青柳いづみこのレビュー一覧
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荻窪と阿佐ヶ谷はほぼ同じ生活圏。中央線の駅間の距離は1.6キロ。戦前・戦中・戦後にこの地域にいた文士たちは、ある時は荻窪、ある時は阿佐ヶ谷に集い、酒を飲み、将棋をさした。井伏鱒二はその様子を『荻窪風土記』として書き記した。
青柳いづみこはその向こうを張って、阿佐ヶ谷側に立ってこの界隈の今昔を眺める。「阿佐ヶ谷アタリデ大ザケノンダ」は、井伏の漢詩訳の有名なワンフレーズで、これを書名にしたのは井伏へのオマージュ。
いづみこの祖父は『荻窪風土記』に頻繁に登場する青柳瑞穂。「文学窶れ」の章には、骨董に凝ったその祖父のこと、そして『荻窪風土記』のことが書いてある。ほかの章では、ピアニストという職業柄、知 -
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来年は5年に1回のショパン・コンクールの年。
18回目になるらしい。
演奏家でもあり、ドビュッシーの研究者でもある筆者が、コンクール「公式ジャーナリスト」として記録した前回のコンクールの記録である。
ショパンらしさとは何かを巡って、揺れ続ける審査基準。
楽譜に忠実派と、ロマンティックな弾き方か。
ルバートは左手は一定のリズムを刻み続けるのか、それとも「右と左を交互に」ずらすのか。
さまざまな対立軸があるようだ。
応募者の増加で、審査方法もルールも変更の連続。
審査員やコンテスタントをはじめ、多くの関係者のインタビューなど、多彩な情報源からそういった矛盾があぶりだされていく。
本来言語とは -
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2015年に開催された第17回ショパン・コンクールの模様をレポートした作品。コンクールは書類とDVDによる事前審査から始まり、予備予選、一次予選、二次予選、三次予選を経てグランドファイナルへと進む。
ちなみに予備予選出場158名のうち、グランドファイナルに残るのは10名である。著者の青柳氏は予備予選からワルシャワ入りし、注目する参加者一人一人について、臨場感あふれる詳細なレポートを行っている、他の国際コンクール同様に今大会もアジア勢の活躍が目立つ印象を受けた。
青柳氏が指摘するコンクールの難しさの中に、審査の基準が挙げられている。「楽譜に忠実に」「ショパンらしい演奏」「演奏者の個性」という -
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本に出てくるクラッシック(ちょっとジャズもあるけど)をピアニストの観点から読み説くエッセイ。
タイトルの「六本指のゴルドベルク」は、トマス・ハリスの「羊たちの沈黙」のレクター博士のことから。
青柳氏は、音楽家である自分と、文筆家である自分が、常に両立してるだなぁって思って読んだ。
「もの書きピアニストはお尻が痛い」では、両者の間をいったりきたりしてる感じがあったんだけど、このエッセイは完全に混在している。
エッセイストとして、稀有な方なのだろうと感服いたしました。
にしても、タイトルで読みましたね、思われるものがちょいちょいあって、微笑ましいというか同病相哀れむというか…。