トーマス・マンのレビュー一覧
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サナトリウムという特殊な閉鎖された状況下で主人公が様々な経験を通じて肉体的・精神的に成長する様を描いた教養小説。
哲学的な内容から宗教、民主主義、失恋などテーマが盛り沢山で読み始めは難解なものかもしれません。難しいとお感じになられた方は「時」の流れに注目しながら読み進めることをお薦めします。何と言おうと物語の舞台が世俗と切り離された空間なのですから。
一度読むだけでは理解しきれないほど奥が深い作品です。幾度と読む度に新たな発見があることもこの小説の魅力と言えましょう。
内容が難解で文量が多いため敬遠される方もいらっしゃいましょうが、声を大にして読んでほしいと言える傑作です。 -
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とてもよかった。
まずは、表題作『トーニオ・クレーガー』から。
繊細で、感傷的で、扱いにくいこの感情を、何と呼ぼう。
しかしその危うい心を、柔らかに緩やかに収束させるラストに、ほっとさせられる。
「つまり、いまそこに座っているあなたはね、なんのことはない、要するに〈普通の人〉だってこと」
トーニオが言われたこの言葉に、ショックを受けない少年少女が果たしているだろうか!
そう、トーニオも迷子なのだ。私と同じように。彼もまた、〈迷子になった普通の人〉なのだ。
そんなトーニオは、ささやかな故郷への旅に出る。そしてそれは、小さな決別と、大きな決意の旅となる。
「危険をものともせず、偉大でデモ -
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サークルの後輩が卒論の題材にしてる(トニオクレーゲルの方)ということで読んでみました。
ただ外国の純文学は初めてだったので、特にヴェニスに死すの方はかなり読むのに苦労が。
ただ、これは…面白い!
正直作品全体の命題とかは全然把握しきれないんですが、示唆に富んだ言葉や表現の密度が桁違いで、凄まじく刺激的な時間を貰えました。
こういう本は何回も読み返すことが理解する上で前提な造りだと思うので、じっくり読み込んでいこうと思います!
この詩は完成せず、十分に仕上げられず、また、悠々として何か纏まったものに刻み上げられることがなかった。彼の心は生きていたからである。
後輩の卒論考察が楽しみだ。 -
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ネタバレ≪内容≫
『トニオ・クレーゲル』
孤立の苦悩と、それに耐えつつ芸術性をたよりに生を支えてゆく青年の物語。
『ヴェニスに死す』
水の都ヴェニスにて、至高の美少年に魅せられた芸術家の苦悩と恍惚を描いた作品。
≪感想≫
ヴィスコンティ監督の「ヴェニスに死す」がこの秋、ニュープリント上映されている。銀座テアトルシネマに職場がほど近く、原作を一度読んでから映画をみようと思い、本書を手にとった。
マンの初期の代表作2編。どちらも芸術家あるいは文士を主人公に据え、芸術とは何かを徹底的に追求し苦悩する姿を描いている。
「ヴェニスに死す」は映画のイメージ(というか、ビョルン・アンドルセンのイメージ)が頭か -
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言い忘れていました。この2篇に関しては、岩波文庫よりもこの新潮文庫の訳文のほうに、私は慣れているのでした。そして、岩波の「トニオ」に載せた「リザヴェータさん」はこっちのほうで、つまり岩波では「リザベタさん」でしたね。やっぱり、リザヴェータさんのほうがいいな。その1点だけでも、こちらを私の底本にしたいと思います。さて、まだ『魔の山』や『ブデンブローク家』のことを載せていないではないか、と言われそうですが、あれらには、まだ登攀していないのですよ。逃げるつもりはありませんけれど、きっとそのうちに、ね。約束します、運命の女神の許す限りにおいて。
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マンの超大作の下巻。中心的な登場人物はハンス・カストルプ、セテムブリーニ、レオ・ナフタ、ペーペルコルン氏。ハンス、ヨーアヒム、セテムブリーニ、マダム・ショーシャのあいだで保たれていた均衡が破れる。マダム・ショーシャの転院もさることながら、最大の原因はレオ・ナフタという反近代的――反セテムブリーニ的――な知性の登場である。ハンスは、セテムブリーニの人格には好意を抱き続けるがナフタの懐疑的で破壊的な知性に取り込まれかかる。しかし、そこでさらに登場するのが反知性的な権力者としてのペーペルコルン氏である。ハンスは、ペーペルコルン氏の登場によって知性への憧れを曇らされる。このような展開のなかでハンスの立