佐々木徹のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
「古典というと干からびたという印象があるかもしれないが、推理小説の場合は人間味が濃く現れています。」(まえがきから意訳)
私は現代文学が苦手で「古典」のほうが好きなんですよね。読みつがれた良いものしか残っていないってものあるのでしょうけれど。まだ小説技工が確立されていない頃に書かれた小説は、単純に「面白い」ということや書くことへの情熱や、整いすぎない分純粋に楽しめるんですよ。
【チャールズ・ディケンズ『バーナビー・ラッジ』へのポーによる書評】
22年前の3月19日。お屋敷のヘアデイル氏が殺され、金がなくなっていた。庭の池から執事の死体も挙がり、容疑者は行方不明の庭師となった。ヘアデイル氏が死んだ時間には真夜中なのに鐘が鳴ったという奇妙な証言もある。そして今日でその事件から22年。あの事件は必ず「3月19日」にコトが動くだろう…。
…というのがチャールズ・ディケンズの『バーナビー・ラッジ』の第一章。エドガー・アラン・ポーは、この第一章に感心して書評とこのあとの展開の予測も公開した。この物語が終わったあとエドガー・アラン・ポーは改めて書評を書いた。ちょっと「俺の予測の展開のほうが良いよね?」って感じもある・笑
この書評をこの短編集に入れたのは、ディケンズの書いた推理小説の紹介と、ポーの性格がよく出ている書評を載せたかったんだろうけど、読者としては一章しか読めないのにネタバレ書評読んじゃったーな気分もちょっとある・笑
【『有罪か、無罪か』ウォーターズ】
資産家バグショー氏の屋敷に強盗が入り、留守を預かるサラ・キングという召使が殺された。容疑者は、屋敷に銀行券があると知らされた甥のロバートだ。アリバイも怪しい。
だがロンドン警察の担当警部は、ロバートの証言を怪しすぎるためにむしろ信用に値すると考え、真犯人を探す。
…推理というか警察捜査物語。正しい犯人を見つけないと、真犯人を逃がすことになるし、間違った相手を死刑にしてしまう。この責任感と使命が力強いです。そして被害者サラに言い寄っていたバーンズという何でも屋?軽業師?が案外頼りになって、庶民の強かさがあった。
【『七番の謎』ヘンリー・ウッド夫人】
知人女性の新居を訪れた友人一行。女性のコテージは六番で、隣の七番の家族の話をする。主夫婦は長期留守中で、留守宅を守るのはマティルダとジェインという二人のメイド。
そしてマティルダが買い物に出ているときに、ジェインが家で殺されていた。
==避暑地で始まったけど解決はロンドン。しかも推理というよりは性格分析をしたら犯人が自滅したような。
スペイン人女性は気性が荒い!ってイギリス小説のお約束なんでしょうか。男にもちょっとは悪いところもある気がして、女性たちが気の毒な感じもある。
【『誰がゼビディーを殺したか」ウィルキー・コリンズ】
ロンドンの下宿屋で殺人事件の知らせがあった。担当警部が駆けつけると、新婚旅行中のジョン・ゼビティーの胸にナイフが刺さっている。ゼビティー夫人は夢遊病の性質があるらしい。夫人が眠ったまま夫を殺したのか?
捜査を続け、ゼビティー夫人の犯行とは断定できない要素が見つかる。事件は「犯人不明」となった。だが担当警部は一人で捜査を続けた。そして彼にとっては驚愕の真実を知ることに…
【『引き抜かれた短剣」キャサリン・ルイーザ・パーキス】
ロンドンのエビニーザー・ダイヤー氏の探偵事務所には、女探偵のラヴティ・ブルックがいる。ダイヤー氏とミス・ブルックは、仲が良いがよく口論をするという関係。
今回の依頼は、友人の娘を預かったホーク氏の家に脅迫状が届いたというもの。最初の脅迫状は、一本の短剣の絵が書かれた手紙、ついで二本の短剣が書かれた手紙が届いたのだ。そして友人の娘であるミス・モンロウの首飾りも消えた。
ホーク氏の家を調査に行ったミス・ブルックはすぐに真相に気がつくのだった。
==挿絵付き。やり手女探偵ですがイギリスのご婦人なので、服装や帽子などの装束がイギリス淑女っぽいのが良いです。
事件の真相は割とわかりやすいのと、あとがきにも出ていますがちょっと作者のミスリード過ぎる感じもあります。
このころは推理小説というものがあまりなかったので、読者に示さなければいけないことが明白じゃなかったんですね。
【『イズリアル・ガウの名誉』チェスタトン】
人間嫌いのグレンガイル伯爵が死んだという噂だ。「噂」というのは、老召使イズリアル・ガウにより埋葬されてしまったから。死んだのは本当に男爵なのか?そもそも本当に死んだのか?
