【感想・ネタバレ】街とその不確かな壁(下)(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

図書館のほの暗い館長室で、「私」は子易さんに問いかける。孤独や悲しみ、“街”や“影”について……。そんなある日、「私」の前に不思議な少年があらわれる。イエロー・サブマリンの絵のついたヨットパーカを着て、図書館のあらゆる本を読み尽くす少年。彼は自ら描いた“街”の地図を携え、影を棄てて壁の内側に入りたいと言う――二つの世界を往還する物語がふたたび動き出す。

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

71歳になってもこれを書き上げる村上春樹の執筆への愛の深さに感動した。書き切れないものを書き切れないままに書き切る。とても良かった。

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2025年11月28日

Posted by ブクログ

これは村上春樹の最後の長編作品になるかもしれない。そう思った。

時計の針が進むこと、自らが老いていくこと。世界は変化を嫌うが、それこそが生きている証なのだろう。

日々、失敗を繰り返し、過去の栄光を思い返し嘆くこともあるが、そんな自分が美しいんだろうな…

本作も村上春樹ワールド全開であったな〜

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2025年11月12日

Posted by ブクログ

読み応え…!!

 この物語から何かを見い出そうとしながら読み進むものの、掬い取れずにこぼれ落ちていくような歯痒さ。それでも一文一文の美しさや重くもあり軽くもあるような文体に引き込まれ、"理解度"なんて表面的なものに捉われずに突き進む気持ちよさ。そのような感覚を終始味わう読書体験であった。

 とはいえ、自分なりにこの物語のテーマは?と考えてみると、「深いトラウマを抱えた人間が分裂を経て自我とシャドウを統合するプロセス」と言えるかなと思う。影をなくすというのは、過去のトラウマや心の深い部分を直視出来ず、"なかったことにする"ことかなと。影をなくすと、"記号"のような人格が残る。その人格だけでも、社会性を持って形として生きていくことは出来る。でも人と深く繋がったり感動したりすることは出来なくなってしまうのではないか。

 下巻で登場するイエローサブマリンの少年は、恐らく主人公の心の深い部分を刺激し、影を思い起こさせてくれた存在なのだろう。最後のシーンが印象的で静かに感動した。

「あなたの心は空を羽ばたく鳥です。…あなたの分身が、そのあなたの勇気ある落下を、外の世界でしっかり受け止めてくれることを、心の底から信じればいいのです」

 更に考えていくと、私の場合は瞬間風速的なトラウマによって壁の街を意識の中に拵えた感覚はないけれど、どちらかというとじわじわと、家庭環境や社会的なコミュニティの中で、"世間の目"のような壁に360°取り囲まれた街に住んでいる感覚はある。この物語の壁は、ディストピア要素もありながらどちらかと言えば"自分を守るため"の孤独だけど平穏で安心出来るユートピアでもある気がする。一方で私のイメージする世間の目に囲まれた街は、もっとディストピア感が強い。ジョージオーウェルの1984年のそれに近いような。

 影を完全に切り離して壁に囲まれた街に身を置くプロセスは、1人の人間として統合された成熟を得るために、私にも必要なプロセスなのかもしれない等とも考えた。

※なぜ門番ではなく門衛という言葉に変わっていたのか、些末なことだけどなにか引っかかることも備忘までに記しておきたい。


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2025年11月10日

Posted by ブクログ

この物語は理解するというより、物語に身を委ねて、最後までそれを受け止める、そんな風に読みました。

夏前から読み始めて、随分と時間がかかりました。
今朝読み終わってしばらく余韻の中にいたら、しとしと雨が降り始めました。
暗いけれど、静かで落ち着く朝です。

全体的に暗く冷たく静かな物語ですが、その中に心の内部の躍動、綺麗な情景、温もりのあるもの、そういう心惹かれるものたちが敷き詰められています。
暖炉の火。熱いコーヒーとブルーベリーマフィン。コーヒー屋の女性。主人公が料理をするシーンなんかも、読んでいる私自身を温めてくれるようなときめく文章でした。

自分はどう生きたいか、必要な時に人は自分を信じ、その道を自分で選び取ることができる。
人はどこまでも孤独だけれど、時折その心を明るく灯すものがあること、時折誰かと交わることができること、そしてそれを誰しも求めていること。
そんなことを想う一冊になりました。

