あらすじ
負けたのだ。「替天行道」と「盡忠報国」というふたつの志の激突だった。半年前の梁山泊戦。瀕死の状態の楊令に右腕を切り飛ばされた岳飛は、その敗戦から立ち直れずにいた。頭領を失った梁山泊は洪水のために全てが壊滅状態にあった。一方、金国では粘罕(ネメガ)が病死した後、軍を掌握したのは兀朮(ウジュ)。そして青蓮寺が力を失った南宋も混沌とした状態だった。十二世紀中国で、熱き血潮が滾る「岳飛伝」開幕! 大水滸伝・最終章、待望の文庫電子版全17巻刊行開始。
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Posted by ブクログ
『水滸伝』『楊令伝』から続く長い物語の終着点として、本作は単なる戦記ではなく、腐敗した宋を変えようと立ち上がった梁山泊が遺した「替天行道」という志が、どのように受け継がれていくかを描いた作品。西遼、日本、南方(東南アジア)との交易を含めた梁山泊と宋(南宋)、金国との戦いにひとつの区切りがつき、晁蓋・宋江・楊令が掲げた「替天行道」が、最終的には物流という形で結実していく結末は、実に清々しい読後感だった。
特に印象に残ったのは、湖塞のころから梁山泊を支えてきた史進という一人の武将。 史進率いる梁山泊・赤騎兵が金国総帥・兀朮を討つ場面。 「退がった呼延凌は、目の端になにかを捉えた。赤い色、赤い矢。いや、遠くだ、ずっと遠くだ。肌に、粟が立った。呻き声が出ていた。周囲の者は、まだ気づいていない。」(16巻p362)という一瞬の描写が、映写機のコマ送りのように刹那を描く北方謙三ならではの文体を存分に味わえた。本シリーズを通して何度も感じてきた「北方謙三節」が、最後まで健在だったことも嬉しかった。
初めは一つの志の元で集った梁山泊が数多の戦を経て、個人ごとに少しずつ形の違う志に変わり、そして本作では人ではなく仕組みに宿り未来へ受け継がれるさまを強く感じる作品だった。晁蓋、宋江、楊令という英雄たちは去っていくが、「替天行道」は物流という仕組みとなり、人や国が代わっても世界を動かし続ける。特定の個人に依存するのではなく、誰が担っても価値を提供し続けられる仕組みを目指す営みである。
『岳飛伝』は壮大な大水滸伝シリーズの終幕であると同時に、強く胸に残る何かを与えてくれる本だった。そして、この先には『チンギス記』という新たな世界や、水滸伝より前の『楊家将』『血涙楊家将』が待っている。まだまだ北方謙三の歴史世界は終わらない。
Posted by ブクログ
百年に一度の大洪水で水に没した梁山泊。
突然の楊令の死に呆然としつつも、機能を回復しつつあるものの、今後の方向性を出せる者は一人もいない。
楊令亡き後も今までどおりの仕事をしながら、新たな指導者を待つ古い世代と、新たな道を模索する若い世代。
史進が「じじい」呼ばわりされるくらいなのだから、もう本当に世代交代の時なんだと思うけど、最初から読んできた身としては少しさびしい。
楊令の死は岳飛の勢いも一時止めた。
その間に着々と国の体制を整えていく南宋の秦檜(しんかい)と、整えきれない金国の兀朮。
それぞれのスタートラインが示された第一巻。
“自分のことは、自分で決めろとは、どういうことなのだ。好きなように生きればいい、というのとは少し違うような気がする。誰でも、どこかでなにかを耐えている。なにかを諦めている。それが生きるということだろう、と張朔(ちょうさく)は思っていた。”
母親代わりの顧大嫂(こだいそう)に、自分のことは自分で決めろと言われ悩む張朔。
けれど、梁山泊に足りなかったことは、確かにそういうことなのだ。
彼らが何を考え、何を行い、何を諦めていくのか。
続きを読むのが楽しみだ。