スコットランドヤードのクレイヴン警部、元盗賊で現在は警部のフランボー、そして彼らが呼んだブラウン神父が捜査することに。グレンガイル伯爵の遺したものも奇妙なものばかりだし、イズリアル・ガウも全くの人間嫌い。果たして真相は?っていうかそもそも事件性あるのか?
【『オッターモゥル氏の手』トマス・バーク】
かつてロンドンで起きた連続絞殺事件の真相を中国老人クォン・リーが推理する。いわゆる「安楽椅子探偵」の一人ですね。
この小説は、それを興味深く聞いた語り手が小説風に書き起こしたとなっている。そのため被害者に対して「見納めとなる世界を見ておくんだ」のように輝かしい語り口のドラマチックなものになってます。
連続殺人事件の緊迫感が素晴らしいし、犯人像も納得。…それだけに最後の被害者がなあ…それやっちゃ危険だろう…
【『ノッティング・ヒルの謎』チャールズ・フリークス
この短編集の後半200ページ程度を占める中編です。日記、手紙、報告書、新聞記事などで構築された書簡小説の推理小説。最初の英国推理小説だ、といわれているらしい。それがこんな凝った書簡小説だなんてイギリスやるなあ。
しかし真相に関しては、現代科学では否定される(現在では似非科学扱いされる)ものなので立証は無理そう…(^_^;)
サー・エドワード・ボウルトンは、妻ガートルードに言い寄ったという噂の男と決闘して死んだ。未亡人となったガートルード夫人は倒れ、双子の女児のガートルードとキャサリンを産んで亡くなる。
双子は母親に似て病弱で神経質、不思議な繋がりを持ち、片方が体調を崩すと必ずもう一人も具合が悪くなるという。だが幼い頃キャサリンは突然消えた。(どうやらジプシーに誘拐された、ってことらしい)
…読者としては「いつも一緒にいる赤ちゃんだったら一人の病気がもう一人に移るのは当然だよ」と思ったんだがこの「二人は同じ体調になる」というのはこの後の悲劇の真相となりました。いやー、同居家族ならみんな倒れるの当たり前だと思ったんだけどなあ…
ガートルードは相当な財産を受け継ぎ、さらに立派な家柄で穏やかな性質のウィリアム・アンダトン氏と結婚する。夫婦は慈しみ合っていたが、ガートルードは相変わらず病弱、すぐ寝込むし倒れるし、ウィリアムも優しいけど人に強く出られない。
そんなアンダトン夫妻が信頼したのが当時新しい科学医療?だった「メスメリウム」とかいう治療法。
現在の知識からすると「あからさまに怪しい!近づくな!」としか思えんメスメリウム療法とやらは、催眠療法の一種らしいのだが、アンダトン夫妻が招いた相手も悪かった。これまた読者からしたらあからさまに怪しい自称ラ☓☓☓男爵。
そうそうこの小説、名前を隠すために「バ☓☓」とか「保険会社の☓☓社」とか出てくるんだが、この男爵はこの語の事件の重要人物なので「ラ☓☓男爵」だと書きづらいので、レビューではラ男爵に省略します。
そしてこのラ男爵、自己流でハンドパワー?とかを取り入れ、女性であるガートルード夫人に触れないために依代となるロザリーという助手を使っている。
この時代の科学が語られるが、他にも「食事が取れない人を治療するために、依代となる人が主の変わりに健康食を食べる」という治療法だとか、なんか身体の水を調えるみたいなのだとかが出てくる。
もちろん当時は科学として尊重されていたのだろうが、このラ男爵、いっかにも詐欺師!山師!いくら世間知らずで押しが弱く身体も弱いアンダトン夫妻でもこんなやつとはさっさと縁を切ってくれーーー。
ガートルード夫人とロザリーは奇妙な絆が生まれかけるが、ロザリーはラ男爵をたいそう怖れているし、ラ男爵はロザリーを監視している様子。そしてラ男爵は「外国に行く」とロザリーとともに去った。
その後ガートルード夫人はその後何度か酷い発作を起こす。この発作の場面、酷い下痢、酷い嘔吐、激しい腹痛…かなりキツイ、ガートルード夫人の苦しみが気の毒で気の毒で…(☓。☓)
だがガートルード夫人は奇妙なことに気がつく。このひどい発作は2週間毎に来るのだ。だが大人しい彼女は「また2週間が近づく。神様お助けください。そして愛するウィリー(ウィリアム)には悟られないようにしないと」と、とにかくお祈りしかしない内向き性格なので、読者としては「なぜ秘密にする!!」と、この夫妻のおとなしさはちょっともどかしい。
ついにガートルード夫人は亡くなる。
そしてウィリアムに妻殺しの噂が立ち…。
なお、アンダトン夫妻とラ男爵・ロザリーに関する調査をしたのは、調査員のヘンダソン。(よく分かってないのですが、保険会社から依頼された探偵みたいなもの??警察関係者じゃないよね??)