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2025年09月29日

Posted by ブクログ

とても、とても妖艶で綺麗で、それでいて少し切ない物語でした。村上さんの小説は、失われた愛がとても印象に残ります。あるいは、本当はあった未来や平穏。でも、意味も分からなく終わりのくる関係。世の中なんて理由のつけられないことの方が、多い。不条理で、美しい物語に感謝。

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2025年09月25日

Posted by ブクログ

真実というものは存在しない。同時に、この世に確かなものなどない。自分の意識や肉体ですらそうである。その一方で、誰かを一途に想う気持ちは確かに存在する。自分自身の同一性、初恋の女性の姿、街、壁といったものは物語の中で変化を続けていくが、一途な気持ちだけは変わらない。そうした感情だけが確かなものとして、そして生きるための礎として、残り続ける。

また再読したい。

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2025年09月20日

Posted by ブクログ

なんでだろう?小説って読んだら大体すぐ内容忘れちゃうのに村上春樹の小説ってずっと忘れないというか、脳じゃなくて魂が記憶してるというか。世界の終わりとハードボイルドワンダーランド以来に壁の中の世界に入り込んだけど、世界の終わりとハードボイルドワンダーランドの時とはまた違った物を感じ取った。
「私の分身を信じる」ってなんかいいな。誰かを信じるよりももっと安心できる。影なのか本体なのかはわからないけど、私の分身を信じようと思う。あーもっと深く読めるようになりたい、、

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2025年09月16日

Posted by ブクログ

よく分からないけど凄く希望のある話だった。
自分の闇の部分と一緒に現実を生きましょうよ。現実と壁の中(自分の作り上げた世界なのかな)が入り混じり、闇の部分が現実を生きて、自分だと思っていた部分が壁の世界を生きている。

なんだかよくわかんなくなってきたぞ

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2025年08月29日

Posted by ブクログ

2025.08.10〜09.02
村上ワールドを堪能。
どれが現実なのか。
私が今居る世界は、どこなのか。
もし、この私が影なら。
もし、この私が本体なら。

複雑だったし、読むのに時間がかかったけれど、面白かった。

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2025年09月02日

Posted by ブクログ

ああ、ぼくは今出会うべくして今この本に出会ったのだな、と思える小説でした。

もしかしたら、今ここでこうしている僕はいわゆる影で、本体というか意識の深層というものは不確かな壁の向こうにある街にいるのかもしれない。

そうしてぼくは影に現実を任せて、ただ静かで時間が意味をなさない街のなかで、ありし日の思い出に閉じこもろうとしているのかもしれない。

でもきっとぼくも、いつか本作の「私」のように…。

傷ついてもなにかをなくしても、人は生き、時間は刻まれていかなければならない。
その残酷さと優しさを感じさせてくれる作品。


なんて静かで、救いに満ちた物語なんだろう。
村上春樹さんの小説に、これほど優しさとあたたかさを感じたのは初めてです。




自分の人生の大切な場面を振り返ると、その時々に合った小説に偶然出会い、そこから深い洞察を得られるのはなぜなのでしょう?
この小説も、きっと自分の人生の一コマを思い出すときに必ず一緒に思い起こすことになる、大切な作品になりました。

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2025年08月08日

Posted by ブクログ

さすがは村上春樹。訳がわからない。でも一気読み。
相変わらず変な作風だ。
1Q84の続きが読みたい!(あれで終わり?ってずーっと思ってます。)

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2025年11月05日

Posted by ブクログ

ハードボイルドとワンダーランドと同じ世界線の本
まとめるのが少し馬鹿らしくなるくらい話が目まぐるしく変わっていくし伏線は回収されない。
そんなの関係ないくらい村上春樹のつむぎ出す言葉も人間も世界も鮮やかでたのしかった。
もう71歳なのか、これが最後に読む村上春樹の作品になるかもしれないという覚悟で読むべきだったな

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2025年10月03日

Posted by ブクログ

色々な作家の本を読んでみてから、村上春樹作品に戻ってくると、この世界観に浸っていることがただただ心地よくて、面白いかどうかは関係ないのだと気づく。『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』が何より好きな自分としては、また壁の中の世界を描いてくれたことを嬉しく思い、現実世界に耐えられなくなったら再読して壁の向こうへ行く妄想でやり過ごそうと思う。

