めちゃめちゃ面白かった。抽象的な政治論だからその分汎用性高い内容だった。普段から考えてる内容の本は面白く感じるな。知識を入れるには普段から疑問を持ったり自分なりに考えたり感じたり現実を観察したりする必要があるんだなと思った。普通に生きててスルーしてるものの知識は入りづらい。これからも政治について考え続けていきたい。
山口 二郎
法政大学法学部教授。1958年生まれ。専門は行政学、現代政治。東京大学法学部卒業後、東京大学助手、北海道大学助教授を経てフルブライト奨学生としてコーネル大学へ留学。オックスフォード大学セントアントニーズ・カレッジ客員研究員、ウォーリック大学客員研究員などを歴任し、1993年より2013年まで北海道大学教授。2014年より現職。
「 民主主義は、人間が長い歴史のなかで、さまざまな経験を重ねながら、獲得した政治のしくみです。人間は不完全な存在であるからこそ、より大勢の人が集まって議論をして、よりよいルールを作り出す努力を重ねなければならない。これが民主主義を支える基本的な考え方なのです。」
—『政治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)』山口 二郎著
「完璧な人間などはこの世に存在しません。一人や少数の為政者やエリートが決めても、多数の市民が決めても、間違うこともあれば、正しいこともあります。人間はすべて間違うことがあるという前提で考えれば、一人で決めるのと、大勢の議論を通して決めるのと、どちらがうまくいくでしょうか。一人や少数の人に権力を集中し、そこで物事を決めるならば、間違ったときのブレーキがなくなります。大勢で議論して決めれば、決めるまでに手間がかかりますが、間違ったときにもブレーキがかけやすくなります。違った考えをもった人がいることが、ブレーキの役割を果たすのです。また、別の正しいやり方を探すことも、大勢で議論したほうが容易にできます。」
—『政治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)』山口 二郎著
「 政治についての名言は古くから数多くありますが、私がもっとも好きなのは、「政治とは可能性の芸術である」という言葉です。一九世紀ドイツの政治家、ビスマルクが残したとされています。一見不可能に見えることやだれもが不可能だと考えていることを実現する営みこそ、政治だという意味です。」
—『政治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)』山口 二郎著
「異文化や異なる時代にどんな「当たり前」があったかを見ることは興味深いことです。また、私たちを縛るという意味では、当たり前は恐ろしいものでもあります。ある時代に当たり前であったことを後の時代から見ると、途方もなくバカバカしく見えるという例はいくらでも思いつきます。私たちは、日々の生活のなかで、さまざまな当たり前に縛られていますが、その当たり前は何の根拠もないものかもしれません。私たちが偽りの当たり前に縛られているとするなら、それは愚かしいことであり、また恐ろしいことでもあります。」
—『政治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)』山口 二郎著
「二〇〇八年一一月のアメリカ大統領選挙で、バラク・オバマ上院議員が当選し、アメリカ史上初のアフリカ系アメリカ人大統領が誕生しました。この出来事の意味については後でまた触れますが、民主政治はまだ捨てたものではないという希望を、アメリカだけではなく世界中の人に与えた大きな事件でした。しかし、四〇年ほど前までは、黒人は政治に参加できないのが当たり前、差別されて当たり前というのが、アメリカ社会の姿でした。黒人が大統領になることなど、「夢のまた夢」とだれもが信じて疑っていませんでした。」
—『政治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)』山口 二郎著
「キング牧師が一九六三年八月、ワシントンのリンカーン記念堂に向けた人種差別廃止を訴える大行進の時におこなった有名な演説、「私には夢がある」の一部を読んでみましょう。私には夢がある。いつの日にか、ジョージアの赤土の丘のうえで、かつて奴隷であった者たちの子孫と、かつて奴隷主であった者たちの子孫が、兄弟として同じテーブルに向かい腰掛ける時がくるという夢が。私には夢がある。いつの日にか、私の四人の幼い子どもたちが肌の色によってではなく、人となりそのものによって評価される国に住む時が来るという夢が。私の父が死んだ土地で、メイフラワーの清教徒達が誇りとした土地で、すべての山々から自由の鐘を鳴らそうではないか。もしアメリカが偉大な国であるのなら、これは実現されなければならない。」
—『政治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)』山口 二郎著