彼は、アンダトン夫妻の保険の掛け方に疑問を持ち、この時期にラ男爵とロザリーがどこで何をしていたのかを探ります。
まあこの二人は極秘結婚していたわけで。
このラ男爵、読者からはあからさまに怪しいのだか、人を不安にさせて精神的に支配するらしい。ガートルード夫人も「あの緑の目が怖いが逆らえない」と言っているし(じゃあ解雇しなよ…)、ロザリーも絶対に逆らえない。しかしラ男爵は、他の人たちからは大変評判が良い。「本当に立派な旦那様で、病気の奥様(ロザリー)を心配して愛して献身的に看病していました。奥様はそんなご立派な旦那様を嫌ってというか怖がっているようで、態度はよそよそしくて失礼な感じでした」なんて言われてしまう。対外的には申し分なく内には暴君、こんな男に目をつけられたら誰も味方はいなくなるし逃げようがない_| ̄|○
最も逃げ場所のないロザリーはともかく、地位も資産もあるアンダトン夫妻には「もうちょっとシャッキリせんかーい」と思わんでもないが…(^_^;)
そしてロザリーも亡くなる。
調査員ヘンダソンは、ラ男爵がロザリーに掛けた保険金のこと、アンダトン夫妻の死とロザリーの死にラ男爵が関わっているのではないかと疑い、その調査書を提出するのだった。
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残念ながら「殺人」のトリックは、現在医学では立証は無理だろうってことと、その凝った構成にもところどころ矛盾もあるようですが(^_^;)
死んだ人たち(殺された人たち?)は本当にお気の毒な事件。そして「身内には暴君、対外的には申し分ない人物で、身内は逃げようとしても味方は居ない」って現代でもあるよねーー(-_-;)
そしてこの時代の女性はやたらに倒れたり弱々しくて「しゃんとせんかーい」も思ったり、それにつけ込む犯行が「弱い者いじめ」のように感じたり^^;
しかし書簡や日記により出来事がつながってゆく手法は読んでいて楽しく、これを「イギリス最初の推理小説」と掲げるイギリス文学、すごいなあと思う。 -
Posted by ブクログ
英国推理小説の黎明期から黄金時代までの作品を収録。
推理小説として洗練されてゆく過程も分かる。
『バーナード・ラッジ』第一章より チャールズ・ディケンズ
(付)エドガー・アラン・ポーによる書評
推理小説的なの部分を、連載序盤にポーが書評で謎解き。
次いで、完成後の作品についての手厳しい書評。
「有罪か無罪か」ウォーターズ
追跡している男は犯人か、それとも無実なのか?
「七番の謎」ヘンリー・ウッド夫人
密室の家で起こった殺人。真実へ導く糸は悲しい結末へ。
「誰がゼビディーを殺したか」ウィルキー・コリンズ
殺人事件の決め手はナイフだ。だが彼は逡巡の末に・・・。
「引き抜かれた短剣」キャサリン・ルイーザ・パーキス
女性探偵が挑むのは短剣の絵の謎とネックレスの行方。
「イズリアル・ガウの名誉」G.K.チェスタトン
グレンガイル伯爵の正体と生死の謎。ブラウン神父かく語りき。
「オターモゥル氏の手」トマス・バーク
老ウォンが語る連続殺人の仮説。白い手の男の正体とは。
「ノッティング・ヒルの謎」チャールズ・フィーリクス
(付)ボウルトン家関係系図/主要人物略年表
書簡、日記、新聞や雑誌の抜粋、書類、見取り図、そして、
証言を多く含む探偵の覚書から解明される犯罪の真実。
訳者あとがき
英国推理小説の古典作品を収録。半数が本邦未訳。
「推理」の要素がまだ希薄だったり、
謎よりも「人間的要素」に対する依存度が高かったり、
偶然の重なりや勘、都合の良い有能な助っ人登場だったりの、
黎明期の「推理」への考え方が定まっていない作品が、
少しずつ洗練され、推理小説へと至る道程が分かります。
同時に、トリックと偽装、変装、法廷審理、密室での犯罪、
入れ替わりと成りすまし等の、推理小説ではお馴染みの要素が
既に登場していたことへの驚きもあるし、
当時の新しい組織の中の警察官の姿や裁判の様子もあったり、
ホームズ以後の、探偵が主人公の作品もあり、全体的に
なかなかの興味深い作品が選ばれていて、楽しめました。 -
Posted by ブクログ
下巻は一気読み。古典で一気に読めるなんて!ディケンズすごい!