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2025年09月24日

Posted by ブクログ

ハードカバーで読んだけど、文庫出たので再読。

立場や場所で影と本体のようなものが決まってくる。
でも、影と本体、どちらかにこだわらなくていい気がしてきた。

影的な部分も、本体的な部分も、両方とも自分の中にあるものだ。

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2025年09月12日

Posted by ブクログ

今作の方が現実寄りに感じた。内なる心、過去に引きこもってるのは安全で、完結してて、幸福かもしれないけど、変化もない。外の世界は辛いこともいっぱいあるし、確実なことなんてないけど、人とつながる幸福があったり、変化を楽しんだり、五感で感じることができる(壁の中に音楽がないのはこれの対比かな)。自分は確固たる幸福な過去なんてものはないから、世界を作り上げられるくらい(そこに入り浸りたいと思うぐらい)の過去があるのは幸せなこととも思った。
生きていくために、内の世界に逃げ込んだりしながら、外の世界で戦っていきたいと思う。
(現実がどっちかなんて分からない、って物語だったけど、自分は外の世界が現実であって欲しい。じゃないと希望も存在しなくなってしまう)

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2025年09月11日

Posted by ブクログ

村上春樹,読むのは何年ぶりだろうか。
文庫化が今年の4月,ハードカバーは2023年4月。6年ぶりの長編,ということだったようだ。
その前の長編は『騎士団長殺し』なのかな。

死者と生者がふわっと共存している感じが,作中に引用されるマルケスの世界と,たしかに似ているというか,同じ手触りだなと思う。

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2025年08月23日

Posted by ブクログ

少し「美女と野獣」性を感じたり、街は死後の世界かなと思ったり、川を昇っていくシーンはやけに情景が浮かんだり、していると

仮止めしてた「こうかな…」が、「そうだよ」とは打ちつけられずに、いい具合に曖昧に終わる。三部に行くまでは割と地道な地味な道を行くストーリーなのだが、三部にいくと急にあたたかさが吹き始め、そしてまさかラストは街を出ていく。

街にはずっと居ても、二度と行かなくても…なんだかいけないようなそんな場所なんだろう。
面白かった。

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2025年07月08日

Posted by ブクログ

相変わらず読み出すと気になって読んでしまう。が、結局何だったのか、よくわからない。この方の作品を読んだあとは、いつもそう思う。

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2025年12月08日

Posted by ブクログ

世界の終わりとハードボイルドワンダーランドがとても好きで、手に取った。読み終わるその最後まで、この物語がどこに向かっているのか掴めない、そんな世界が続いていた。

私たちは人生や物事に何らか自分だけの意味を見い出そうとし、そしてそれを掴むことはできない。主人公の大きな喪失の中、それでも彼の人生は続く。何を排除しても、彼の中の時間が止まったとしても、季節は進む。変わりゆく、移ろいゆくものとして。

自分という存在の不確かさの中で、意識とは別の、心が深く願うその先に、心が連れていくその先に向かって。

影か、本物か、どちらも自分。現実か、非現実か、自分の心が作り上げた幻想と、自分の意識が作り上げた幻想。

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2025年11月16日

Posted by ブクログ

下巻読み終わりました。村上春樹の小説は読み始めたら止まらない。
今回の小説は、どうしてこの登場人物がこの物語に必要だったんだろうって思う人がたくさん出て来た気がする…村上春樹なので特にその訳が最後にはっきり回収されることはない…その理由を自分なりに解釈できるようになるための知識や想像力なんかがあったら、もっともっと村上春樹を楽しめるんだろうななといつも思う。

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2025年11月02日

Posted by ブクログ

さまざまに推測をしながら読みましたが、その多くは不明なまま物語が終わりました。
他では味わえない世界観でやはり最後まで飽きがきません。日常の何からヒントを得て何に感化されてこの作品を書いたんだろう、と気にならずにはいられない。

