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図書館のほの暗い館長室で、「私」は子易さんに問いかける。孤独や悲しみ、“街”や“影”について……。そんなある日、「私」の前に不思議な少年があらわれる。イエロー・サブマリンの絵のついたヨットパーカを着て、図書館のあらゆる本を読み尽くす少年。彼は自ら描いた“街”の地図を携え、影を棄てて壁の内側に入りたいと言う――二つの世界を往還する物語がふたたび動き出す。
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Posted by ブクログ
71歳になってもこれを書き上げる村上春樹の執筆への愛の深さに感動した。書き切れないものを書き切れないままに書き切る。とても良かった。
これは村上春樹の最後の長編作品になるかもしれない。そう思った。 時計の針が進むこと、自らが老いていくこと。世界は変化を嫌うが、それこそが生きている証なのだろう。 日々、失敗を繰り返し、過去の栄光を思い返し嘆くこともあるが、そんな自分が美しいんだろうな… 本作も村上春樹ワールド全開であったな〜
読み応え…!! この物語から何かを見い出そうとしながら読み進むものの、掬い取れずにこぼれ落ちていくような歯痒さ。それでも一文一文の美しさや重くもあり軽くもあるような文体に引き込まれ、"理解度"なんて表面的なものに捉われずに突き進む気持ちよさ。そのような感覚を終始味わう読書体験...続きを読むであった。 とはいえ、自分なりにこの物語のテーマは?と考えてみると、「深いトラウマを抱えた人間が分裂を経て自我とシャドウを統合するプロセス」と言えるかなと思う。影をなくすというのは、過去のトラウマや心の深い部分を直視出来ず、"なかったことにする"ことかなと。影をなくすと、"記号"のような人格が残る。その人格だけでも、社会性を持って形として生きていくことは出来る。でも人と深く繋がったり感動したりすることは出来なくなってしまうのではないか。 下巻で登場するイエローサブマリンの少年は、恐らく主人公の心の深い部分を刺激し、影を思い起こさせてくれた存在なのだろう。最後のシーンが印象的で静かに感動した。 「あなたの心は空を羽ばたく鳥です。…あなたの分身が、そのあなたの勇気ある落下を、外の世界でしっかり受け止めてくれることを、心の底から信じればいいのです」 更に考えていくと、私の場合は瞬間風速的なトラウマによって壁の街を意識の中に拵えた感覚はないけれど、どちらかというとじわじわと、家庭環境や社会的なコミュニティの中で、"世間の目"のような壁に360°取り囲まれた街に住んでいる感覚はある。この物語の壁は、ディストピア要素もありながらどちらかと言えば"自分を守るため"の孤独だけど平穏で安心出来るユートピアでもある気がする。一方で私のイメージする世間の目に囲まれた街は、もっとディストピア感が強い。ジョージオーウェルの1984年のそれに近いような。 影を完全に切り離して壁に囲まれた街に身を置くプロセスは、1人の人間として統合された成熟を得るために、私にも必要なプロセスなのかもしれない等とも考えた。 ※なぜ門番ではなく門衛という言葉に変わっていたのか、些末なことだけどなにか引っかかることも備忘までに記しておきたい。
この物語は理解するというより、物語に身を委ねて、最後までそれを受け止める、そんな風に読みました。 夏前から読み始めて、随分と時間がかかりました。 今朝読み終わってしばらく余韻の中にいたら、しとしと雨が降り始めました。 暗いけれど、静かで落ち着く朝です。 全体的に暗く冷たく静かな物語ですが、その中...続きを読むに心の内部の躍動、綺麗な情景、温もりのあるもの、そういう心惹かれるものたちが敷き詰められています。 暖炉の火。熱いコーヒーとブルーベリーマフィン。コーヒー屋の女性。主人公が料理をするシーンなんかも、読んでいる私自身を温めてくれるようなときめく文章でした。 自分はどう生きたいか、必要な時に人は自分を信じ、その道を自分で選び取ることができる。 人はどこまでも孤独だけれど、時折その心を明るく灯すものがあること、時折誰かと交わることができること、そしてそれを誰しも求めていること。 そんなことを想う一冊になりました。
とても、とても妖艶で綺麗で、それでいて少し切ない物語でした。村上さんの小説は、失われた愛がとても印象に残ります。あるいは、本当はあった未来や平穏。でも、意味も分からなく終わりのくる関係。世の中なんて理由のつけられないことの方が、多い。不条理で、美しい物語に感謝。
真実というものは存在しない。同時に、この世に確かなものなどない。自分の意識や肉体ですらそうである。その一方で、誰かを一途に想う気持ちは確かに存在する。自分自身の同一性、初恋の女性の姿、街、壁といったものは物語の中で変化を続けていくが、一途な気持ちだけは変わらない。そうした感情だけが確かなものとして、...続きを読むそして生きるための礎として、残り続ける。 また再読したい。
なんでだろう?小説って読んだら大体すぐ内容忘れちゃうのに村上春樹の小説ってずっと忘れないというか、脳じゃなくて魂が記憶してるというか。世界の終わりとハードボイルドワンダーランド以来に壁の中の世界に入り込んだけど、世界の終わりとハードボイルドワンダーランドの時とはまた違った物を感じ取った。 「私の分身...続きを読むを信じる」ってなんかいいな。誰かを信じるよりももっと安心できる。影なのか本体なのかはわからないけど、私の分身を信じようと思う。あーもっと深く読めるようになりたい、、
よく分からないけど凄く希望のある話だった。 自分の闇の部分と一緒に現実を生きましょうよ。現実と壁の中(自分の作り上げた世界なのかな)が入り混じり、闇の部分が現実を生きて、自分だと思っていた部分が壁の世界を生きている。 なんだかよくわかんなくなってきたぞ
2025.08.10〜09.02 村上ワールドを堪能。 どれが現実なのか。 私が今居る世界は、どこなのか。 もし、この私が影なら。 もし、この私が本体なら。 複雑だったし、読むのに時間がかかったけれど、面白かった。
ああ、ぼくは今出会うべくして今この本に出会ったのだな、と思える小説でした。 もしかしたら、今ここでこうしている僕はいわゆる影で、本体というか意識の深層というものは不確かな壁の向こうにある街にいるのかもしれない。 そうしてぼくは影に現実を任せて、ただ静かで時間が意味をなさない街のなかで、ありし日の...続きを読む思い出に閉じこもろうとしているのかもしれない。 でもきっとぼくも、いつか本作の「私」のように…。 傷ついてもなにかをなくしても、人は生き、時間は刻まれていかなければならない。 その残酷さと優しさを感じさせてくれる作品。 なんて静かで、救いに満ちた物語なんだろう。 村上春樹さんの小説に、これほど優しさとあたたかさを感じたのは初めてです。 自分の人生の大切な場面を振り返ると、その時々に合った小説に偶然出会い、そこから深い洞察を得られるのはなぜなのでしょう? この小説も、きっと自分の人生の一コマを思い出すときに必ず一緒に思い起こすことになる、大切な作品になりました。
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街とその不確かな壁(新潮文庫)
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村上春樹
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