なんていうかもう小説全体が英国流のシニカルな笑いに満ちている。
ヒップの本当の恩人が誰であるか分かったときもそう。自分が裏切ってきたと思っていた故郷の恩人に胸の内を打ち明け、新たなスタートを切ろうとしたときに、相手から幸せの仕返しを受けたときもそう。
一番好きなキャラクターはウェミック。シティ(ロンドンの仕事場)にいる時はカリスマ弁護士ジャガーズの有能な秘書として自分を出さずに淡々と仕事をこなしているのに、ウォルワースの城(郊外の自宅)へ帰ると全然違う。城の前に跳ね橋を付けたり、毎日決まった時間に大砲を打ち鳴らしたり、居間のドアに楽しい仕掛けをしたりして、シニア(父親)との穏やかでユーモアに満ちた生活を楽しんでいる。郵便ポストのような口を開けて食事をし、やることがミスター・ビーンみたいに面白い。「ちょっとした散歩に付き合って下さい」とヒップを連れて歩いた先にたまたまのように教会があって、その中にウェミックの花嫁が待っていた。この憎らしいくらい気の利いた演出の、でもささやかすぎる結婚式の数少ない参列者のなかにヒップを選んでくれた。弁護士事務所のクライアントであるヒップに私的にはそれくらい友情を抱いていたというところに心が温まる。
カリスマ弁護士ジャガーズもその強面と仕事での断固とした態度の裏には依頼人の人生について人知れず深く考えていて素敵。
英国人って恥ずかしがりやなんでしょうね。
そして、誰よりもヒップの本当の恩人…。人の価値は見かけや生まれや育ちで決まるものではないのですね。
「プライドには色んな種類があると思うの」という、上巻でのビディの言葉が印象的でした。
イギリスは階級による格差がはっきりしていると言うけれど、そこを超える冒険をしたヒップを通じて“本当の善とは何か”というのを考えさせられ、読者としても成長したと思います。
笑いもサスペンスも冒険も教育もあるエンターテインメント小説でした。
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Posted by ブクログ
うーん、何から書こうかなあ。
面白いよ。
この本を読もうと思ったのは実はちょっと前に読んだカルロス・ルイス・サフォンの「天使のゲーム」がいまいち良く分からなくて、「天使のゲーム」の中の主人公が子供の頃から大事にしていたこの「大いなる遺産」に鍵があるのではないかと思ったから。なるほどねえ。鍵かどうか分からないけれど、河の下流の沼地近くの最底辺の生活、お屋敷の中の時間が止まったような老婆…。似ているモチーフはある。
主人公ヒップはテムズ川の河口の沼地に近い所で、姉とその夫ジョーと暮らしていた。両親は亡くなり、癇癪持ちの姉に虐待されながら育っていた。回りの大人にも馬鹿にされ、いつも嫌な思いをしていたが、鍛冶屋である姉の夫のジョーだけがいつも友達のように暖かく接してくれた。
ある時、大きなお屋敷に呼ばれ、そこの女主人の前で遊ぶように言われる。その女主人はかなりの老婆なのに、黄ばんだウェディングドレスに身を包み、時が止まった暗い部屋で陰気に暮らしている。そして、その傍らにはエステラという美しい少女がいた。老婆に命令されるがまま、老婆の目の前でエステラとトランプをしたり、老婆を支えて部屋中をぐるぐる歩き回ったりしたあと、報酬をもらうということが何回かあった。エステラはものすごくお高くとまっていて、ヒップを下品だと馬鹿にしたので、ヒップは泣くほど傷ついたが、エステラに恋する気持ちは抑えられなかった。そして、その時から自分を小さい頃から大事にしてくれたジョーが教養が無くて下品であることを恥ずかしく思うようになってしまった。
お屋敷の老婦人に気にいられたヒップはある時、その大いなる財産を貰えること、そしてジェントルマンになるためロンドンに出て教育を受けるように弁護士を通じて告げられる。
エステルに相応しい男になるためにジェントルマンになることを夢見ていたヒップは、突然の幸運に意気揚々とロンドンに向かう。ジョーとの別れの時、愛するジョーと別れることを辛く思う反面、下品なジョーを恥ずかしいと思う自分の薄情さに罪の意識を持つ。
ああなんかこの気持ち分かるな。
次にジョーに会ったときにジョーが自分に相応しい人間であるよう、ジョーにももっと勉強してほしいと願うのだが、ジョーはもっともっと誇り高き人間だということにこの時は気づいていなかった。
夢見たロンドン。夢見た都会。
都会の現実とは?紳士淑女の現実とは? 暗く黴臭い部屋。死刑囚から宝飾類を頂く趣味の悪さ。お金への執着。爵位への執着。
先が見えないロンドンでの生活をヒップの同居人ハーバートの明るさが救う。
そもそも、お屋敷の老婦人(ミス・ハヴィシャム)とエステルとは何者なのか?どうしてヒップが気に入られて財産を受け取ることになったのか?
