あらすじ
●不確実性が極めて高まっている今日、過去のデータ、市場調査、勘などに頼っていてはイノベーションを生み出すことはできない。ライブの環境(実際にビジネスが行われている現場)で、顧客などを巻き込んだリアルタイムのビジネス実験(ABテストなど)をすばやく繰り返し、学習することでイノベーションを生み出す確率を高められる。
●デジタルツールの登場でビジネス実験を手軽にすばやく行うことができるようになった。オンライン/オフライン、B2B/B2Cを問わず活用事例が急増している。本書では、アマゾン、ブッキングドットコム、グーグル、マイクロソフトなどのデジタル企業のみならず、ams AG(半導体製造)、バンクオブアメリカ、レゴ、3Mなどの「非デジタルネイティブ」企業が、ビジネス実験をいかに活用しているか説明。ビジネス実験に基づく科学的な意思決定を行う、「実験文化」構築の方法論を提示する。
●著者は、マッキンゼーを経て、現在ハーバード・ビジネス・スクール教授。
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Posted by ブクログ
「ビジネス実験」という概念に興味があり購入しました。読後の率直な感想ですが、非常に骨太で読みごたえがありました。この手の本ですと(特にコンサルタントが書いているような本は)、事例は満載だけどそれでおしまい、内容は薄いというパターンもあり得ると思うのですが、本書は事例が多数紹介されていると同時に、科学的な意味でのビジネス実験の取り組み方についても丁寧に記載されていて感銘を受けました。つまり、実際にビジネス実験に取り組む人が留意すべき点や理論もきっちりかかれているので、ビジネス実験の教科書でもあるということです。
たとえば、実験結果の解釈において陥る可能性がある間違い(タイプ1エラーとタイプ2エラー)の話や、ビジネス実験の際に必要となるサンプル数をどう考えればよいかなど、かなり細部にわたって科学的に重要な点が記載されていました。
事例で大幅にページを割いて記述されていたのは、宿泊予約サイトのBooking.com(オランダ)です。日本でいうとじゃらんのような存在ですが、この企業がいかにして実験志向の会社になったのかが丁寧に書かれていてストーリーとしてとても印象に残りました。デジタル技術によってビジネス実験のコストは安価になりました。実験プラットフォームなど技術の導入はどんな企業でもできるし、いざとなればサードパーティのツールを使わせてもらえばよいのですが、実験志向の会社になる最大の障害は経営陣、社員のマインドセットだ、というのが本書のキーメッセージだと認識しました。本書にもありますように、社長が何かの提案をしたら、部下が「いいアイデアですね、では実験してみましょう」(つまり実験でうまくいかなったら採用しませんよ)とサラッと言えるくらいの企業になるとすごいということでしょうか。
本書は統計学の知識が必要になるなど難解な箇所もありつつ、骨太で面白い本でした。