちょっとさかのぼって読もうかと思い、特に好きな「私小説」シリーズで未読のものを文庫や古本で入手。
まずこれをしみじみ読み終えて、本棚の椎名本の列に加えようとしたら、なんと! 同じのがあるじゃん! 読んだことあったのか。この手の話は珍しくもないけれど、自分だけは無縁だと思ってたのに…。
ええ、面白かったですよ。しみじみ読みましたよ。葉ちゃんも岳君も遠く離れようと、「家族」はいつも「かえっていく場所」なんだなあと思いながら。きっと前もそう思ってしんみりしたんでしょうよ。全然覚えてないけどさ。むう。
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哀愁の街に霧が降っていたころから、随分歳をとった。
よくよく見ると、特別変わっているというわけでもない日常。面白いことがあったり、鬱になったり。
何気ない日常を切り取ったスナップ写真が、普段は気づかない、いつもそこにあるちょっと面白いものを教えてくれるように、シーナさんが物語のありかを教えてくれる。そんな本。
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久しぶりにシーナ作品を読んだ。
ギラギラしていた若い頃とはうってかわって、なんだか妙に元気のない姿。時の流れを感じるとともに、ほんわかした暖かい気持ちに触れたような気がした。
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海辺で作った砂の城が、ゆっくりと乾燥していきいつの間にかもうその形をとどめていないのに気づいてしまった喪失感。最初はそう思った。過去そうであったものが、知らないものに形を変えられてしまったような。
でも読み終わって考えていたらそうではないことに気がついた。もともと砂は一粒の細かな何かで作られていて、ただ形を変えただけのこと。そんな石も貝もそれぞれ元素で構成されていること。
「帰る」とは「還る」ではない。「還る」なら、どこからか生まれてまた違う形になるめぐりめぐる旅だろう。肉体は土に還り、魂は宗教という概念を作り出してしまった人間によって神の御許に戻る。「帰る」とは出てしまったものだ。帰ることを目的にする人は余りいなく、目的地や目標があって、そこから戻る工程が「帰る」ことになるのだろう。つまり「帰る」は廻らない。
でもうまれてしまった茫洋とした思いは、どこにも行けないかわりに、どこにも帰れない。行き場をなくした思いの終着点はどこなのだろうか。
もう20年近くシーナ家を私小説のような、エッセイのような形で見ていて、さながら「北の国から」で純と蛍の成長を見守っているかのような気持ちになってしまっているのだが、シーナ家のみんなが抱える思い、そして不幸にしておこってしまった忘れもしない9.11のテロ。家族、友人、仕事仲間。幾人ものいくつもの想いがすれ違い、触れ合いながら袖触れ合ってまたどこかに行ってしまう。みな今、現在のベースを移しながら歩みを続けている。もしくは歩かされている。
家があるなら帰れば良い。「気をつけて帰るんだよ。家に着くまでが遠足ですよ」と使い古され、埃が出るくらいの冗談を笑いながらいってあげよう。故郷に帰る人には、「ゆっくりして、旧友や親とあってきなよ、親孝行、したいときは親はなしっていうよ」と冗談めかして送るのだろう。亡くなった方には「頑張って生きましたね、忘れませんよ」とご冥福を祈って天国に送り出すだろう。僕は、自分の実家には、時間ができたら帰るといって3年近く帰っていない。
自らが生んでしまった「私」という自意識が育てた誰にも気づかれない「思い」はどこに向かって帰るべきなのだろうか。そもそもどこに向かっているのだろうか。このわだかまりは、わだかまったまま「存在」として残り続け、いろいろな形で僕を悩ますのだろうか。そうならば、帰り道を探す前に果ての地をつくらなくてはいけない。わだかまりの墓場を、墓標を作ってあげなければ、この想いは成仏しない。どこにも行けないし、帰れない。
まずは目的地を決めて、そこにに向かって歩こう。目的地についたら、一度来た道を振り返ろう。同じ道なら来た時よりは早く帰れるし、別の道ならまた道中に楽しみや悲しみがあるだろう。早く帰ることよりも、道中の天候に振り回されながらも疲労困憊になりながらも、ベッドを目指して歩こう。
こんな一人の思いのキャッチボールを、この本を通じでさせてもらったような気持ちだ。まだまだ、シーナ家の話は続いていく。僕の人生も悩みも続いていく。帰るべき場所をまずは探して。
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20代はじめころまで椎名誠のエッセイはほぼすべて読んでいたのだけれど、いつしか読まなくなってしまい、今回は20年ぶりくらいに読んだかも。