もしかして、小さいころ沼地にいた脱獄囚に命令されて食べ物とヤスリを与えたことに関係あるのか?
大きな謎と十代(?)の少年が最底辺の生活から最高の生活へ棚ぼたで抜け出す過程の成長が面白い。
一番最近読んだイギリス文学は「高慢と偏見」で、上流社会の視点から書かれていたが、この小説は下流社会から上流社会を見て書かれているので、同じイギリスでも目線が違っていて興味深い。 -
Posted by ブクログ
やっと読んだ
3巻まで岩波文庫で読んだ。読みづらさを感じて4巻はちくま文庫で。
岩波文庫はわりあひ正確な訳で、挿絵も登場人物表も地図もあって至れり尽くせり。しかし、訳文が堅苦しくてこなれてゐない印象。
ちくま文庫の方は訳は古いが、文体が生き生きして、岩波文庫より読みやすい。
個人的にはちくま文庫の方がいいです。岩波で解らない箇所はちくま、ちくまで解らない箇所は岩波といふ風に交互に読むとより理解できた。
それにしても克明な描写とそれに紛れた数々の伏線には感嘆した。
小谷野敦と大江健三郎と筒井康隆がディケンズの最高傑作だとほめてゐた。恐しく長大な社会派エンターテイメントで、一瞬純文学とも思ったが、純文の書き方ではないのでやっぱりエンタメか。
ミステリ要素は思ひのほか少ない。ドラマティックなストーリーになって、後半から俄然おもしろくなる(特に4巻)。 -
Posted by ブクログ
これまた良い出会いをした。
田舎に暮らす貧しい少年が、
謎の人物から遺産を継ぐことになり、
そこから大きく揺れ動く人生を描いた作品。
物語として、本当によく出来ている。
徐々に新たな真実が明るみになり、引き込まれていく展開設定、
絶望と希望の良い塩梅、入念な人間観察に基づいているであろう愛すべき個性的な登場人物たち、然るタイミングで然る展開が来る嬉しさ。
ピップ(と私たち)はいずれ帰るべきところに帰っていく、汚された気持ちは浄化されていく。
気づかなかった愛に気づき、
許せなかった人を許していく。
それが人生なんだと思って、
涙腺がどんどんゆるくなっていく。
赦し、信仰、恋愛、友愛、家族愛。
そして私たちの身近にある問題。
この作品が初めて世に出てから幾年も経ているが、
拝金主義で利己的な人間に溢れている世の中。
現代に生きる私たちもそんな社会に揉まれて、
人に裏切られ、裏切り、憎まれ、憎んで、
届かなかった愛や拒んだ愛も数えきれぬ程あるだろう。
そんな時に私たちに慰みと内省する時間を与えてくれるのが、こういった類の物語なのだろう。
物語に人生への、そして愛への礼賛を求めずして、
何を求めよう!
