殺された人の代わりに、被害者に近しい人が犯人に同様の危害を加える事ができる「復讐法」が成立した世の中のお話
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大切な人を殺された者は言う。「犯罪者に復讐してやりたい」と。
凶悪な事件が起きると人々は言う。「被害者と同じ目に遭わせてやりたい」と。
20××年、凶悪な犯罪が増加する一方の日本で、新しい法律が生まれた。
それが「復讐法」だ。目には目を歯には歯を。この法律は果たして
被害者たちを救えるのだろうか。復讐とは何かを問いかける衝撃のデビュー作!
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復讐法は、犯人が被害者に対して行った行為を刑罰として執行することを認める法律
裁判の結果、復讐法が適用が認められた場合は、被害者、またはそれに準ずる者は「復讐法の選択権利者」として旧来の法に基づく刑罰か、復讐法による刑罰を執行するかを選択することができる
復讐法を選択した者は、自らの手で刑罰を執行する
物語は、復讐法執行の立会人「応報監察官」鳥谷文乃の視点で描かれr
復讐法を執行する「応報執行者」の傍らで、彼女は何を思うのか?
全五話
・サイレン:4日間に渡るリンチ殺人を行った4人組の主犯格の未成年と、殺された男の子の父親
・ボーダー:同居する祖母を牛刀で殺した孫と、その母という直系の3人
・アンカー:無差別通り魔殺傷事件を起こした心神喪失者と、死亡した3人それぞれの執行者の合議
・フェイク:孫を守るために子供をビルの屋上から突き飛ばした有名霊能力者と、母子家庭だった被害者の男の子の母
・ジャッジメント:実母とその内縁の夫の虐待によって餓死した幼女の兄で小学生の男の子
復讐刑は、必ずしも死刑の代替ではない
有期刑や心神喪失者の場合でも適用される
また、犯人が未成年でも適用されるのと
執行者が未成年に対しても適用される
ただ、この物語で描かれている事例では、少なくとも人は殺している
読んでいて、精神的に辛かった……
もし自分が復讐する役割を指名されたとして
「殺された家族が、私が犯人に手を下すことを望むだろうか?」と考えたら、私の家族は誰もそんな事を望まないだろうと思ったし
逆に私が誰かに殺されたとして、家族の誰かにその役割を果たして欲しいかと問われると、そんな事は望まない
でも、死刑という制度を私は容認していて
これって、刑の執行を当事者ではない誰かに肩代わりさせているだけなのでは?という疑問も湧いた
作中では、この法律に反対する人や団体もいるし
逆に「そんな犯人を許すな。殺せ」と執行者が復讐法を選択するように強要するような意見もある
1話を読むだけで、執行者の心理的な負担が容易に伺える
執行者の中には「この法があってよかった」と感謝する人もいるが、本当にそれでよかったのだろうか?とも思う
執行をしたことで、同時に自分も犯人と同じく人を殺してしまったという思い十字架を背負う人もいる
執行の直前や執行中に何もできなくなる人もいるし
執行中に自らの命を絶つ人もいる
執行者の心理的重圧はどれほどのものだろうか?
日本では昔、「仇討ち」が公式の制度化されていた
主君や尊属を殺害した者に対して私刑としての復讐
ある意味で、被害者家族の生きる望みにもなっていた可能性もある
または、義務か
読んでいて、応報の結果としての若干の爽快感もあるが、それ以上に執行者の苦しみが伝わってくる
意地の悪い私としては、最初のケースだと殺す一歩手前のところまで全部やってから復讐刑をやめて、生き地獄を味わわせるという事もできるなと思ってしまったが
実際に自分がそれを行えるかと問われると、できない気がする
最初の話は女子高生コンクリート詰め殺人事件をモチーフにしているだろうしし
三話は秋葉原通り魔事件
虐待死なんかは嫌なことではあるがちらほらとニュースでも目にする
死刑反対の意見や、犯人への憎悪や呪詛の言葉はネットに溢れかえっている
そう考えると、やはり現代と地続きの物語だなと感じる
心神喪失者に対する法的な扱いがちょっと気になった
執行者が現行法を選んだら不起訴となる理屈がわからない
「責任能力がないから罪に問わない」であって、起訴そのものがなかった事になるのはどんな理由があるんだろ?
実際は心神喪失者として無罪になってもそのまま社会に戻ってくることはないのだけれどね
ただまぁ、物語の中では責任の有無にかかわらず復讐するかどうか、という判断を執行者達に問いかけるためにそんな設定にしたのだろうな
執行者の判断により両極端な結果になる仕掛けになっている
刑罰の本質は「応報刑」か「目的(更生)刑」かという問いは前から考えてはいるが、自分の中で未だに結論が出ない
現行の制度では、更生を目的としており、被害者や被害者家族への配慮はされていないように感じる
一人を殺していながら、犯人はまず死刑にならない現行の制度は納得いかない人がいるのはわかる
復讐法では、執行する過程で、関係者への配慮がされている
ただ、被害者家族は報いる事はできるかもしれないが、いずれにしても救われない
人にとっては違う地獄の幕開けになる。
どうやらこの作品が作家さんのデビュー作のようだ
設定と文章や心理描写に、拙さや今一歩と感じる部分もある
けれども、この設定で最後の結末まで書ききったのは評価したい
映像の脚本家出身のようなので、その辺の設定のリアリティや心情描写に関しては書き慣れていないのかもと思った