「昭和軽薄体」なんて言われてた文体が、いまや、なんともしっとりと落ち着いていて、読んでいるとなにか心なぐさめられるような気が。
「岳物語」から、子供は成長して家を出て、シーナさんも年をとり。ああ、あの椎名さんの家族でもいつもいつも明るく正しくハッピーってことではなくて、椎名さんでも気弱になることもあるのだなあ、とか思って、逆にほっとするような。
中年期の鬱っぽい感じもすごくよく共感できて、なんだかしみじみと読んだ。よかった。
やっぱりひさびさに読んでも椎名さんのエッセイはいいな。
「春画」をぬかしてたのでそれも読んで、あと、この続きも読んでいきたい。
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岳物語から続く椎名誠の私小説シリーズも二十年経って、最初とは全く違うカラーになった。
親子のやり取りが微笑ましい、読んでいてホッとする岳物語から、本書は子供たちも大人になり、それぞれの道をしっかりと歩み、一方父母は同じ歳を重ねた中でいくらか疲れ、気弱になっている。
そして昔のように家族が揃うことは少なくなってしまったが、椎名家の温かい家族の絆は何も変わらない。
たぶん子供たちも素敵な家庭を築くだろう。
そうして、本にはならないかもしれないが、この物語は延々と続いていくのだろう。
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椎名誠の小説はひとつも読んだことがなくてときどき、旅のエッセイを読むことがあるくらいだけど、『岳物語』に始まる椎名家の物語は、ひそかに気にとめていて『続岳物語』『春画』と、本屋で出会うたびに、つい買っていた。先日、本屋でその私小説シリーズの続編ともいえる『かえっていく場所』を見つけて、さっそく手に取り、最近の椎名家のことを知ることとなった。『岳物語』ではまったく姿を見せなかった娘がずいぶんと登場していて、ちょっと驚いたが、それよりなにより、あのパワーの塊のような椎名氏が心を病んでいたこと、さらに、いつもきりっと背筋を伸ばしているイメージの一枝さんまでも、心を弱らせていたということに、あんなに元気に好き勝手してこれた人たちでも、やっぱりそうなんだ〜〜と、タメイキが出てしまった。まあ、でも、考えてみれば椎名誠も62歳だよ。信じられんが。椎名家の物語に惹かれるのは、この家族4人の成熟したオトナの付き合い方だ。今の日本では珍しい個人を尊重したスタイル。アメリカに住む子どもたちと、旅の多い親たちが、時には世界のあちこちに散らばりながら、好き勝手に暮らしているようでありながら、しかし、根っこの部分でつながっている。いったいどこの何がその求心力なのか。「かえっていく場所」を、それぞれに持っているということなんだろうか。それって、どうやって培われてくるものなのだろうか。椎名家のことが気にかかるのは、その部分。その謎を知りたくてこの家族の物語を追っているようなものだ。
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久しぶりに椎名さんの本。
「あ〜 こんなに月日が経ったんだなぁ」と感慨深いものがあった。
『岳物語』
『続 岳物語』
『春画』
『かえっていく場所』
と続いた私生活をつづったエッセイ。
この人の本を続けていると、ちょっとした知り合いの家族のような気がしてくる。
岳くんも 葉ちゃんも 立派な大人に育ち、なんだかうれしいのと、椎名さんはだんだん元気がなくなっているようで、少し心配。
でも この家族は、これからも、遠く離れながらもうまく励ましあって支えあって、素敵な家族でいくと思う。
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椎名さんが書くと、私小説と言っても、どこまでが小説なのか良くわからない。昔、昔読んだ、一連の「岳物語」とは、少しばかり趣が変わり、著者の老いというか、苦悩というかが現れていて、それもまた、よろしい。
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「椎名誠」の私小説『かえっていく場所』を読みました。
『南洋犬座―100絵100話』、『家族のあしあと』、『春画』に続き、「椎名誠」作品です。
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かけがえのない、あの場所へ──。
家族、友人、忘れ得ぬ土地……。
三十年住んだ武蔵野の地を離れ、妻とふたりで都心へと居を移した「私」。
ゆっくりと確実に変化していく日常と、家族の形。近づいてくる老いと沈殿していく疲れを自覚しながら、相変わらず取材旅行に駆けまわる毎日だ。
そんなとき、古い友人の悪い報せが「私」を大きく揺るがせる…。
『岳物語』から二十余年。