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2025年10月25日

Posted by ブクログ

今回も村上春樹ワールドに引き込まれてしまいました。よく分からないまま身を委ねると不思議な世界にはまり込んで面白かったです。

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2025年10月09日

Posted by ブクログ

小学校の時に外では全く喋らない女の子がいたがもしかして⁈
追伸、この書き込みした夜、その女の子が夢に出て来ました。

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2025年09月28日

Posted by ブクログ

SFというかパラレルワールドというか精神世界というか、よくわからない世界観だったけど、途中は面白かった。結局、子易さんは主人公の何だったのかが読み解けなかった。
色々と謎を残したままだけど、村上春樹さんなのでそういう世界観なのねと言う感じで、スッキリ読み終える話ではなかった。

売る

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2025年09月20日

Posted by ブクログ

夢と現実、影と本体など、抽象的な概念の中で物語が進む。コーヒーショップの女性やイエローサブマリンの少年が出てきたあたりから、だいぶ読みやすくなった。こんなにふわふわした設定で物語を書き切るのは本当にすごいと思った。

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2025年09月15日

Posted by ブクログ

上巻から続くストーリー展開に気になったが、これは予想できなかった。いつもの通り伏線回収するわけでもなく、多くの謎を残しながらの結末となった。これがもしも全ての謎が解けてめでたしめでたしとなると、それは村上春樹小説ではなくなってしまうので、致し方ないところではある。

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2025年08月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

結局現実世界の私が影なのか本体なのかという点が難解。たぶん影を残して本体が壁の内側へ→壁の外側に脱出(本体)→本体が川を登って少年時代に戻って壁を抜けた時に内側の影と入れ替わり(たぶん「イエローサブマリンの少年」の記憶も無くなった)→本体外側の世界で影と一つになるの流れだと思う。
あと今一つテーマが分かりづらい。恐らく「生と死」「死への希求としての青春時代への懐古(少女への想い)」みたいのが個人的に読み取ったもの。少女と別れて「内(→死)」に入る。最後に「外(→生)」の世界で影と一つになる、の流れなのでたぶん「後ろを振り返らず新しい人生を生きていこう」みたいな感じかと思われる。

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2025年08月17日

Posted by ブクログ

続きが気になる時もあれば、なかなか読み進められない時もあった。
後半につれて登場人物が交差していくように感じるのが難しかった。でもきっと私の読解力が足りないせいで分からずモヤモヤ、スッキリせずに読み終えたのが残念。

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2025年07月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

夢見たいな掴めない文章読んでた。疲れた!笑
学がないから読み終わった後は村上春樹さんの小説はもういいかなってなるけど、またいずれ何かの歪みでこの人の小説を読むんだろう。そんな感じの小説でした!

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2025年07月10日

Posted by ブクログ

相変わらず読みやすい文体で親しみをもってこの世界に入り込めました。

あとがきにあるとおり、壁に囲まれた街のモチーフは過去作にもあり、それと対を成す作品となっているようです。この2作品を比較して色々な角度から眺めることもできるような気がしますが、かなり毛色が異なっているので、私にはうまく消化できそうにありません。

街とそれを構成する人やモノが何を写しているのか。そして「壁」とは何か、その壁を通り抜けるということが意味するものは。それぞれが様々なものを象徴し得る気がしますが、その解釈はほとんど読み手に委ねられているようです。分析的に読む楽しさもあると思いますが、私はどうも面倒なので、頭に入ってきた印象をそのまま味わうことにしました。街の雰囲気は、行ったこともないのに容易に想像できます。夢で見たような、そんなところです。なにしろ夢がカラーだったことがあまりないので、その点で符合することが多いようです。

そんな中心的な位置づけとなる街のことは置き去りになりますが、私は第2部から始まる中年の物語が好きです。こういう生活って悪くないよなあ、と無責任に感じました。そこにある人間関係も、程よい距離感でとても素敵だと思います。こんなところでこんな風に過ごしたいなあ。

さて、一方で作品全体にどうも引っかかる箇所が見られます。ひとつは、老人が青春期を懐かしむような眼差し。近年発表された作品の多くで感じるものです。あの若く純粋な心と健康な身体はもう二度と手に入らないんだ……というような感傷を感じます。読み手の穿った見方かもしれませが、その気持ちがわからなくもないので気になります。
そしてもう一つは、不要だと思われるような注釈的なセンテンス。これまでの作品でも多く登場しますが、その程度がより強いものになっている気がしました。かつてはそれがおしゃれにも感じましたが、意味をあまり感じないようなものがやけに目に(鼻に)付くように思いました。

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2025年06月15日

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