そんな気分に最近はなっているな。 -
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すごい展開の数々。ご都合主義のような側面もあるけれども、どんなあり得ない展開(実際、読んでいてどのような分岐もとりうると思った。)が来ても納得させられるような説得力をディケンズは持っている。ディケンズの丁寧で正確な描写だからこそ成せるわざなのだと思った。ミステリーの部分では、その点と点が勢いよく線で繋がっていく様は、競馬で例えるなら、さながら大外から一気に抜き去る追い込みのようだった。ミステリーあり、サスペンスあり、ユーモアありと、色々なものが詰まっていて、ほんと剛腕といった感じだ。プロットが非常に複雑で、よくもまあこんな代物を週刊連載で書き上げたものだと感心した。人生の期待や諦観、愛、悔恨が詰まった名作だった。
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Posted by ブクログ
田舎の孤児ピップ少年が大富豪に見い出される物語。
話の大筋がしっかりしているうえに、サイドストーリーも丁寧に書かれていた。出来事のつなぎ方が自然で、巧妙で、しかも次々と起きるので読者を飽きさせない。さすが文豪というか、上品な文章だった。『高慢と偏見』を読んだときも上品な文章だと思ったが、古典の名作って別に凝った文体でもないのに、人物・風景・感情描写(要するに全部。笑)がしっかりしていて、その3つのバランスがいいからそう感じるのかもしれない。
大いなる遺産の前巻は子供時代の話が多めだった。なぜかわからないが、僕は子供時代というのが妙に好きで、色々な小説を読んでいても子供時代のパートを一番好きになることが多い。(『悪童日記』や『こちらあみ子』は子供の話だし、『わたしを離さないで』も子供時代のパートが一番好き。)そういうわけで上巻はピップのほのぼのした子供時代が最高だった。中でもピップ少年と鍛冶屋ジョーの友情が心温まった。この二人は魂で触れあっていた。成長したピップがどうなるのか、下巻が楽しみだ。 -
Posted by ブクログ
読み終わると、胸がいっぱいになった。
生きる活力、人生の寂しさ、人が人に与える幸福。
ディケンズが描く人々は、どれもはちきれんばかりにぎっしりと重たく、それでいて軽妙で、ぐいぐいと読者を引っ張ってくれる。
どのエピソードも素晴らしく、いちいち言っていてはキリがないが、私はやはり、主人公・ピップが寄せるエステラへの思いにもっとも打たれた。
望みのない、ひたすらにみじめな恋。相手は自分をないがしろにし、自分は相手をどこまでも敬う。こう言うとまるで「マゾ?」と思われるかもしれないが、それは違う。この二人の抱えるもの、それは意思の不通なのである。大切なものの違い、自分の生き方に対する価値観の違い、と言ってもいいかもしれない。
一方は誇り高く、感情に冷めた美女。もう一方は人生に迷いつつも、豊かな感情を失わず傷つきもがく主人公。
このどちらもが、自分の大切なものを守るため、自分の人生のためにあがいている。二人は全く正反対の存在ながらも、お互いを認めたいと思って相剋し、自分の人生につまづくのだ。
その二人の性格、そしてそれがゆえの擦れ違いを描くディケンズの筆は素晴らしかった。
そしてこれはこの二人の関係だけでなく、全編に通しても言える。それぞれの立場、それぞれの物の考え方、その「違う」からこそ生まれる豊かで厚みのある世界観とストーリーが、この世のしがらみを吹き飛ばしねじ伏せる勢いで読者を魅了するのだ。
世界は一つではない。そして、人生も一人ではない。
ディケンズの描く世界はどこまでも雑多で、賑やかで、そして温かい。
最初の80ページほどは、「一体いつ話が進むんだろう・・・?」と思ってうんざりしつつ読んでいたのだが、一度勢いがつけばあとはまっしぐら。様々な要素が詰まった魅力的なストーリーと愛嬌ある登場人物たちに魅了されっぱなしだった。
面白かった!!! -
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ウルトラマンスーツアクターの古谷敏、漫画家やくみつる、ライター佐々木徹による楽しい対談。
ウルトラマンといえば、子供の時、ソフビで手に入れたテレスドンや、今回取り上げていたゴモラ、ジラースのような恐竜よりの怪獣が好きだった。ダダやバルタン星人、メトロン星人は怖かった印象がある。
そんな怪獣とウルトラマンの戦いにフォーカスを当てた本書。古谷さんの当時の感想や裏話が興味深い。
「鬼滅の刃」が敵役にもやむに止まれぬ背景、理由があるエピソードを取り入れたと、高い評価が言われているが、その本家本元はウルトラマンではないか。
人類の身勝手さによって生まれたり、連れてこられた怪獣たちに罪は無く、勧善懲悪ではなく、悲哀を表しながら戦っていく。日本人の優しさを1960年代から子供向けに作っていた意義を感じた。