大瀧啓裕のレビュー一覧
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完結巻だからなのか、既刊からこぼれたものを拾い集めて編集した感はある。しかし、決して駄作凡作ばかりというわけではない。
小説の原型となった、夢の内容を書き起こした手紙を収録した『夢書簡』は、夢の描写が緻密でなかなか面白かった。物書きの練習に夢日記をつけるのも良いのかもしれない。
最後に収録された『断片』。要は序章のみ存在する未完作品なのだが、実は完成していたが本編を何者かに奪われて、後年に原稿がオークションに出されて、落札された原稿を巡って――という物語またはTRPGシナリオが既にありそうだ。特に『Azathoth』。
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6巻は、後に「ドリーム・サイクル」と呼ばれる世界観に統合されるものを舞台やネタにした作品を収録。
そして、クトゥルフ神話とドリーム・サイクルの世界観を統合した、前期ラヴクラフト神話の集大成とも言うべきファンタジー大作『未知なるカダスを夢に求めて』。夢の世界で苦しみながらも自由に大冒険を繰り広げるというヤングアダルト的なその内容は、ラヴクラフトの当時の状況を知ると、以前の苦境から解放されたであろう彼の心境を表していると、どうしても勘ぐってしまう。
【アザトース、異形の神の幼生、下級の異形の神たち(蕃神)、バステト、ノーデンス、ニャルラトホテプ(暗黒のファラオ)、ロビグス】
《ズーグ族、ノフ -
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①宇宙からの色
荒地を見張る老人が語った、かつてそこに住んでいた家族に起きた悲劇とは――
非知的生命体による侵略物。映画で例えると『遊星からの物体X』とか『ブロブ』とか。こういう恐怖は時代を問わず通じる。
②眠りの壁の彼方
精神病院に強制入院させられた、殺人を犯した男。二重人格を思わせる発作を起こす男にわたしは興味をひかれ、ある試みを実行すると――
ラヴクラフトが初めて宇宙的恐怖をテーマにした作品で、確かに、後に生まれる神話に連なる作品の「原型」と思わせる内容。
③故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実
突如、焼身自殺を遂げた学者、アーサー・ジャーミン。彼がそのような暴挙に -
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①ダゴン
船乗りのわたしは運悪くドイツ軍に拿捕された後、すきを見て逃げ出す。漂流の後に小島に漂着したわたしは、丘の頂上を目指すことにしたのだが――。
●「窓に!窓に!」で有名な、クトゥルフ神話の原型とも指摘されている短編。
②家の中の絵
道中で雨宿りのために家屋に入ったわたしは、そこでテーブルに置かれた古書に目を奪われて――。
●夢幻的なホラー。そこにいたのははたして死者だったのか生者だったのか。
現場がアーカムの近くなので、食屍鬼をゲストにした物語やTRPGシナリオがありそう。
③無名都市
アラビアの砂漠で伝説の古代都市を見つけたわたし。探究心から内部に侵入したわたしが目にしたもの -
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白い帆船★3
楽園を目指した灯台守。この結末は、今いる世界こそが楽園であるという示唆なのか。
ウルタールの猫★3
HPLは猫好きだったのかしらん。ウルタールという地名は、この後の話でも出て来る。
蕃神★3
思い上がった賢人バルザイ。神の怒りに触れる展開は素直すぎるほど。
セレファイス★2
夢の中で楽園に行くというパターンが新鮮味がなく。
ランドルフ・カーターの陳述★3
墓から入っていった地下にいる友人と電話で会話するシチュエーションは不気味。
名状しがたいもの★3
モンスターよりも、夜が更けるまで怪奇話を墓石の上でし続けた彼らが怖い。
銀の鍵★3
これは重要アイテムで -
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全集⑤巻まで続けて読んでおきながら、
その後スルーした⑥巻を今頃。
ジーン・ウルフ『書架の探偵』読後、猛烈に気になり始めたので。
理由は↑これ↑をお読みの方には何となくおわかりいただけるかと。
春日武彦先生の書評エッセイ集『無意味なものと不気味なもの』で
「ランドルフ・カーターの陳述」ネタばれレビューを読んで
敬遠していたのだけれども、猛烈に実地確認したくなったので。
内容はランドルフ・カーター・シリーズとも呼ぶべき
一連の中短編と、その魁となった初期作品。
面白かったのは下記の二編。
■ランドルフ・カーターの陳述(1919年)
行方不明になった友人ハーリイ・ウォーランについて
問い質さ -
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ダゴン
短い!「窓に!窓に!」の終わり方が印象的だけど、本文にダゴンの言葉が出てこないのはなんだかなあ。『インスマウスの影』のダゴン教団の聖地だったのだろうか。
家のなかの絵
これまた短い!そして起承転結でいえば、起承で終わるという中途半端さ!爺さんが食人鬼だったんでしょ。
無名都市
超古代の遺跡を探検…。何かが起きるぞ、という雰囲気を醸し出す書き方は、HPLのお家芸ですね。
潜み棲む恐怖
雷で現れる地底人、マーテンス一族。不思議なこともあるものですねえ。
アウトサイダー
時々記憶をなくしては、自分が何者なのかを問う、不死者のライフワークだろうか。
戸口にあらわれたもの
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タイトルを見て、一流翻訳家の蔵書とはどのようなものか期待して読んでみた。内容は、著者の半生、読んだ本、集めた本、翻訳者としての仕事、翻訳技術、翻訳ツールまで、著者の思う事が細かく書かれていて、翻訳家を目指す人には、その仕事振りが参考になる本だと思った。ただ自分のような一般読者には、取り上げている本があまり興味が湧かないジャンルで、それに対する記述が緻密過ぎて理解できない部分が多かった。(蔵書とは関係ないパソコンの話も多い)また著者の自慢話としか読めないような記述も多く、興味が無い分野の蔵書のタイトルをこれでもかと並べられても、読み飛ばすしかなかった。著者は翻訳技術の精確さに自信があり、同業者の
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"きみはこの惑星でのわたしの唯一の友だったーーこの寝椅子に横たわる忌わしいもののなかに、わたしを感じとって見つけだしてくれた唯一の魂だった。また会うことがあるだろうーーおそらくオリオン座の三つ星の輝く霧のなかか、先史時代のアジアの荒涼とした大地か、記憶にのこらない今晩の夢か、太陽系が消滅している遥かな未来の他の実体で。"[p.71_眠りの壁の彼方]
「宇宙からの色」
「眠りの壁の彼方」
「故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実」
「冷気」
「彼方より」
「ピックマンのモデル」
「狂気の山脈にて」
「資料:怪奇小説の執筆について」
「作品解題」大瀧啓裕 -
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科学系の話がほとんどだった第4集人は打って変わって、悪魔や呪いの話でまとめた第5集。最後についてくる「ネクロノミコンの歴史」が表すとおり、ネクロノミコン絡みの話で統一されているとも言える。
「ネクロノミコン」に絡む部分を除き、全体にゴシック・ホラーや霊的カラーの強い1冊なため、「恐怖におののいた」と書かれていても、なんとなく漠然とした印象を受ける短編が多い。
その中において、何らかの薬剤をフレッシュな死体に注入することでゾンビ化させる「ハーバート・ウエスト」はかなり新鮮に見える。ゾンビ映画を髣髴とさせる幕切れも良いのだが、解説的には「凡作」なのね。うん。
また、ラブクラフトを読むには避け