たくさんの出会いと別れとを、静かなまなざしですくいとる「椎名」的私小説の集大成。
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「椎名誠」が、雑誌『すばる』の2001年(平成12年)1月号から2002年(平成13年)8月号に連載していた作品12篇を収録した短篇集で私小説として『春画』に続く作品です、、、
「椎名誠」本人も『春画』に比べ「少し気分が上昇し、かなり明るめの従来の私小説路線に入っていった短編集」と語っており、やや明るい私小説路線に戻ろうとしているものの… やはり、他の私小説と読み比べると暗い部類に入る内容でしたね。
■1 桜の木が枯れました。
■2 高曇りの下のユーウツ
■3 窓のむこうの洗濯物
■4 東京の白い夜景
■5 冬の椿の山の上
■6 屋上男の見る風景
■7 エルデネ村の狼狩り
■8 アザラシのためのコンサート
■9 波止場食堂のノラ犬たち
■10 雪山の宴。キタキツネの夜。
■11 イイダコの水鉄砲
■12 プンタ・アレーナスの金物屋
■解説 吉田伸子
住み慣れた武蔵野から都心への引っ越し、新しい3階建ての自宅の屋上、取材を中心とした、沖縄、モンゴル、スコットランド、ミャンマー、チリ・パタゴニア等々への旅行… 国内や世界各地で、時を変え、場所を変え、考える様々な出来事、、、
人生に訪れる幾多の邂逅と別離、歓びや悲しみ、不安定な心模様が綴られた作品… 人生の影の部分の印象が強く残る作品ですが、人間のココロって、実際は常に明るく元気な訳じゃないから、過去の作品よりも、素直に描かれた作品なのかもしれませんね。
その中でも、特に印象に残ったのは「野田知佑」との関係が綻んでいくことかな(名前は明記されてないけど…)、、、
「野田知佑」の生き方にも、若い頃に憧れたことがあるので、ちょっと残念でした。
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非常に落胆してしまった一冊...、椎名さん好きなので正直つらい...!
椎名さんを知らない、読んだことがない人にとっては本書は何が面白いのか分からない一冊だと思う。
そして椎名さんや怪しい探検隊が好きだった人は、みんな心から落ち込むと思う。「どうしちゃったんだよ!」と...。
子供たちは海外の大学に通い、都心の高級マンションに簡単に引っ越せて、多くの連載をもってて、仕事で海外に時にはファーストクラスで頻繁で出かける、、、それなのにまったく羨ましさを感じず、感じるのは寂しさだった...。
もっとショックだったのは「年上の旅人の友人」だ...。
本当に野田さんなのだろうか、酒と眠剤におぼれて人にあたるって本当に終わってるし、「何やってるんだ」って...。芯の曲がってないみんなが尊敬していたあの野田さんはどこにいっちゃったんだよと...。
ただ本書は2006年刊行。ちなみに僕自身、野田さんには2010年にあるイベントでお会いしてて、そのときは病気の様子は微塵もなく素敵なカヌーイストの野田さんであった。2019年の今現在も川ガキ養成講座を開き、子供たちに愛され尊敬されている。
人生どうなるか分からない...。心の病は本当に怖い。お酒は美味しいけど、気を付けなければいけない。。。。
Posted by ブクログ
岳物語から10数年。椎名さんの2003年の私小説。長女、長男ともにアメリカで暮らすようになり、椎名夫妻は引越をする。不眠症に悩む椎名さん、体調不良から回復しつつある奥様。かつての友人たちもそれぞれに変化している。チベット旅行で健康を取り戻す奥様と、かつて訪れた地を再訪し、思いにふける椎名さん。
断片的な状況がまとめられている書なので、一貫したストーリーがあるわけではないのだが、岳物語の時代からの読者は、もうそんな時間が過ぎてしまったのだな、と感慨にふけりつつ読むことができる。
人生後半を迎えた一人の男性が生き方を模索する様子には、身につまされるものもありました。
Posted by ブクログ
大分前の本なのですが、既に岳物語の時代から遠く離れて、人生の里程が見え始めた椎名さんの姿が垣間見えます。理想の家族像だったご一家ですが、子供は2人ともアメリカに移住し、夫婦2人の生活。忙しい夫婦なので擦れ違い状態でお互いに精神が少し病んでいるようでした。離れていてもお互い思いやっている家族で有る事がとても伝わってきますが、やはり夫婦ずっと離れていると寂しいもんですよね。
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「家族4人それぞれが違う国にいる」
物書きさん うらやましい限りだが 99.9%が庶民の日本では
反感買いますよ。人生金があれば何でもできる。いい暮らし方してるよ椎名さん。羨望です。ボーとした雰囲気は好感が持てます