あらすじ
1931年の鉄道爆破作戦は,政党内閣の崩壊,国際連盟脱退,2・26事件などへ連なり,中国との長期持久戦体制へと拡大していく.内憂外患を抱え,孤立化する日本.「満蒙の沃野を頂戴せよ」──勇ましいことばの背景に何があったのか.満州とはいったい何だったのか.交錯する思惑を腑分けし,戦争の論理を精緻にたどる.
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まさに良書。満州事変、日中戦争へと至る過程が冷静かつ客観的に書かれている。日本の動きとその背景、中国の動きとその背景、世界情勢がバランスよく記述され、なぜそうなったのかがわかりやすい。文章も読みやすく、とっかかりの一冊として最適。ちくま新書の昭和史講義シリーズあたりと一緒に読むと良さそう。
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歴史は一つの方向に直線的に向かって行ったわけではなく、天皇も含めて様々なアクターが思いの外、冷静に考えていたことに驚く。最後のアジアの秩序が提示される箇所など興味深い。
・不戦条約への大国の留保
・満蒙の沃野を頂戴する。対、盗んだ泉の水は飲むな。
・満州事変への新聞と無産政党の沈黙。吉野作造
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岩波新書のシリーズ日本近現代史の5冊目は、近代日本軍事史研究を手がける加藤陽子(現・東京大学大学院人文社会系研究科准教授)が担当。
先日読んだ第6巻『アジア・太平洋戦争』が、ごく平凡な記述であったのに対して、この第5巻の視点は非常に面白い。
一般的な通史の感覚でいくと、戦間期から日中戦争への記述は、主として軍部と大衆世論や、政友・民政の経済政策の変遷など政党政治の崩壊を中心とした国内政治を描くことが多いが、本書はそうではない。
本書は、1920年代から30年代にかけての、いわゆる「満蒙特殊権益」を端に発する日中関係およびその周辺の外交史である。
日露戦争以来の満蒙権益に対する日本と諸列強との認識のズレ、対ソ戦への対応と東北軍閥への不信等々が、反ワシントン体制的な満洲の沃野への欲望をむき出しにする思想をうみ、結果的に満洲事変の勃発につながっていく。
本書の最大の山場は第4章の「国際連盟脱退まで」である。
関東軍の軍事行動によって引き起こされた満洲事変は、日中間の直接交渉ではなく国際連盟の場で、満蒙権益をめぐる国際的な思惑を巻き込みながら妥結の糸口がさぐられる。
これが、かの有名なリットン報告書につながるのだが、このリットン報告書の内容は世間一般の理解とは大きく異なる。つまり満洲事変に際しての日本の自衛行為という詭弁は当然却下されているが、その大部分はある種の既成事実関係を容認する内容であったのである。
しかし、にも拘わらず、日本は連盟を脱退した。戦前史をろくに勉強してこなかった私は、今の今まで大きく勘違いをしてきた。日本の連盟脱退は、リットン報告書が直接的な原因ではなく、事変後におこされた連盟規約に反する熱河作戦という陸軍の先行が原因であったのである。
このあたりの叙述はテンポもよく、時々刻々と変化する情勢が緊張感をもって伝わってくる。
そして、終章の満洲事変後の華北分離策から盧溝橋へ至る道程は、常にソ連という敵を念頭に置く「軍事の論理」、国民党内部での対日交渉派の失脚などによって、日中双方が望んだ平和的収束が挫折する過程であった。
通史としての出来映えには疑問点が残る(国内情勢や満洲国の記述がバッサリ落とされている部分など)が、戦前の東アジア関係史を考える上で、大いに刺激を受けた本であった。
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複数の切り口からの情報、考察を以って、当時の状況をうまく分析、評価している。
その意味で、分かり易いか?というと、そのような感想はなく、その理由は、日本が満州事変、日中戦争へと進むことについて極めて中途半端な、なし崩し的な判断で進んでいることがよく理解できるからだ。
誤算は、
・中国に対しての英米の思惑。国際金融、市場として日本に独占されることを良しとしていなかった。
・満州国設立に典型的に言えることだが、中国人のナショナリズムを過小に評価していた。(五族協和は、結局は絵に描いた餅でしかなかった)
日本はワシントン体制下、大国の一員になっていたものの、結局、反ワシントン体制側につくことになった。
そのコストもあるのだろう。
因みに、反ワシントン体制にあったのは、ソ連であり、ドイツであり、中国。(軍事的に中国とドイツが協力関係にあったのも興味深い)
2.26事件が起こされた理由をゾルゲは、日本の農民と都市小市民の社会的窮境に求めていた。兵士の重要な供給源である農民は、政治組織を持たず、農民に対する二大政党の関心が形式的にすぎない以上、まず第一に陸軍が農村と都市のこれらの層の強まる緊張の代弁者と機関たらざるを得ない。