「しかし、理想を追求する動きがあまりに加速すると、やっかいな問題が起こります。理想を純粋に追求しようとする人々が大きな力をもった時、ほどほどのところで手を打つなどと生ぬるいことを言う連中(かつての左翼用語では、日和見主義者といいました)は、理想の実現を妨害するけしからん奴らということになります。純粋な理想主義者ほど、同じ理想を共有しない者に対しては残酷になるという傾向があります。理想主義者は、理想に逆らう者を排除することをむしろ正義と考えてしまいます。そこに、理想主義の落とし穴があるのです。」
—『政治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)』山口 二郎著
「 二〇世紀という時代には、マルクス主義、社会主義がそのような理論として大きな力をもちました。一九世紀の経済学者で思想家だったマルクスは、階級格差をなくし、経済的不平等をなくすという理想郷(ユートピア)の実現を唱えました。彼の掲げる社会主義の思想は労働者から大きな支持を得ました。そして、かつてのソ連や東ヨーロッパ、中国などで、社会主義体制が実際に作られたのでした。 けれども、階級格差の廃絶や貧困の撲滅といった理想をこの世で実現することは、不可能でした。そうした理想のもとで実際には、共産党幹部の特権や自由の抑圧など、さまざまなひずみがたまりました。そして、一九八〇年代末から九〇年代初頭にはソ連や東ヨーロッパの社会主義体制は崩壊してしまいましたし、社会主義を掲げる中国も、市場経済を全面的に取り入れるようになりました。」
—『政治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)』山口 二郎著
「 しかし、社会主義であれ資本主義であれ、かつてのソ連であれアメリカであれ、行き過ぎた理想主義の発想には、共通した三つの特徴があります。それは、人間の能力に対する楽観と、設計図の通りに世の中を作りかえることができるという単純さ、そしてすべての人は自分と同じ理想をもつべきだという自己中心主義です。」
—『政治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)』山口 二郎著
「中央アジアにアラル海という湖があります。その周辺では、湖に流れ込む川にダムを造り、周辺の綿花畑に水を供給しましたが、それによりアラル海は干上がってしまい、周辺の住民の生活が破壊されてしまいました。人間の浅知恵で自然の生態系を壊すと、人間の生活が脅かされるのです。 同じことは、社会や経済のしくみについても起こりえます。社会や経済にも、いわば自然と同じような生態系があります。昔の社会主義の国では、それを無視して、政府がどのような製品をどれだけ生産するかを決定し、経済の動きをコントロールしていました。けれども、人々がどれだけのパンや衣服を必要としているかを政府が知ることは不可能でした。だから社会主義の国ではつねにモノ不足で人々が悩まされていたのです。」
—『政治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)』山口 二郎著
「理想主義的な発想をする人々は、世の中を作りかえる特効薬を振りかざす傾向があります。世の中を悪くしている元凶を突き止めて、それさえ取り除けば世の中はよくなるという議論をしがちなのです。私有財産制をなくせば格差や不平等はなくなるとか、政府の規制をなくせば豊かな社会ができるとか、サダム・フセインをやっつければイラクは平和で民主的な国になるとか、そんなたぐいの議論です。富を独り占めしている金持ちや人々を抑圧している独裁者を憎たらしいと思うのは、自然な感情です。でも、憎たらしい奴を消せば、世の中がいっぺんによくなるというわけではありません。」
—『政治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)』山口 二郎著
「理想主義者が唯我独尊に陥ると、世の中全体を一つの理想によって塗りつぶすことを、理想の実現だと考えるようになります。しかし、そのような社会は別の面から見れば、ファシズムにほかなりません。理想主義はファシズムと紙一重ということもできるのです。あるいは、ユートピアと全体主義社会は紙一重ということです。」
—『政治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)』山口 二郎著
「中東のパレスチナで、イスラエルのユダヤ人とイスラム教徒のパレスチナ人が長年、争っています。パレスチナ人過激派による「自爆テロ」の悲惨さを伝える映像だけを見れば、その人はパレスチナ人を加害者、イスラエル人を被害者という図式で事態をとらえるでしょう。しかし、逆にイスラエルによる強引な入植地拡大やガザ地区への爆撃というような、パレスチナ人に対する弾圧を伝える記事を読めば、正反対の構図で考えることになるでしょう。 もちろん、事実は一つの図式でとらえられるほど単純ではありません。どちらか一方が完全な正義派で、他方が完全な悪党という話ではないのがふつうです。パレスチナ紛争の例では、双方の憎悪や暴力が紛争をエスカレートさせて、無辜の被害者を増やしているのが現実です。また、その時々の出来事にとらわれずに、なぜ紛争が起きたのか、その発端を考える歴史的な視点がないと、事の本質は見えなくなってしまいます。」
—『政治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)』山口 二郎著