日本は、ドイツが着手したような、農民を支援する政策を全くしなかった。
陸軍が、この問題の重要性を見ているだけでなく、農業問題を実践的にそれに取り掛かる必要があることを、少なくともそれが理論的に可能なことを知っているほとんど唯一の集団であった。
議会に代弁者をもたない農民や都市商工業者の社会変革要求を、陸軍が代弁している特殊日本的な構造に、ゾルゲは着目していた。
・「東亜新秩序」とは、第一次世界大戦後に公然と正当性を主張できなくなった帝国主義・植民地主義にかわる説明形式の必要性と、ワシントン体制的協調主義の否定というモチーフのはざまに、知識人によって考え出された自己説得の論理であるといえた。
・石原莞爾が望んだのは、①ソ連がいまだ弱体の時、②中国とソ連の関係が悪化している時、③日本とソ連が将来的に対峙する防衛ラインを、中ソ国境の天然の要害まで北に西に押し上げておくことであった。将来的な対米戦の補給基地としても満州は必要とされていた。しかし、それは国民の前には伏せられ、条約を守らない中国、日本品をボイコットする中国という構図で、国民の激しい排外感情に火が点ぜられた。
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「満州とは何であったのか?」で本を探していて、良書と評判の高い本書を手に取った。先ず、本書を読むにあたってはかなりしっかりと歴史を理解していないとついていけないレベルではあった。私には、時間をかけて、覚悟を決めて!?、調べながら読む必要があった。学生時代の知識を思い出すとか、勉強するとかいうよりも、この時代を整理し直して、考え直すことができる本。
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本書は、満州事変から日中戦争へ傾斜する1930年代の日本の歴史についての本だが、満州についての詳細な考察は他にない緻密さと真摯さを持っている良書であると思った。
本書で、1930年代の軍人が窮乏のどん底にある農村の解決策として、思い切った手段が必要として「左翼の組合は土地の平等分配を要求しており、これは確かにもっともな主張だが、仮に日本の全耕地を全農家に平等に分配しても、その額は五反歩にしかならないではないか・・・諸君は五反歩の土地を持って、息子を中学にやれるか、娘を女学校に通わせるか。ダメだろう。日本は土地が狭くて人口が過剰である。このことを左翼は忘れている。」との言を紹介している。当時の日本が大陸に進出していった時代の雰囲気をよくあらわしていると感じた。
本書での満州における特殊権益や国際関係、国際連盟脱退の経過や関係者の動き等々は、単なる歴史的事実の羅列に終わらずに、詳細に展開されており、実に興味深く読めた。
本書のような深い考察が、もし現在の日本で一般に共有されていたらば、感情的なナショナリズムによる一時的な高揚などの感情で国際関係が乱れることなどないのにと思わせられた。こういう本があるのだから、歴史は面白い。本書を高く評価したい。
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国際連盟脱退で松岡洋右が会議場を後にするシーンは印象的だが、1932年のジュネーブでの連盟特別総会から帰朝したときには、松岡は脱退は日本のためにならないと齊藤実内閣の外相内田康哉を懸命に説得していたのである。そして、政党も内田外相も連盟脱退を実のところ考えていなかった。 脱退論は専門外交官や国際法学者から出て来たのであった。 歴史は一般に知られている以上に複雑怪奇であることを再認識した。
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[ 内容 ]
「満蒙の沃野を頂戴しようではないか」-煽動の背景に何があったのか。
満蒙とは元来いかなる地域を指していたのか。
一九三一年の鉄道爆破作戦は、やがて政党内閣制の崩壊、国際連盟脱退、二・二六事件などへと連なってゆく。
危機の三〇年代の始まりから長期持久戦への移行まで。
日中双方の「戦争の論理」を精緻にたどる。
[ 目次 ]
第1章 満州事変の四つの特質(相手の不在 政治と軍人 事変のかたち 膨張する満蒙概念)
第2章 特殊権益をめぐる攻防(列国は承認していたのか アメリカ外交のめざしたもの 新四国借款団 不戦条約と自衛権)
第3章 突破された三つの前提(二つの体制 張作霖の時代の終わり 国防論の地平)
第4章 国際連盟脱退まで(直接交渉か連盟提訴か ジュネーブで 焦土外交の裏面)
第5章 日中戦争へ(外交戦 二つの事件 宣戦布告なき戦争)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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基本的に満州事変~日中戦争の流れは既に理解していて、当時の背景や外交の詳細について知りたい人向けの本。そういう意味では知らない事実が多く載っていて面白く読めたがメインイベント(?)の部分の記載がアッサリしているので盛り上がりには欠ける。
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加藤氏の本を読んで。戦争というのはする理由をちゃんとつくらないとみんながやる気にならないものなんだ、というのがつくづく分かる。そしてその理由の付け方が強引だ。。当時の国際的な関係がものすごく微妙だったこともよく分かる。
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日中戦争を勉強しはじめて2冊目に読んだ。 かなり難しかった。 時系列、地理的条件などの全体像が最後まで把握できなかった。 次はもう少し簡単な本を選ぼう。
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この時代に関する知識の欠如を感じざるを得なかった…
下地がないので、読むのに苦労しました…
しかもかなり理解できてない。
もう少し身につけてから再読しよう。
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満州事変前後の経緯が記されているが,あまりにも詳しく全体像を把握するのが難しかった.記憶にあるイベントの出現が少ないのも理解し難いのかもしれないが,一般の読者にはやや不親切な著作だと感じた.
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シリーズ日本近現代史のちょうど真中、第5巻は、近現代史の中でも昭和日本の大きな転換点(そして現在の歴史解釈ではでは大きな誤ち)として記憶される第二次世界対戦への歩みを記述した一冊。
柳条湖事件から盧溝橋事件に端を発っする満州国建国まで、このわずか5年ほどの期間は、単純に「日本の帝国主義的拡大」と記載されるような時期ではなく、むしろ「単なる国境侵略という事件には非ず」とリットン報告書に記されたように、各国それぞれの国内外事情と思惑が複雑に交差し、相互にバランスを取ろうとした試みの結果であった。そして、様々な選択肢が提示された中で、唯一選択されたのが人類の歴史上最も悲惨な戦争であったことは痛恨の極みだ。
第二次世界大戦に向けて「泥沼化」する過程として描かれることの多いこの時期だが、著者はその原因をあえて陸軍の意識、日本国民の意識、国際外交の解釈がそれぞれに微妙な喰い違いを見せたことに求め、偏った歴史解釈の危うさに警鐘を鳴らす。
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「あとがき」で作者が「軍隊については嫌というほど書いた」と述べるほど軍隊の動向を中心として書かれた内容です。時代は満州事変から日中戦争、1930年代というほうが分かりやすいと思いますが、1930年代の日本史について幅広く論じているわけではなくひたすら満州事変や日中戦争に関係する国内動向、国際動向、日中関係などなどを「詳細」に記述しています。この時期を取り扱うさいにありがちな政治的偏向はとくに見られず、史料をもとに学術的に述べられています。とにもかくにも、日本近代の通史の一環としてよりも、日中関係史として読んだほうがよいのかもしれません。
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本書は、簡単に批評できないほど内容の濃い本であり、熟読玩味するだけの価値がある。
日本はなぜ中国に攻め入り、泥沼に陥るような戦争を行ったのか。それを行った論理はなんだったのか。本書はそれを国内、中国、そしてイギリス、ドイツ、ソ連、アメリカといった勢力とのかかわりから明らかにする。
満州での治安の悪さ、日貨排斥は国際法違反に映った。なぜ排斥がおこるかを考えないのは滑稽だが。そして、その利権を守るため、つまり「自衛」と称して軍隊を発動し、頑迷な中国を懲らしめようとしたのである。だらしない中国にかわって東洋の盟主として新たな秩序を打ち立てようとしたのである。
日中戦争を「侵略」と言ってしまうのは簡単だ。たしかに、人の国のことであるのは間違いない。しかし、日清、日露の戦争に勝って南満州の利権を得た当時の日本人たちは、国内での経済矛盾を解決するためにこうした行動を自ら正当化したのである。本書でもその正当化理論がいくつか紹介されている。しかも、当時の人々は中国は簡単に落とせると思っていた。持久戦というのは毛沢東独自のものかと思っていたら、上海、南京、武漢が落ちた後蒋介石が重慶の遷都したのも持久戦だ。その結果日本は勝利の見えない戦いをよぎなくされたのである。